具体的には、不動産投資業務等を営む請求人が、不動産売買契約を締結し、契約当事者である当該不動産の譲渡人に対して売買代金として譲渡代金を支払ったものの、この契約当事者である相手方、譲渡人が中国籍であり、国外居住者(住民票あり、親族は中国、日本法人を経営、過半数日本に滞在等)であるとして、課税庁が当該譲渡代金の支払に対して、源泉徴収義務があるとして更正処分を行った事案であり、当該非居住者であるという認定及び係る認定に基づく源泉徴収義務の存在を不服として提起した事案である。
本件は、請求人がなした取引に伴う対価の支払が所得税法上、非居住者に支払った対価の額に該当し、しかるに源泉徴収義務を負うべきものであるのか否かという点が課題となったものである。具体的に取引当事者である譲渡人が国内に居住している、居住者であるのかというように居住の実態が存在し、あるいは外国籍者であり、非居住者であるのか否か中心的な争点となっており、この点は、国際租税においては、単なる源泉徴収義務を判定するのみならず、国内源泉所得を中心に所得が如何なる帰属を有しているのか、すなわち課税管轄の判断を行う上で重要な問題であり、単なる国内に居住、住所を有するか否か、たった二文字ではあるものの重要な概念であり、従来よりその具体的な判断を行う基準(要素)が如何なるものであるのかという点が租税法規の解釈から特に、住所や居住の概念から導かれるものであり、この具体的な解釈意義に左右されるものであって、議論が行われているものである。本件はその類型に属するものであり、所得税法における、また国際租税における具体的な所得源泉の帰属を判断する、決定する上で重要な事例と考えられる。
特に本件は、中国における国籍を有する者が、わが国に於いて如何なる居住状況にあるのかという点が具体的な事実関係として問題となっており、従来の居住判定は中心として欧米が中心となったものであり、近年の経済環境を鑑みれば、かかる点においても参考となるものと考えられよう。
但し私見ではあるが、通常のわが国の取引において、特に実務家が直面する取引において、取引当事者が国外に居住しているのか否かという点を問題とする局面は如何なる状況であろうか。具体的に専門家はともかくも、一般的な企業において、相手先が国外であるのか否かという点を問題視することは、国外との貿易取引等を除き、実際には必要とされる局面は限定的であると考えるほうが妥当であろう。しかしながら、近年は、ネット取引や通貨決済環境が変化(仮想通貨等)し、国外者との取引の可能性は従来と比して発生する可能性は格段に高まっているのではないだろうか(この点は実務家に聞いてみたいところ)。このような国外との取引を意識する貿易や国境をまたぐ移動等のサービスとは異なる一般的な取引においてもなお、相手先が国内に居住しているのか否かという点を明示的に把握することは困難ではないだろうか。少なくとも国際的な取引が明らかであるような場合とは異なり、通常の一般的な取引当事者が相手先が国内での居住をしており、実態を有した居住者であるのか否かという点を把握、判断することが実務としても実際的であるのか現状に合致しているのかという点は疑問を抱かざるを得ない。
かかるような取引において、徴収を確実に実行し、国内に源泉のある取引に基づく所得を適正に課税するための本制度ではあるものの、国内に居住する取引当事者に対して源泉徴収義務を課すことが、すなわち国内に居住する者に負担を負わせることがfairな状況であるのかという点は疑問を覚える。かかる点は立法的な課題ではあるが、かかる点は疑問として近年の状況に鑑み、かつての国外者との取引が、限定的であり、一部のものに限られていた時代とは異なる環境であることを考慮するならば(経済取引環境が変化していることを考慮するならば)、当該状況を、時代背景を考慮した制度設計があるべきものではないだろうか。少なくとも租税負担の適正な配分、徴収の実効性を図る本制度の合理性は現況においても変わらないものと考えられるが、宥恕規定の見直しなど、制度背景にあるべき状況を反映した制度の見直しや負担の考慮を行うべき状況にあるものと考えられる。
このように本件では、所得税法における居住・非居住の具体的な判断が争点となっているが、本件の中心的な問題はかかるような具体的な判断による、租税負担を決定する所得の帰属先を決定することが必要であるということが背景にある。この決定は、従来より問題となっているが、所得税法は以下のように、定義規定において、所得の源泉を決定する居住者を定めている。具体的には、国内への住所若しくは継続的な居所の存在(保有)が定義規定となっている。従来、この具体的な認定としては住所の存在が問題となっており、如何なるものが住所として解されるのかという点が課題として捉えられている。
三 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。
本件判断でも、以下のように、最判を引用し、住所認定を行っている。
