2021年11月27日土曜日

判例裁決紹介(東京高判令和3年9月8日、成年後見人と同一生計、小規模宅地等の特例の適用範囲)

 

また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和3年9月8日で、成年後見人を務めていた相続人が取得した財産に対して小規模宅地の特例を適用するにあたり、適用要件たる同一生計にあったものであるのかという点が争いとなった事例です。

具体的に本件は、納税者たる控訴人が営む大工業の事業の用に供していた土地(事業供用に関する事実に関しては争いはない)を相続により取得し、小規模宅地等の特例による相続税評価額の減価を適用して申請したところ、被相続人と生計を一にするものではないとして当該特例の適用を否定されたことを不服として提起されたものであり、本件特例の適用対象となる同一生計にある親族等の事業の用に供されているものが如何なるものであるのか、その範囲、そして同一生計に対して成年後見人になっていることを如何に判断されるのかという点が基本的な争点になっているものである。

地裁は納税者の主張を退けたが、控訴審では、納税者の主張にもあるように、同一生計を所得税法と同様に非常に広く捉え、その適用対象を判断されるべきとの主張を中心に争いが行われたが、控訴審も同様に納税者の主張を退けている結果となっている。

民事法における成年後見人制度は、我が国の高齢社会の進行に対する取引面生活面を支える重要な法的なツールとして導入が図られたものであるが、その活用も増加傾向にあるものである。この制度適用されている場合における租税法規の適用がいかなる判断、認定を受けるものであるのかという点はまだ定まっていないものである。本件は地裁も含めこの制度適用における事例として、また、小規模宅地等の特例という最も基本的な相続税における租税特別措置の適用要件における対象事業の範囲を示すものとしても先行事例として非常に有益な事例であるように考えられるものである。

本件でも問題の中心となる生計を一にするという法文の解釈、事実認定は、古くて新しい論点であるが、所得税法や相続税法、幅広くその論点が存在するものであり、両法規の相違も含め本件は重要な事例であろう。

小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
第六十九条の四 個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(第三項において「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。同項において同じ。)の用又は居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由により相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める用途に供されている場合を除く。)における当該事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用を含む。同項第二号において同じ。)に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。同項及び次条第五項において同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるもの(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に限る。以下この条において「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下この項及び次項において「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下この項において「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法第十一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。

以上のように、本件の中心的な課題は、上記租税特別措置法に定める小規模宅地等の特例の適用要件として被相続人等の事業の用に供しているか否かという点を基本的な充足しているのかという点にある。所得税法においても問題になることの多い生計を一にするという要件を充足しているのかという点が中心的な争点となるものである。被相続人に対する成年後見人として相続人が担当しており(報酬は法定されているが受領せず)、このような事実関係において、同一生計にあるのかという点が地裁から争点となっているものである。

判示ではこの同一生計に関して基本的な生計を支えている状態を含まれるものと理解しており、この点は争いがない、ただし、基本的に生計を支えるという点においても幅が含まれる概念であって、この点を如何に認定されるかという点が基本的な争点と言えよう。判示では所得税法との同一性を明確に否定しており、この点は所得税法と相続税法の相違から合理的なものであるものと考えられるが、具体的な判断において生計を支えているという点に焦点を当て、同居扶養や生活費の管理負担などによって判断されている従前とは距離が置かれている印象がある。この点は、私見ではあるが事業用資産であるものが相続財産の対象である以上、事業が生計と、生活費へどのように影響していたかを中心に判断されるべきものであると考えられる。この点からは同居などではないが、成年後見人という制度自体は、法的な取引判断の後見を行うものであり、金銭的なものに限定されるものではないが、生計概念は事業に伴う、生活費など金銭的な負担に軸足をおいているものと判断されるべきであろう。判示でも示されているように、成年後見人にあることが直接的な同一生計の裏付けではないということは実務上も留意されるべきものと考えられる(後見している以上、日常の管理等においてサポートをしている点は想定されるが生計、生活費を支えているとは必ずしも言えないという判断であろう)。立法に属するものではあるが、空前の高齢社会を前提とするならば種々の租税の判断においても(認知症の増加なども想定されるが)、従前と同様の判断の枠組みで良いのか、種々の制度の特徴(利益相反等)も踏まえ、更に検討をすすめるべきものと考えられる。

