2017年9月23日土曜日

判例裁決紹介(東京高判平成27年9月17日、被相続人が管理している財産への不当利得請求権と相続財産)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成27年3月27日、東京高判平成27年9月17日で、被相続人が管理していると推認される財産に対して不当利得返還請求権の存在を認定し、当該財産を相続財産として課税対象とした事例です。

具体的には、本件は、相続財産たる認定に関する事例であり、株式の売却にかかる代金の受領をし、相続人たる原告(控訴人)がこれを管理しているとして当該財産が、相続財産として構成されうるものであるのかという点が争点となったものである。基本的には事実認定が問題となったものであり、特徴的な法令解釈等が問題になったものではない。高裁、地裁、ともにその判断は共通しており、何らかの特徴的な法令解釈等が問題にあがったものではないものと考えられる。しかしながら、相続財産の帰属関係の判定は、相続税申告の基礎中の基礎となるものであり、本件ような認知症状態にある、被相続人の財産の処分関係や帰属関係の具体的な判定は、特に所有している財産の売却委託等の関係から財産帰属が問題となるような事案は、近年の相続環境においては増加傾向にあるものと想定され、かかる点においても、重要なものであり、実務上も財産帰属を判断する判断、トレーニングする事案としても参考となるものといえよう。より具体的には、証券のホームトレードの利用や、被相続人のローン返済状況なども考慮して相続財産の認定を行っている。

特に本件は、財産帰属の判断において、名義の異なる状況を作出し、実質的な相続財産の状況を形式上異なる財産関係へ変化させるものであり、相続財産帰属関係を問題とする事案としては名義関係を活用し、実質的な判断を行うような事例ではあり類型としては通常なものとしてカテゴライズされるものといえようが、このような場合、被相続人とは異なる名義にあるような状況であっても、管理状況、処分等の関係から被相続人の財産として相続財産を構成するものとして認定する事案が通常であるが、本件では管理状況から売却資金の所在を相続人に対して推認し、不当利得返還請求権を認定することで相続財産を構成していたものとして認定している点は特徴的なものといえよう。主張において、認知症状態にある、被相続人による財産の費消(浪費)が原告から主張されているという点も関係しているのかもしれないが(最終的には全く考慮されていない、浪費や費消を主張することは相続財産の認定においては悪手であり、具体的な主張としては、特に認知症状態にあり病院に居住している状況にあっては、非常に困難と評価せざるを得ない)、相続財産を広く解釈して、適切な租税負担を企図しているものと考えられ相続税法の基本的な判断において、忠実な判断であると捉えられる。

特に本件における判断においては、株等の財産としての帰属ではなく、資金としての帰属関係が問題になったものであり、かかる点から判断するに、資金の出捐先が重要視された判断であり、かかる認定は、財産種別を考慮しても判断プロセスとしては重要なものであろう。いずれにしても本件の面白い点は財産認定の主張でありホームトレードの利用に伴う財産帰属は近年の特徴であり参考となるものであろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(横浜地判平成28年2月3日、事業所得と準備行為の必要経費)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成27年10月
8日裁決と横浜地判平成28年2月3日で、おそらく同一事案だと思うのですが、猟
銃等の製造に関する事業に関する所得が所得税法に定める事業所得に該当するの
か否かという点が課題となったものです(事業は特殊ですがほぼ判断には関係な
いものです、趣味的道楽的な事業との評価も可能でしょうが)。

具体的には、主たる収入を給与所得として稼得している原告が営む事業(猟銃の
製造販売等、販売等の許可取得済み)が所得税法に定める事業所得に該当し、か
かる事業に関する費用が収入を大幅に超過したことによる損失の発生を損益通算
した確定申告を行った原告の行為に対して、課税庁が係る収入は所得税法が定め
る事業所得として社会通念等から見て該当しないとして、当該損失による損益通
算を否認した事例である。中心的な争点はかかる販売等が事業に該当するのか否
かという点が争われているが、損失を生み出した必要経費(準備段階等にあると
も評価できるが、収入としてはわずかなものであり対して費用額は数百万円単位
にのぼるものである、この収支状況からはそもそも事業としての継続性に欠け、
単なる趣味や道楽的な行為としても評価し得るものであるが、この点を突き詰め
ると家事費家事関連費との区分との課題も提起されよう)が本件事業との関係に
おいて必要性を有しているのかという点も課題となっている。判断及び判示では
事業所得としての該当性は否認され、当該収入は、雑所得としての認定を受ける
ものと判断されている。この具体的な争点としては従来議論されている、所得税
法上の事業とは如何なるものであり、具体的には如何なる要素に基づき判断され
るべきであるのかという点が議論されているが、本件もその類型に属するもので
あり、所得税法上の事業の性格をいかに解するのかという点を出発点に、如何な
るものを事業として捉えていくべきものであるのかという点を考えるうえでも参
考になるものといえよう。

