さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成31年1月11日で、同族会社への貸付金を相続により取得した場合における、財産評価、一部回収不能であるのか否かという点が課題となった事例です。
具体的には、本件は相続により請求人が取得した同族会社への貸付金をその相続税申告において計上せず、のちの調査によってかかる貸付金債権は、回収が不可能である、不能であるものであるとして評価を行うことはできないとして、更正処分が行われたことを不服として、特に一部は回収不能であることは明らかであるとして提起された事例である。
このような同族会社への貸付金は、いわゆる役員借入金として実務上、特に法人税法の世界ではごく当たり前に存在するものであろうが、これが相続税の財産評価においては、非常に厳格な評価(正直言うと、単に額面で評価されるというだけとも言えますが、他の財産と比して相続時における評価の余地がないことは確かでしょう)、を適用されることで、相続税のマネジメントの観点からは課題となることをよく表している事例であるように思います。中小企業のMAや事業承継などが課題となるような時代において、このような内部的な債権債務の存在は、今後の税務上のリスクであるという認識は租税専門家として常に意識されるべきものであるように捉えられる。
基本的には、当該貸付金が回収可能であるのか、一部でも不能であるのかという点が争点となっているものであるが、法人の唯一の債務であることなどが考慮要因となって、実質的に事業継続の妨げにならず、もって、回収不能の判断を適用すべきではないという点が中心的な判断の要因となって請求人の請求を棄却している。租税法規の伝統でもあるが、同族会社という存在を前提とした評価の事例であり、単に貸付金の回収可能性を議論しているものではないという点が、単に額面評価にとどまらず、本件のような貸付金評価における実質的な評価を導いていることは改めてその重要性を再認識されるべきであろう。
(貸付金債権の評価)
204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。
(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額
(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額
(貸付金債権等の元本価額の範囲)
205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。(平12課評2-4外・平28課評2-10外改正)
(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)
イ 手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引停止処分を受けたとき
ロ 会社更生法(平成14年法律第154号)の規定による更生手続開始の決定があったとき
ハ 民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の決定があったとき
ニ 会社法の規定による特別清算開始の命令があったとき
ホ 破産法(平成16年法律第75号)の規定による破産手続開始の決定があったとき
ヘ 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき
(2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額
イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額
ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額
(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額
以上のように、本件の中心的な争点は、財産評価基本通達における貸付金の原則元本評価である。財産評価基本通達は明示的に元本金額をもって貸付金として評価することとしているが、ただし、一部例外的な処置として回収不能である状態における評価減を認めているものである。ここに実質的な判断の余地を設けて現実の状況との比較衡量を図っていることが実務上でも課題となっている。その例外的な措置は、厳格に考慮されるべきであり、これは時価における客観的価値を要求する法の趣旨に合致しているものであろう。したがって、同族会社への貸付金においても上記通達が厳密に適用されるだけではなく(単に形式的に通達の評価方法に依拠するのではなく)、同族会社という状況を反映させ、検討することは妨げられるべきものではないものと解される。係る点で法人の資産債務状況から回収不能であると言う形式的な評価がなされたとしても、同族会社としての性格を考慮して、他の債務(本件ではこの貸付金が唯一のものであるという認定)とのバランスから事業継続の妨げにならず、もって貸付金の評価に回収不能であることを反映させることは否定されている判断が導かれているものである。
このような貸付金を中心とした、債権の評価に関しては法人税における部分的貸し倒れも含め、従前問題とされることとなってきたが、本件では基本的にその判断基準は整合的であるように評価される(特に全体の回収可能性を追求している点は)。予測可能性や安定性の側面からは係る点からは、法人税法と整合的に回収可能性による評価を中軸に貸付債権の評価を行うこととなり、部分的な評価により一部回収が不能であるという点を相続財産の評価においてカウントすることは困難であろう。しかしながら租税法規特に、相続税と法人税法はその目的を異にするものであり、同一の評価軸をもって当たるべきであるのかという点から異論が出る可能性も考えられる。法人税法が条文をもって明確に評価損の計上を否定していることと対比するならば、相続税法において客観的な時価をベースに構築される判断の枠組みと整合的であるべきであるのかという点は、評価損に対する条文のあり方も含め、検討することも、政策論として実務上の負担も考慮されることになろうが、論点としてはあり得るのではないだろうか。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているもので完成度は低いですが参考までに。