「被相続人(中略)の事業の用(中略)に供されていた宅地等」については、被相続人の生前から一般にそれが事業の維持のために欠くことのできないものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であることを踏まえて、相続財産としての担税力の有無に着目し、相続税負担の軽減を図ることとしたものである。その結果、本件特例の適用により、中小企業の円滑な事業承継が促進されるという効果が期待されるものの、それはあくまでも副次的な効果にとどまるものというべきである。」

判示では上記のように、基本的な制度趣旨を事業維持のための処分制約から財産の担税力の減少にその所以を求めている。担税力という概念自体が明瞭なものではなく、かかる点に依拠した判断は困難であるようにも考えるべきであろうが、本件の趣旨としては生計を支えている事業の実施に関して、必要とされる土地であり、処分に制約があることから、相続時点の財産価値の減少を図るべきものとして理解されるべきであろう。納税者の主張にもあるが、事業承継の促進等の効果もあろうが、かかる点は主要な趣旨としては理解されないという点は趣旨として賛成される。

「本件特例にいう「被相続人と生計を一にしていた」相続人「の事業の用(中略)に供されていた宅地等」とは、上記のように、相続人の生計だけでなく被相続人の生計をも支えていた相続人「の事業の用(中略)に供されていた宅地等」を指すものと解するのが相当である。
これに対し、相続人が被相続人の有する宅地等で事業を営んではいるものの、これによって被相続人の生計が支えられていない場合には、相続人の営む事業は被相続人の生計とは関係がないといえるから、被相続人が、生前、相続人「の事業の用(中略)に供されていた宅地等」を処分することには制限がなく、当該宅地等に担税力の減少は生じていないことになる。したがって、このような場合は、相続人が相続した財産における担税力の有無に着目して、相続税の課税価格に算入すべき価額を軽減することにより、相続人の相続税負担の軽減を図るという本件特例の趣旨は妥当しないから、本件特例を適用することはできない(なお、前記のとおり、本件特例の適用により、その結果として中小企業の円滑な事業承継という政策目的が促進されるという効果が期待されるものの、それは副次的な効果にとどまり、本件特例の趣旨はあくまでも担税力の減少に対する配慮にあるから、円滑な事業承継の実現自体が独立して本件特例の趣旨に当たると解することはできない。)。」

判示では、上記のように、制度趣旨から、相続人の生計ではなく、被相続人の生計を支えていることをその対象とすることとしている。同一生計であることから導かれているものではあるが、かかる判断から被相続人の生計に関わりがなく、相続人の生計を支えるに過ぎない事業に関しては、処分制約がないという判断である。同一生計を基本とする以上、このような判断が導かれることは形式論理としては一定の合理性が導かれようが、被相続人が相続人の事業に供されている用地の処分において、自己の生計とは関わりがなく、処分制約がないという基本的な前提は理解し難い。趣旨として相続人の取得した財産の担税力という視点に着目するならば、事業供用において処分制約が存在していることは否定し難いのではないだろうか。この点は負担軽減範囲を如何に捉えるべきであるのかという立法政策の課題であるのかもしれないが、被相続人と相続人のいかなる立場から検討するかによって判断が異なるものであり、些か不安定な要件でもあろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年11月17日水曜日

判例裁決紹介【東京地判令和2年11月12日、相続直前の借り入れ等と財産評価基本通達総則6項の適用】

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和2年11月12日で、相続直前に借り入れ等を行って購入した不動産等に対する評価額における乖離に対して財産評価基本通達総則6項の適用が問題となった事例です。

