具体的には、相続人である原告らが平成3年の被相続人の死亡による相続税確定申告において一人あたり約4億7000万円の納税を求められたことに対して、借地としている土地の物納を申し出ていたところ、その主たる事務を担っていた原告一名が物納許可申請にかかる添付書類、特に登記上の書類、境界確定、土地の評価に関わる面積等を記載した書類の提出を怠り(自宅周辺に関しては難色を示し、借地人との人間関係のもつれから等)、度重なる督促や、課税庁職員の立会い、訪問調査等にも答えず、約18年が経過した平成22年になって、当該物納許可申請を却下(財産差押)したところ、最終的に延滞税47億も含め総額で66億円を超過する課税負担を行うこととなったため、相続税における物納許可に対する違憲性等を主張して出訴したものが本件であり、原告の主張はいずれも棄却されている。
本件は、約18年もの長期間に渡る事実関係が問題となった相続税関係の納税に係る事案であり、延滞税が47億円を超過するなど、租税負担に関する金額的にも非常に珍しい事案である。その主たる争点は、物納制度の許可に関わる要件等であり、その前提として相続税法が金銭納付を原則としており、物納を例外的に取り扱っていることが起点となっているものである。18年間に及び事実関係から、本件の訴因、争点は多岐にわたるものであるが、特にかかる点において納税者が違憲である旨主張しておるその判断が行われたものである。原告が主張する相続税納税に関する主張は、いずれも非合理であるが(個人的には弁護士がついていながらなぜこの種の主張がなされたのか理解できない)、本件の最終的な要因は種立つ窓口をになっていた原告の一人の怠慢や書類提出の不備、関係者(原告、借地人等)不協力、が原因となったものであり、かかるような状況が本件の相続税申告に種々のリスクを如実に表しており、結果として非常に多額の延滞税負担(相続分を超過する)を行うことになったものであるといえよう。かかる点で、本件はその、長期間渡る事実関係、金額等の点で非常にレアな事例であり、先例的な事案とはなりえないかもしれないが、租税に関する専門家としてこのような問題の発生はリスクとして充分に認識されるべきものと考えられる。この点で相続税申告における留意点に対して参考となるものと評価されるべきものであろう。
また、本件は徴収関係の事案であり、金額も含めレアなケースであると評価せざるを得ない。しかるに本件が先例となりうるのかという点では上記のように、確認の判断に委ねる他ないが、相続税制度の基本的な考え方から、租税制度一般における物納制度を理解する上で、重要な事案ともいえる。多年が経過しており、物納制度においても平成18年の改正によって、却下等の判断を行う期限制限が設けられたことからも、事案としての特殊性は否めないが、基本的な物納制度の趣旨は変化しておらず、かかる点で本件はその意義を有しているものと捉えられる。具体的には、物納制度の対象となる財産に対して却下する「管理または処分するために不適当」という基準が設けられているが、実務的にはマイナーな論点であろうが、近年の相続税負担の増加により、譲渡所得税がかからないなどのメリットから、物納を希望する納税者は増加しているものと考えられ、この点においては多少とも参考となるものといえよう。
具体的に、本件は上記のように、相続税確定申告における物納許可申請が却下されたことを発端としているものであって、当該許可申請が不適格であるのか否かという点が最大の争点となっているものである。すなわち下記相続税法41条に定める物納の要件及び42条の手続を充足しているのかという点が問題となっているものと捉えられ、この条文の法令解釈及び事実関係への当てはめが課題となっているものと理解される。下記条文に於いては、従来より、納付を困難とする金額制限が如何なるものであるのか、適格な物納財産が如何なるものであるのか等、法令解釈上の問題は存在していたが、本件は、そもそも、物納制度において、全額納付を認めていないことを違憲として主張している。
物納の要件)
物納手続)
第四二条 前条第一項の規定による物納の許可を申請しようとする者は、その物納を求めようとする相続税の納期限までに、又は納付すべき日に、金銭で納付することを困難とする金額及びその困難とする事由、物納を求めようとする税額、物納に充てようとする財産の種類及び価額その他の財務省令で定める事項を記載した申請書に物納の手続に必要な書類として財務省令で定めるもの(以下この章において「物納手続関係書類」という。)を添付し、これを納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
この物納制度の趣旨に関しては、判示においても、
相続税の納付の方法として、特に物納の制度を設けたのは、相続税は、相続によって取得した財産の価額自体を課税標準として課税されるものであるところ、相続税については、課税価格計算の基礎となった財産の大部分が不動産、出資など換価することが困難なものであり、預貯金、現金等が僅少である場合などのように、金銭によって多額の相続税を一時に納付することが困難となる事態が生じ得る一方、金銭以外の財産によて相続税の納付を受けることにより、当該財産の管理又は処分を通じて金銭による納付があったときと同等の経済的利益を将来現実に確保することができるのであれば、国家の経費に充てるための資金の調達という目的は達成され得るものと考えられることから、一定の要件の下、例外的に、金銭による納付に代えて不動産等による納付を認めることとしたものである
として、租税の基本的な性格から、相続税の納付においても原則的に、金銭納付が原則であり、相続税の課税対象が財産であり、例外的に金銭以外の納付によっても得られる経済的利益が将来現実に確保できるものであれば、認められるとしたものとして一定の制度的合理性を認定している。行政の費用支弁を目的とする以上、金銭的な納付を原則とすることは合理的であり、換価等が必要となる財産による納付は、具体的な収入額が不確定であることからも、かかる物納を安易に認めることは、租税負担の公平性や、確実性に欠けるものとなる。但し、相続税法が物納を例外的に一部であっても許可しており、しかも、税務署長にできる規定として裁量を与えていることは、その条件として適格な物納対象財産として管理または処分において不適当の場合を除いており、相続税法の課税対象が財産の取得であることを考慮しつつも、上記立法目的、租税の基本的な性格から、比較考量されたものであり、一時的な納税者の流動性不足に対する配慮から設けられてものであるだろう。かかる点から考えて、管理支配が不適当とは、金銭による納付と比較して、同等の経済的利益が確保されることがその基準として理解されるべきであり、その立証に係る手続きの充足は、書面の添付等による実効性を表現することが求められる捉えるべきである。かかる点で書類添付要件を理解するべきであり、例外的な物納許可において、一定の救済を図るものである以上、その要件の充足は厳格に解釈されるべきであり、単に形式的な書類の添付のみならず、その必要と認められる範囲において、適格な書類を添付することまでも要請しているものと考えられる。この点は、不動産の納付一般にいえることであり、国有財産としての適格な管理運営を行うためにも、金銭納付とほぼ同等の経済的価値の実現が図られるべきであるのか否かを明らかにする必要性は高く、租税の申告にかかる書類の準備等を担うものとしてはその点を留意しておくべきであり、納税者に対する説明も必要となるだろう。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。
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