2018年1月16日火曜日

判例裁決紹介(平成28年6月16日裁決、譲渡所得の取得費と弁護士費用)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年6月16日裁決で、相続財産の取得に要した弁護士費用が譲渡所得の取得費用等に該当するのか否かが争われた事例です。

具体的には、建物等を売却し譲渡所得を得た請求人が当該譲渡所得の取得費あるいは譲渡費用として、弁護士費用を含めて確定申告を行ったところ、課税庁は当該費用は取得費等に該当しないとして更正処分を行ったことを不服として提起されたものである。譲渡対象となった資産は相続により取得したものであり、遺産分割協議による相続分である。請求人は当該遺産分割協議に関して訴訟を提起しており、当該財産以外の帰属を求めて争いを行ったため弁護士費用を支出しており、本件における弁護士費用は当該訴訟に関する費用であり、この部分が相続に関わるものであるとはいえ、譲渡所得の取得費等に該当するのか否かという点が問題になっているものである。他にも固定資産税や弁護士への贈答費用なども対象として申告しているがこの点に関しては主たる争点とはなっていない。判断では当該弁護士費用等の取得費等該当性は否定されているが、判断にあたっては下記のように何をもって所得税法における取得費と解するべきであるのかという点が背景となっているものである。

最終的な取得費の解釈としては従前のものと整合的であり、特段法令解釈上、特徴的なものではないが、取得費は譲渡所得の控除要因であり、具体的に如何なるものが対象となるものであるのかという点は、すなわち、その範囲が如何なるものであるのかという点は、譲渡所得の金額算定上重要な課題であり、本件もその具体的な範囲を検討する上で、事実関係を背景として参考となる事例と考えられる。

弁護士が関与した訴訟においては、請求人は最終的に遺産分割協議で定まった財産の帰属関係に関してその主張を認められる全面的に敗訴しており、訴訟によって新たに資産を取得したものではない。請求人はその主張において、この得られるべき資産が失われたことももってまた、譲渡費用に該当するものとも主張しており、自己の見解に(あるいは自己の主張を納税負担において叶えようとするものであり)、論理的な背景が存在しているものとは捉え難く、主張も充分になされていない。この点で証拠資料の不備等もあって充分な主張、立証が行われたものでないこともまた事実であり、かかる点はこの事例を理解する上では考慮すべきものともいえる。取得費等は、その意義につき後述するが、基本的に当該譲渡対象資産の取得に要したものと考えるべきであり、本件における弁護士費用は、あくまでもその対象資産以外を取得するために相続紛争を解決し、訴訟によって得ることを目的として支出されたものであり、新たに資産の取得が行われた性格を有しているものではない。最終的にはこの判断を支える上でこの点が考慮対象として重視されており、取得費該当性を判断する根拠となっているものと考えられる。故に留意すべきは、必ずしも相続の遺産分割協議に関する費用としての弁護士費用一般においてその取得費該当性が否定されているものではないこともまた、理解されるべきであり、一般的に弁護士費用が取得費等として否定的に捉えられると解することは早計と考えられる。

第三三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
【令】第七十九条
 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
二 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得
【令】第八十一条
 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
一 資産の譲渡(前項の規定に該当するものを除く。次号において同じ。)でその資産の取得の日以後五年以内にされたものによる所得(政令で定めるものを除く。)
二 資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの

譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)
第三八条 譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。

(譲渡費用の範囲)

33-7 法第33条第3項に規定する「資産の譲渡に要した費用」(以下33-11までにおいて「譲渡費用」という。)とは、資産の譲渡に係る次に掲げる費用(取得費とされるものを除く。)をいう。
  1. (1) 資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用
  2. (2) (1)に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む。以下33-8までにおいて同じ。)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用
(注) 譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する。
以上のように、本件の中心的な争点は、弁護士費用が取得費として該当するのか否かという点であり、前提として如何なるものが所得税法において取得費として考えられるのかという点が起点となっている。この点につき、上記のように条文は資産の取得に要した費用であり、判断においてもその解釈は下記のように、踏襲されている。但し、客観的価格を構成すべきとしている点が興味深い点である、これをより一般的に活用しうるものであるのかという点はさらに検討が必要であろう。