具体的には、本件は相続人たる原告が相続により取得した(相続直前に15億借入、購入した高級マンション、短期間で売買を繰り返している)不動産に対して通達評価に基づく相続税申告額(借入債務は、債務控除適用)と不動産鑑定評価において大幅な乖離(約6億)あることから、財産評価基本通達総則6項(みんな大好き)の適用が行われ、評価額の引き直しとそれに基づく更正処分等を行ったことを不服とした事例である。事例としては最近特に適用が増加し紛争が起きている財産評価基本通達に基づく評価の機能不全(大幅な乖離)に伴う評価の引き直しが適当であるのか否かという点を中心的な争点とするものである。相続税の基本たる財産評価、特に最近適用事例が増加している(不毛と評価されることもあるが)いわゆる総則6項適用が問題とされている一連の類型に属するものである。短期間で対象不動産の売買を繰り返し、周辺とは乖離した相場の売買、資産状況(高級賃貸マンションで、入居者あり)等が考慮要因とされうるものであるが、総資産の3/4に当たる多額の借り入れを肺がんで入院中に実施し、相続対策のプランニングの意図が見え隠れするものであるが、かかるような事例の下、いかなる評価が適当であるのか(そもそも財産評価というよりはプラニングによる不当な租税負担の減少を捉えることが行われないのはなぜだろうか)、という税務事例として興味深いものであろう。


6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

というように、古典的な総則6項の適用が課題視されているものである。古くて新しい問題であるが、著しく不適当とは如何なる状態を指すものであるのかという点が起点となっている。そもそも通達評価においては、短期間での売買や、相場の上昇を捉えることができないことは限界とも考えられるが、
この点については判示は、下記のように、
「評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方法によることが許されるものと解すべきであり、このことは評価通達6の定めからも明らかである。すなわち、評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情がある場合には、他の合理的な時価の評価方法によることが許されるものと解するのが相当であり、このような「特別の事情」が存する場合とは、評価通達に定める評価方法を形式的・画一的に適用することによって、かえって納税者間の実質的な租税負担の公平が著しく害されることとなるような場合をいうものと解すべきである。」

として、実質的な租税負担の公平をその基本的な意図として総則6項を理解している。これに基づき、実質的な租税負担の公平性を損なうような特別の事情があるのか否か、という点に対して(上記のように通達評価の限界を主張するのではなく)、相続税負担の減少(3億円)、や総資産の相当割合の借入の実行など経済合理性の有無の観点から判断が行われている。

この特別な事情とは如何なるものであるのかという点は、従前同様本件でも必ずしも明確ではないものとも考えられるが、経済合理性の有無が判断基準となりうるのか(専ら租税回避の認定に使用されているようであるが)、という点は相続税が要求する時価の解釈として適当であるのかという点は検討が必要であろう(財産評価基本通達の趣旨も考慮して)。私見としては公平性を基礎としたものであり、安定性にかけるものであるように考えられるが、形式的平等、評価の均衡の観点とのバランスの問題であるのかもしれない。そもそも総則6項は予測可能性の保護の枠外であるとも評価しうるが、このように考えるならば通達にそのような根拠を置くべきではなく、法において、引き直しの根拠を明確とすべきであろう。


本件では、最終的には評価額の乖離に加え、事項された取引が相続直前の短期間に購入決定されている点などを考慮したプランニングの要因が特別な事情を裏付けているものと言えよう。金額の乖離そのものではなく、対象資産の取引環境などが考慮要因になって特別の事情の成立が裏付けられていることは改めて認識されるべきである。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年11月6日土曜日

判例裁決紹介(横浜地判令和2年2月26日、カイロプラクティック事業と事業税の業種判断)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、横浜地判令和2年2月26日で、カイロプラクティック事業が個人事業税における請負業として該当するのか否かという点が争点となった事例です。

