さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年3月1日採決で、居住者の住所認定、海外の子会社を経営する役員が転々と各地を回っているような生活環境において生活の本拠が如何なる箇所にあるのかということが問題となった事例です。
具体的には、請求人たる納税者がまず、居住者として確定申告を行い、その後、代表者として経営を行う、海外のグループ会社の経営に携わっていたとして、生活の本拠が我が国になく、実際は非居住者であるとして我が国における居住者ではないとして更正の請求を行ったところ、課税庁がこれを否認し、当該更正の請求を否認した処分の取り消しを求めた事案が本件である。当該請求人は、一定の場所に長期間滞在することなく、居所地を転々等しており、いずれのグループ会社においても経営の中枢として、代表者たる地位を有し、不可欠の存在として活動をしており、妻等の家族は日本に居住していた。
所得税法第2条1項3号
三 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。
民法第22条
各人の生活の本拠をその者の住所とする。
本件は基本的には、居所を転々とするような納税者に対して、如何にして住所を認定するのかという点が問題となったものであり、中心的には納税義務の存在を決定する居住者への該当性を議論するにあたり、事実認定が問題となったものである。
この租税法規、少なくとも所得税法における上記居住者の意義における住所とはいかなるものであるのかという点に関しては最高裁の判断により、住所とは生活の本拠であり、民法の上記生活の本拠と同様の概念としていわば借用概念として判断されている。この点は学説においても異論はなく、基本的にはこの生活の本拠とはいかなるものであるのかという点が課題であるところである。すなわちまだまだ生活の本拠とは具体的に如何なるものとしてとらえられるべきであるのかという点は検討の余地がある。
また、民事法上も基本的には、当該居住を行う者の、居住を行う意思に委ねる判断ではなく、客観的な事情を考慮して生活の本拠を決定すべき判断プロセスが主たるものとして採用されており、租税法規においても基本的に同一と考えられる。しかしながら、この生活の本拠において、納税者の主観的な事情を一切考慮しないという判断ではなく、租税負担の公平性を確保するためにも総合的な判断によるべきであって、一律に客観的な事情のみをや主観的な事情のみに依拠した判断は忌避されるべきものと考えられる。
本件は、このように、民事法、租税法双方において採用される生活の本拠という概念が必ずしも明らかではないという状況下において当該意義を具体化するうえで参考となるものであると言えよう。
特に従来の住所認定の議論は一定の期間の継続的な居住【断続的なものも含む】実態の有無が中心的な問題とされてきたが、本件は非常にレアな事実関係を基礎としつつも一定の居住実態よりは、むしろ転々とする状況下において、我が国に住所があるのか否かという点が争われたという点で参考となるものといえるのではないだろうか。この点で本件は判断としては住所の存在を国内にあるという判断を行っているが、その判断は居住の実態以外の要素を考慮して決定しており、かかる点で興味深いものと捉えられる。
上記のように、本件の判断の基礎となる住所概念は最高裁の判断以来、生活の本拠ということで一致しており、この点は本件も踏襲している。ここで本件の事実関係からその生活の本拠が国内に存在していたのか否かという点を判断している点で、基本的に法令解釈としては特に新規性はないものともいえる。
しかしながらこの生活の本拠という概念は必ずしも明らかなものではなく、例えば複数の居所地を有しているような場合は、あるいは本件のように複数国を転々と移動しているような場合、何をもって生活の本拠という概念に合致するのかという点を判断することは困難である。この点が定かではなく、かかる点が本件の問題の起点となっている。
この点は法令解釈がより精緻化すべきものであり、最高裁の判断を踏まえ、如何なるものが生活の本拠という概念に合致するのかという点をより検討していくべきものと考えられる。
本件判断は、基本的な判断過程を最高裁の判断プロセスによっており、この点で従来と整合的である。また、単なる居住関係の実態や納税者の意思、等々個々の判断要素に固執することなく、総合的に判断している点も妥当なものと考えられる。
