2018年2月21日水曜日

判例裁決紹介(平姓29年1月12日裁決、生産性向上設備投資促進税制と工業会証明、正当な理由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年1月12日裁決で、生産性向上設備投資促進税制における経産省が指定した工業会証明が撤回されたことによる修正申告、無申告加算税における正当な理由が存在するのかという点が争われた事例です。

具体的には、請求人が導入した業務システムに関して生産性向上設備投資促進税制の適用がある旨の申告をなしていたところにおいて、当該申告による調査により、当該システムが、生産性向上設備投資促進税制の対象でない旨の指摘を受け、自主的に修正申告をした事案である。当該修正申告において過少申告加算税が賦課決定処分を受けたことから、正当な理由をゆうしていたものとして不服を申し出たものである。

第四二条の一二の五 青色申告書を提出する法人が、産業競争力強化法の施行の日から平成二十九年三月三十一日までの期間(以下第九項までにおいて「指定期間」という。)内に、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品、建物、建物附属設備、構築物並びに政令で定めるソフトウエアで、同法第二条第十三項に規定する生産性向上設備等に該当するもの(以下この条において「生産性向上設備等」という。)のうち政令で定める規模のもの(以下この項において「特定生産性向上設備等」という。)の取得等(取得(その製作又は建設の後事業の用に供されたことのないものの取得に限る。)又は製作若しくは建設をいい、建物にあつては改修(増築、改築、修繕又は模様替をいう。)のための工事による取得又は建設を含む。以下この条において同じ。)をして、これを国内にある当該法人の事業の用に供した場合(貸付けの用に供した場合を除く。以下この条において同じ。)には、その事業の用に供した日を含む事業年度(平成二十六年四月一日以後に終了する事業年度に限り、解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。第七項及び第八項において「供用年度」という。)の当該特定生産性向上設備等の償却限度額は、法人税法第三十一条第一項又は第二項の規定にかかわらず、当該特定生産性向上設備等の普通償却限度額と特別償却限度額(当該特定生産性向上設備等の取得価額の百分の五十(建物及び構築物については、百分の二十五)に相当する金額をいう。)との合計額とする。


(イ) 本件工業会は、減価償却資産の種類が「機械及び装置」であることなどを設備メーカーが確認していることを前提に証明書を発行している。
(ロ) しかし、国税当局が、「■■■■■■■」(当該システム)の「減価償却資産の種類」が「機械及び装置」ではなく「器具及び備品」に該当し、当該種類に係る「対象となるものの用途又は細目」として経済産業省令に規定された6つの項目のいずれにも含まれないことから、生産性向上設備等に該当しないことになるので本件制度の対象にならない旨の見解を示したことにより、本件工業会は、経済産業省から、設備ユーザーのリスク回避のために上記に該当する事案に係る証明書の回収に努めるよう要請を受けた。

このように、本件では、生産性向上設備投資促進税制の適用において条件とされる工業会における証明が上記理由により回収されたことを起点として当該税制の適用対象でない旨が遡上に上がっている。具体的な資産区分(機械装置、器具備品等)に応じて適用対象を指定しているが、本件は機械装置ではなく、器具備品であるとの国税庁が提示した見解が工業会等に対して示されてた結果、適用対象外となったものである。 証明の記載から本件各システムが生産性向上設備等に該当し本件制度の対象になると誤信したとしても、それは結局のところ請求人の税法の不知又は誤解に基づくものにすぎずとして最終的には正当な理由の該当性を否定した判断である。

この点につき、経産省は下記HPにおいて、具体的な適用に関する情報提供を行っているが、設備メーカーや工業会の関係から証明が付与されるのが本制度であり、ユーザーである請求人のような設備取得者は、基本的に具体的なスキームにおいて発行の依頼を行う対象に過ぎない。しかしながら、この部分をもってユーザーである納税者の税法に対する誤解・不知によるものとして不利益を被るものであるとの判断は、必ずしも下記のように納税者の帰責性を基礎とする判断において、妥当性を有するものであるのかという点は疑問を覚える。これを税法の不知として請求人のようなユーザーが負うべきものであるのか(若しくは民事上の責任の中で処理されるべきものであるのかもしれないが)、という点は検討の余地があるようにも評価しうるだろう。

http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/seisanseikojo.html
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以上のように、本件の中心的な争点は、上記のように生産性向上設備投資促進税制の適用要件を証明する経産省が指定した工業会による証明が後に撤回・回収されたことに起点をおいており、その具体的な適用を争っているものではなく、手続的に、調査による予知があったのか、あるいは正当な理由が存しているのか否かという点が課題となっているものである。調査による予知に関しては基本的に事実関係が問題となっているものであり、私見としては正当な理由を有しているのか否かという点が課題となるものとして捉えられる。このように基本的には下記、過少申告加算税における正当な理由の有無が問題となるべきものであり、かかる点は従前と同様に解釈が検討されている。基本的にはかかる解釈は過少申告加算税が如何なる趣旨・目的を有しているものであるのかという点に解釈の基礎が置かれるものであり、本件判断においても以下のように踏襲されているものである。基本的には事実認定が課題となっているものであるが生産性向上設備投資促進税制における適用を巡って争われた事例は少なく、特に適用の区分において差異が存することなど、実務上の留意点を示している点でも本件は参考となるものと考えられる。近年はかかるような設備投資が盛んであり、この適用要件を改めて確認することは有益であろう。

4 次の各号に掲げる場合には、第一項又は第二項に規定する納付すべき税額から当該各号に定める税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。
一 第一項又は第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合 その正当な理由があると認められる事実に基づく税額
二 第一項の修正申告又は更正前に当該修正申告又は更正に係る国税について期限内申告書の提出により納付すべき税額を減少させる更正その他これに類するものとして政令で定める更正(更正の請求に基づく更正を除く。)があつた場合 当該期限内申告書に係る税額(還付金の額に相当する税額を含む。)に達するまでの税額
5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。

 通則法第65条に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。上記趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として、通則法第65条第4項が規定した「正当な理由」があると認められる場合とは、過少に税額を申告したことが真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいい、その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解に基づくような場合までも 含むものではないと解するのが相当である。

このように、正当な理由としては、公平性の担保を基礎としたものとのバランスを企図したものであり、行政上の措置としての適正な申告を促す機能を有していることから、納税者に対する帰責性と、趣旨の観点からの不当性を事実上の判断の基礎に、おいているものと解される。しかるに極めて限定的な状況においてのみ正当な理由の存在が認められるものと考えられることになる。かかる判断は、従前と整合的であり、この点において本件は特徴的なものではないが、必ずしもその具体的な当てはめにおいて如何にしてなされたのか、具体的な判断のメルクマールが定かではなく、上記のように安定性にかけるべきものではないかとも評価し得るところである。そもそもここでいう税法の不知等が如何なるものを指しているのか、そして、上記帰責性や趣旨との関連から、納税者の不知等を排除することになるのかという点は定かではなく、かかる点はより安定的な税務執行の観点からもより明確化していくべきものではないだろうか。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

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