2022年8月23日火曜日

判例裁決紹介(宇都宮地判令和2年8月27日、東日本大震災における補償と所得課税対象)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は宇都宮地判令和2年8月27日で、東日本大震災に伴う補償が所得課税に該当するのか否かという点が争われた事例です。 具体的には、本件は肉用牛の肥育を行う原告個人が、東日本大震災により受けた賠償金につき非課税であるとしていたところ、かかる金員は事業所所得に該当するとして、更正処分等を行ったことを不服として提起された事例である。東日本大震災という未曾有の事態に伴う事例であるが、損害賠償金等など非課税として一般に理解することが多い感覚が背景にあるものであり、賠償金と所得を課税上区分することになるのかという点を改めて確認する上で、重要な事例であろう。課税上は分離されるものであり、如何に区分するか説明ができるのかという点は問いかけても良いのではないだろうか。基本的には、事実認定による問題ではあるが参考となろう。なお、他に復興所得税等は被害者には適用されないなどの独自の主張が見られる(主張は認められていない)。 (事業所得の収入金額とされる保険金等) 第九十四条 不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行なう居住者が受ける次に掲げるもので、その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは、これらの所得に係る収入金額とする。 一 当該業務に係るたな卸資産(第八十一条各号(譲渡所得の基因とされないたな卸資産に準ずる資産)に掲げる資産を含む。)、山林、工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの又は著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)につき損失を受けたことにより取得する保険金、損害賠償金、見舞金その他これらに類するもの(山林につき法第五十一条第三項(山林損失の必要経費算入)の規定に該当する損失を受けたことにより取得するものについては、その損失の金額をこえる場合におけるそのこえる金額に相当する部分に限る。) 二 当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの 2 第七十九条第一項(資産の譲渡とみなされる行為)の規定に該当する同項の行為に係る対価で法第三十三条第二項第一号(譲渡所得)の規定により譲渡所得の収入金額に含まれないものは、事業所得又は雑所得に係る収入金額とし、当該対価につき第百七十四条から第百七十七条まで(借地権の設定をした場合の譲渡所得に係る取得費等)の規定に準じて計算した金額は、当該事業所得又は雑所得に係る必要経費に算入する。 以上のように、あまり参照されることのない条文であるかもしれないが、所得税法施行令94条は、上記のように、保険金、損害賠償金を非課税から除外し、事業所得として課税対象とすることとしている。棚卸資産を起点とした判断であるが、保険金等その他これらに類するものとして包括的に、その対象を定めていることは、改めて、理解すべきことであろう。一般にはどうしても損害賠償や保険金、見舞金などは非課税であると考えることが通常であろう(私も初めてこの規定を見たときは違和感がありました)。しかし租税の世界では明確に分離していることは、実務家にとっては常識かも知れないが(より正確には非課税とする規定がない限りは非課税とならないという所得税の基本もまた背景にあることになるが)、かかる点を丁寧に説明できるのか、実務家に取っては重要なことではないだろうか。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

判例裁決紹介(東京地判令和3年2月26日、消費税における外注費)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今週は、東京地判令和3年2月26日で、塗装業における雇用から請負に契約変更した事案で消費税における外注と給与のいずれかであるのかという部分が争点となった事例です。 具体的には本件原告法人がその外注費として作業員に対して課税仕入であるとして支払った事実関係において(給与ではなく、希望があって外注先として変更、契約等あり)、課税庁において、コレを否定し、給与であるとして仕入税額控除を否定した更正処分等を不服として提起された事例である。古典的な論点ではあろうが、テレワークに限らず、自律的な働き方が拡大している働き方の変容の環境下においては、仕入税額控除の適用対象となるのか否かという点は、重要な点であり、古くとも新しい論点だろう。56年判決を起点に従属性を中心に詳細に指揮命令を事実関係を評価しており、特に、従業員と雇用主(原告法人)との間で合意があろうとも、その具体的な内容によって評価されることが改めて明らかとなっているものであり、ティーチングケースとしても参考となろう。本件では基本的に雇用から請負に変化しても大きな相違がなかったことがもともと処分の起点になっているものであるが、このような事実上自律的な(指揮命令が相対的に弱い)職務においては、このような状況は大いにありうるものであり、その職務の種類は拡大しているだろう。