2018年3月12日月曜日

判例裁決紹介(平成28年11月17日裁決、居住用財産の譲渡所得に関する特別控除と対象家屋の判定)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年11月17日裁決で、居住用財産の譲渡所得課税の特例の適用を巡って当該対象財産としての家屋の判定において、当該財産が複数の家屋であるのか一つの家屋(一構えの家屋)として認定しうるか否かが問題になったものです。

具体的には、請求人が保有している家屋及びその敷地を譲渡した場合において下記、租税特別措置法35条に定める居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用がある旨の確定申告をなしたところ、当該土地には、家屋が複数存在しており、これらに対して当該特例が適用可能であるのか否か、あるいは、具体的に特例の適用対象財産をいかにして認定されるべきであるのかという点が中心的な争点となっているものである。納税者たる請求人は利用状況や自身の意図からいずれの家屋も居住用として活用しており、一体として機能した一つの家屋であるとして申告をなしているのに対して、課税庁は当該家屋は電気等の設備面から個々に独立して機能するものであり、もって一つの家屋として捉え、当該特例の適用対象とはならないとして更正処分を行った事例である。


(居住用財産の譲渡所得の特別控除)

第三五条 個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの及び所得税法第五十八条の規定又は第三十三条から第三十三条の四まで、第三十七条第三十七条の四第三十七条の七、第三十七条の九の四若しくは第三十七条の九の五の規定の適用を受けるものを除く。以下この条において同じ。)若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む。以下この条において同じ。)をした場合又は災害により滅失した当該家屋の敷地の用に供されていた土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたものの譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたものとともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に有する権利の譲渡を、これらの家屋が当該個人の居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にした場合には、当該個人がその年の前年又は前々年において既にこの項又は第三十六条の二第三十六条の五、第四十一条の五若しくは第四十一条の五の二の規定の適用を受けている場合を除き、これらの全部の資産の譲渡に対する第三十一条又は第三十二条の規定の適用については、次に定めるところによる。
一 第三十一条第一項中「長期譲渡所得の金額(」とあるのは、「長期譲渡所得の金額から三千万円(長期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額とし、同項第二号の規定により読み替えられた第三十二条第一項の規定の適用を受ける場合には三千万円から同項の規定により控除される金額を控除した金額と当該資産の譲渡に係る部分の金額とのいずれか低い金額とする。)を控除した金額(」とする。
租税特別措置法施行令 第二十条の三 
2 法第三十一条の三第二項第一号に規定する政令で定める家屋は、個人がその居住の用に供している家屋(当該家屋のうちにその居住の用以外の用に供している部分があるときは、その居住の用に供している部分に限る。以下この項において同じ。)とし、その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする

以上のように、本件において上記租税特別措置法35条における具体的な適用対象が如何なるものとして判定されうるものであるのかという点が争点となっているものである。基本的には法令解釈というよりは対象財産として具体的に如何なるものとして事実関係が判断されるものであるのかという点が中心となっているものであり、かかる点からは特段特徴的な事例ではないものとも捉えうるものではあるが、判断の前提として居住の用に供していることの意味、そして複数存在している場合における主たる存在を具体的に判断する上で条文規定における解釈が基盤となるものであると考えられ、さらには、このような居住関係が財産の評価等への判定において影響を及ぼしたり、家屋の構造から具体的な判定単位を認定するようなケースは、多世帯住宅等も考慮するならば、今後も増加するような状況も想定されうるところでもあろう。従って本件特例の適用対象判定のみならず、租税法規における居住状況の判定においては、参考となるような事例ではないだろうか。

また、上記のように本件の中心的な争点は、所有する家屋等が複数の家屋として判定されうるのかあるいは一体として捉えられうるのかという点が起点となっているものであるが、法令上は上記のように主として居住の用に供していると認められる一の家屋という文言を如何に解されるべきものであるのかという点が検討対象となろう。すなわち、主たる一つの家屋を具体的に判断する基準をどのように理解されるのかという点が課題となるものと捉えられる。この主たる居住の用に供しているか否かという点は、本件特例に限らず多様な租税制度において活用されているものであり、かかる点においてこの認定は汎用性が高いものともいえるかもしれない。

なお、私見としては本件判断においては主たるものとして取扱われていない(納税者の主張には取り上げられておりこの部分が居住状況に対する主観的な意思の表明に関わっているものの判断においては、特段検討がない)が、濾水等の老朽化による影響を租税法規において如何に反映させるべきものであるのかという点も課題となりうるものとなる。近年の空き家等の状況は従前とは異なるものであり、特に地方部における空き家の急増等の状況を鑑みるならば、このような老朽化しているような状況を、機能劣化として租税法規における、適用対象の認定や居住状況、財産評価等において如何にして対応されるべきであるのかという点も今後の課題としてなってくる可能性があるのではないかと考えさせられる事例でもある。

