2022年1月29日土曜日

判例裁決紹介(令和2年3月3日裁決、滞納処分の執行停止取消処分)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年3月3日裁決で、処分庁がなした滞納処分執行停止を取り消したことを不服として提起された事例です。

具体的には、最近手に入るようになった地方税に関わる裁決事例からであるが、本件は滞納者たる請求人(納税者)が自己の滞納債権につき、滞納処分の執行を停止されていた状態にあったが、軽自動車の所有等の財産状況が調査によって判明したことから、かかる停止の取り消しを受けたことから生活困窮である状況は継続しており、かかる不服を申し出た事例である。判断としては処分庁の処分は取り消されている。

基本的な争点は、執行停止取り消しの下記条件が充足されているのか否かである。このような滞納処分の執行停止が争われること自体が珍しい(紛争としては、実際には非常に多いのかもしれないがこの辺は実務家に聞いてみたいところ)が、国税徴収法と同様の解釈を巡って、具体的な事実関係において、財産の有無や生活の窮迫度合いが中心的な争点となっている。判断としては、処分庁の調査不足を理由に処分の取消を行っている。

(滞納処分の停止の取消)
第十五条の八 地方団体の長は、前条第一項各号の規定により滞納処分の執行を停止した後三年以内に、その停止に係る滞納者につき同項各号に該当する事実がないと認めるときは、その執行の停止を取り消さなければならない。
 地方団体の長は、前項の規定により滞納処分の執行の停止を取り消したときは、その旨を滞納者に通知しなければならない。

以上のように本件の中心的な争点は地方税法が定める滞納処分の停止を取消す際の要件が如何なるものであるのか、本件の具体的な事実関係において充足されているのかという点が基本的な争点になっているものである。裁決文のみでは、必ずしも事実関係が明らかではない部分はあるが、下記具体的な要件のうち、生活を著しく急迫させる恐れがあるときという点についての判断が行われていないことが本件処分庁の取り消しが否定された要因となっている。


(滞納処分の停止の要件等)
第十五条の七 地方団体の長は、滞納者につき次の各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる。
 滞納処分をすることができる財産がないとき。
 滞納処分をすることによつてその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
 その所在及び滞納処分をすることができる財産がともに不明であるとき。
 地方団体の長は、前項の規定により滞納処分の執行を停止したときは、その旨を滞納者に通知しなければならない。
 地方団体の長は、第一項第二号の規定により滞納処分の執行を停止した場合においてその停止に係る地方団体の徴収金について差し押さえた財産があるときは、その差押えを解除しなければならない。

すなわち、生活保護とほぼ同意義に解される生活窮迫であるか否かという点について処分庁は判断せず、財産の把握ともともと営んでいた事業を再開したことを根拠とした処分であって、法定の要件に合致していないとの判断が行われたものである。生活保護と同程度であることをもって窮迫を捉えることが妥当であるのか(法令上の趣旨が異なるものと)という点が本件判断の基礎が逐条解説書にとどまっている点は懸念されるところであるが、本件は基本的に調査不足を基礎として判断を下しているが、窮迫という点を評価することは現実的には福祉部局の範疇であり、困難を伴うものであるのかもしれない。現実的には立証が困難なものであり、形式的な財産の存在をベースに判断されているような現行の処理実務が垣間みられるところでもあるが本件は明示的にこの点について否定したものであろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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