所得税法第38条第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めのあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定しているところ、ここにいう「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等の当該資産を取得するための付随費用の額も含まれる(なお、相続人が資産を相続により取得するために要した付随費用の額も、「資産の取得に要した金額」に含まれる。)が、他方、当該資産
の維持管理に要する費用等はこれに含まれないものと解される。

以上のように基本的に判断の前提となる取得費の解釈としては従前と整合的である。しかしながら何をもって取得に要したものと判断するのかという点は必ずしも定かではなく、議論の余地があるものともいえる。譲渡所得において譲渡という文言も多様な意義を有するものであるという点は従来議論されているが、取得という文言もまた多義的であり、幅広い意義を有しているものと考えられる。しかるにこれに依拠する取得費もまた、必ずしも一義的とはいえず、付随費用がこれを構成することは許容されようが、如何なる程度を持って許容するのかという点は事例の集積を待つ他ないのかもしれない。

また譲渡費用に関しても、上記通達では譲渡に要した費用として通達において仲介手数料等直接要した費用として限定的に解しており、固定資産税等の維持管理に要した費用は対象から除外する旨と判断している。かかる点は本件判断でも踏襲されており(裁決である以上当然でもあるが、)、かかる点の合理性がより検討課題となる。すなわち、事業所得等における必要経費と同様に、如何なる所以をもって直接という文言を導入し、また、それを如何に捉えるべきであるのかという点は定かではないが、譲渡に関連して必要とされるものという点では、変わりがなく、本件のようないわば機会損失、機会費用などのようなものを対象としているという点においては結論は変わりがないものともいえよう(そもそも今回の請求人の主張は、必要性があるというよりも単に関連している程度に留まるものであり、また、立証も不十分であるから結論に左右するものでないが)。また譲渡に要したという点においても、客観的に必要性が立証されうるか否かという点を基礎に判断を行っており、判断プロセスとして、納税者にとっての必要性や目的意識等が左右される状況にないことはこの譲渡費用の該当性を判断する上で、特徴的であろう。客観性を如何に担保すべきであるのかという点が課題となるものであるが、租税法規の基本的な要請として恣意性を排除することで納税者感の公平性を担保するという点からは法規の解釈としては合理性を有するものと評価されるべきであろう。


資産の譲渡に当たって支出された費用が、所得税法第33条第3項に規定する譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的にみてその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものと解される。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年1月5日金曜日

判例裁決紹介(平成29年3月10日裁決、元代表者への取引先からの支払の帰属、長期間の調査の違法性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年3月10日裁決で、法人の元代表者へ対して取引先から支払われた金員の帰属及び調査における長期間に及んだことの違法性が問題となったものです。

具体的には本件は土木建築業を営む請求人の元代表者が請求人の取引先から受領した金員が請求人の代理や代表として行動したことによる所得であり、請求人の所得として帰属するべきとしてなした更正処分が争われたものである。元代表者個人の所得であるのか、あるいは請求人に帰属すべきものであるのかという点が中心的な争点となっているものである。その他調査手続に関する不備・違法、特に約一年半に及ぶ長期間の調査の継続が過度の負担であり、違法性を帯びているのか否かという点につき課題となっている。

金員の帰属関係を争点とする事例は多数存在しており、基本的には事実認定の問題であるが、本質的には我が国法人の大多数を占める中小法人においては個人と法人間において、法的な関係性(役員等)は別として、実質的に所有と経営の分離が充分ではない存在が非常に多く、両者の差異が存在していないことが起因となっているものであろう。この区分を如何に行い、適正な所得の分配を行うことが租税法規における課題と一つとなっている。このような関係性を基礎として受領した金員の所得の帰属関係が問題となっているものであり、本件も元代表者(娘婿に代替わり済み)に対して取引先から支払われた金員を巡っての所得関係が争点となったものであり、また、このような特殊な関係性を前提とした事例における類型として実務上も当該所得の帰属関係を課題とする場合において有益な事例となるだろう。特に本件は課税庁が主張した法人の代理として行動したものであり、請求人に帰属するとした主張を退けており、かかる点からも如何なる所以をもって当該判断に至ったのかという点を検討することは非常に参考となる事例といえよう。そもそも代理という民事法の概念に基づくものであれば、代理権の付与、表見等、代理に係る概念との整合性もまた問題となろう。