少し本件とは離れるものの、特に近年は、ネット環境の発達により個人のレベル、
段階で規模の大小を問わず、経済的利益のやり取りが行われるケースが増加して
いる。他にもプラットフォームとしてメルカリ等を活用した個人販売なども増加
傾向であるが、流動性が非常に大きい仮装通貨を用いたトークンをやり取りする
ICO等の取引など、近年の取引、所得の稼得方法は従前と異なる形式の登場や、
多様化しており、規模も大小さまざまであると考えられる。かかる点を考慮する
において、ネットを媒介とした小規模な個人間の取引の特徴等を考慮し、租税法
規において如何に捉て課税を行っていくべきであるのかという点は本件における
事例も含め検討課題としていくべきであろう。特に、学説判例において確立して
いる、本件でも問題となった下記事業所得の意義、特に事業の意義における個別
具体的な判断要素が、如何にして当てはまるのか、あるいは修正されるべきもの
であるのか等、租税法規の解釈論としても古くて新しい問題であるように考えら
れる。些か一般論としては近年の状況を租税法規において如何に捉えていくべき
であるのかという点は、租税の中立性、取引に対する予見可能性を向上させる意
味でも必要であろうし、所得類型と必要経費には密接な関連性が存在している。
このような取引に対して必要経費を如何に捉えるべきであるのか【家事費家事関
連費との区分、消費行為との区分も含め】という点も併せて課題となることであ
ろう。

(事業所得)
*第二十七条* 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス
業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該
当するものを除く。)をいう。
*2 * 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を
控除した金額とする。

以上の通り、本件における、中心的な争点は、所得税法に定める上記事業所得へ
の該当性が問題となったものである。この具体的な要件は下記事業の範囲という
点も考慮し、事故の危険と計算、独立、営利性、継続性等が具体的な判定要素と
して解されている。また、その具体的な認定においては、単に主観的な状況【意
思】のみならず、社会的に地位が認められることが条件とされている。この解釈
に関しては、学説判例共に共通しており、本件においても下記のように用いられ
ている。

(事業の範囲)
*第六十三条* 法第二十七条第一項
(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業
又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。
*一 * 農業
*二 * 林業及び狩猟業
*三 * 漁業及び水産養殖業
*四 * 鉱業(土石採取業を含む。)
*五 * 建設業
*六 * 製造業
*七 * 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)
*八 * 金融業及び保険業
*九 * 不動産業
*十 * 運輸通信業(倉庫業を含む。)
*十一 * 医療保健業、著述業その他のサービス業
*十二 * 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業

所得税法27条1項に規定する事業所得とは、自己の計算と危険において独立し
て営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位
とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解される(最高裁昭和
56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照)

上記のように、複合的な要素を用いて事業としての該当性を判断し、それを総合
的に判定することで具体的な認定を行っている。決定的な要素や要素間での優劣
があるものではなく、この点において予測可能性や法的安定性において問題があ
るとの指摘も可能ではあるが、単に意思を持って判断するのではなく、租税法規
として公平負担や適正な所得把握の観点から社会的な地位も含めて考慮している
点において、すなわち主観性を抑制し、客観的な要因によって判断することを求
め総合的な判断による恣意の介入する余地を減少させているものと考えられよう。
この点は特に客観性を確保することを求めることが租税法規における大きな特徴
であり、個人の業務内容であり、家事費等の消費的な支出の排除を行うことを企
図するものとして重要な点であろう。

