2017年7月19日水曜日

判例裁決紹介(ポイント交換における金員の受領と消費税の課税対象、対価概念、平成28年5月27日裁決)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年5月27日裁決でポイント交換に伴う金員の受領が消費税の課税対象として、課税資産の譲渡等に該当するか否かが争われた事案です。

具体的には、法人間で協同で契約により企業のポイント交換サービスを営み、その事務局機能を担う法人が請求人となった事案で、この加盟企業法人から受領するポイントの精算、預け等を行う、金員の受領を課税資産の譲渡等に該当するとして確定申告を行い、当該金員が、消費税の課税対象として、単なる各企業のポイント精算に活用する預り金であって消費税法2条8号に定める資産の譲渡等に該当し、事業として対価を得て行われる役務の提供に該当するものではないとして更正の請求がなしたところ、その対象ではないとして通知処分が行われたことからその取消を求めた事案である。判断としては課税庁の主張を認め、かかる金員の受領が消費税法にいう対価に該当する旨判断して、請求人の主張した課税資産の譲渡等に該当しない旨の主張は退けられている。

本件は下記のように、消費税法の課税要件である課税資産の譲渡等が如何なるものであるのかという点が争点になったものであり、非常に消費税法の基礎となる部分で争いが行われている。共同でポイント交換のサービスを営むもので場合において加盟法人からポイント交換に伴う事務局機能として精算等を行う法人が加盟法人から当該法人が受け取る金員が消費税の課税対象として認定されうるものであるのか否かという点が具体的に争いがあるものであり、事案としては本件のようなポイント交換に伴う金員の受領は限定的であるものの、判断においては消費税法の基本的な性格から課税資産の譲渡等、より具体的には対価の概念が争われており、近年のとみに重要性がます(おそらく今後その重要性は下がることはないであろう)消費税の基礎となる課税標準の該当性が問題となったものであり、かかる判断過程は、他の課税標準を認定する上でも参考となるべき判断であろう。特に実務においては、その具体的な費用の意図等が複合的なもの(交際費や寄附金など)は想定されうるところであり、原告が主張するように預り金的な性格を有するこのような費用に対して消費税法上、如何に取扱うべきであるのかという点は問題視されるべきものである。

本件契約によれば、ポイントは各店での利用によって付与され、後日決済に利用可能なものであり、毎月利用額と付与額との差額を清算金として請求人に対して支払う契約となっている。契約当事者の認識としてはポイント精算に伴う預り金であり、消費税法の課税対象となる付加価値や消費が存在していないという認識であることが本件の起因となっているものと考えられるが、事案としては特殊な取引類型に該当することは否定し得ないが、かかるような取引においてもその対価、課税資産の譲渡等に該当するのか否かという点で対価概念や役務提供の意義がその問題になっているものであるもの捉えられる。このような金員を預入、直接的に金銭を支払うことなく何らかの受益を、役務提供等を行うことは、想定されるところでもあり、何をもって役務の提供と捉え、対価と認定することが可能であるのかという点を理解する上で重要と考えられよう。特に対価概念は如何なるものであるのかという点は判決学説等においても見解が別れており、本件もその概念をより検討する上で参考となるものといえよう。


第四条  国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。

 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。

まず、消費税法は上記のように、4条及び定義規定である2条8号において、消費税の課税標準として、資産の譲渡等を定めており、その具体的な意義として事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付、並びに役務の提供をいうものとして定めている。本件はかかる金員が対価に該当するのか否か、また請求人の行為が事業として行われる役務の提供に該当するのか否かという点が具体的に争われているものである。私見としては、このように分断して判断されるべきものではなく、下記のように、すなわち対価を得て行われる通達においてもその反対給付を受けることを指すものとして対価を解釈しているように、消費税法上の資産の譲渡や役務の提供に該当する行為の存在をもって、当該行為に関する反対給付として行われているものの存在を課税対象として捉えているものと考えられる。しかるに通常、対価とは、法的な契約関係などに代表される、資産の譲渡や役務の提供との行為において、債権債務関係等が発生し、かかる点に基づく直接的な対価関係をいうものを指すと解釈することが一般的な用法である。しかしながら、上記のように反対給付として、直接的な対価関係の存在に必ずしも限定していないものと解釈している。このように消費税法において、固有の概念として、対価を認定することが妥当であるのか、納税者に取って予測可能性に欠けるものではないのかという点が問題となるだろう。

この解釈の妥当性に関しては、その具体的な根拠として、判断は、以下のように、消費税の基本的な性格、広く薄く課税対象を設定し、最終的に消費者への転嫁を予定していることをもって、経済的な利益が収受されたといいうる程度で足りると判断している。
「消費税は、国内における消費全般に税負担を求めるため、広く薄く課税対象を設定し、最終的に消費者への転嫁が予定されている租税である。かかる消費税の性格に鑑みると、事業者が収受する経済的利益が消費税の課税要件としての資産の譲渡等における「対価」に該当するといえるためには、事業者が収受する経済的利益と事業者が行った当該個別具体的な資産の譲渡等との間に対応関係があること、換言すると、当該個別具体的な資産の譲渡等があることを条件として、当該経済的利益が収受されたといい得る対応関係があることが必要ではあるが、それ以上の要件は要求されていないものと解するのが相当である。」