生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり(最高裁昭和35年3月22日第三小法廷判決・民集14巻4号551頁参照)、一定の場所がその者の住所であると認定するについては、その者の住所とする意思だけでは足りず、客観的に生活の本拠たる実体を具備していることを必要とするものと解すべきである(最高裁昭和32年9月13日第二小法廷判決・集民27号801頁、同平成23年2月18日同小法廷判決・集民236号71頁参照)。
各人の住所の認定は、その者の国内外での①滞在日数、②生活場所及び同所での生活状況、③職業及び業務の内容及び従事状況、④生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、⑤資産の所在、⑥生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案して行うのが相当である。
上記のように、所得税法における住所概念が、生活の本拠であることは近年、判例学説ともに確定しており、この具体的な認定が、継続的な居所の保有も含め本件事実関係のもとで、あらゆる所得を帰属する居住の事実を有する、居住者に該当するのか否かという点が、本件の意義であり、従来議論されている住所概念の延長にあるものと捉えられよう。但し、本件は通常の所得源泉、課税管轄を巡るものとは異なり、課税庁が非居住者であることを主張立証している事例であり、通常の事例とは異なる(課税管轄の存在、住所の所在)ものであり、かかる点で、居住者非居住者の具体的な判定を行う上で、実務的にも参考になるものといえる(租税条約における概念、規定との調整も含め)。
特に具体的な事実の認定においては総合的な各種要素(住居、住民票、職業、親族、資産の所在等)を判断材料としている。形式的な書類情報のみならず、客観的な事実関係を基礎に判断を行い、事実関係の認定を行っており、この点も客観的な状況を重視する租税法規における要請を参照しており、恣意の介在する余地を回避しようとしているものと考えられる。実務においては、決定的な要素が存在しないことに予測可能性や法的な安定を欠くものであるとして批判することは可能であろうが、上記も含めわが国の現行法において総合的な判断を採用していることは動かし難く、かかる点で、各判断要素の具体的な対応は重要となるものであろう。特に本件では判断要素としての適格性や他の要素と比しての優劣が主張立証されているが、もちろん個々の要素において如何なる理由をもって判断認定要素として他の要素と比して劣位に置かれるのかという点で合理的な、法令解釈に起因する根拠に欠けている部分も見受けられるが、具体的な事実との関係において認定する要素の中身を検討する上では重要と考えられる。
また、本件では居所との関係についても判断されており、
所得税法第2条第1項第3号でいう居所とは、人が多少の期間継続して居住はしているが、その者の生活の本拠という程度には至らない場所をいうものと解される。
定義にいうところの居所として、上記のような解釈を示している。本件では居住していないとごく簡単に認定を行っている。この点は上記の住所概念、生活の本拠との差異、差別化という点で、疑問を覚える。多少の期間継続とは如何なるものであり、法令では一年以上としているが継続とは、断続的であることを許容するのか等、また、居所としての場所の存在のみが問題であり、実際の居所としての事実関係の存在(居住の実態)が問題視されないのか(ホテル等への一時的な宿泊施設への継続的な居住との差異等、法令解釈として如何なるものが居所であり、生活の本拠という程度には至らないという点も曖昧である。特に場所的な概念としてのみ捉えるならば、ホテル等への継続的な滞在との差異を対比して、如何に所得を帰属させるべきであるのかという点は問題となるのではないだろうか。私見としては租税回避を考慮して単に居住可能な状況にあるような場所的な概念のみとは捉えず、具体的な所得の帰属先として合理的な一定の生活上の実態の存在も含む概念であると考えられるが、この点を突き詰めると生活の本拠との対比や如何なるものを帰属理由として捉えるのかという点が問題であり(モデル租税条約や国際的な所得帰属先の認定とのバランスも含め)、居所という概念も一義的に定まる概念とは捉え難く今後の課題ではないだろうか。
第十四条
国内に居住することとなつた個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定する。
一
その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二
その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足りる事実があること。
2
前項の規定により国内に住所を有する者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国内に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有する者と推定する。
以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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