支払先としては関係の継続を期待したものであり、交際費として処理しているものであるが、このような如何に処理しているのかという点も課税庁の主張の要因となっているものともいえようが、そもそもこのような情報は請求人である納税者が知りうるものではなく、納税者に取って予測可能性が担保されているとは評価し得ない。最終的にはこのもと代表者が辞任後、請求人の株式も保有しておらず、請求人の現代表者の義父であるというのみの関係性のみを前提として処分を行うことは必ずしも容易なことではない。肩書として会長という名称を用いることがあったとしても法人の代表者として法人への所得を帰属させるべきものであるのか否かという段階とは評価し得ないという判断であり、最終的には請求人の主張を認めている。かかる判断は総合的に判断したゆえでの結果であるが、もって如何なる点を重視しているのかという点は必ずしも定かではないが、支払の事実関係、法的な株式の保有、権限の存在等に基づき判断しており、従来の特殊な関係性をベースとした実質的な判断から客観的な証拠資料の存在をベースとして元代表者の行為が請求人の行為として同視し得るものであるのか否かというから判断を行っている。すなわち、支払受領の意図や受領した金員の処分可能性、特殊な関係性を基礎とした判断要因から法的な株式の保有関係等の客観的な状況が判断要因となっているものとして重視されているように捉えられる。もともと、いわゆる帰属という概念自体が租税法規においては如何に評価されるべきものであるのかという点は必ずしも定かではなく(法規に規定がなく)、法的関係性を基礎とするものであるのか、処分等の実質的な関係性も含むものであるのかという点は検討の余地がある。多様な事例が帰属関係においても問題となっているが代理による民事法の観点からも検討を加えるべきものであるのかもしれない。いずれにしても、事実関係に依拠して判断が異なる事案でもあるが、その安定性を確保し、判断の恣意性を排除するためにも、特殊な関係性のみを根拠とした判断は処分の起因とはなるものであることはまでは否定しようがないが、課税処分の前提として明示的な根拠しては必ずしも充分な位置付けを有するものとは異なると評価すべきものであろう。逆に納税者としては法的な関係性や支払関係などを如何にして客観的に裏付けられるのかという点を留意しておくべきものともいえる。

また、本件における中心的な争点の一つとして調査手続における不備・違法性が課題とされている。具体的には調査が1年5ヶ月に渡り継続していること自身(そもそも調査不協力や特定の団体に所属していることが起因となっているものであるのかもしれないが)が過度の負担であり、調査自身が違法性を帯びているものであり、もって課税処分が取消対象となりうるものであるのかという点が問題となっている。従来よりこの手続の違法がもって処分の取消原因となりうるものであるのかという点は議論が行われているが、平成23年の税制改正により、事前通知や調査終了手続の明示、理由附記の拡大等、調査手続の法定化・大改正が行われている。かかる改正により、その位置付け・見解が変化しているとの考えもありえようが、現状においては、下記のように、従前と同様に重大な違法性を前提として必ずしも一律に処分の取消原因となりうることを否定的に解している。判断は裁決であり、司法の判断が行われているものではないが、課税庁の見解・判断としても、かかるような見解を維持していることは認識されるべきものであろう。

通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に違反したことが課税処分の取消事由となる旨を定めた法令上の規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来負うべき納税の義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単に瑕疵があるというだけで課税処分の取消事由となるものではなく、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法があり、何らの調査なしに課税処分を行ったに等しいとの評価を受け、課税処分を「調査により」行う旨を定めている通則法第24条から第26条までの各規定に違背するような例外的場合に限り、その違法が課税処分の取消事由となるものと解するのが相当である。

