2022年1月29日土曜日

判例裁決紹介(令和3年6月24日裁決、共同相続人への預け金等に対する過少申告加算税と宥恕)

 

また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和3年6月24日裁決で、共同相続人への預け金や家屋相続に関する相続税申告に関する不記載に関して過少申告加算税を賦課決定されたことを不服としてるものであり、具体的に知り得る状況になかったものとして(及び共同相続人に対する贈与であるとして)かかる処分の適用の取り消しを求めたものである。

具体的には本件は、相続人たる請求人(明示されていないがおそらく税理士)が行った相続税の確定申告につき、共同相続人(紛争あり、訴訟予定)への現金の預け金(通帳からの引き出し)、家屋譲渡(の不成立)につき、相続人として調査を行っても知り得る状況になかったとして(あわせて預け金は共同相続人に対する贈与であるとして)、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に対する取り消しを求めたものである。主に贈与としての認定の是非及び、相続財産の把握につき、正当な理由があって、不備があったことを肯定できるものであるのかという点が争点となっているものである。相続税の申告の現場においてはおそらく、珍しいものではないものであろうが、被相続人預金からの引き出しがあった場合における対応や資産譲渡の成立の有無が対象となっているものであり、従前の事例と特に相違があるものではないのかもしれない。ただし、多くの場合、通常、このようないわゆる預け金に関しては、被相続人の債権として処理して相続財産に含まれるものとして考えることが中心であったが本件では、贈与としての実質を備えているのか否か(みなし贈与)という点から主張がなされていることは興味深いものである。判断では、この部分は、その適用を否定されているが、近年の高齢相続において預金管理が俎上に上がることが多い中では別アプローチとして検討する枠組みが上がっているのかもしれない従前ではこのような処理はどのように処理されているのか実務家に聞いてみたいところ。

本件の事実関係のもとでは、共同相続人が被相続人の死亡前から継続的に引き出した預金(6000万円超)が不当利得であり、預け金ではなく、みなし贈与となるのかという点から争われているが、租税負担の回避を防止する趣旨であり、かかるような贈与と実質的な贈与と同様のものとして評価できるのか否かという点から判断が行われ、否定されている。

また、過少申告加算税の宥恕としての正当な理由としては、下記のように最判を用いて、
「過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置と解される。この趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決民集60巻4号1611頁参照)。」

真に納税者の責めに帰す事ができない状況にあることを求めており、公平負担を考慮してもなお、不当等と評価されうるものであることを求めている。
この状況が如何なるものとして判断されるのかという点が事実関係のもとで、争点となっている。本件も含め特に問題となるのが、相続人間の紛争がある状態にあることが前提となっていることである。従前から紛争状態にあるものとそうではない状態であることの場合に対して、当然のことながら、財産把握の程度などにおいて差異が発生することは現実的には否めない。しかしながらこのような紛争の状態は相続人間の事情であり、この事情を考慮するのかという点は納税者間の公平性を確保している趣旨からは、受け入れがたいものと考えざるを得ないものといえよう。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(令和2年3月3日裁決、滞納処分の執行停止取消処分)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年3月3日裁決で、処分庁がなした滞納処分執行停止を取り消したことを不服として提起された事例です。

具体的には、最近手に入るようになった地方税に関わる裁決事例からであるが、本件は滞納者たる請求人(納税者)が自己の滞納債権につき、滞納処分の執行を停止されていた状態にあったが、軽自動車の所有等の財産状況が調査によって判明したことから、かかる停止の取り消しを受けたことから生活困窮である状況は継続しており、かかる不服を申し出た事例である。判断としては処分庁の処分は取り消されている。

基本的な争点は、執行停止取り消しの下記条件が充足されているのか否かである。このような滞納処分の執行停止が争われること自体が珍しい(紛争としては、実際には非常に多いのかもしれないがこの辺は実務家に聞いてみたいところ)が、国税徴収法と同様の解釈を巡って、具体的な事実関係において、財産の有無や生活の窮迫度合いが中心的な争点となっている。判断としては、処分庁の調査不足を理由に処分の取消を行っている。

(滞納処分の停止の取消)
第十五条の八 地方団体の長は、前条第一項各号の規定により滞納処分の執行を停止した後三年以内に、その停止に係る滞納者につき同項各号に該当する事実がないと認めるときは、その執行の停止を取り消さなければならない。
 地方団体の長は、前項の規定により滞納処分の執行の停止を取り消したときは、その旨を滞納者に通知しなければならない。

以上のように本件の中心的な争点は地方税法が定める滞納処分の停止を取消す際の要件が如何なるものであるのか、本件の具体的な事実関係において充足されているのかという点が基本的な争点になっているものである。裁決文のみでは、必ずしも事実関係が明らかではない部分はあるが、下記具体的な要件のうち、生活を著しく急迫させる恐れがあるときという点についての判断が行われていないことが本件処分庁の取り消しが否定された要因となっている。


