さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年6月20日裁決で、貴金属店を営む請求人が盗難事件にあったことによる損失を必要経費に入れていたことにつき、帳簿未保存による青色申告の取り消しと必要経費計上を否定した事例です。
具体的には本件が請求人が貴金属店を営んでいたところ、盗難事件の被害にあい、各種貴金属(色々と書かれていたのですが私にはよくわからないものです)の仕入原価等を盗難経費として必要経費に該当するものとして計上していた事実関係において、かかる盗難経費が必要経費に該当するものであるのか否かが争点となっているものである。帳簿未保存からの青色申告の取り消し、そして、必要経費の否認というながれをとっているので、理由の提示等が直接的な争点になっているものではないものの、必要経費としての該当性をいかに具体的に誰が立証の責任を負うものであるのかという観点から判断が示されており、近年の傾向特徴を表している裁決事例であると考えられよう。
裁決では、下記のように判断して、納税者の立証責任を拡大して、本件でも盗難経費の計上を否定している。
業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に
要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生
ずべき業務について生じた費用の額であるところ、課税標準である各種所得
の証明責任は原則として課税庁の側にあると解すべきであり、事業所得の金
額が総収入金額から必要経費を控除する方法により算出されることに照らせ
ば、収入金額についてはもちろん、原則として必要経費についても誤税庁側
に証明責任があると解される。
しかしながら、申告納税制度の下における納税者は、税法の定めるところ
に従った正しい申告をする義務を負うとともに、税務調査に際しては、その
所得金額認定の基となる取引の実態を最もよく知るものとして、資料を提示
し説明する義務を負っていると解すべきであること、所得税法が、事業所得
を生ずる納税者に記帳義務や帳簿・証ひょう書類等の保存義務を課している
こと、必要経費が納税者にとって有利な事実であり、その証ひょう書類を取
得して保存し、帳簿に計上することが極めて容易であることからすれば、上
記の各義務を負担する納税者が、税務署長が合理的と認められる方法により
把握した必要経費以外の必要経費が帳簿外に存在すると主張する場合には、
当該納税者においてその存在及び価額を具体的に立証する必要があると解す
るのが相当である。
上記のように、必要経費に関する証明、説明責任(訴訟段階ではないが立証責任と捉えるべきであろう)は、所得税法が記帳義務や証憑等の保存義務を定めている点から更に申告納税を根拠に具体的な立証責任を納税者側が有しているという点を明確に示している。記帳義務に関する法規定が変化している点も考慮されるべきであるが、納税者自身がやはり必要経費に関しては手元に保有しており、特に帳簿外の経費が存在する場合には、納税者側に立証の責任があるものと解している。これは帳簿記帳の法定等を考慮したものであり、事実上、従来納税者ではなく、課税処分には基本的に課税庁にその立証責任があると解してきた状況を変化させるものであり、納税者に立証責任が転嫁される可能性を租税の専門家としては認識しておくべきものであろう。私見としても本件では必要経費に関する部分であるが、帳簿を一つの判断材料としているものであり、かかる点を基軸に立証責任の分配が行われることが、近年の特徴として理解されるべきものと考えられる。一律に課税庁にその責任を負うべきものとして理解するのではなく、本件のようにその責任は証拠との距離、特に帳簿を基準に分配される可能性があることが帳簿を作成する段階で認識しておくことが、法改正により、青色申告に限らず記帳義務が課せられていることの意義として理解されるべきであろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。