上記のように、この判断においても調査における違法性・不備が必ずしも処分の取消原因となりうるものであるものではないとしている。私見としても、かかる見解は賛成であり、改正を経ても、変化はないものと考えられる。本質的に調査、より正確には質問検査、実地の調査は、申告納税制度を前提とした租税制度において納税者間の公平性を担保するものであることは特段の変化がないものであり、強制力を有した処分を行う前提において、財産権の保護を図る上で一定の配慮が行われたものが本改正であり、たとえ従来の慣習としての調査手続が法定化されたとしても基礎とする部分においては変化がなく、従前と同様に重大な違法(もちろん違法性も多様な状況が想定されるものであり、いかなる場合をもって、上記と比較衡量として取り消し原因となるものであるのかという点はより詳細に検討されるべきものであると考えられる。)がある場合に限定された上で、処分の取消原因となるものと解するべきである。そもそも調査手続は下記の終了の際の手続のみならず、理由付記や事前通知から身分証の提示等、多様な規定が存在しており、この部分において、その不備・違法性があるからといってこれを一律に捉え取消原因として考慮することは衡平を欠くものといえよう。すなわち各手続に於いて保護されるべき納税者の利益と上記公平負担の確保との観点から、比較衡量されるべきものである。

個別的には本件において具体的な課題となっている調査の長期化が違法性を有しているのかという点が問題となる。調査の進捗は納税者の協力等多様な要因に左右されるべきものであり、必ずしも明示的なタイミングにおいて調査が終結したものと評価することは困難である。そもそも調査の起点として・要件として課税庁による必要性をその基礎としている以上、調査の性格としてかかるような性格を帯びることは当然ともいえる。また調査の概念自体が、平成23年の改正以後多様化しているものであり、納税者に対して直截的に引上して行う調査(実地の調査、質問検査)のみならず、いわゆる反面調査や関係者の調査、過去資料の分析等多様な調査が実施されている。つまり複合的な調査が実施されている状況が本来の調査であり単に質問検査のみが調査ではないものと考えられる。このような背景から、下記のようにいたずらに納税者を調査状態に置くことを回避するため、調査終了の際の手続が定められたものであろう。しかしながら、特に如何なる場合をもって終了と判断するものであるのかという点は明示的にされていない。課税庁職員の合理的な裁量に委ねられているものと解される。故に単に調査が長期間であるからといって必ずしも手続に於いて違法性を有するものであるとの評価は困難であろう。もちろんこの合理的な裁量が無制限と解することは法の趣旨に反するものであり、また、いかなる場合をもって長期間と判断するのか、納税者にとって過度の負担であると判断するのかという点は今後の課題であろう。但し、下記のような終了の際の手続としての説明義務や、書面による通知、調査再開の制限、理由附記の対象の拡大・強制化等の負担を回避すべく、実務上、現状において、調査をなかなか終了させず、長期化を図ることにより、納税者の調査終了の早期化需要・意識に働きかけ、実質的な修正申告の勧奨として企図している状況を発生させていることはありえよう。かかる状況は終了の際の手続の法定化の意義を損ない、もって納税者の予測可能性や法的な保護の重視という近年の傾向に反するものと評価することも可能であろうが、課税処分が大量かつ反復的に行われる性格である以上、また、納税者間の公平性を確保し申告納税制度を維持していく本質的な機能とのバランスが課題となる。故に一律に強制的な終了や長期化を防止することは上記機能を損なう可能性も高く、バランスが難しい。現状は改正が行われた直後であり、立法等による対応は慎重な検討が必要であるように考えられるが、現状において法解釈として単なる調査の長期化をもって違法性を有するものであるとの評価(憲法論としてはともかく)は困難であろう。


第七四条の一一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2018年1月2日火曜日

判例裁決紹介(高松地判平成28年11月9日、旅費交通費支給の非課税所得該当性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は高松地判平成28年11月9日で、原告が支給した旅費・交通費が過大であり、非課税所得には該当せず給与所得として源泉徴収義務を負うものとされた事例です。

