2017年7月7日金曜日

判例裁決紹介(東京地判平成27年6月18日、共有建物の必要経費按分)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成27年6月18日で、共有建物の必要経費に関して、その按分による経費算入の可否が争われたものです。

具体的には、不動産賃貸業を営む原告と、原告が創業した医療法人で原告長男が代表を務める法人(専門学校を運営)が共有する建物及びその敷地に関して、発生した減価償却費、借入金利子、租税公課等の費用を持分に応じて負担していた原告が、当該費用を不動産賃貸業所得の必要経費であるとして確定申告をなしたところ、当該不動産賃貸は、基本的に一時的な貸室(大学等への入試、教室貸出し等)であり、具体的な利用状況に応じて当該利用以外の状況にかかる費用の必要経費該当性を否認した更正処分を受けたため、少なくとも当該建物の50%は、不動産賃貸業務に利用しているとしてその取消を求めたものである。判示としては、当該不動産賃借は、教室の貸出しであり、一時的な利用が中心であって、常時、貸出しの用に供しているものではないとして、具体的な日々の利用状況に基づき費用按分を行うこととした事案である。なお、共有している法人が専門学校として運用している、教室は、共有の持分割合(原告が3/4保有している)を超過して運用しており、事実上約50%を利用していたが、当該利用に関する金銭の収受は原告と法人の間では行われておらず(使用貸借)、原告の主張はその残りの50%を賃貸のように供しているとの主張である。

本件は、原告が子が代表者を務める法人と共有する建物及びその敷地につき、発生した費用の不動産所得における必要経費が如何なる部分であるのかという点が主要な争点となっており、より具体的には、常時賃貸に利用している不動産とは異なり、本件の用に一時的に不動産の貸付として利用しているような状況において、当該賃貸用の不動産にかかる費用における如何なる部分が経費として認定されるべきものであるのかという点が問題になったものである。法令解釈上、必要経費においては種々の議論、法令解釈、要件が唱えられているところではあるが、本件もその系統に属するものであり、主として、下記のように、所得との関連において直接的であるのか否か、すなわち直接性が問題になったものであるように捉えられる。特に不動産の賃貸おいて、無償で使用している使用貸借の部分や一時的な利用が混在している点が本件の問題の起因となっているものと理解される。

すなわち、特に、原告が主張するように、
不動産賃貸業においては、現実に賃貸の用に供した期間だけの経費が必要経費となるのではなく、客観的に不動産賃貸の用に供している不動産である限り、空き部屋として維持する期間の経費も、当然、必要経費とされる。

として、当該一時的な利用に伴う費用が必要経費になりうるのかという点が興味深い点であり、不動産利用の状況に関する事実認定の問題であるように理解されるが、その背景として如何なるものが必要経費であると捉えられるべきであるのか、つまり、以下のように所得税法37条が定める必要経費の要件が如何なるものであると解するのか、直接性を有するものと理解するべきものであるのかという点が主たる争点となっているものである。

本件におけるこの直接性を有するべきものであるのかという点は、弁護士会における会務費用の必要経費性が問題になった事案と同様に、直接性を有するべきものであるのかという点が問題になったものとして理解される。。基本的に従前とその解釈において異なるものではなく、費用を利用状況に応じて按分するという処理は実務上支配的な方法であることは、異論のないところであるが、このような共有物、利用状況が混在している場合において如何なる部分が必要経費として合理的であるのかという点を認定する上で実務上も参考となるものであるといえよう。特に不動産においては、常時賃貸のように供されているもの以外にも空き家や、一時利用などの状況の混在が想定されうるところであり、このような状況が混在している場合において如何なる部分が必要経費となりうるのかという点は重要な問題であるだろう。

第三七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

この条文の解釈として判示では、必要経費において、以下のように解釈している。
不動産所得の総収入金額から控除し得る必要経費といえるためには、それが事業活動と直接の関連を持ち、事業の遂行上必要な費用であることを要すると解される。

私見としては、本件の直接的な争点とは異なるものであるのかもしれないが条文を文言通りに読む限りにおいて、費用において、直接性を有するものであるのか否かという点は、下記の条文にあるように、売上原価その他と、販売費等と峻別した上で、判断されるべきものであると捉えられる。売上原価との対比において所得の総収入金額との間で因果関係が直接的である場合においては、特段の問題を生じないものであるが、この因果関係が明示的ではない費用すなわち販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用において、如何なる場合をもって、必要経費として認定されうるのかという判断の枠組みが問題になるものと理解される