(滞納処分の停止の要件等)
第十五条の七 地方団体の長は、滞納者につき次の各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる。
 滞納処分をすることができる財産がないとき。
 滞納処分をすることによつてその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
 その所在及び滞納処分をすることができる財産がともに不明であるとき。
 地方団体の長は、前項の規定により滞納処分の執行を停止したときは、その旨を滞納者に通知しなければならない。
 地方団体の長は、第一項第二号の規定により滞納処分の執行を停止した場合においてその停止に係る地方団体の徴収金について差し押さえた財産があるときは、その差押えを解除しなければならない。

すなわち、生活保護とほぼ同意義に解される生活窮迫であるか否かという点について処分庁は判断せず、財産の把握ともともと営んでいた事業を再開したことを根拠とした処分であって、法定の要件に合致していないとの判断が行われたものである。生活保護と同程度であることをもって窮迫を捉えることが妥当であるのか(法令上の趣旨が異なるものと)という点が本件判断の基礎が逐条解説書にとどまっている点は懸念されるところであるが、本件は基本的に調査不足を基礎として判断を下しているが、窮迫という点を評価することは現実的には福祉部局の範疇であり、困難を伴うものであるのかもしれない。現実的には立証が困難なものであり、形式的な財産の存在をベースに判断されているような現行の処理実務が垣間みられるところでもあるが本件は明示的にこの点について否定したものであろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(令和2年9月4日裁決、役務提供のない支払手数料と仮装隠蔽)

 

また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年9月4日裁決で役務提供のない支払手数料の損金計上と重加算税の賦課決定処分が有効であるのか否かという点が争点となった事例です。

具体的には本件は、不動産業を営む法人である請求人が元代表取締役である(会長)からの指示により税理士に指示をして、不動産開発の共同事業者であった社に対して支払手数料(資金調達実施等に対する利益配分、共同事業に関する分配金)を実質的な役務提供がなされていないにも関わらず支払ったものとして損金計上を行ったことは、課税要件等に関する仮装隠蔽等に該当し、もって重加算税の賦課決定処分を受けたことを不服として提起された事例である。

基本的に実質的な経営を担う存在であった元代表取締役(きれいな世界ではこのような存在はイメージし難いが租税の世界ではよく出てくる、おそらく実務の世界ではこのような意思決定権限者の存在が如何に認定されるのかという点が課題なのでしょう)が本件の契機となった支払手数料を支払うべき義務を有していたことの認識の有無が、

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

上記重加算税の要件たる税額の計算の基礎たる事実を隠蔽仮装に該当するのか否かという点が中心的な争点となっており事実認定の問題となっている。判断としては珍しく、課税庁の処分を否定し、仮装隠蔽の成立を否定し、納税者の主張を認めたものであるが、その根拠は書面による、合意文書の存在を基礎として、納税者の主張、意思の裏付けとしている。故意に事実を曲げて損金の計上を行ったものではなく、支払義務があったことを否定する「可能性が全くないとまではいえない」という表現で事実関係を認定している点が興味深いが、最近は裁決レベルでも司法と同様に文書資料を重視した事実認定、証拠調査が反映されているものとも考えられ、実質的なという表現で進んできた租税実務も少し客観的な資料を重視するような形で変化してきているのかもしれません(課税庁の処分を否定した事例を参照しているからなのかもしれませんが)。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2022年1月4日火曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年11月19日、米国不動産の帰属、共有関係の判断)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年11月19日で米国不動産の帰属が争われたものです。

具体的には、本件は相続人たる原告(夫が被相続人)が相続により取得した米国の不動産(被相続人単独名義)につき、登記名義とは異なる共同持分を有していたとして、持分部分を減額した評価額にて、相続税の確定申告を行ったことに対して、主張なような共有関係を否定した課税庁による更正処分等を不服として提起された事例である。契約関係書類や登記名義による、被相続人単独名義とは異なる夫婦による共有関係が事実として存在しているのか否かという点が中心的な争点となっている。基本的には共有の事実関係をめぐる事実認定の問題であり、相続税の基本となるべき財産関係の帰属、評価に関わる典型的な事例の一類型といえよう(立法的には夫婦財産の共同稼得と相続対応は検討されるべきであろうが)。本件の特徴は、米国の不動産の帰属関係を巡る訴訟である点であり、日本とは異なる米国における不動産の背景、米国遺産税の申告状況等の反映が如何に事実関係を考える上で、特徴的であり近年では米国への不動産投資も増加傾向であり、参考となるべきものであろう。

判示では、基本的に遺産分割協議書や米国遺産税申告書、登記名義といった客観的な書証により、共有であった(その合意があったとする)納税者の主張を排斥している。客観的な資料に加え、原告の意思表示が付与された書証であり、非常に強固な資料として、扱われているものであろう。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。