2021年6月29日火曜日

判例裁決紹介(令和元年6月20日裁決、盗難経費の必要経費該当性と立証)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年6月20日裁決で、貴金属店を営む請求人が盗難事件にあったことによる損失を必要経費に入れていたことにつき、帳簿未保存による青色申告の取り消しと必要経費計上を否定した事例です。

具体的には本件が請求人が貴金属店を営んでいたところ、盗難事件の被害にあい、各種貴金属(色々と書かれていたのですが私にはよくわからないものです)の仕入原価等を盗難経費として必要経費に該当するものとして計上していた事実関係において、かかる盗難経費が必要経費に該当するものであるのか否かが争点となっているものである。帳簿未保存からの青色申告の取り消し、そして、必要経費の否認というながれをとっているので、理由の提示等が直接的な争点になっているものではないものの、必要経費としての該当性をいかに具体的に誰が立証の責任を負うものであるのかという観点から判断が示されており、近年の傾向特徴を表している裁決事例であると考えられよう。

裁決では、下記のように判断して、納税者の立証責任を拡大して、本件でも盗難経費の計上を否定している。

事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、その年における事
業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に
要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生
ずべき業務について生じた費用の額であるところ、課税標準である各種所得
の証明責任は原則として課税庁の側にあると解すべきであり、事業所得の金
額が総収入金額から必要経費を控除する方法により算出されることに照らせ
ば、収入金額についてはもちろん、原則として必要経費についても誤税庁側
に証明責任があると解される。
しかしながら、申告納税制度の下における納税者は、税法の定めるところ
に従った正しい申告をする義務を負うとともに、税務調査に際しては、その
所得金額認定の基となる取引の実態を最もよく知るものとして、資料を提示
し説明する義務を負っていると解すべきであること、所得税法が、事業所得
を生ずる納税者に記帳義務や帳簿・証ひょう書類等の保存義務を課している
こと、必要経費が納税者にとって有利な事実であり、その証ひょう書類を取
得して保存し、帳簿に計上することが極めて容易であることからすれば、上
記の各義務を負担する納税者が、税務署長が合理的と認められる方法により
把握した必要経費以外の必要経費が帳簿外に存在すると主張する場合には、
当該納税者においてその存在及び価額を具体的に立証する必要があると解す

るのが相当である。

上記のように、必要経費に関する証明、説明責任(訴訟段階ではないが立証責任と捉えるべきであろう)は、所得税法が記帳義務や証憑等の保存義務を定めている点から更に申告納税を根拠に具体的な立証責任を納税者側が有しているという点を明確に示している。記帳義務に関する法規定が変化している点も考慮されるべきであるが、納税者自身がやはり必要経費に関しては手元に保有しており、特に帳簿外の経費が存在する場合には、納税者側に立証の責任があるものと解している。これは帳簿記帳の法定等を考慮したものであり、事実上、従来納税者ではなく、課税処分には基本的に課税庁にその立証責任があると解してきた状況を変化させるものであり、納税者に立証責任が転嫁される可能性を租税の専門家としては認識しておくべきものであろう。私見としても本件では必要経費に関する部分であるが、帳簿を一つの判断材料としているものであり、かかる点を基軸に立証責任の分配が行われることが、近年の特徴として理解されるべきものと考えられる。一律に課税庁にその責任を負うべきものとして理解するのではなく、本件のようにその責任は証拠との距離、特に帳簿を基準に分配される可能性があることが帳簿を作成する段階で認識しておくことが、法改正により、青色申告に限らず記帳義務が課せられていることの意義として理解されるべきであろう。


以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2021年6月22日火曜日

判例裁決紹介(平成31年4月19日裁決、条件未達成の権利の相続財産該当性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成31年4月19日裁決で、請求人が相続により取得した和解による和解金を受領すべき権利(債権)が和解の条件を未達成であり、かかるような状況でも相続財産に該当するのかという点が争点となったものである。

具体的には、本件は請求人たる相続人が当該相続税申告において、未申告であった被相続人が受領する和解金の権利が、相続時点において、支払を受ける条件を未達成であり、いわゆる(停止条件付権利)であって、相続財産を構成するものではないとしていたものに対して調査により、当該権利も相続税を構成するものであるとした処分が行われ、不服を提起したものである。