具体的には、病院を営む原告が非常勤で勤務する医師に対して交通費・出勤手当等を支給していたことにつき、当該交通費等の金員支給がタクシーの利用を前提としたものであり、通常の、社会通念によれば過大であり、直接必要な範囲を超えるものとして認定され、給与所得として源泉徴収義務告知処分を受けたものに対して争っているものである。我が国の所得税法が包括的所得概念を基礎として、給与所得においても28条において給与等の性質を有する給与として(そもそもこの性質が如何なるものであり、その範囲を決定するものを決定する基準が租税法規における課題として古くて新しい問題ではあろう)非常に幅広い概念を採用していることに鑑みれば、実際の金員支給以外にもいわゆるフリンジ・ベネフィットがその課税対象となることに関しては、異論が少ないものと考えられる。本件もそのフリンジ・ベネフィットとして支給される通勤費・旅費手当等の交通費支給が課題となったものであり、この部分に関しては、法規において下記のように明示的に非課税とする定めが存在している項目である。本件においては当該支給金額が通常の範囲内を超過するものであり、その非課税所得該当性が否定されたものである。このような処分につき下記のように法的な根拠として、通常必要であると認められるとする文言の存在が本件の背景にあるものであり、その具体的な意義は如何なるものであるのかという点が本件の中心的な争点となるものと捉えられる。一般的な通勤費に関しては、明示的な法令の基準として事実上20万円のみがあるように考えられ、ほとんど問題となるべきものでないものかもしれないが、旅費手当も含め、その通常必要性が本来の要件であり、この点を如何に解するべきであるのかという点は実務上も参考となるものと捉えられる。また、医師という専門職を前提としたものであるが、個人に高い専門性が属人的に付与されるケースは他にも存在しており、かかる点を交通費支給において考慮しうるものであるのかという点も興味深い点である。

第二八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費収び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

所得税法9条
四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
五 給与所得を有する者で通勤するもの(以下この号において「通勤者」という。)がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの

上記のように、本件の中心的な課題は上記法規定に定める非課税所得に対して支給された交通費等が該当するのか否かという点である。上記のように医師に対する過大なし急であり、この過大、正確には上記法規定にある通常必要であると認められる部分が如何なる部分であり、それを具体的にどのように判断し、超過の有無を判断することになるのかという点が問題となっている。

必要経費に関しては、その直接性や必要性の有無に関して如何なる因果関係にあるべきであるのかという点については、多様な論点とともに、多数の事例を伴って議論されている。しかしながら本件は基本的に給与所得を得るために支給されたものであり、給与所得控除との関連もあり、如何なる因果関係を求めているものであるのか点は、必要経費との同程度のものと要求するものであるのかという点も含め法令解釈上の課題となるものと考えられる。本件判示は最終的には社会通念による判断を基調としているように読めるものであるが、いうまでもなく社会通念は非常に曖昧模糊とした概念であり、租税法規が要請がする予測可能性の確保という点において劣位であることは否めないものであろう。
通勤等における社会通念とは如何なるものであるのかという点はそもそも幅のある概念であり、一義的ではない。必要経費のようにその前提とする業務が多様であるような状況とは異なるものであり、通勤等に関しては重大な問題とならないとの考え方もあろうが、本件のように紛争となりうるものであり、その具体的な意義を検討することは租税法の課題であろう。

判断プロセスとしては、以下のように、非常勤の医師の出勤に関しては、4号の旅行には該当しないものの、通勤には類似するということから、非課税限度額の規定の存在も考慮して通達のように9-5の取扱を採用している。この9-5の取扱自体が法が定める要件を超過しているものとも捉えうるところであるが、そもそも旅行ではなく、通勤に類するものである以上、非常勤等の実情を反映させて当該通勤の意義を拡張的に解することは租税法規において妥当であるのかという点は疑問を覚えるものである。限度額を定めている法の趣旨にも抵触するともいえよう。通勤であるならば通勤費として非課税所得に該当するか否かを審査すべきものではないだろうか。通勤と旅行(法規における)の相違は概念的に如何なるものであるのかという点は法令解釈上興味深い点であり、法がどのように考えているのかという点は、さらに現状の働き方が変化している現状況において、この区分のみで妥当性を有しているのかという点は立法上の課題ではあろう。常勤と非常勤の区分をより明示的に通勤においても反映させるべきものであるともいえるかもしれない。

いずれにしても判示においては、最終的に通達の取扱に全面的に依拠しており、この通達が如何なる法令を基礎としているか必ずしも定かではないものの、上記両法規の文言である通常必要であるという部分に関して、社会通念上合理的な理由の存在と、出勤のため直接必要であるという2つの要件を提示している。直接性を要求することに関しては弁護士における必要経費が争われた事例においても問題となったものであるが、この直接性の付与(そもそもこの直接性がどのようなものであるのかという点は必ずしも明らかではないが・・・)及び社会通念上の合理的理由の存在を法令解釈として一般性を持つものであるのかという点はより検討が必要であると考えられよう。私見としてはこの合理的な理由を社会通念を判断基準として有無を問題とすることは必要性を立証することを求めているものであるという考えも理解できるが、社会通念そのものが定量的なものではなく、下記のように他の租税法規における過大性の判断等と対比しても裁量的な要因であり、恣意の介在する余地が生まれるものであるとも捉えられ合理性をもっているのか疑問であり、要件を強化するものであるのではないかとも捉えられる。

