具体的には、事業を営む請求人が消費税の確定申告をしたところ、
納税の猶予の関しては、基本的に手続法上の問題であり、
2 税務署長等は、次の各号のいずれかに該当する事実がある場合( 前項の規定の適用を受ける場合を除く。)において、 その該当する事実に基づき、 納税者がその国税を一時に納付することができないと認められると きは、 その納付することができないと認められる金額を限度として、 納税者の申請に基づき、一年以内の期間を限り、 その納税を猶予することができる。 前項の規定による納税の猶予をした場合において、 同項の災害を受けたことにより、 その猶予期間内に猶予をした金額を納付することができないと認め るときも、また同様とする。
一 納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、 火災その他の災害を受け、又は盗難にかかつたこと。
二 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、 又は負傷したこと。
三 納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと。
四 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと。
五 前各号のいずれかに該当する事実に類する事実があつたこと。
通則法第46条第2項に基づく納税の猶予は、
その他の事実)
12 この条第2項第5号の「 前各号のいずれかに該当する事実に類する事実」とは、 おおむね次に掲げる事実をいう。
(1) 第1号又は第2号に類するもの
イ 詐欺、横領等により財産を喪失したこと。
ロ 交通事故の損害賠償(使用者責任による場合を含む。) をしたこと。
ハ 公害の損害賠償をしたこと。
ニ 納税者の取引先等である債務者について、 おおむね次に掲げる事実が生じたため、 その債務者に対する売掛金等(売掛金のほか、前渡金、 貸付金その他これらに準ずる債権を含み、また、 これらの債権について受領した受取手形のうち割り引かれていない 部分の金額及び割り引かれているものであっても、 不渡り等のため買戻しを行ったものを含む。) の回収が不能又は著しく困難になったと認められること( 従前に比べて決済に要する期間が著しく長期化したと認められる場 合を含む。)。
(イ) 所在不明又は無財産になったこと。
(ロ) 事業の不振又は失敗により休廃業に至ったこと。
(ハ) 企業担保権の実行手続の開始決定があったこと。
(ニ) 破産手続開始の決定があったこと。
(ホ) 会社法の規定による特別清算開始の命令があったこと。
(ヘ) 法律の定める整理手続によらないが、 債権者集会による債務整理の決定があったこと。
(ト) 手形交換所において取引の停止処分を受けたこと。
(チ) 災害、盗難、詐欺、横領により財産の大部分の喪失があったこと。
(リ) 会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定 による更生手続開始の決定があったこと。
(ヌ) 民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったこと。
(ル) 外国倒産処理手続承認の決定があったこと。
ホ 納税者と生計を一にしない親族( 納税者の親族と同視できる特殊の関係にある者を含む。) が病気にかかり、又は負傷したこと。
(2) 第3号又は第4号に類するもの
イ 納税者の経営する事業に労働争議があり、 事業を継続できなかったこと。
ロ 事業は継続しているものの、交通、 運輸若しくは通信機関の労働争議又は道路工事若しくは区画整理等 による通行路の変更等により、 売上の著しい減少等の影響を受けたこと。
ハ 市場の悪化、取引先の被災、親会社からの発注の減少等により、 従前に比べ納税者の事業の操業度の低下又は売上の著しい減少等の 影響を受けたこと。
ニ 著しい損失の状態が生じたとまではいえないものの、 それに近い税引前当期純損失の状態が生じる原因となった売上の著 しい減少又は経費の著しい増加が生じたこと。
ホ 納税者が著しい損失(事業に関するものを除く。)を受けたこと。
(注) 「売上の著しい減少」とは、 単に従前に比べて売上が減少したというだけでは足りず、 事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できる か又はこれに準ずるような重大な売上の減少があったことをいう( 平成23.5.26名古屋高判参照)。
本件判断においても、上記のように述べてこの納税猶予制度の基本的な前提を一定の事由の発生により、納付が困難になった納税者を救済する制度趣旨をもっている。そもそも租税は、行政の費用支弁を目的として調達される財源であり、租税債権債務の確定後、速やかに納期限等において現金により納付することが求められるものである。これは租税の基本的な性格から考えて自明なものであるといえようが、債権債務関係の早期確定を図りもって確実な徴収を図る基本的な趣旨とは異なるものとして解される。これが救済措置としての位置付けとしての本制度であり、この猶予制度が、単なる一定事由の発生のみを問題とするものではなく、税務署長による実質的な納税の困難を判断することを求め、できる規定として裁量的権限を与えていることからもその性格は裏付けられる。このような租税徴収における基本的な前提と本制度の趣旨を比較考量するならば、そして、納税者間の公平性を確保するためにも、その適用要件、特に法定の一定事由の解釈は限定的とならざるをえない。たとえ5号に於いて一定の類似性あるものと定められているとしても1~4号までの具体的な事由から如何なる点が類しているべきか明示的に解釈を行い、安定性と公平性を担保する必要性があることになる。すなわち、一般的に公平性を犠牲にしてもなお、なお納付が困難な状況にあることが求められるものと考えるべきであり、かかる状況が客観的に確定していることが必要であると考えられ、この納付が困難な状況にあることが法定事由及びその類似事由として確保されているのか否かという点が、本件の起因となるものと考えられる。つまり、納付が困難な状況にあること及びその原因が問題となるものであって、問題とその原因の間にあるべき関係性は納付が困難な状況にあることの因果関係であって、納付が困難になったことにな対して納税者の責めに帰すべき事情の存在を必ずしも求めているものではなく、この点は明確に峻別して捉えるべきであろう。