具体的には、本件は原告が個人として営むカイロプラクティック事業が地方税法上の事業税の対象となる事業区分において、いかなる業種区分、第1種(請負業)もしくは第3種(医療類似事業)に該当するのかという点が中心的な争点となっている事例である。カイロプラクティック事業がその区分が問題になっていることは耳にしているものの、個人的にマッサージに興味がないの正直今回、この判決でその事業の中身を知ったところではあるが、医療に類似するものとしても特段免許等を必要とするものではなく、また定義が明確なものではなく、最終的に如何に事業区分が事業税において判断されるのかという点は事業の実態に依拠するものの、社会通念にしたがってその適否を争う他なく、事業税の判断において、どのように判断を行うことになるのかという判断プロセスは、本件の展開が参考となるものであろう。特に、事業環境が変化して、個人が営む事業の多様化が図られている現況では、あるいは趣味的な事業も拡大している現況も鑑みるならば、処分庁においても具体的な事業の判断のプロセスは検討が必要となってくるだろう。本件では医療類似の第3種事業に該当するのであれば低税率であることもあって、納税者はその該当を主張しているが、この免許を不要な事業の取り扱いを如何に捉えるべきであるのかという、地方税法の立法趣旨に関する検討が必要となってくるだろう。

(事業税の納税義務者等)
第七十二条の二 
 個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課する。

十四 請負業

10 第三項の「第三種事業」とは、次に掲げるものをいう。
 医業
 歯科医業
 薬剤師業
 削除
 あん摩、マツサージ又は指圧、はり、きゆう、柔道整復その他の医業に類する事業(両眼の視力を喪失した者その他これに類する政令で定める視力障害のある者が行うものを除く。)

以上のように本件は、あまり普段お目にかかることのない、地方税法における事業税の事業区分が課題となっているものである。判断の順序としては請負業に該当するという判断の後に第3種事業ではないという判断が重なる必要性が判示されている。

判示では、課税庁が主張したように、租税法規における請負業の意義を非常に拡張的に解釈する、法人税法の収益事業における請負業の判断の枠組みも元に(請負契約にとどまらず広範囲のものを含む)、また、事業税の課税趣旨、制定経緯(営業税から広範囲を対象として、基本的にあらゆる事業を含むものと)から非常に広範囲の対象を請負業に求める見解の主張に対して、明確な判断を示していない。物理的な物の完成にとどまらず、役務提供における完成物の提供もまた対象となりうるものとしている点で、広範囲を対象として請負業として捉えているようにも考えられるが、直接的には、民事法の枠を超えた判断を本件の解釈には適用していないものとも評価できる。明確に否定されているわけではないので本件の事実関係の下では、基本的には民事法の請負の適用を議論すればよく、蛇足的なものとして言及を避けたものとも推定されるが、処分行政庁の主張にあるような広範囲を請負業において含めうるものであるのかという点は地方税法の事業税においては、まだ検討の余地があるものと考えるべきであろう。

私見としてはあくまでも先例的な法人税法における請負業が民事法の枠組みに限定される非常に拡張的な意義を持つものであることは、あくまでの収益事業の範囲を見定めるものであり(イコールフッティングを基礎とする)、本件の対象となる地方税法の事業税において、その範囲の検討において根拠として成り立ちうるものであるのかという点は疑問であるものと考えられる。文言は同一でも基本的な背景、趣旨が異なるものであり、租税法規として統一的な検討を促すものではないだろう。ただし、事業税の立法経緯からは課税庁が主張するように、限定列挙されているといえど、課税を広く事業に及ぼす趣旨であり、結果として請負業において対象範囲を民事法に限定された解釈にとどまるものではないのではないかと考えているが、この点は更に事業税の趣旨目的の検討が必要な部分であろう。

第3種事業の医療類似が基本的に免許制度を前提としたものであるというのは(限定的な解釈かもしれないが)、他の列挙とも整合的であり、合理的なものであると考えられる。そもそも適用税率が類似事業において低い可能性があることは、いかなる立法措置であるのかという点は現在の事業環境からは検討の余地があるものとも言えよう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2021年11月1日月曜日