また、単に、営利性等が充足されていればよいと捉えることも問題であろう。上
記のように客観的な認定や社会的な地位が必要と解される点を考慮するならば、
法の要請として如何なる趣旨目的から上記のような判断要素を採用しているのか
という点を明らかにすべきであり、この点は租税法の課題でもあるが、具体的な
充足を判断する上での基準となるべきものでもあろう。基本的には条文を根拠と
すべきであり、給与所得等との対比からも導かれるものともいえる。例えば本件
においては当該原告は、その事業を行うにあたって必要な販売許可等を行政から
得ており、一定の社会的地位が認めらうる状況にあるという可能性も否定でき
い。かかるような社会的な免許や他にも施設の有無など客観的な状況において如
何にして社会的な地位として客観性を備えた事業実態を認定することになるのか
という点で基準が定かとは言えないような状況にあるものと考えられる。この社
会的な地位として事業としての位置づけが客観的に認定され得るのかという点に
ついては本件においても最終的な判断のよりどころとなっているものであるが、
必ずしも如何なる程度をもって社会的な地位が認定され得るのかという点は、具
体的ではなく、かかる点においてより詳細な検討が必要であるように評価される。
少なくともこのような判断において裁量的な判断に委ねることは課税要件に対す
る租税法規の基本的な要請に反するものとなりかねず、問題となるのではないだ
ろうか。

仮に社会的にみて事業としての該当を認められないとした場合においては、逆に
近年の一連の競馬事件と同様に、社会的な承認がその要件となってくることにな
る。蓋しこのような場合、趣味や道楽、あるいはトレーニング中などの【本件の
ような】取引による所得を排除する事に繋がりかねない。趣味等とのきょきあが
あいまいな事業は近年は特に拡張傾向にあり、これらを如何に租税法規、所得税
法においてとらえるべきであるのかという点にも繋がってくるだろう。確かに、
所得税法が家事的な、消費活動に対する支出を行う個人を対象とする以上、主観
的な納税者の意思に基づく課税のみでは、公平負担との較量において問題となる
ことも考えられる。単に規模的な要件等のみでは具体的な判断が困難なケースも
考えられるのではないだろうか。

更に本件、特に裁決においては、蛇足的ではあるものの、本件原告【請求人】は、
設備や収入状況、労働時間等から判断して、主たる生計を給与所得者として判断
している。この点は如何なる点からこの判断を行うべきであるのかという点は
かではないが、読み方としては給与所得者と事業所得の並列が困難な状況にある
ようにも捉え得るものである。しかしながら本件における判示でも、また、事業
所得の意義として引用される最判においてもかかるような要件は設定されておら
ず、主たる所得の認定から、具体的な所得類型を判断することは困難であろう。

最終的には本件は現状の状況が知識技術の習得段階で、準備段階であり、収入も
少なく事業としての客観性を確保するに至っていないとの判断で事業としての該
当性を否認しているものと考えられる。事実認定として、収入金額等を考慮する
ならば、本件事実関係では、その事業としての社会的地位が確保されていないと
の判断は納得的ではあるものの、これをもって一般に準備的な行為段階にあるも
のの必要経費が否認され得るものと解されるのであろうか。事業所得における営
利性という点を如何に捉えるべきであるのかという点にも左右されるのではある
が、この営利性が実際の営利を得るような状況にある事を要請するものであるの
か否か、本件のように収入と支出の間で乖離があるような状況も考慮しているの
か、あるいは事業を構成する個々の役務提供や譲渡等を個別に判断して営利性の
有無を判断するのか、総合的に判断するのかという点も定かとはいえない。少な
くとも事業が確実性をもって営利を稼得するような状況にあるものという想定は
困難であり(実際的ではないだろう)、損失も発生するものが事業であると考え
るべきであり、実際の収支において利益を稼得していることが、この営利性を指
すものと解することは妥当ではないと考えるべきである。この点において将来の
営利性、経済的利益の稼得が客観的に想定され得ることが要件であると考えるべ
きであり、本件のように、収支に関する実態から一律に赤字状態にあるような状
況も事業としての該当性を否認するものではなく、準備的行為が過半を占めるよ
うな状況にあっても、必ずしも営利性を欠缺しているものと捉え、事業性に欠け
るものと捉えることは困難であると理解すべきである。勿論主観的な要因による
判断のみでは妥当ではなく、将来の状況を判断するにあたって、複数年度の状況
を検討するなどより客観的な収支状況から営利性を把握すべきものと考えられる。

*第三十七条* その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額
事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに
雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金
等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあ
るものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額
を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他
これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年に
おいて債務の確定しないものを除く。)の額とする。

所得税法第37条第1項は、上記1の(3)のニのとおり、「その年分の不動産
所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金
額は、‥‥これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」と規定
しているところ、同項に規定する「所得を生ずべき業務」とは、不動産所得、事
業所得又は雑所得を得るために行われる具体的な活動を意味すると解され、業務
を開始するためにする準備行為は含まないと解される。