しかしながら、本件では特に問題とされていないものの、上記判断でも記載のように、納税者における帰責性の有無を具体的な要件として求めている。その根拠は納税者間の公平性を確保することに求めており、下記のように、通達においても一般的に猶予の条件として捉えている。この点において、本文の記載のない、一般的に帰責性を求めることに違和感がある。確かに、一般的に公平性を犠牲にしてもなお納付が困難な状況を救済する措置であり、かかる点で公平性の確保の観点から、一定の制約があるものとは理解されるが、法文には明示的ではなく、この要件の付与が如何なる根拠を持つものであるのかという点は必ずしも定かではない。制度が税務署長に裁量権を与え実質的な納付が困難であることを求めている以上、一般に帰責性を求めていることとしているのは法文に根拠を持たない措置であり、租税法律主義の基本的な要請に反するものではないかとも考えられよう。法定事由としての1~2号は天災等を対象としており、また46条1項も同様のものを対象としている。天災等においては確かに納税者の帰責性が存在していないものであるが、3~4号は必ずしも納税者の意思によっても発生しうるものであり、法文上、かかる制限はかかっておらず、納税が困難な状況を担保するに過ぎない。本件の問題は4号との類似性を議論するものであり、必ずしも、1~2号と同様に解することは飛躍があろう。救済措置であるが故に、同様に帰責性の存在がないことを理由づけすることは法が定める要件として具体的な事由を列挙している趣旨からいって異なるものと理解するべきである。
しかるに、猶予要件としては必ずしも、一般的に帰責性の有無を問うものではないともいえるが、上記1~2号要件との類似性、及び3~4号要件との類似性に於いてはその性格が異なるものと理解すべきであり、一般的に帰責性の存在を観念することは過剰であろう。
(納税者の帰責性)
8-2 この条第2項各号に該当する事実は、 納税者の責めに帰することができないやむを得ない理由により生じ たものに限る。
すなわち立法論とでも考えられるが、単に法定な事由の発生のみを問題としているのではなく、納付が困難であることの事実上の状況の立証も必要であると買いすべきであり、本件の適用にあたっては具体的な財務書類等の提出が求められるものと考えられる。但し、納付が困難であるということは必ずしも定量的な概念ではなく、制度上の一部限定での猶予や、金額の限度を定めていることからも定量、画一的な基準の設定は困難であって、納付が困難であるという課税の犠牲の上、単に事実の発生のみでは足りず、困難性もまた立証責任の転換を図り証明すべきであろう。しかしながらこの点においてあくまでも証明すべきは、納付が困難な状況にあることの法定事由との因果関係であって、自己の責任までも必ずしも要請されているとは考えることは困難であろう。この要請は逆に救済制度としての本制度の基本的な運用の制限であり、趣旨を損なうものとなるだろう。
また、具体的に、本件では売上の減少が約20%あったことが、4号要件の著しい損失に該当するのかという点が判断されている。この具体的な売上減少がその対象となるのか否かという点では具体的な納税の困難さあるいは重大である旨の立証を納税者が行っておらず、かかる点において不備があり、本件判断の原因となったものである。必ずしも20%の売上減少が対象となるのか否かという点は必ずしも定かではない。本件のみをもって、対象外と判断することは早計であろう。
またそもそも、何をもって著しい損失と捉えるのかという点は定かではなく、かかる点で類似性を如何に判断するのかという点は問題といえよう。この著しいという文言は、他の租税法規でもその意義について問題となるが、通達では以下のように理解している。
(事業上の著しい損失)
11-2 この条第2項第4号の「事業につき著しい損失を受けた」とは、 猶予期間の始期の前日以前1年間( 以下この項及び第46条の2関係1において「調査期間」という。 )の損益計算において、調査期間の直前の1年間( 以下この項及び第46条の2関係1において「基準期間」という。 ) の税引前当期純利益の額の2分の1を超えて税引前当期純損失が生 じていると認められる場合( 基準期間において税引前当期純損失が生じている場合は、 調査期間の税引前当期純損失の額が基準期間の税引前当期純損失の 額を超えているとき)をいう。
この点で1/2という一定の基準が示されているものの、猶予制度の趣旨からいえば、本来いかなる状況にあれば著しいと判断するのかという点は明らかではなく、特にこの規定を受けて類似性を判断する5号要件の該当性を判断する上では安定性に欠けている。
納付限度額を設け、一部の納付を猶予する場合もある以上、制度上、この著しいとは事業の継続が困難な状況にあることまでも求めていること要請していると解することは困難であるが(高裁判断とは異なるものの)、納付が困難であることの理由付けが客観的に認定しうるレベルで必要であると解するべきであり、単なる売上の減少や損失の発生程度であっても対象となることはないとする判断は合理的であるが、救済制度としての制度背景を考慮すると、納税が困難であることの証明で足りるものであり、本件でもこの20%の売上減少が著しいものではないという判断に関しては必ずしも合理的な根拠を示してはいない。著しい=1/2という判断は安定性や予測可能性の観点からは合理的であるが、何をもって納付が困難であるとするのかという定量的な判断基準の作成は困難である者の、より具体的な判断基準の策定が必要になるものと理解される。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。