本件ではいわゆる相続税における基本となる相続財産がいかなる範囲であるのか、課題となる権利が相続財産を構成するか否かという点が争点となっているものである。本件は、和解金の受領という(10億)という停止条件付の権利であり、相続時において、和解の条件が達成されるか否か、未確定であり、条件未達成の状態にあったものである。この権利を相続対象に含めるべきであるのか(おそらく一般の納税者の感覚ではこのような曖昧模糊として権利はその対象とすることに違和感があるのであろう)、そしていかに評価されるべきであるのかという点が中心的な争点になったものである。相続財産の範囲の確定はごく基本となるべきものであり、租税の専門家においては当たり前であるのかもしれないが、このような抽象的な権利、未確定な状態である権利が課税対象になるのかという点が争われたものとして参考となるべき事例であろう。特に課税庁の主張を認め相続財産の範囲としているが、具体的な評価方法において、異なる判断を下しており、かかる事実認定とのバランスは参考となる事例ではないだろうか。


相続税の課税財産の範囲)
第二条 第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。

以上のように、本件は上記相続税法2条に定めのある、相続財産の範囲をいかに捉えるべきであるのかという点が争点となっているものである。裁決は、以下のように解釈を示して、相続財産の広範囲であることを基礎に本件権利の課税対象としての導出が行われている。法は上記のように財産の全部という表現で定めるだけで如何なるものが課税対象として該当するのかという点は、実は不明確な概念であるが、下記のように判例としては、非常に広範囲を対象としている(その根拠としては如何なるものであるのか、そもそも相続税の趣旨に関わるものであり、必ずしも明確ではない)。社会通念に委ねるような表現でもあり、実務上も指針としても本件の権利をはじめ、近年多数の取引が行われているような比較的未確定、処理方法が定かではない、新しい取引、財産、最近はNFTとかも出てきているようで、このような権利の譲渡が担保されるような環境下で、どのように租税法として対応していくことになるのかという点は重要な課題でしょう。本件でも問題になっているが法解釈上、単に範囲が広いというだけでは問題は解決しないので、どのような評価方法とするのかなど、重要な論点は多数に上るものと考えられる。

「相続税法第2条第1項は、相続税の課税財産の範囲を「相続又は遺贈により取得した財産の全部」と規定しているところ、これには特に限定は付されておらず、また、同法は「財産」についての規定を設けていないから、社会通念上財産と認められるものは、原則として、全て相続税の課税財産に含ま
れると解される。
もっとも、相続税法上の「財産」とは、これを課税価格に算入する必要上、金銭的に評価することが可能なものでなければならず、そうすると、相
続税の課税財産は、金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのものをいい、既に存在する物権や債権のほか、いまだ明確な権利とはいえない
財産法上の法的地位なども含まれると解するのが相当であり、これには、相続開始時において期限未到来の始期付権利や、条件未成就の停止条件付権利
も含まれると解される。」

上記のように法令解釈上は非常に広範囲のものを相続税の対象としていることは賛意を示すことができよう。そもそも論として具体的な範囲が定まっていないことを問題視する意見もあろうが、上記のように相続財産を構成するものが多様化している現況下においては致し方ないものであり、まずは広範囲のものをいかに評価するべきであるのか、という点が重要であるのかもしれない。ただし、相続税法上は特に債務控除において、明確に確定しているもののみを対象としている点と比べると課税対象となる相続財産の判定はバランスを欠くという指摘もあり得ようが、立法上の課題であろう。

本件では、最終的に権利の評価において、権利の契約金額ではなく、一定の評価を行い、権利の評価を行う形での結論を導いているが、このような点が実務上は重要な論点になるのであろう。未確定な存在であるがゆえに、評価を実施することは非常に困難であるという点を言うだけでは問題が解決せず、具体的な評価方法をいかにとらえるのか、客観的な交換価値という法令解釈との整合性の課題も含め、近年の多様な資産環境においてはこの点を如何に確定させるのかという点は実務をつかさどるうえでは欠かすことのできない視点であるように思われる。

本件は相続税の基本となる相続財産の範囲及び評価という事例が混在している事例であり、有力な事例研究のティーチングケースとしてとらえることができるものと考えられる。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2021年6月14日月曜日

判例裁決紹介(令和2年3月10日、修繕費の前倒し計上と仮装)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年3月10日裁決で、損金として前倒し算入した修繕費の計上が仮装に該当するのか否かという点が争点となり、課税庁の主張が排斥され、認められず納税者の主張が認められた最近では珍しい事例です。

本件は事案としてはシンプルで、請求人が法人の損金として算入した修繕費に関して、調査により年度末において未着工であるとして請求書等の日付に基づき損金として計上した処理は、事実の状況と異なる請求書等の発行を促し、経理処理、申告処理を行っているとして、仮装隠蔽に該当するものであるとした課税庁の処分を不服として提起された事例であり、この事実関係における仮装として評価されうるものであるのかという事実関係の認定が中心的な課題となっているものである。