従って上記【裁決】のように、必要経費においても一律に準備行為を排除する判
断は合理性に欠ける。本件では実質的に技能の習得段階であり、その途上での副
次的な収入が今回の課税対象として問題になったのに過ぎないとの判断であるが、
ここに事業としての実質が欠如しているものと考えているものといえる。上記の
ように必要経費において所得を生ずべき業務に関する費用を必要経費としている
ように、必ずしも必要経費においては、実際の所得発生を要件としているもので
はない。このように考えるならば、準備的な行為であり、所得の発生が想定され
えない準備行為に関する費用を必要経費から一律に排除することは文理に反する
ものと評価せざるを得ないものといえる。確かに業務と所得との間には直接的な
原価のみならず多様な因果関係が想定され、必ずしも直接的な因果関係が存在す
ると考えることは困難である。例えば広告費や研究費のように直接的な所得との
関連は想定し得ないものの必要経費性を否認することは困難なものも存在する。
法は、少なくとも原価以外の費用に関しては、業務の種類によってここに判断す
るプロセスを採用しており、必ずしも直接的な因果関係のみを要請しているもの
ではなく、たとえ準備活動であっても、例えば資格職の資格取得費のように、一
定の因果関係が存在する場合は認識されるものであり、最終的には上記必要経費
における所得を生ずべき業務とはいかに解されるべきであるのかという点に依拠
することになるが、必ずしも実際の損失の発生において所得との対応が取れない、
ような状況であってもその必要経費性を否認することは合理性に欠けるのではな
いだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低
いですが参考までに。

2017年9月19日火曜日

判例裁決紹介(平成28年9月7日、一括借上住宅提供契約に伴う消費税非課税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成28年9月7日裁決で、消費税法における非課税となる住宅の貸付に関して、契約により一括借上げによって住宅として転貸している場合において当該非課税の対象となりうるのか否かという点が争われたものです。

具体的には、請求人が保有する建物を住宅用途にて、外部の住宅会社に対して契約により一括にて貸付け、その後当該住宅会社が住宅として、利用者に対して貸し付けることが契約により保証されているものであり、このような一括借上げに伴う転貸、住宅用途建物としての貸付けが課税資産の譲渡等に該当するとして、確定申告を行ったところ通達に基づく、転貸に該当するとして更正処分を行ったところ、当該処分を不服として、提起されたものが本件である。消費税法6条に定める非課税となる住宅の貸付けに該当するのか否かという点が争点となったものである。近年の取引において、一括借上に伴う不動産賃貸の取引形式は非常に増加傾向にあり、複合的な課題を有するものであるが、今後もこのような実質的には家賃保証等の役務提供等の内容を含有する契約(本件においても契約により住宅としての貸付用途限定、家賃保証等が明記されているが、利用者が特定されていないこのため本件における請求人のを如何に評価すべきであるのかという点は課題となるのであろう。かかる点で本件は参考となるべきものと考えられよう。

本件は裁決である以上、基本となる課税処分を巡って、契約によって居住の用に供する旨が限定されているものの、このような契約に基づく貸付けが下記のように通達が対象とする転貸に該当するのか否かという点で争いが行われているが、特に通達による転貸の想定が本件における取引を含有するのか否かという点が、課題として考えられている。上記のように近年はこのような賃料保証等を含む一括借上のような形式による転貸契約は増加傾向にあり、かかるような取引が本件のように、消費税法上如何に捉えられるものであるのかという点が本件の問題の背景にあるものである。かかる点において本件は実務上も検討すべき課題、特に消費税法上の取引の捉え方を如何に行うべきであるのかという点を検討する上で有益な事例であろう。かかる検討においては、前提として消費税法上の非課税となる住宅の貸付けが如何なる趣旨目的を持つものであり、かかる点から如何に住宅の貸付けという意義を捉え、本件のような事実関係において当てはめるのかという点が争点となるものである。

第六条  国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。

十三 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)

上記のように消費税法上、代表的な非課税対象となるものとして、住宅の貸付けがその対象となっている。消費税法の別表に於いては上記のように定め、一時的なもの等を除外する制度的な構築を行っているものである。本件における問題となるものは、契約において人の居住の用に供するものとして明らかであることが求められていることに起因する。そもそも居住の用とは如何なるものを指すものであるのかという点は必ずしも定かではないが、この点に起因する転貸契約における契約状況の把握が住宅用途として、如何に捉えられ、通達によって一定の概念的な拡張を図られているものと考えられる。実質的な居住の用途に利用する転貸という点が制度的な趣旨から合理的なものとして拡張されているものといえる。

