さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成28年7月22日で、小規模宅地の特例に対する適用要件、書類添付の状況が不備であったとしてその適用が否認された事案です。
相続税法において最も適用が行われる特例の一つがこの小規模宅地等の特例に関する評価減の規定であり、その適用を巡る要件を議論することは法解釈上もまた、実務上も有益であるように考えられます。特に本件では、特例の適用に当たって、同意を確認する相続人の意思の確認が困難であるような状況であり、相続において争いがあった場合などにおいて留意すべき点を示唆しているように評価されます。
具体的には、医師である原告がその母親と同居して、その保有する土地において診療所を経営していた場合において、その母親の死亡により、財産を相続し、措置法69条に定める事業のように供された土地の小規模宅地の特例による評価減措置の適用をもって、相続税申告をなしたところ、下記要件に定める書類の添付が不備であるとして、否認されたことを不服として提起されたものです。
69条の4第1項の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法27条又は29条の規定による申告書(これらの申告書に係る国税通則法18条2項に規定する期限後申告書及びこれらの申告書に係る同法19条3項に規定する修正申告書を含む。)に69条の4第1項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。
相続税法は上記のように、法規によって小規模宅地の特例を適用を受けようとする場合には、上記書類の添付があることを明文をもって規定しています。この添付書類については、下記のように、書類の要件が定められており、本件はこの内、3号にある相続人すべてによる同意書の添付が行われず、原告の同意書のみが添付されていた形になります。
40条の2第3項
措置法69条の4第1項に規定する個人が相続又は遺贈(贈与をした者の死亡
により効力を生ずる贈与を含む。以下同じ。)により取得した特例対象宅地等の
うち、同項の規定の適用を受けるものの選択は、次に掲げる書類の全てを同条6
項に規定する相続税の申告書(以下、単に「相続税の申告書」という。)に添付
してするものとする。ただし、当該相続若しくは遺贈又は贈与〔当該相続に係る
被相続人からの贈与(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。)で
あって当該贈与により取得した財産につき相続税法21条の9第3項の規定の適
用を受けるものに係る贈与に限る。〕により特例対象宅地等並びに措置法69条
の5第2項4号に規定する特定計画山林のうち同号イに掲げるもの(以下「特例
対象山林」という。)及び当該特定計画山林のうち同号ロに掲げるもの(以下「
特例対象受贈山林」という。)の全てを取得した個人が1人である場合には、1
号及び2号に掲げる書類とする。
1号 当該特例対象宅地等を取得した個人がそれぞれ措置法69条の4第1項の
規定の適用を受けるものとして選択をしようとする当該特例対象宅地等又は
その一部について同項各号に掲げる小規模宅地等の区分その他の明細を記載
した書類
2号 当該特例対象宅地等を取得した全ての個人に係る前号の選択をしようとす
る当該特例対象宅地等又はその一部の全てが措置法69条の4第2項各号に
規定する限度面積要件のうちのいずれか一の要件を満たすものである旨を記
載した書類
3号 当該特例対象宅地等又は当該特例対象山林若しくは当該特例対象受贈山林
を取得した全ての個人の1号の選択についての同意を証する書類(以下、同
号に規定する書類を「選択同意書」という。)
具体的にはこの部分が争われたものであると考えられます。なお、本件土地は、原告が事業のように供していたことからも被相続人の遺言により、全て原告に相続させる旨が、記載されています。そして、本件では、その他の相続人との間で、未分割の土地等を有していました。課税庁は、この規定の解釈として添付書類として、相続人全ての当該制度の適用に関する同意書が必要であるとして、本件申告における、その欠如を理由として、相続税申告における、小規模宅地等の特例の適用を否認しました。判示もこの判断を是認しています。
なお、本件は相続訴訟ではありませんので、なぜ、この同意書が不備であったのかは定かではありませんが原告の主張を読む限り、相続に伴う、財産分割において紛争が存在し、遺言に定めのある財産の状況が未分割となったような状況にあるように捉えられます。本件では、特にこの未分割の他の財産においても貸付けの用に供してあり、小規模宅地等の特例制度の適用を行うことが可能であることが、更に問題となっているところです。
上記のように規定ぶりだけでは、同意書の添付は、適用対象となった財産を取得した個人のみで良いとする解釈も行うことは可能でありますが、私見としては相続税法が、一定のタイミングにおいて確定的に取得した財産をその対象としている以上、そして、相続人に連帯納税義務をもってその納税を担保していることからも、相続人間の同意をもって本件制度を適用すべきものと、すなわち起点としているものと解され、その実態的な確認、現れが本件で問題となった選択同意書であって、取得した財産や取得者においてその租税負担が異なることからも、生活の基盤への配慮を趣旨とするこの制度の対象として相続財産の一部を選択する場合には、関連する相続人全ての同意が必要であると解すべきであると考えられ、本件の判断は妥当なものであると評価しています。
また、現行法において、未分割の財産に対する規定をおいている(主として未分割の財産は、共有の状態にあるものと解されます)、この規定の性格やこれによる具体的な相続財産に対する法的な関係性をいかに捉えるのかは重要な課題ではありますが、他の相続税法の規定においても取得した財産に関しては、包括的に規定しており、本件で対象となった規定のみ別意に解するべき理由は当該制度の趣旨等からも肯定できるものではないでしょう。小規模宅地等の特例制度が、納税者間のバランスを考慮しつつも、残された相続人の生活の基盤の確保という趣旨から一定の評価減を定めており、かかる理解にたてば、要件としての同意書の存在を限定的に捉えるべき、もしくは他の規定と別意に解すべき理由は存在しないものと考えるべきです。本件のように他の相続財産が存在し、未分割の状態であり、更には、当該土地以外にも本件制度のの適用対象となりうるものである場合においては小規模宅地等の特例に於いて本件土地を対象とする相続人間の同意は重要な要件と言えるでしょう。
本件はすなわち事実上、相続人間の相続財産に対する紛争の存在を、その解決すべき義務を租税負担に帰着させようとするもので合理的な措置ではないものといえます。
本件のように、相続時における紛争の存在(あるいは可能性)をもって限定的に相続対象財産に対する解釈を変更することは、すなわち原告が主張するように、同意書の対象を限定的に捉えることは、立法論としてそのような措置をとり、相続財産の紛争の有無にかからず実質的な相続における租税負担の公平性を図ることは、ありうるものではあることは否定できませんが、解釈を限定的に捉えることは、租税法の基本原則たる法的な安定性を阻害するものであり、許容されるものと評価すうることはこんなんでしょう。立法に関しても、本質的に相続財産に関する紛争は、民事上の財産の帰属に関する問題であり、民事上処理すべき事案であって、租税負担において考慮すべきものであると捉えていませんが、この点は実務家としてはいかがでしょうか。
いずれにしても、正直なところ、実質的に相続財産に関する紛争の存在を租税負担に帰着させているだけであり、なぜ本件が訴訟となったのか理解に苦しむところもあるのですが、本件のように、結果として、紛争の存在によって特例の適用が困難な状況であれば、全体の相続税負担が増加することは、相続に関わるものであれば、常識に属する点であり、この点を納税者に周知する責任が専門家にはあることを留意すべきということを明らかにしている点では、実務上も有益な事案であるように考えられます。
以上、毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
また、本年も皆さんにはお世話になりました。特に本年はプライベートも多く変化し、大変な一年でしたが、また来年も公私共に大きな変化があるように予想されます。皆さんのご協力をよろしくお願い致します(特に論文作成予定の人は(笑))。
それでは仕事も忙しいとは思いますが、くれぐれも皆さん体調には留意の上で、良い年をお迎えください。判決
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