「非常勤医師等の出勤は、法9条1項4号所定の旅行には当たらないものの、通勤(法9条1項5号)に類するものであることから、そのために支給される費用を非課税とすることに相当な理由があると考えられるが、一般の通勤手当と同様の取扱いとすると、非課税限度額(所得税法施行令20条の2)があるため、実情に即さないこととなるので、本件通達9-5が定められたものであることに鑑みると、「社会通念上合理的な理由があると認められる場合に支給されたもの」であって、「出勤のために直接必要と認められる部分」は、交通手段としての合理性の見地から判断するのが相当である。」

(非常勤役員等の出勤のための費用)

9-5 給与所得を有する者で常には出勤を要しない次に掲げるようなものに対し、その勤務する場所に出勤するために行う旅行に必要な運賃、宿泊料等の支出に充てるものとして支給される金品で、社会通念上合理的な理由があると認められる場合に支給されるものについては、その支給される金品のうちその出勤のために直接必要であると認められる部分に限り、法第9条第1項第4号に掲げる金品に準じて課税しなくて差し支えない。
(1) 国、地方公共団体の議員、委員、顧問又は参与
(2) 会社その他の団体の役員、顧問、相談役又は参与
また、このように社会通念上の合理性を要求することになると如何にしてその合理性を立証することになるのかという方法論もまた興味深い点となる。下記のように本件においてはタクシーの利用を付加価値の存在をもとにして主張している。感覚的には納得性があるものとはいえようが、処分を行う前提として妥当な理由として評価しうるものであろうか。
タクシーは、場所の移動に必ずしも必要不可欠とはいえない高い付加価値があり、高額な運賃等の中には、その付加価値に相当するものが含まれていることや、通勤において広く一般に利用されているともいえないから、非常勤医師等が、公共交通機関又は自家用車を利用することができず、タクシーを利用する以外には出勤することができないような例外的な場合を除き、社会通念上合理性のある交通手段とは認められない。

租税法規においてはこのように過大性、合理性をというような状況は他にも、役員給与や必要経費等法定されている。しかしながら何をもってその妥当性を判断するのかという点に関してはそれぞれ検討が尽きないところでもあり、従来紛争の発生や納税者にとっての予測可能性に対して問題視することが多い。如何なる点をもってその合理性を判断することになるのかという点は、前提となる法規の趣旨(租税回避防止等)や意義に依拠することになろうが、課税庁が有する同種同規模の状況による支給状況もまた、判断基準となるのかという点は過大である。そもそもこのような他者との比較による合理性のデータは、趣旨に合致するものではあろうが、入手が困難であり守秘義務の制約もある(最終的に課税庁に立証責任を認め選定対象のデータを如何にして抽出しているのかという点で恣意性の介在があるのか否かという点が審査対象になるのであろう)。しかるに予測可能性において危惧があることは否めない。法令が他者との比較による合理性を要請しているものであるのかという点は立証においても重要な点であり、納税者においても重要な点であろう。他者との比較をより拡張し社会通念としてという部分に拡大することはかえってその合理性を上記のように曖昧とする可能性もある。本件においては最終的には総合的に実際の利用状況、代替手法の存在、職務への影響等を考慮して、最終的には上記のように付加価値の観点から合理性を否定しているが、他者との対比における点を基礎としておらず一律に社会通念として判断に依存している点は、経費の合理性を担保する上では、他の租税法規における判断とは異なるものであり、かかる点において、興味深くより検討すべきものともいえよう。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。


判例裁決紹介(平成28年7月25日裁決、調査不協力と帳簿記載事項の不備)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成28年7月25日裁決で調査不協力と帳簿記載事項の不備が問題となったものです。