確かに消費税法の基本的性格からその対象範囲を広くとることは制度上予定されているとみるべきであり、かかる点において、消費税の基本的な対象が広く解釈されるべきことは合理的であるものと考えられよう。しかしながら、かかる点を考慮したとしても上記のように、通常の文言をの意義と異なり、対価による制限を限定的に捉える解釈を合理的であると評価する根拠に乏しいのではないだろうか。少なくとも対価概念の解釈を限定的とするべき論理的な根拠に欠けるものとも考えられよう。上記のように消費税法の課税対象を決定する重要な概念である対価を得て行う課税資産の譲渡等において安定性に欠けるような状況にあることは、その消費税法の基本的な性格との間で比較衡量して、問題と考えるべきであり、より限定的な対価概念の法定を図るべきものともいえるのではないだろうか、立法論となるべきものでもあるが。

そもそも上記のような対価に対する理解は、対応という概念において、如何なるものを対象としているのかという点がそもそも定かではなく、租税法規としては異なるが、所得税法における必要経費の該当姓、直接的な・間接的な対応関係が問題となった事例もあり、この対応という概念によって、消費税法の対象を律することは適格性を有するものであるのであろうか。

しかしながら、私見としては、現行法を前提として考えるに、対価の概念を消費税法の固有概念として捉えることは必ずしも否定されるべきものではなく、消費税法の基本的な性格、要請に合致する用解釈することは必要となりうるものと理解すべきではある。原則的には法的な債権債務関係の存在による対価を要請するべきものともいえるが、そもそも多様な業務が想定され、かかる点を網羅的に、律するためにも、また消費税法が事業上の判断に影響を与えることがないよう、無償ではない取引を排除する趣旨をもつものとして理解して、対価概念を無償ではなく有償なものを指すものとして解するべきであろう。いずれにしても、この対価は、消費税法が対象とする取引(本件の場合は役務提供)に依存した概念であり、かかる取引が広く捉えられる点を受け、無償ではなく、何らかの反対給付があれば消費税法の対象となるべきものとして理解することになるのであろう。この役務提供等が如何なるものであるのかという点が一義的には問題となり、その具体的な認定をうけ、かかる対象取引が、無償あるか否かという点が消費税法の対象を規律するものとして理解されるべきではないであろうか。対価が反対給付である以上、そして付加価値・消費を対象としており、何らかの反対給付があれば消費税法はその基本的な性格として課税対象として捉えるべきであることから、具体的な対象となる取引が、本来、資産の譲渡や役務の提供に該当するのか否かという判断に委ねられ、かかる具体的な認定判断からその有償性が判断されるものであれば課税対象として判断すべきであるものと考えられる。

また、別件であるが、この対価という概念は、金額的な考慮を含む概念であり、適正な金額での取引を要請するものであり、(低額譲渡等)を排除して適切な消費税法の課税対象を律するものとしても機能しうるのかという点も課題であろう。法人税法等と異なり、消費税法には推計課税の規定は存在していない。消費税法は相互牽制機能を有するものであり、適正な金額や金額の合理的な認定が困難であるような状況が想定し得ないのかもしれないが(かかる点で、適格請求書等保存が設定された場合においては検討の重要性は下がるのかもしれないが)、しかしながら、帳簿記帳を原則としている現行法においては、その記録の不備が問題となる状況は発生し、事実上、推計課税の規定がないものの、法人税法等と同様に記録等の不備がある場合においては法人税法等の推計に依拠して消費税法の課税対象となる資産の譲渡等を認定して課税されている。事実上この根拠規定として、対価の概念が機能しうるのかという点も検討してみても良いかもしれない。

(対価を得て行われるの意義)

5-1-2 法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」とは、資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対して反対給付を受けることをいうから、無償による資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は、資産の譲渡等に該当しないことに留意する。(平27課消1-17により改正)

このように考えると、消費税法における役務の提供とは如何なるものであると解されるのかという点が重要な点となる。法において、その具体的な規定は存在していないものの、消費税法の基本的な性格に基づき、その範囲が非常に広範囲に解されることは合理的であるが、以下のように、通達において取り扱っている。

(役務の提供の意義)

5-5-1 法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「役務の提供」とは、例えば、土木工事、修繕、運送、保管、印刷、広告、仲介、興行、宿泊、飲食、技術援助、情報の提供、便益、出演、著述その他のサービスを提供することをいい、弁護士、公認会計士、税理士、作家、スポーツ選手、映画監督、棋士等によるその専門的知識、技能等に基づく役務の提供もこれに含まれる。
消費税法基本通達5-5-1は、消費税法第2条第1項第8号に規定する「役務の提供」とは、例えば、土木工事、修繕、運送、保管、印刷広告、仲介、興行、宿泊、飲食、技術援助、情報の提供、便益、出演著述その他のサービスを提供することをいう旨定め、「役務の提供」が、他人に対する労務、便益、サービスの提供と捉えられるものの一切を含む概念であることを明らかにしているところ、かかる解釈は、上記(イ)でみた消費税の性格に沿うものであるから、当審判所においても相当と認める。

この通達に対して本件判断は、上記のように他人に対して労務等を提供と捉えられるもの一切を含む概念であるとして理解していると認識している。結論として、非常に幅広い概念であることは異論はないが、この合理的な根拠を消費税法の基本的な性格に求める以上、より広範囲のものである旨は明示的に解釈通達においても明記するべきではないだろうか。また、その具体的判断として労務等の提供という概念であってよいのかという点もより具体的には検討課題とはなるだろう。


以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

0 件のコメント:

コメントを投稿