(住宅の貸付けの範囲)

6-13-1 法別表第一第13号《住宅の貸付け》に規定する「住宅の貸付け」には、庭、塀その他これらに類するもので、通 常、住宅に付随して貸し付けられると認められるもの及び家具、じゅうたん、照明設備、冷暖房設備その他これらに類するもので住宅の附属設備として、住宅と一体となって貸し付けられると認められるものは含まれる。
 なお、住宅の附属設備又は通常住宅に付随する施設等と認められるものであっても、当事者間において住宅とは別 の賃貸借の目的物として、住宅の貸付けの対価とは別に使用料等を収受している場合には、当該設備又は施設の使用料等は非課税とはならない。

(転貸する場合の取扱い)

6-13-7 住宅用の建物を賃貸する場合において、賃借人が自ら使用しない場合であっても、当該賃貸借に係る契約において、賃借人が住宅として転貸することが契約書その他において明らかな場合には、当該住宅用の建物の貸付けは、住宅の貸付けに含まれるのであるから留意する。
(注) この場合において、賃借人が行う住宅の転貸も住宅の貸付けに該当する
「住宅の貸付けが非課税取引とされている趣旨は、住宅の貸付けを行う事業者が賃借人に対し、消費税相当額を転嫁しないことにより、住宅賃借人を政策的に保護することにあるものと解される。そして、本件通達は、上記1の(4)のハのとおり、住宅用の建物の賃貸借係る契約において、賃借人が自ら使用しない場合であっても、賃借人が「住宅として転貸することが契約書その他において明らかな場合」には、上記の趣旨に鑑み、当該住宅用の建物の賃貸借を非課税取引と取り扱う旨を定めたものであり、本件通達の取扱いは当審判所においても相当であると認められる。」

かかる通達による拡張的な解釈としては、上記のように本件では合理的である旨が判断されているが、この点は、裁決である以上特に問題とならないのであって、まずはこの拡張的な住宅の貸付けの意義が如何なる趣旨に基づいているものであるのか、という点が検討の素材であろう。すなわち本件の基本的な問題の背景は上記通達の拡張的概念に対して本件の事実関係が該当するのか否かという点で通達の合理性、適用対象となる拡張的な取引対象をいかに捉えるべきであるのかという点が過大となるものである、かかる点がまずは議論の焦点を当てるべきであるが、上記のようにこの合理性を住宅賃借人を政策的に保護するものと捉え、合理性を肯定している。本件が裁決である以上、やむを得ないものであるが、如何なる理由で、住宅賃借人が具体的に保護されているのか、かかる規定の趣旨が上記のような理解では具体的な保護対象となるべきものが明示的ではない。おそらくは、契約により転貸が明示的である以上実質的な貸付対象は住宅であり、上記条文における非課税の保護となるべきものと考えられたものであり、実質的な取引・契約内容を非課税取引に於いて反映させるべきものと捉えたものと考えられるが、まずもって政策的な保護という対象が具体的な保護対象を明らかにしておらず、かかる点において、住宅の貸付けを拡張的に実質的な契約をも反映させるべきであるのかという点は判断プロセスとして疑問である。

また、上記の法文において住宅としての貸付けであることが明らかであることを要請していることからも、契約によって、住宅としての貸付に利用されることが明らかであることをも拡張的に住宅の貸付けとして捉えることが可能であるとの考え方もありえよう。しかしながら、上記規定は非課税の保護の対象となる以上、その具体的な判定において、認定において、利用用途によって建物の消費税法上の取扱が異なりうるという状況下において、主観的な要因を排除し、もって恣意的な非課税としての保護を受けるべき対象を操作することが忌避されうべきものと捉えられ、これを防止する趣旨によるものであり、かかるように捉えるならば、住宅の貸付けを実質的なものまで契約によって拡張的に判断認定することを要請するものと考えられない。すなわち非課税規定としての趣旨を鑑みるならば、消費者に対して一定の便宜を供与するものであり、かかる点からはその適用対象としては厳格に捉えられるべきものとという点を考慮したものであり、逆に非課税の対象となる取引等を実質的に拡張する趣旨を含むものと解することは、本件の中心的な争点となる規定が非課税規定であることからも否定されるべきものであり、拡張的な解釈は厳格に捉えるべきものと考えられるべきである。もちろん消費税法上の非課税規定であり、所得税法等の非課税とは同視されるべきものではないとの考えもありえる。しかしながら租税法規の基本的な要請からも拡張的な解釈によって事実関係と課税要件を捉えることは法的な安定性や納税者の予測可能性を減ずるものであろう。かかる点からは本件の通達の対象となる取引は必ずしも転貸というような形式的な契約状況に合致すればそれを非課税の対象とするような判断は合理性を欠く可能性がありえよう。