具体的には、所得を生ずべき業務について生じた費用として該当するのか否かという点が問題になるものといえる。すなわち問題となる費用が所得を生ずべき業務について発生したものであるのか否かという、業務と所得の関係性が問題になると理解すべきであろう。これらに関しては、直接という文言はそもそも、使用されておらず(そもそも直接的な因果関係が認定し得ない費用である以上当然ではあるが)、下記のように本件の解釈において、必要経費の解釈としてひとまとめに直接の関連を有するものと明示的に示す解釈には違和感がある。

そもそも経費と所得において、その必要経費としての認定において、必要性と因果関係が明示的に分断できるものではなく、換言すれば必要性に(直接的な)関連性が含有されているものと解することも可能であり、何をもって関連していると理解するのかという点も問題であり、また、必要性もその具体的な認定は非常に困難であるともいえる。加えて販売費及び一般管理費が如何なるものであるかという定義規定は存在せず、所得に対する業務(この文言において事業等ではなく、業務としている点も具体的な課題である)多様なものが想定され、単に直接として関連性をもつものとして規定することは法令解釈として法文の規定を超過して制限をかけるものであるともいえる。

確かに、所得税が自然人を対象としており、法人とは異なり、業務活動以外にも、家事的な一般的消費活動を営むことは否めない。これら費用まで必要経費として所得の算定上、控除項目としてしまうことは適切な租税負担を把握する上で、否認されるべきであり、ここに、必要経費の認定の重要性、経費の範囲を具体的に確定する要請が発生するものであるのであるが、
一義的に必要性等の認定は、業務を実際に行った納税者において、理解されるものであり、多様な業務が想定されることからも所得税法において明文の規定をもって対応することは困難であり、過度の規定や法令解釈による制限は、租税による中立性の確保が図られず、事業者の経営判断を歪めるものであって、租税が経営判断に具体的に関与することになりかねない。販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用が必ずしも明確とならないことがその問題の起因であるが、所得との間において、直接的な因果関係をゆしない費用を如何にして所得の計算上把握するのかという基本的な問題ともいえる。家事費家事関連費との関連において、具体的な事実関係の積み重ねによる他ないのかもしれないが、予測可能性に反する状況が発生することは租税法の基本的な要請に反するものともいえる。

従って、その具体的な判定において文言上、販売費等は実際の所得の発生は必ずしも要請しておらず、所得を生ずべき業務費用と規定する文理からも、問題となる費用が発生した業務が如何なるものであるのか、これを所得の把握という点において適格であるのか否かという点で判断されるべきものと考えられる。私見としては、必要性もまた、主観的な要素を含有するものであることからも、当該業務に関連した費用が所得との間において適格であるのかという点は、個別に判断される他なく、その場合において、費用支出意図において所得稼得以外の目的が存在しないことが客観的に認定しうるのか否かという点が問題になるものと考えられる。法文上、売上原価等が所得との間において直接的であり、かつ客観的にその必要性を有するものであると捉えるならば、同様に直接的な対応、関連性を有していない費用においても客観的に所得との何らかの関連付けが必要であり、上記のように所得税の基本的な対象から考えて、その支出の意図、すなわち支出対象の業務において、所得稼得以外の目的が存在するか否かという点が具体的なメルクマールとなるべきであると考えられる。かかる判断基準が、法として、多様な業務への対応と、適格な所得の把握(消費支出との峻別)を衡量した本規定の趣旨に合致するものであるといえるのではないだろうか。

本件は、最終的に、課税庁が行った個別の不動産の利用状況に応じて、使用貸借部分(このようなものは明らかに営利目的はなく、何らかの事業以外の目的を有するものと考えられる)と一時的な利用における費用の按分を行っており、準備段階や未利用時における費用も考慮しつつも具体的に所得との関連からより具体的に按分を行っている。判断過程として直接的であることを求めたものであるが、このように直接的な関係性を求めるものであれば、より一般的に考えて不動産の一時的な利用による所得において、準備段階や具体的に利用されていない時期における費用の控除が困難となりうるものであり、これは一般的な所得の把握という点で、疑義が生じる可能性もありうる。結論として私見としても具体的な利用状況による按分は必要であるように考えられる画素の背景となる判断基準がより検討課題として理解されるべきものといえる。


以上です。かなり私見が多くなっていますが、毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

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