2020年9月23日水曜日

判例裁決紹介(東京高判令和2年1月29日、個人所有の不動産貸付収益の同族会社への帰属)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京高判令和2年1月29日で、個人所有の不動産の貸付による収益を同族会社である法人の収益として帰属し得るか否かという点が争いになっているものです。

具体的には、法人の代表取締役が保有する不動産を、貸出、収入を得ていた場合において、当該収入が法人の収入として帰属することになるのかという点が争点になったものであり、かかる収入の除外により合計で5億を超える法人税を免れていた事例である。不動産賃貸における名義は法人名義であり、法人税申告に含まれていないという点で問題になっているが、控訴審では、代表取締役個人の所得税【こちらも未申告】の観点から実質所得者課税の原則から検討されていないなどの点から控訴を行っているものである。判示は、地裁同様、一種のサブリース契約であり、法人所得に該当するとして判断している事例であり、納税者の主張を排斥している。

経営と所有が一体化した法人の存在は、我が国の法人課税において特徴となっていることは、言うまでもないことであろうが、本件もこのような同族会社と個人が保有する資産と係る資産の運用による収益の帰属が問題となっている事例である。 本件の申告法人には,自己名義の預金口座もなく,従業員もいない上,外部業者への支払,賃貸業務に関する意思決定など本件不動産の賃貸事業の運営は,被告人の意思のみによってなされており,賃料の振込先口座や経費の支払に使用されている預金口座は,被告人が管理支配しているh株式会社名義の口座であることなどからすると,実質的には被告人個人によって本件不動産の賃貸事業が営まれていたものという主張がなされているものでもあるが、 金額としては20億円以上の所得の問題であり、規模は比較的大きいものであるものの、根本においては我が国おいて特徴的な同族会社の法人所得の認定が課題となった事例である。そもそもとして、このような法形式としての法人の活用【最近は同族会社への支出が必要経費として否認されるようなケースもでているが】が、租税法規として活用することが妥当であるのか、濫用というべき、租税回避【法人格否認の法理も含め】として評価されうるものであるのかという点が従前課題となっているが、本件もこのような法人の活用【本来ならば事業主と資産の所有者は名義においても異なるものではないのであろう】が行われていることが如何に租税法規の適用において課題となるのかという点が起点となっているものである。本件の主張でもあるが、リスクを分散し、法人と個人を分離して種々のリスクへの対応を図ることが意図されているとの認定が行われているものも含まれているが、そもそも我が国の法人、特に中小零細の法人において、このようなリスク分散の意思が真に込められているものであるのかという点は真剣に議論されるべきではないだろうか【生産性などの点から最近中小法人への擁護という一面的な流れが少し変化しつつあるように思うところ】。中小法人の扱いは近年議論対象となっているが、立法、政策において、このような法人格の活用を今後租税法規として如何に捉えていくべきかという点は、中小法人への見方の潮流とともに、今後の我が国の法人課税においてさらに議論となるべきであるのかもしれない(個人と法人が実質的に峻別できない状況は本来ならば課税においても同列に扱うべきであり、法形式において分断することの意義は検討されるべきであろう、今後の働き方の変容なども考慮することも必要であろう、一人親方のような存在はおそらくこれからより増えるであろうし】。本件もこのような法人格の活用の中での典型的な事例であるように捉えられるが、基本的には事実認定が中心となる判決であり、収益の帰属、不動産所有と収益の帰属が分断されている帰属判定を検討する、トレーニングの際に参考となる事例であろう。

「本件で認められる事実関係に照らせば,本件不動産の賃貸事業は,申告法人の計算と危険において行うという被告人の意図に基づき実際に行われていたと認められるのであり,原判決も,これと同旨の判断をしていることは明らかである。」
「所有権の帰属は,事業取引の主体を判断するに当たり,一定の推認力を有する重要な間接事実ではあるものの,それのみで収益の帰属を決定する事情とはいえない。」

具体的な認定では、上記のように、不動産登記の情報【所有権】は、重要視されず【当然ともいえようが、賃借関係の対抗要件であり、収益の帰属の判断では重要な情報ではないというのが租税法規の基本的な姿勢・・・実質的だろう】、過去の申告における取り扱い【法人の所得として申告】、危険負担【個人による無限責任を排除している】が重要な要因となって法人への帰属が認められている。一部当該法人が実体が怪しいものであるとの評価も判示ではなされているが、個人から法人へ一括賃借、そしてさらに賃借が行われている、一種のサブリースとの認定が行われている。民事法の一般的な契約の評価であるようにも捉えられるが、法人での申告状況や、状況の継続性を加味している点が法人税における評価としても重要な要因となっている点は留意されるべきであろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年9月15日火曜日

平成31年2月3日裁決、違法な貸金業を営む実質的経営主体と所得課税)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成31年2月13日裁決で、違法な貸金業を営む実質的な経営者が誰であるのかという点が課題となった事例です。