本件のように、賃料保証等を付与されている場合においては、転貸といえど、仮に住宅の貸付けを行ったとしても、居住者の不在の場合においても何らかの金銭収入が入ってくることになる。上記非課税規定が一時的な居住を排除している(もちろんより詳細な点においては一時的なものとは如何なる程度のものを指すのかという点は課題であるものの)、点からも対象となる住宅の貸付けを限定的に捉えることも可能であろう。一時的な居住を認めることにより、容易に非課税規定の保護を受けるような状況は排除されるべきであり、かかる点からは居住を実質的な期間的な意義も含め、居住実態の存在を要請しているものと捉えることも可能である。このように考えると居住者が不在(一時的に)の場合においても稼得されるような収入は非課税の対象となるべき取引となりうるものといえるのであろうか。本件ではあまり問題視されていないが、かかるような居住者が不在の場合も考慮すると、あくまでも転貸によって家賃保証を得つつ住宅の貸付けによる不動産収入を意図した取引であり、住宅の貸付けを含むものの一種の役務提供を行ったものと捉えることも充分に可能であり、より詳細な住宅の貸付けとして如何なるものを保護すべきであるのか、さらには保護によって如何なる政策的な対象者を消費税の転嫁対象として排除しているものであるのかという点はより検討すべきものといえよう。

通達において住宅の貸付けを実質的に捉え、拡張的に契約の文言をもって転貸も含むと解することは、消費税法が個々の取引段階において課税を行い、相互牽引によって形式的に判断することを要請している点とも照らし合わせて如何に判断すべきであるのかという点を考えるべきであろう。現在の非課税規定において住宅の貸付けの存在は重要な位置づけを占めており、具体的に如何なる判断方法を取っているのかという点は重要である。単に住宅の貸付けを拡張的に解釈を行い実質的な状況を反映させるべきであるのか、たとえ消費税法が取引段階を課税対象とし、流通税であり、大量の取引を処理するためには、契約等の形式的な文言を重視し、実質的なあるいは恣意的な、主観的な要因を反映させるべきものと捉えることは困難であるが、さらには実際の居住の状況までも非課税規定の適用において考慮要素とすることは実際的ではないかもしれないが、判断プロセスとしてはより詳細な検討が必要であるように考えられる。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2017年9月4日月曜日

判例裁決紹介(平成28年8月4日裁決、外国籍者の居住者非居住者判定、住所推定)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年8月4日裁決で中国籍の不動産等を売買する個人事業者がわが国の国内に所在する不動産を請求人に対して譲渡した場合において、その支払が外国事業者への支払に該当し、源泉徴収義務を負うのか否かが争われた事案です。

具体的には、不動産投資業務等を営む請求人が、不動産売買契約を締結し、契約当事者である当該不動産の譲渡人に対して売買代金として譲渡代金を支払ったものの、この契約当事者である相手方、譲渡人が中国籍であり、国外居住者(住民票あり、親族は中国、日本法人を経営、過半数日本に滞在等)であるとして、課税庁が当該譲渡代金の支払に対して、源泉徴収義務があるとして更正処分を行った事案であり、当該非居住者であるという認定及び係る認定に基づく源泉徴収義務の存在を不服として提起した事案である。

本件は、請求人がなした取引に伴う対価の支払が所得税法上、非居住者に支払った対価の額に該当し、しかるに源泉徴収義務を負うべきものであるのか否かという点が課題となったものである。具体的に取引当事者である譲渡人が国内に居住している、居住者であるのかというように居住の実態が存在し、あるいは外国籍者であり、非居住者であるのか否か中心的な争点となっており、この点は、国際租税においては、単なる源泉徴収義務を判定するのみならず、国内源泉所得を中心に所得が如何なる帰属を有しているのか、すなわち課税管轄の判断を行う上で重要な問題であり、単なる国内に居住、住所を有するか否か、たった二文字ではあるものの重要な概念であり、従来よりその具体的な判断を行う基準(要素)が如何なるものであるのかという点が租税法規の解釈から特に、住所や居住の概念から導かれるものであり、この具体的な解釈意義に左右されるものであって、議論が行われているものである。本件はその類型に属するものであり、所得税法における、また国際租税における具体的な所得源泉の帰属を判断する、決定する上で重要な事例と考えられる。