いずれにしても本件は特例対象の認定が中心的な課題となっているものであるが、法はその適用対象として上記のように主たる一の家屋に限定しており、この一の家屋を具体的にどのような基準によって判断するべきであるのかという点が起点となる。家屋の構成単位をいかにして判断するのかという点、すなわち何をもって最小単位として捉えていることになるのかという点は法令上、あるいは社会通念としても明示的ではないだろう(例えば、増築や分割等を想定すれば良いだろう)。課税庁の主張としては、最終的に判断においても同様のロジックを取っているものであるが、negative判定というべきであろうか、単独での家屋としての機能を行い得るか否かという点を基礎においているがこれは単なる判定方法を提示しているものであり、そもそも独立の家屋が如何なるものとして捉えられ、どのような機能を有しているべきであるのかという点は明らかとしていない。最終的には社会通念と設備等の総合的な状況判定により、本件は判断を行っているものであるが、かかる判断の法令上の根拠をどこに求めるのかという点が必ずしも判別し難い。
法文はそもそも居住の用に供していること及び主たる存在であることを要請しており、まずは租税法規においてこの居住の状況を捉えているのかという点を明らかにする必要があり、かかる点から具体的な居住状況を判断する基準を導くべきものと考えられる。

また、特例の趣旨も考慮する必要があろう。判断では以下のように、本件特例を他の所得との相違において担税力が弱い(そもそも担税力という概念が曖昧模糊としたものであり指針として機能しうるかという点も疑問であるが)として捉えているように読めようが、あるいは生活上、居住拠点は不可欠なものであり、代替物の取得等が必要であるという点に力点を置くなどの趣旨も解されよう(このように捉えるならば、資産の売却後の状況が当該財産の判断において影響を及ぼすものと考えることも否定し難い)。また、居住という行為自身が、生活の拠点として場所を指し示すものともいえ、本件特例が租税負担能力の減少という主観的な要因を背景としているならば、その行為者の主観的な状況も反映させるべき・あるいは反映しうるものであるとの考え方も排除されるべきものとはいえないのではないだろうか。本件判断では、このような納税者の意思に依る部分は基本的に排しており、客観的な設備状況等に原則的に依拠した判断を行っている点が特徴的なものである。事実上、主たる居住の用に供しているか否かの判断においては、客観的な状況に裏付けられる必要があるものと解しているとも評価し得よう。

「本件特例は、個人が居住用財産を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、その担税力が弱いことから、居住用財産の譲渡所得につき3,000万円を限度とする特別控除を認め、所得税の負担を軽減して新たな居住用財産の取得を容易にすることを考慮して設けられた特則、例外規定である。」

しかしながら、法が居住という概念を採用しておりかつ、上記のように担税力(税金の負担能力)という主観的な要因を背景としている制度である以上、本件判断のように客観的な状況に依拠すべきであるという点は、否定しがたいものの、主観的な要因(この要因をどのように区分して把握するのかという点は残ろうが)を介在させる余地がないのかという点が疑問となる。判断では以下のように、二次的に参酌すべきものとして位置づけているが、かかる点からどのように考慮すべきであるのかという点がより課題となろう。確かに主観的な要因を介在させることは恣意的な判断の余地を生み、課税の公平性や租税法律主義などの基本的な租税法規における要請に反する可能性がある。さらには一定の政策目的のもと、公平性を犠牲にしてもなお、設けられている租税特別措置の性格からは、下記のように濫用の防止の必要性があるといえよう(但し、法がこのように濫用の防止にまで踏み込んで趣旨としているものであるのかという点は必ずしも評価し得ないという見解もありうる。単に対象を明示的に判断しようとしたものと理解することも困難ではないだろう)。しかしながら、機能や設備面などの客観的な要因を重視するならば、逆に機能等の側面(そもそもこの機能が明示的であるのかという点は疑問ではあるが)のみに着目した判断を行う事になりかねず、実情の反映やかえって負担を回避するような行動を誘発する可能性もあり、実質的な判断の余地が必ずしも排除されていると理解することが妥当なのであろうか。さらに機能等の面に着目するならば、上記のように設備劣化等の反映もまた考慮されるべきであり、かかる点において請求人の主張を排している点は整合性を欠いているのかもしれない。

「本件特例の適用対象となる家屋については、租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第23条第1項において準用する措置法施行令第20条の3第2項の規定により、個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとされている。これは、租税負担公平の原則から、本件特例の適用を政令で定めるものの譲渡に限定し、本件特例の濫用による不公平の拡大を防止しようとするもので、特則、例外規定である同条項の解釈に当たっては、狭義性、厳格性が要請されているものと解される。

 このような本件特例及び措置法施行令第20条の3第2項の規定の趣旨に鑑みれば、同条項の適用において、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるか否かについては、まず、それぞれの家屋の規模、構造、間取り、設備、各家屋間の距離等の客観的状況によって判断すべきであり、個人及びその家族の使用状況等の主観的事情は二次的に参酌すべき要素にすぎないものと解するのが相当である。したがって、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるためには、単にこれらの家屋がその者及び社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者によって機能的に一体として居住の用に供されているのみでは不十分であり、家屋の規模、構造、設備等の客観的状況から判断していずれか又はそれぞれが独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならない。そうすると、二以上の家屋がそれぞれ独立の家屋としての機能を有する場合には、これらの家屋が併せて一構えの一の家屋であるとは認められず、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限り、本件特例の適用対象となるというべきである。」

また、上記のように解釈として主観的な事情は二次的に位置づけられるとしても、この点から 独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならない
として家屋の判断において機能面での判断を重視している点は論理に飛躍があるようにも捉えられる。事実上機能面での判断に依拠することが必要とされており、主観的な事情を排斥していると考えられる。

このように機能面を重視することは客観性の確保という点では有益であろうが、上記のように法が求める居住における機能面は多様な要因によって構成されており、必ずしも明示的な概念ではない。従って複数の要因により判断しているものであるが、このように複合的な判断を行うことはかえって、恣意の介在する余地を生じさせるものであり、矛盾を生じるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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