本件は具体的には、無登録で貸金業を営む(この時点でダークな、形態であることは明らかですが、銀行口座を売買して、本人名義とは異なる形で返済口座を準備するなどまず一般にお目にかかる事業主ではない人です)請求人が、このような未登録として違法な事業を行ったところ、かかる所得は実質的に請求人が行ったものであるとして所得の帰属を課税庁が行い決定処分を行ったことから、貸金業の重要な資産となる元金(たまり資金)を請求人は保有しておらず、本当の実質的経営者が別におり、かかる者が所得者として認定されるべきであるとして、不服を申し立てた事例である。実質的な所得者の認定は、所得税法における重要な原則として下記のように明記されているものであるが、古くからその帰属者を以下にして認定するべきであるのかという点は、争点とされてきた。近年のように、従前であれば個人の趣味や事業的な規模に至るようなものではないような活動であったものの環境が変わったような社会的環境においては、更にネットを活用した事業のように自動化された環境で収益が獲得されるような場合においては、如何なる形で所得の帰属者が判定されるべきであるのかという点は課題となっているものであり、古くて新しい課題であろう。本件は、違法な、実質的には犯罪収益に属するような事業形態における所得の帰属者の認定が課題になったものであり、いささか特殊な事例ともいえようが、そして事実認定を基礎とした課題であると評価されようが、所得税がその基礎として、非常に広範囲の対象を課税対象としていることも含め、実際の所得課税の現場を垣間見る上でも参考となる事例であろう(民間の租税実務家でこの種の事例になれている人はいないとは思うが)。



所得税法
実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

以上のように、本件は違法な事業による所得の帰属者を中心的な争点としている。本来ならば、所得の実質的な帰属者の判定において、上記所得税法12条の実質的な所得者が如何なるものであるのかという部分を基礎として判断を行う。しかしながら本件は、下記のように事業所得の意義から、事業帰属者は、その経営主体という実体という点から判断を行っている。事実認定として帰属者を判断するものという点から考えれば、このような事実関係の評価を基礎とした判断を行うものであるのかもしれないが、経営主体としての実体を最終的に社会通念に従うことで、判断を行うこととしている。このように考えれば、そもそも違法な、未登録の貸金業が事業としての実体を有するものとして評価される事自体が困難であるのではないだろうか。この枠組において、事業としての自己の計算等をもって所得の帰属者を判断する論理展開は矛盾をきたしているようにも捉えられる。

事業所得の帰属者は、自己の計算と危険の下で継続的に営利活動を行う事業者であると考えられるところ、ある者がこのような事業者に当たるか否かについては、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断するのが相当である。

法的な根拠を必要とする租税法規の基本的な立場からは、12条は収益の帰属者を享受する者に求めており、事業の主体である、経営主体であることを要求しているものではない。この点で、本件はいかなる理由からこの判断枠組みを採用したものであるのか定かではないが、経営主体イコール収益の帰属者であるという前提をおいているものであるのではないだろうか(現実的には、ここはイコールであることがほとんどであろうから実体的には問題にならないのであるかもしれない)。そもそも経営主体という概念自体が曖昧なものであり、その実体を如何に把握するものであるのかという部分は安定を書くものではないだろうか。

おそらく、本件で請求人の主張にあるように、本来の経営者は別におり、所得や収益の帰属、実体としての存在が確認し難いものであることから、事業主体を認定し、所得の帰属者という判断を行っているものであるのであろうが(この存在に関する請求人の主張の判断は退けている)、立証という点において、別件訴訟における記録に依拠するのみで、簡易な方法にとどめているものであり、法的な根拠という点では結果的に劣位なものとなっているものとも考えられる。

本件のような法的に違法性を帯びているような取引に関する所得は名義を重要視しないことは当然とも言えようが(口座名義に代表されるように)、本件の事実認定としては売上(収支)の管理以外にも、要員の採用や指揮命令等も重要な判断要素としている。この点は事業主体を判断するとした点からは、整合的でもある。しかしながら、事業の結果である収益の帰属にこだわらず、事業の形態に着目し、収益の帰属というスポットな時点での判断から拡張的に、比較的時間的にも幅のある状況を前提として判断をしていることを鑑みるならば、請求人の主張のように、事業において重要な資産(この場合はたまり資金、元金であるが)を如何にして管理しているのかという部分は、重要な判断要素となるべきであり、この点を特段の理由なく、排斥している点は矛盾を抱えているようにも評価される。

以上のように、本件では経営主体の判断を行う上では、事業の開始、スタート段階を考慮しており、比較的、判断のタイミングを幅広くとっている。この点は本件の特徴的な部分ではあり(一部資産の状況などを排斥している点も見られるが)、経営主体の認定と所得の帰属者をリンクさせている点は、留意しておくべきであろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。