特に本件は、中国における国籍を有する者が、わが国に於いて如何なる居住状況にあるのかという点が具体的な事実関係として問題となっており、従来の居住判定は中心として欧米が中心となったものであり、近年の経済環境を鑑みれば、かかる点においても参考となるものと考えられよう。

但し私見ではあるが、通常のわが国の取引において、特に実務家が直面する取引において、取引当事者が国外に居住しているのか否かという点を問題とする局面は如何なる状況であろうか。具体的に専門家はともかくも、一般的な企業において、相手先が国外であるのか否かという点を問題視することは、国外との貿易取引等を除き、実際には必要とされる局面は限定的であると考えるほうが妥当であろう。しかしながら、近年は、ネット取引や通貨決済環境が変化(仮想通貨等)し、国外者との取引の可能性は従来と比して発生する可能性は格段に高まっているのではないだろうか(この点は実務家に聞いてみたいところ)。このような国外との取引を意識する貿易や国境をまたぐ移動等のサービスとは異なる一般的な取引においてもなお、相手先が国内に居住しているのか否かという点を明示的に把握することは困難ではないだろうか。少なくとも国際的な取引が明らかであるような場合とは異なり、通常の一般的な取引当事者が相手先が国内での居住をしており、実態を有した居住者であるのか否かという点を把握、判断することが実務としても実際的であるのか現状に合致しているのかという点は疑問を抱かざるを得ない。

かかるような取引において、徴収を確実に実行し、国内に源泉のある取引に基づく所得を適正に課税するための本制度ではあるものの、国内に居住する取引当事者に対して源泉徴収義務を課すことが、すなわち国内に居住する者に負担を負わせることがfairな状況であるのかという点は疑問を覚える。かかる点は立法的な課題ではあるが、かかる点は疑問として近年の状況に鑑み、かつての国外者との取引が、限定的であり、一部のものに限られていた時代とは異なる環境であることを考慮するならば(経済取引環境が変化していることを考慮するならば)、当該状況を、時代背景を考慮した制度設計があるべきものではないだろうか。少なくとも租税負担の適正な配分、徴収の実効性を図る本制度の合理性は現況においても変わらないものと考えられるが、宥恕規定の見直しなど、制度背景にあるべき状況を反映した制度の見直しや負担の考慮を行うべき状況にあるものと考えられる。

このように本件では、所得税法における居住・非居住の具体的な判断が争点となっているが、本件の中心的な問題はかかるような具体的な判断による、租税負担を決定する所得の帰属先を決定することが必要であるということが背景にある。この決定は、従来より問題となっているが、所得税法は以下のように、定義規定において、所得の源泉を決定する居住者を定めている。具体的には、国内への住所若しくは継続的な居所の存在(保有)が定義規定となっている。従来、この具体的な認定としては住所の存在が問題となっており、如何なるものが住所として解されるのかという点が課題として捉えられている。

 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。

本件判断でも、以下のように、最判を引用し、住所認定を行っている。

生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり(最高裁昭和35年3月22日第三小法廷判決・民集14巻4号551頁参照)、一定の場所がその者の住所であると認定するについては、その者の住所とする意思だけでは足りず、客観的に生活の本拠たる実体を具備していることを必要とするものと解すべきである(最高裁昭和32年9月13日第二小法廷判決・集民27号801頁、同平成23年2月18日同小法廷判決・集民236号71頁参照)。

各人の住所の認定は、その者の国内外での①滞在日数、②生活場所及び同所での生活状況、③職業及び業務の内容及び従事状況、④生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、⑤資産の所在、⑥生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案して行うのが相当である。

上記のように、所得税法における住所概念が、生活の本拠であることは近年、判例学説ともに確定しており、この具体的な認定が、継続的な居所の保有も含め本件事実関係のもとで、あらゆる所得を帰属する居住の事実を有する、居住者に該当するのか否かという点が、本件の意義であり、従来議論されている住所概念の延長にあるものと捉えられよう。但し、本件は通常の所得源泉、課税管轄を巡るものとは異なり、課税庁が非居住者であることを主張立証している事例であり、通常の事例とは異なる(課税管轄の存在、住所の所在)ものであり、かかる点で、居住者非居住者の具体的な判定を行う上で、実務的にも参考になるものといえる(租税条約における概念、規定との調整も含め)。