私見としては、本件のような転々と居所を移転するような場合等に対して生活の本拠とはいかなる関連を有するのかという点が、興味深い。すなわち、住所とは複数の存在を認められうるのかという点がまず問題となるだろう。本件では住所認定において滞在日が重要な認定の判断材料の一つとなっているが、この生活の本拠と滞在日数がいかにして関連するのかという論理的な根拠、法的な根拠は示されていない。
本件に代表されるように、近年の経済環境においては、国内国外を問わず、自然人がその居所地を複数有しているようなケースは容易に想定される。私見としては上記所得税法は法令上、その居住者の定義として
①国内に住所を有するもの
⓶現在まで国内に引き続いて一年以上居所を有する個人
を並列に規定していることから、また住所の基本的な概念として生活の本拠であることからも、本拠という文言は比較的に、一定の活動の拠点となるべきものを表すものであるから、基本的に租税法規においては、住所概念は複数の箇所の内、一か所を表すものと解すべきであり、この点は、上記住所規定が居住者の該当性を支える定義規定であり、納税義務の存在を明示的にする制度的な趣旨を有していることからも肯定されるものと考えられる。
このように考えると、生活の本拠を構成する要素として、まずは、「生活」とはいかなる意義を有するのかという点が課題となるだろう。生活という用語それ自体が非常に多義的であり、この意義の確定がまずは重要な課題であると指摘できる。この意義をいかに解するかということによって立証すべき活動、生活の状況が異なるものになるものだろう。
また、本拠をいかにして認定するのかという点が問題である。単一の居所地である場合は上記のような問題は発生しないが、住所を単一の物と捉え、複数の居所地から、如何にして本拠を見出すのかという点が更に問題となる。納税者の主観的な本拠地の認定を許容するのかということにもなりかねないが、本拠の認定において納税者の意思も考慮しつつ課税要件の充足を認定する客観的な事情が検討される必要がある。
本件のような場合は、特に近年の経済活動の多様化、国際化を反映し、居住者判定において、複数の居所地の存在が想定され得るものである。上記のように私見としては、生活の本拠という概念は原則として単一の居所地を決定すべきことをその意義として解されるべきであり、この点が従来と社会状況の変化を反映すべきものではないだろうか。立法によって単に生活の本拠という概念に委ねるよりもより要件を厳格化・明示化した住所の概念の立法化が図られるべきものといえる。現状では、立法によって明示化による住所概念の活用した租税回避のリスクも発生するが、今後の課題として住所概念の明確化は租税法の基本的な要請として、また納税義務の存在を明らかにする上でも立法によって解決されるべきものと考えられる。
このように考えると、本件のように転々と居所を移動するような場合において、複数の居所地から如何にして本拠地を決定するべきであるのかという点が問題となるが、本拠地の認定、決定は納税者の主観的な居住の意思等、主観的な事情が避けられない。この点で租税法規の事実認定、法令の解釈としては必ずしも租税法の基本原則の観点から妥当とは評価すすることは困難であるだろう。従って、私見としては上記のように所得税法2条の居住者の定義は単に生活の本拠という住所概念のみを定めているものではないことに着目する。すなわち、住所概念と並列的に現在まで国内に引き続いて一年以上居所を有する個人という定義を設けていることからもこの適用の有無が問題となるものと考えられる。
この場合、まだまだ、法令解釈上の問題は多い。例えば居所を有するとはいかなるものであるのか。住所が居住の実態に基づくものであるのに対して、定義に該当する居所地の存在、所有が問題になるように、考えられる。他にも、現在とはいかなるタイミングであるのか、引き続いてとは、連続的な概念であるのか、断続的でもよいのか等々、検討すべき点はあるものといえる。
居所を有するとは単に居所地を所有するもの場合に限るものではなく、納税義務から考えれば賃借等一定の利用可能な状況にある事を意味するものと解されるが、住所となる本拠地と居所は如何にして区分けされるのか、その意義はいかなるものと捉えられるのかという点は検討されるべき課題であるのではないだろうか。
いずれにしても、住所概念と並列的に規定されるこの居所を有する個人という規定はいかなる趣旨に基づいているのかという点から、住所の補完的な規定として、納税義務の存在を確定させる制度的な背景を見出すことが可能であるのかという点は、検討の余地がある。より詳細な制度背景の検討を行うべきかもしれない。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
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