判例裁決紹介(令和2年12月15日裁決、みなし役員の認定、役員退職金の否定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年12月15日裁決で、退職金の損金算入を否定する退職の事実関係や、みなし役員としての認定が基本的な争点となった事例です。

具体的には本件は、法人たる請求人がH24年に退職したとした(登記も完了した)代表取締役に対して支給した退職金(約7億)の損金としての該当性が問題になったものである。総額で約7億を超過する(金額としては欠損金の適用と整合させているとの主張もみられるが)金員の損金該当性が問題になった事例であり、他にも送達の有効性や処分理由の提示の課題も争点として扱われているが、基本的に退職金の支給の前提となる退職の事実があるのか否か、すなわち退職したとした日以降も実質的に経営に従事、関与していたのか否か(みなし役員として該当するのか否か)という点が中心的な争点となっているものである。対象となった元代取は、退職後にシンガポールに移住し、実質的に経営状況に如何にして関与しているのか(後任は妻と娘)、という点が如何にして認定されるのかという点が重要な点であろう。

通常、役員退職金が争点となる場合は、本件の退職の事実関係が争われるものと、退職金の相当額が争われるものであるが、本件では7億を超える支給でありながら、相当額に関しては争点としていない。この点は何かしら理由があったものであろうが、いささか不自然であろう。何れにせよ本件は、本件の事実関係において法的評価として退職したものと評価できるものであるのか否かという点が問題であり、かかる点からは古典的な論点でもある。しかしながら詳細な事実関係の認定を通じて、国外転居や遠隔地からの経営参加状況など現代的な役員退職金の判断状況が見いだされている点は特徴的でもあり、今後の実務においても参考となるべきものであろう。端的に課税庁が主張した実質的な経営に従事しているとした判断の枠組みに対する主張が全面的に排斥されている点も興味深い点と考えられる。

法人税法第2条
十五 役員 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものをいう。

以上のように、本件の中心的な争点は、退職金の支給対象となった元代取が、形式的には退職していたとしても(登記等で確定)、上記法人税法2条のいわゆるみなし役員に該当して、実質的に退職していないもの評価される状況であるのか否かという点が論点となっている(厳密には職務分掌の変更も問題となりうるが、今回は対象となっていない)。

すなわち経営に従事しているのか否かという点が、如何に解釈されるべきものであるのかという点が法令解釈上のベースとなっている。

「法人の経営に従事している」とは、法人の事業運営上の重要事項に参画していることをいうと解される。そこで、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、請求人の経営に従事、すなわち、請求人の事業運営上の重要事項に参画しており、実質的に退職していないと認められるか」

一見すると経営に従事とは、シンプルな要件であるが、経営という用語は多義的であり、包括的な行為を指し示すことから不確定概念であり、その判断は必ずしも容易ではない。本件も総合的に経営に従事しているものであるのか(特に遠隔地に居住している点が近年にはない状況であろう)、という点から事実関係の評価が争いになっているものである。本件判断では、上記のように経営においては事業運営上の重要事項に参画しているという点がメルクマールとして示されているが、重要性をどのように理解するかなど、いささか不安定な要件であり、退職の事実を指し示すように準備を整える上で(本件のように7億を超える退職金の支給においては当然のように準備が行われ検討されているだろう)、立証の課題がつきまとう。

特に本件のような所有と経営の分離がかならずしも徹底されていない中小企業では(特に我が国の場合は、)株主としての権限、意思決定が経営と密接に結びついていてその従事関係を判断することは困難である。私見としては株主としての位置づけがある以上、経営への関与が想定され退職の事実を実質的に認めがたい可能性があるようにも考えているが、経営に従事すなわち重要事項に関与しているのか認定する方法は本件でも安定的ではない。

最終的に課税庁の主張する経営会議への参加や指示、金融機関との交渉、新規事業への参入の意思決定等の側面において、必ずしも元代取の関与が認定されず、本件は客観的には関与が明らかではないとして課税庁の主張を排斥し、損金性を肯定している。このような事実関係の評価の観点も本件において重要であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。