さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成27年9月3日裁決で、課税訴訟を行った請求人が、当該訴訟に関して必要となった弁護士費用を必要経費として申告したところ、その算入が否認された事案です。
具体的には、事業を営む請求人が課税処分取消訴訟を提起したうえで、当該訴訟に勝訴し、課税処分の取消判決及び還付加算金を得た。かかる訴訟において請求人が支払った弁護士費用(約1,800万円)が、当該還付加算金を得るための必要経費であるとして申告したところ、当該費用は必要経費に該当しないとして否認されたため、その取消を求めたのが本件である。
本件は、上記のように、課税処分取消訴訟において勝訴した還付加算金を受け取った請求人が当該金員をいかなる所得として捉えるのか、それとも損害賠償の性格を有するものであり、非課税となるべきものと考えられるのか、という点がまずは問題であり、かかる所得への該当性が以下のように、肯定される場合に、この所得を得るための必要経費として訴訟における弁護士費用が含まれるのかという点が後発的な問題として中心となっている。課税訴訟における訴訟自体が珍しいものであり、当該訴訟に伴って還付加算金を得る機会は限定的であるため、その性格は必ずしも定かではないものと、法解釈上は考えられるところではあるが、さらに弁護士費用が事業所得の必要経費としてではなく、還付加算金という雑所得に関連付けられて議論されている点は興味深い。実務上は、本件のようなケースが非常に限定的であることであろうが、弁護士のような委任関係にある費用とその業務関連性、必要経費性を議論する上では参考となるものと考えられる。
第三十七条
その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
上記のように、必要経費は、そもそも原価等に該当しない場合、もちろんここで法が求める原価とはいかなるものであるのかという点は、必ずしも定かとはいい難いが、この原価等以外の費用に対して当該費用の必要経費該当性を判断するにあたっては、まずは直接性の要件が課せられるべきであるのかという点が議論されている。著名な弁護士会の費用が弁護士業務の必要経費としての該当性を有する場合があるとした判決以降も(当該判決では、最高裁に上告されているが却下されており、最高裁の判断はくだされていない)、種々の議論において、当該判決が一般性を持つのか否か、その射程範囲はという点が問題として議論されている。
このように、まずは直接性が一般的な必要経費において議論が遡上に挙げられるが、上記条文のように、私見としては当該費用が販売費その他所得を生ずべき業務について生じたものであるのかという点がまずは問題であり、当該費用と業務の関連性がまずは問題となるべきものと考えられる。すなわち、まずは、販売費等、所得を生ずべき業務とはいかなるものであるのか、という点が峻別されるべきものといえよう。つまりは、まずもって本件還付加算金が雑所得であるとした場合(本件でも争われているが、この所得が妥当であるのかという点も議論されている)、当該費用が販売費等、所得を生ずべき業務であるのか、換言すれば、原価等あるいは、販売費等のいずれに該当するのかという点が問題なのであって、まずは、その峻別が行われるべきであり、その以後において、一般的な経費において直接的な要件が課せられているのかという点が問題となるべきである。私見としては、一般的な経費においては直接的な関連性が問題となるものではなく、まずは所得を生ずべき業務がいかなるものであり、その業務との関連性が最終的には必要経費として肯定されるべきか否かという点を左右するものといえる。
業務という文言を文字通りに捉えると、継続的な意義を有する可能性はあるが、この点はまだまだ検討すべき点ではあろう。還付加算金がいかなる性格を持つのかという点はいかにおいて検討するが、当該弁護士費用は、課税処分の取消しにおいて必要な経費であり、還付加算金を直接的な目的とするものではない。本件は、弁護士費用が直接性を有していないとのことで、その必要経費性がないものとして判断しているが、私見としては、結果には賛意を示すものの、間接的な経費への該当性の観点からの判断を行う余地はなかったのであろうかとも覚える。
当該弁護士費用が直接的に発生したものは、あくまでも訴訟の目的(本件では、課税処分の取消)であり、還付加算金を得ることが目的ではない。この点が支出と結果の変動が対応している、すなわち、業務との直接的な関係性が否定されているが、この判断の枠組みが妥当であるのかという点が問題。私見としてはこのように、行為の目的と所得等の目的を検討することで主観的な納税者の意思を反映させ、必要経費性を判定することは租税法の基本的な要請に合致するのかという点は疑問を覚えるところではあるが、客観的に確認できるものであれば、一定の合理性は担保されるものともいえよう。訴訟という業務にかかった費用が当該弁護士費用であり、還付加算金を得る業務ではないものという判断が行いうるところではある。この場合、還付加算金をうる業務が何であるのかという点は検討されるべきではあるが、訴訟において主たる目的物ではないという点では、偶発性を帯びていることも留意されるべきである。このように行為や業務の目的が必要経費該当性を判断する上で重要な枠組みとなっている点は本件の特徴であり、興味深い点であろう。
また、本件でも主張されているが、還付加算金が損害賠償の性質を帯びているとの考えもありうる。課税処分に伴い発生した金員負担をカバーする負担であり、この損害賠償としての性格を持ち得ないと必ずしも否定することは一概には言えない。一律に否定することも困難であるが、まずもって所得税法が規定する非課税所得としての損害賠償金がいかなるものであるのか、いかにしてその金員が非課税となりうるのかという点が明確にされるべきものである。すなわち、還付加算金は利子としての性格や損害賠償など複合的な性格を有する可能性があり、実務上もその所得の性格が必ずしも明示的ではないものもありうる。このような場合、いかなる性格を有するものであるのか、いかにして判断するべきであるのかという点は法解釈論として重要な課題であろう。
損害賠償が非課税とされている趣旨も必ずしも定かではないが、この点からも損害賠償がいかなるものであるのか、という点は検討されるべきではないだろうか。
このように、問題となった金員ないかなるものであるのかという点は、本件の判断の起点となるべきものであり、単に利子であると捉えるものではなく、いかなる性格を主として帯びているのか所得の性格が議論されるべきである。
また、別件として、請求人の主張にも見られるように、法人税とのアンバランスが存在するという指摘がある。すなわち、法人税の損金計上においては、本件のような金員は性格上、損金を構成するものと考えられるが、所得税法では異なるというものである。この点につき、たしかに法人税法と所得税法は、その基本的性格として、一定期間の所得を課税対象とする点では共通しており、適正な所得を把握し、租税負担を求めることは、課税負担の公平性に合致する点は当然に考えれられる。しかしながら、所得税法は基本的に法人と異なり、自然人をその対象とした課税であり、法人とは異なるものである。特に家事費等が観念されうる自然人において、法人と衡平を図ることは必ずしも妥当ではない。立法論としては可能性はあるものともいえようが、課税処分の取消訴訟を取り上げて、特段の扱いをすべき理由を見出すことは困難であり、また、民事法の損害賠償の性格と課税の関係性に関しても広く検討する必要性が発生するものともいえる。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。裁決
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