消費税法に限らず、法人税法等においても雇用と請負の区分は重要な問題であり、全般的な判断枠組みは変わらないものの、総合的な判断においてどのような点を重視していくべきであるのかという点は働き方の変容の影響を受けるものであり、このような点を考える上で参考となるべき事例だろう。 本件では指揮監督の状況が直ちに重要な判断要因とされておらず、労務提供における形態に変化がないことが判断の起点となっている。法令解釈としての判断枠組みではないだろうが、消費税法に於ける個々の取引を基礎とした形式的な判断においては、実務的には重要な着目点と考えられるのではないだろうか。最終的には、指揮監督について場所や時間、投入量等を個別に分類して判断を積み重ね判断を下しており、指揮監督の具体的判断を行う上で参考となる事例であろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(令和元年9月25日裁決、減価償却資産における金額の範囲、事業供用に直接要する費用)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和元年9月25日裁決で、減価償却資産における金額の範囲、事業供用における直接要する費用の範囲が如何なるものであるのかという点が争点になった事例です。 具体的には、本件は、廃棄物処理業を営む法人である請求人が、資産を取得し、当該資産に対して中小事業者における特例償却等の対象であるとして申告したものにつき、かかる特例の適用対象の金額(160万円)に満たないものであり、適用を否定した更正処分等を行ったことを不服として、修繕費等も当該資産の金額に含まれるとして提起した事例である。特例のための添付書類における資産の購入台数と実数が調査により異なることが判明し、もって特例適用対象の金額を充足しないことが発端となっているものであり、請求人の仮装的な行為が問題ではあるものであるが(範囲の問題の前に当初申告の問題としてこちらで事案としては終了するものともいえるのかもしれないが)、関連費用と減価償却資産の範囲を考える上では、特に事実認定の問題として実務家には有益な事例であろう。 一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額 イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額) ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額 以上のように、本件は、修繕費等の関連費用が、上記、法人税法施行令64条における、減価償却資産の金額として該当するのか否かという点が中心的な争点となっている。特にロの事業のように供するために直接ようした費用の額に該当するのか否かという点が課題となろう。必要経費等に限らず、直接という文言をどのように考えるのかという点は、租税法規において重要な論点であり、本件もその解釈を如何に捉えるべきであるのかという点が起点となっている。判断ではどのようなものを直接と解するのかという点は必ずしも明らかとなっていないが、別個の資産に関するものであることや先行取得された段階で、稼働しており、追加した資産の有無にかかわらず機能している点が判断要素となって、請求人の主張が排斥され、判断が導かれている。 請求人の主張は、追加的な費用は当該資産と機能的な一体性をもったものであり、関連するものであるとの主張が基礎となっている。機能的に一体な資産に関するものであり、包括的に捉えるべきであって、金額を構成するという主張となっているものであろう。いかなる点を基礎に機能的な一体性を持っているのかという点に対する立証が必ずしも行われておらず、どのようなものを機能的な一体性ということで理解しているのか、その根拠となる条文上の根拠は如何なるものであるのかという点は定かではない。 しかし、実務的にはこのような機能的な一体性という表現は資産の範囲を判断する際において多用されるものであろう。減価償却資産が、そもそもとして事業供用を基礎として構築されるものである以上、複数年に渡る支出の効果が及ぶことに加え、単に資産の種別にとどまらず、利用を目的とした単位での構成が行われうるものである。経営者の主観的な判断が介在する余地があるのが如何なるものを事業対象として資産の購入目的を判断するのかという点であろう(そもそも資産の購入が複数の目的や、漠然としたものである、私用と区分が曖昧なことも現実的にはありえよう)。一括での費用化が好ましいのかもしれないが、直接という文言は、多様な資産の活用方法が想定される中で、無制限な費用の組み込みを回避する機能も持っていることは本件のような事例において明らかとなるだろう。法令解釈として直接という文言は必ずしも定かではなく、実務家においてはその判断をどのように行うのかという点が重要であろうが、本件のように、単に機能的な一体性という主張のみでは実効性を有しないという点は、改めて認識されるべきであり、事業との直接の牽連性、関係性、因果関係があることを主張立証できることが重要なものであろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。