2017年7月19日水曜日

判例裁決紹介(法人社員である税理士の開業準備行為と所属する税理士法人への損害賠償義務、東京地判平成26年4月9日)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成26年4月9日で、若干趣をかえて、税理士法人からの独立に伴う開業準備行為とそれに伴う損害賠償責任が争われた事案です。

具体的には、原告税理士法人が、当該法人の社員であった被告税理士の独立によって、社員から脱退した際に、開業準備行為を超えるような、顧問先への信用失墜働きかけを被ったとして、顧問先の離脱に伴う、逸失利益(約2億円)等を損害賠償として求めたものである。租税法の事案ではなく、民事法の不法行為に基づく損害賠償責任が争われたものであるが、補助税理士、勤務税理士の独立会場とは異なり、法人の社員である、税理士が脱退する際における、法的責任、特に、社員として負う、任務懈怠、忠実競業避止義務等の責任が争われたものとして特徴的なものである。

判示としては、原告の請求を一切認めず、逆に反訴によって、被告が求めた報酬の無断減額(独立開業を告げた後の一方的な報酬の減額の補填や、法人への出資金の返還が認められた事案であある。

本件は専門家集団である、税理士法人の社員の独立とその運営に関わる多様な論点を含むものであるが(出資における営業権の紛争発生等)、主たる争点は、やはり税理士法人の社員であった被告税理士が独立に際して、顧問先への案内・勧誘、通常は独立に伴って、担当していた顧問先への案内・勧誘等の営業行為を行っており、法人社員としての善管注意義務、競業避止義務、任務懈怠に伴う、不法行為の成立が主たる争点となっているものである。独立予定者が帳簿や決算データの利用等を行うことは、当該法人の情報を活用して自己の利益を図る行為であり、不正競争防止法の対象となって損害賠償義務が発生することになるが、本件はかかる点からの検討は行わず、単に、上記責任の発生を、独立の結果である、法人顧客の引き抜き、勧誘、実際の移転に求めていることで原告の主張が構成されているものであり、あくまでも法人社員としての責任を問うものであり、補助、勤務税理士としての、いわば雇用者としての責任が問われたものではなく、不法行為の背景となる法的責任の相違が存在していることには留意が必要である。

しかしながら近年は補助税理士として勤務に関する制度改正など、従来とはその背景となる勤務状況、業務内容が変化しつつあり、かかる点で業務法人の経営者(代表者)、勤務者双方にとって、理解しておくべき法的責任の発生と事実関係の認定に関する事案として捉えられるべきものである。特に開業準備行為との関連が大きな争点となっており、かかる点で問題となるだろう。

個々の被告の行為における事実認定に関しては、多様な点が対象となっている。具体的には、顧客の勧誘の有無、従業員の引き抜き、顧客への説明、顧問契約破棄通知への関与、引継ぎの不備、データコピー等の事実に対して争いがある。最終的には、かかる点を総合判断して、被告行為が法人社員として不当、不法行為の成立に至るような状況にあったのかという点が判断されているものである。上記のように結果としては、原告の主張は一切認められず、被告が準備にあたって、弁護士に相談して慎重に作業を行っていたこともあり、不法行為による損害賠償義務がの成立を退けているものである。周到な準備等被告のリスクマネジメントが強調され得ようが、また、原告の主張が稚拙であり、ほぼ、単なる結果(顧客の移動)に伴う責任の所在を求めるものでった、必ずしも上記のような状況にあっても不法行為の成立が成り立ち得ないものと考えられるものではないが、、かかる点で個別事例である点は否めないものの、事実関係、特に会場の準備行為に関する責任の認定に関しては、上記のような種々の事情を考慮しており、かかる点は参考となりうるものといえよう。

また、改めて強調されるべきは、勤務税理士と同様に、社員であっても、高度な専門職業人として独立開業することは、基本的に憲法が定める営業の自由の点で保証されうるものと考えられる点であろう。本件のように、独立開業の事案においては、営業の自由と競業避止義務との間でその比較衡量が行われることが多いものと考えられる。憲法上の要請である営業の自由は非常に強固であり、かかる点で、勧誘などの行為が開業準備行為として行われていることがない限り(本件でも事実上、開業後、独立開業の案内を旧顧客に送っておりこの勧誘行為の有無が中心となっている)、不正競争の防止の観点等から不法行為の成立を認める可能性は、非常に困難であるともいえる。この点は社員であっても競業避止義務の強い要請があるとしても、最高裁判例で認められているものであり、かかる点は改めて認識されるべきものであるといえよう。

以上です。
毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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