2020年9月1日火曜日

相続財産としての同族会社への貸付金の評価

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年10月25日裁決で、相続財産における同族会社への貸付金の評価が課題となった事例です。

具体的には相続人たる請求人が相続による取得した同族会社への貸付金(6850万)を当該相続税申告において、元本金額で評価して申告し、更正の請求において当該貸付金の評価は過大であるとして(回収不能の金額がある、相続時点では債務超過、ただし、同族会社の借入金は、この借入のみであった、事業は継続しているものの停滞しており、請求人の後継者も存在していない)、主張したところ、更正すべき理由はないという通知処分があったことから、係る評価を不服として提起されたものである。

本件の主たる争点は、貸付金という債権の財産評価額であり、相続税申告においては、主要な論点である。おそらく、相続対策でも貸付金の評価は、あまり考えずに額面が基本となっているものと思われるが、本件は、同族会社、あるいは債務超過の状態にあることを基礎として、その評価額を争った事例として、相続税の基礎たる財産評価においても、特徴的な事例である。法人課税等の文脈においても貸付金等の貸し倒れ、評価減(部分貸し倒れは否定されるが)が本件も同類型の債権の評価、特に同族会社における評価としては類似の事例であり、かかる点からも参考となるものであろう。

(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

以上のように本件は、上記相続税法の基本中の基本たる評価の原則として定めのある、時価というものが如何なるものであるのか、という点を中心的な争点としている。
判断では、この点につき、下記のように、

相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財
産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは
相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
しかし、相続財産は多種多様であるから、その客観的交換価値は必ずしも一
義的に確定されるものではなく、これを個別に評価することとしたときには、
その評価方法等により異なる評価額が生じて納税者間の公平を害する結果とな
ったり、課税庁の事務負担が過重となって大量に発生する課税事務の適正迅速
な処理が困難となったりするおそれがある。

財産評価基本通達の位置づけを前提として、すなわち、通常の通達とは異なり、財産評価基本通達における評価が事実上の時価としての推定を受けるような状況にあることを基礎として判断を行っている。この点は実務家においても異論のないことであろうが(裁決でもあるし)、通達による一律の評価が法令解釈として合理性を有しているものとしている。

その上で、本件の事実関係から、評価通達205におけるその他回収が不可能等であると見込まれるものであるのかという点が事実認定として争われていることになる。

(貸付金債権の評価)

204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。

(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額

(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

(貸付金債権等の元本価額の範囲)

205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。(平12課評2-4外・平28課評2-10外改正)

(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)

イ 手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引停止処分を受けたとき

ロ 会社更生法(平成14年法律第154号)の規定による更生手続開始の決定があったとき

ハ 民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の決定があったとき

ニ 会社法の規定による特別清算開始の命令があったとき

ホ 破産法(平成16年法律第75号)の規定による破産手続開始の決定があったとき

ヘ 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき

(2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額

イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額

ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額

(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額


以上のような条件には本件の状況は該当しないが、債務超過の状態にあること、そして事業の継続性が疑義がある(後継者がいない)という点が評価額の減少に繋がりうるのかという点が具体的に見解が別れているものであろう。一見すると債務超過は回収可能性に影響があることは否定しがたいものであるが、必ずしも決定的な要因としては判断されていない点は本件では重要であろう。同族会社であることが影響しているものであるが、単に債務超過にあることを強調するのではなく、他からの債務がなく、債権回収による事業の継続が危ぶまれるものではないという点に力点が置かれているものと捉えられる。いわば債権評価における回収可能性を、資産の状況に限定することなく、経営、事業継続という点も加味して多面的に判断を行っていることは判断枠組みとして重要となるのではないだろうか。

また、経営状況に関しても、本件では、請求人の後継者がいないなど、事業の継続性危ぶまれる状況が請求人の主張の基礎となっている。結果論として判断でも実際には、事業が少なくとも継続していたことを加味して、かかる主張を排斥しているようにも評価される。相続税がその取得の時を一定時点として判断する構造をとっている以上、将来時点の状況、後発的な状況をを加味することは、相続税法における判断として困難な点である。債務等でも取り扱われる課題ではあるが、相続時点での将来の状況は客観的な交換価値という点からも、特に本件のような交換価値を減少させることが客観的に担保されるものであるのかという点からも評価される事になり、後継者や事業の状態などは、判断要因としては劣位として理解せざるを得ないことを認識されるべきであろう(立法論としての救済の余地は議論されるだろうが)。近年は、事業の継続、法人の継続は必ずしも担保されるものではないのが現状であり、後継者不足の状況は特段珍しいものではないが、相続税評価においては、本件のように、将来情報として考慮要因としては限定的に評価されるものと考えられる。

いずれにしても、貸付金の評価は相続税法においては、評価減を図ることは限定的、ハードルが高いものと言うことは改めて認識されるべきだろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。