特に具体的な事実の認定においては総合的な各種要素(住居、住民票、職業、親族、資産の所在等)を判断材料としている。形式的な書類情報のみならず、客観的な事実関係を基礎に判断を行い、事実関係の認定を行っており、この点も客観的な状況を重視する租税法規における要請を参照しており、恣意の介在する余地を回避しようとしているものと考えられる。実務においては、決定的な要素が存在しないことに予測可能性や法的な安定を欠くものであるとして批判することは可能であろうが、上記も含めわが国の現行法において総合的な判断を採用していることは動かし難く、かかる点で、各判断要素の具体的な対応は重要となるものであろう。特に本件では判断要素としての適格性や他の要素と比しての優劣が主張立証されているが、もちろん個々の要素において如何なる理由をもって判断認定要素として他の要素と比して劣位に置かれるのかという点で合理的な、法令解釈に起因する根拠に欠けている部分も見受けられるが、具体的な事実との関係において認定する要素の中身を検討する上では重要と考えられる。

また、本件では居所との関係についても判断されており、

所得税法第2条第1項第3号でいう居所とは、人が多少の期間継続して居住はしているが、その者の生活の本拠という程度には至らない場所をいうものと解される。

定義にいうところの居所として、上記のような解釈を示している。本件では居住していないとごく簡単に認定を行っている。この点は上記の住所概念、生活の本拠との差異、差別化という点で、疑問を覚える。多少の期間継続とは如何なるものであり、法令では一年以上としているが継続とは、断続的であることを許容するのか等、また、居所としての場所の存在のみが問題であり、実際の居所としての事実関係の存在(居住の実態)が問題視されないのか(ホテル等への一時的な宿泊施設への継続的な居住との差異等、法令解釈として如何なるものが居所であり、生活の本拠という程度には至らないという点も曖昧である。特に場所的な概念としてのみ捉えるならば、ホテル等への継続的な滞在との差異を対比して、如何に所得を帰属させるべきであるのかという点は問題となるのではないだろうか。私見としては租税回避を考慮して単に居住可能な状況にあるような場所的な概念のみとは捉えず、具体的な所得の帰属先として合理的な一定の生活上の実態の存在も含む概念であると考えられるが、この点を突き詰めると生活の本拠との対比や如何なるものを帰属理由として捉えるのかという点が問題であり(モデル租税条約や国際的な所得帰属先の認定とのバランスも含め)、居所という概念も一義的に定まる概念とは捉え難く今後の課題ではないだろうか。

第十四条  国内に居住することとなつた個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定する。
 その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
 その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足りる事実があること。
 前項の規定により国内に住所を有する者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国内に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有する者と推定する。

加えて、本件では上記のように、所得税法施行令に定める推定規定の適用に関しても問題となっている。最終的には判断においても当該規定の適用はそもそも対象とする趣旨が異なるものであり、本件のような事実関係においては適用の対象となる範囲ではないと判断している。中心的な争点は上記のように居所の認定や住所認定であるものの、この規定の解釈という点では、その適用対象を限定的に解釈した事例として、興味深いものである。私見としては上記のような推定規定の適用を制限する趣旨が本件規定に含まれているものと解することは困難であるようにも捉えられると考えられるが、この制度背景等をより具体的に検討する必要があるものといえる。また本件では詳細な検討を行っていないものの、上記規定は、住所推定において職業との関連において、通常必要という概念を用いて関連付けを行っている。特に検討なく、本件では、当該取引当事者が国内において通常継続的な居住を要しないものと捉えているがこれが如何なる根拠であり、そもそも上記規定における通常必要な職業とは如何なるものと解されるのかという点は定かとはいえず、上記本件規定の趣旨も含め、今後の課題となる。少なくとも所得を帰属させる住所概念との関連において推定規定として如何なるものを通常必要な職業と解するべきであるのかという点は、職業を所得の源泉と捉えるものであり、職業に起因する所得帰属を対象としているものと考えられるが、所得に応じて住所認定を本規定が想定する規定ぶりとはなっておらず、この点においても本規定の解釈がより検討すべきものといえよう。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。