具体的には本件は、玩具販売等を営む請求人が課税庁による調査に対して、立入拒否、第三者の立会い(非税理士)、非協力(留置の拒否、第三者監視による資料書き取りなど)であったとして、取引先への調査及び、仕入税額控除を否認する消費税更正処分を行ったことに対して調査手続に対して、特に取引先調査に関しては違法性があるとして当該処分の取消を求めたものである。より具体的には調査段階における打算者の立会いを認めなかったことや請求人に対して通知なく取引先への調査を行ったことによる不備があったとしており、また、帳簿記載事項及び請求書等に対して記載の不備があることが調査段階での保存の要件を満たしていないとして、その保存の適格性を否認し、もって仕入れ税額控除の適用を否定したものである。

特殊な団体が関与するものと想定される事案であり(事実関係の経過によれば、再三の立会い要請や、調査協力拒否、書取等納税者と課税庁の対立関係がみて取れる)、税務調査、質問検査の実施、実地の調査の不備・違法性の主張によって課税処分の取消を求めたものであり、基本的に特段の法令解釈に於いて特殊な要因は見受けられるものではないが、また事実関係においても一般性を有するものとは認識し難いところではあるが、租税手続において特に仕入税額控除の適用の要件としての帳簿への記載事項の不備があるような場合は、一般に想定されうるものであり、その評価を如何に捉えるべきであるのかという点が中心的な争点となったものとして理解される。基本亭には事実関係が中心的な争点となったものであり、租税法における調査段階、質問検査の状況を垣間見る事案として参考となる可能性があろう。


 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
【令】第四十九条
 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
 第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
一 事業者に対し課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この号において同じ。)を行う他の事業者(当該課税資産の譲渡等が卸売市場においてせり売又は入札の方法により行われるものその他の媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われるものである場合には、当該媒介又は取次ぎに係る業務を行う者)が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項(当該課税資産の譲渡等が小売業その他の政令で定める事業に係るものである場合には、イからニまでに掲げる事項)が記載されているもの
イ 書類の作成者の氏名又は名称
ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
ニ 課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称

以上のように本件の中心的な課題の一つは、仕入税額控除の適用要件として、帳簿及び請求書等の保存要件を充足しているか否かという点が課題となっている。消費税法は上記30条において、適用要件として帳簿及び請求書等の保存を求めている。この保存の意義については、議論があるものの、最高裁としては、単なる保存を求めるものではなく、提示も含め、より拡張的に解する見解が取られている。以下のように本件判断も、それを踏襲して摘示の提示も可能な状況を求めているものとして理解され事実上その仕入税額控除に関する状況の発生に関しては立証責任を納税者に求めている。

事業者が、消費税法施行令第50条第1項に規定するとおり、消費税法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿(法定帳簿)及び請求書等(法定請求書等)を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法第74条の2第1項第3号に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、消費税法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たるものと解するのが相当である。

本件においては最終的に記載事項において不備があったものとして、保存の前段階として保存対象である帳簿が適正な状況、法が求める要請を充足していなかったことを起点として判断を行っているが、単に領収書などを袋にいれて、提示し、本件の事実関係においては、その記録として書き取りを求めている。ここで疑問に考えられるのが質問検査において帳簿等を提示はしているものの、この記録や留置を否認している点である。これは提示を一義的に捉え、無造作に資料を提示し、もって保存の要件を充足していると考えられ、保存の意義として最高裁が判断として上記のように拡張的な解釈を取っていることによるものであると推察されるが、調査段階において、保存されていることを提示により確認できることまでで足りるのか否かという疑問が残る。法が具体的な記載事項を定め、一定の状況を把握すべく帳簿等にその適格性を求めている以上、保存においてもその適切な状況にあることが求められていることがあるものと理解すべきであり、立証を納税者に、その基礎的な資料の開示をもって求めていることにも適合するものといえよう。保存の目的がその提示により、仕入税額控除の事実関係を確認することにあると解するならば、その、検証において、充分な時間(そもそもこれが如何なる点を意味するものであるのかという点は議論の余地があるが)や留置を求めることは保存の要件を満たしていないと、判断しうるものであるのかという点が議論されるべきであり、さらに拡張的な解釈を含有するものであるのかという点はさらに検討が必要であろう。

以上です。

毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。