結論として裁決段階において、課税庁の主張が排斥され、仮装行為が成立していないとした判断である。この点は、本件の事実関係は請求書等に記載情報と実態の乖離、そして請求書等に基づく申告という、非常に一般的な事案が租税となっているものであり、どのような点が仮装としての評価にまで至らないものと評価されるのかという点を考える上では、実務上も参考となるものではないだろうか。

本件では年度内の日付が付与された請求書等の準備及び帳簿への虚偽の記載が主たる争点となっている。
まず、請求書の準備に関しては、施工業者が準備段階に入った段階で提出されたものであり、納税者から請求書の記載等を求めた通謀虚偽があったとまでは認められないとの評価であり、納税者と施工業者との間での通謀関係があるのか否かという側面から係る点の証拠等の提出がないことが判断の要因となっている。必ずしも準備段階において日付を付与した請求書の発行は便宜的なものであり、不自然であるとまでは評価し難いとの民事的な判断がベースになっている。

また、帳簿への記載に関しても納税者は関与しておらず、税務代理人が会計処理を行ったものであるという点を基本に(我が国の現況法人は大部分はここに該当することになるだろうが)、納税者に対して当該修繕費が損金対象とはならないとの認識があったものとは言い難いという点が評価されている。テクニカルな点において納税者が損金等の知見を有しているような状況は想定し難いものであるが、代理人の行為と納税者の行為を分断しているようにも捉えられる。税務代理という点は、現実的に通常の代理とは異なるものと評価しうるのかという点は気になるところであるが、このような租税専門家が関与するような状況はごく日常的なものであり、係るような背景から会計処理等における納税者の関与をどのように評価していくのか、仮装行為においては本件は検討の素材となるだろう。

いずれにしても、仮装という行為において重加算税を賦課することは、故意に事実を歪曲するような状態を基礎としている法解釈を背景としており、故意であるとの評価がなされるような事実関係にあるものではない、特に税務代理人が関与しているごく一般的な事実関係において、このような故意の成立を否定している判断の枠組み、行為と会計処理の両側面から判断していることはティーチングケースとして参考となる事例ではないだろうか。

以上です。毎回の如く備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに

2021年6月2日水曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年3月26日、法人代取の個人的費消と交際費否認)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和2年3月26日判決で、原告法人の代取が個人的に費消した交際費が否認された事例です。

具体的には、パチンコ等の複数の原告法人の代取が支出したクラブ(銀座らしいです)、ホステスさんとの同伴に関する経費(6000万超、一回あたり20万円を超えるらしい)を法人の損金として計上していた事につき、かかる経費は、法人の業務とは関連がない、個人的な費消であり、法人の損金としては認められないものであり、法人調査の指摘による貸付金への振替も含め、仮想隠蔽に当たるとして重加算税の賦課決定処分が行われたことを不服として提起された事例である。

法令解釈としては特段珍しいものではなく、修正申告における貸付金への修正、振替そのものも重加算税の対象としている点は珍しいものであるようにも考えられるが、本件はクラブホステスとの個人的な費消に関する費用を法人の損金として、特に交際費として適合するものであるのかという点が中心的な課題となっている事例であろう。時代錯誤のような事例でもあるように捉えられるところでもあるが、本件はこのような事実関係が未だに特段珍しいものではない点を楽しむべき、事案として理解されるべきであろう。

このような法人と個人の境界が曖昧なまま運営されているビジネス環境は特段珍しくないという点は、程度の差もあるところであるが、我が国の法人の大多数が中小法人であり、また赤字であることが大半とされていても、実態はこの種の私的費用が介在していることを租税に関わるものとして再認識すべきだろう。この辺がきれいな世界ではあまり想定されないところだろうし、租税に関わって初めて目にするところで、テキストではかかれない租税の世界の面白い、人間臭いところだと言えよう(生まれたときからどっぷり使っている私としては当たり前の感覚で、こんなところが俗世間にまみれている法律屋と呼ばれるだとは思うが)。

より具体的な主張においては、非常に多数のウイスキーが注文されていることが複数人による交際の証であるとか(原告主張)、法人の役員である代取の妻にホステスの写真(そもそもこのような写真まで準備するんだ・・・と思うが)を見せて交際費として確認しないとと課税庁の職員が発言していることが違法な調査に当たるとの主張がなされている点などは、実務での、現場でのやり取りが垣間見えるものであり、正直、読んでいてニヤッとしています(不謹慎ですが)。

何れにせよ朝一番に読むべき案件ではないようには思うが、我が国の租税の世界での事実関係の典型として理解されるべき事案ではないだろうか。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。