さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年1月27日裁決で、第三者換価による相続税の延納許可が取り消された事案です。
事案としては具体的には相続人たる請求人が相続税の申告につき相続税法上の延納許可申請を行っていたところ、かかる延納許可につき、提供していた担保物である土地に対して、かかる相続税申告に関して第三者である固定資産税等の地方税当局が財産の差押、強制換価手続を実施した事実関係において、下記相続税法40条2項に基づき課税庁が延納許可の取消処分を行ったところ、これを不服として提起された。
2 税務署長は、延納の許可を受けた者が延納税額(当該延納税額に係る利子税又は延滞税に相当する額を含む。)の滞納その他延納の条件に違反したとき、その者が当該延納税額に係る担保につき国税通則法第五十一条第一項(担保の変更等)の規定による命令に応じなかったとき、当該延納税額に係る担保物につき国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)第二条第十二号(定義)に規定する強制換価手続が開始されたとき又は当該延納の許可を受けた者が死亡し、その相続人が限定承認をしたときは、その許可を取り消すことができる。この場合においては、当該強制換価手続が開始されたとき及び限定承認をしたときを除き、あらかじめその者の弁明を聴かなければならない。
本件で争点とされた法令解釈としてはまず、第三者である地方自治体の強制換価手続の実施が、上記規定に定める強制換価手続に該当するか否かが問題となったが、
十二 強制換価手続 滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう
上記のように国税徴収法が規定しており、誰が主体であるか必ずしも明確ではないと評価できるところではあるものの、本件取消の趣旨が延納制度による納税者の保護と、租税徴収の実効性の確保のバランスから設けられていることから鑑みれば、本件の判断のように課税庁以外の第三者による強制換価手続の実施であっても対象と解するべきであると考えられる。
また、上記規定ができる規定である以上、具体的な取消の実行に当たっては課税庁にその裁量があるものと解され、上記本取消制度の趣旨目的から行っても事実関係を考慮して延納税額とのバランスなどへの配慮がおこなわれているものと考えるべきである。但し合法性の原則や租税負担の公平性の観点からはいかなる場合において、その裁量を発揮されるべきであるのかという点は解釈による検討が必要な項目といえよう。
かかる点からは、本件のように当該取消に対する違法性の判断においては、当該取消において裁量権の逸脱があったことが、濫用と評価されるべき状態にあることが必要であると考えられ、本件の問題の中心的な部分を構成しているものと評価される。従っていかなる場合において、その裁量の濫用を判断すべきであるのかという点が問題であり、かかる判断基準をいかに考えるべきであるのかという点が検討対象といえよう。本件においては、単に延納税額の金額部分のみがその判断基準としていかなる程度の金額割合が残存しているのか、という点から判断を行い、結果としてかかる取消の合理性を判断しているが、かかる判断過程が妥当と言えるのか、私見としては本制度の、上記のように取消の制度趣旨や目的を基本的に評価した上でその濫用性を判断すべきものであり、かかる金額の判断のみでは必ずしも妥当と捉えるべきものといえないのではないかと捉えている。
さらに、この強制換価手続に対しては民事法における財産差し押さえの効果との関係も比較検討すべき可能性もありうる。
また、本件では直接の争点とはなっていないが、かかる処分の前提として上記規定は、弁明を聞くべきか否かという点も問題となる。立法論と捉えるべきかもしれないが、上記規定は、明確に強制換価手続の開始はその弁明の機会を設けることを要件とはしていない。あまり研究のある分野ではないが、租税法制度における弁明制度の意義とはいかなるものと捉えるべきであろうか。いかなる趣旨に基づくものであり、いかなる要件を満たすことが弁明の実を達成することになるのかという処分の前提となる制度的な性格、位置づけなど、検討すべき課題ともいえるだろう。他には法規にあるようにあらかじめとあるがいかなる時期等であるべきかなども解釈上の問題となるだろう。
いずれにしても本件は、延納許可の取り消しに関する事案であり、非常に珍しい事案。基本的に問題となった処分自身は法の規定の枠内であり私見として本件判断は妥当であり問題となるべきものであるとは捉えがたいが、一般的に納税者の救済・保護をその趣旨、背景とする延納制度であると考えるならば、納税者以外の第三者の財産差し押さえの効果が国税に影響するという本制度は、納税者の救済を求める法的な期待に合致するものではないとも評価しうるところではある。
しかしながら、延納制度が担保物の提供を明確にその要件としており、納税者の便宜や救済と徴税の実効性を高めることをバランスさせた制度が延納制度の趣旨であると捉えるならば、本件のように第三者による行為であっても、本件のように延納制度の取消処分の対象となるべきことは、徴税への配慮を考慮して一定の合理性を有しているものといえるのではないだろうか。かかる取消は、いずれにしても納税者の財産状態に非常に大きな影響を与えることは明らかであり、また、実効性を担保するためにも一定の裁量権を課税庁に付与していることからも、かかる取消の要件は明確にすべきものと考えるべきである。立法論としては、たとえ客観的な第三者による換価手続の開始であっても、弁明制度の対象して一定の機会を与えることも、適正な手続きを要請する観点からも制度的には合理性を有している可能性も否定できないのではないかとも考えられるところであるが、法令解釈としては明文の規定からも、弁明の機会の保障はないものと考えるべきものといえよう。
以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
裁決
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