2020年8月22日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成29年1月30日、固定資産税評価における国家賠償)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成29年1月30日で、固定資産税の過大徴収による、国家賠償請求(対象は東京都ですが)が認められ過去20年に遡求して返金(約1400万)が認められた事例です。

具体的には一般財団法人(地図データの管理を行う・・・このような業務を行っているところが一つ本件の起点ともなっています)が原告としてその保有する土地に対して過去(平成初頭から)付与された固定資産税評価が過大であり、より正確には、土地に対する評価の付与において、本来3方を路面に面しているものである土地が4方を路面しているとして評価され、20年超の期間に渡って、過大な固定資産税の賦課が行われていたことにつき、国家賠償請求を行った事例である。この評価の誤り(あえて誤りと表現されるべきものであり、すでに評価委員会への不服審査の段階で、過去5年分については修正が行われている)に関しては実質的な争いはなく、評価の修正がすでに行われているものであるが、本件の中心的な争点としてはこの評価の誤りが国賠法における賠償請求の対象たりうるものであるのか、すなわち公務員の職務における賠償に関しては下記のように、最判が限定している注意義務違反を認めうるものであるのかという点が争点とされた事実認定が中心的な争点になっているものである。

職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と認定,判断をしたと認め得るような事情のある限り,国賠法1条1項にいう違法があったものとの評価を受けると解するのが相当である(最高裁平成元年(オ)第930号,同第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照

上記のように、結果として本件は、課税庁としての地方自治体の責任を認め、

本件南側区有地は平坦な地面であって,本件南側国有地に沿接する側には木が植えられており,明らかに本件南側国有地とは異なる形状,利用形態となっていた。そのため,現地で公図等の図面資料も参照しながら確認しさえすれば,このことは一目で明らかになるものとさえいえる。


として認定し、

被告担当職員が,本件土地の南側が玉川通りに沿接するとして本件土地を評価し,賦課処分を行う際に,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と認定,判断したといわざるを得ない。


という形で厳しく処分庁の責任(注意義務違反)を追求し(ほぼ現場確認していれば判別がつくものという評価)、もって、20年分の返金(損害賠償請求の最大)が結論とされている。つい最近までは、課税処分を行う上で、課税庁の誤りが認められることは極稀であり、主に本件のような固定資産税の評価基準が遡上に上がる程度であったのあるが、近年はその状況も変わりつつある(判例において20年の起算点を変更することも行われつつある)。本件もそのような類型に属するものであり、地方税の現場においては留意されるべきものであろう。国税の場合は、あまりこの責任が認められることは未だ珍しいものであるが、地方税においては基本的に賦課課税であり、租税専門家であっても漫然として書類による課税を受けている現状は今後はより変化しているものであろう。実際、大阪や東京では税理士や弁護士が主導して固定資産税の再評価を促しているケースが増加しているようである。


実際のところ、固定資産税評価は、昔の(私も生まれていませんが)各団体によって基準が異なるようなものであった現状から、固定資産税評価基準を整理し、全国一律に評価を実施することを担保していこう、そしてそれが法が予定する時価として適合的であるという判例がほぼ確立しているものであるが、かえって基準が柔軟性を失い、そもそも土地や家屋のような不動産という価格が複数あり得るような存在に対して客観性を付与した評価額をつけることが困難であることも相まって、基準の複雑さが増していることが問題の背景にあるものであろう。近年は更に、固定資産税にまで特例が増加してきており、システムや現況確認が遅滞している(改正も議論されており時間の問題とも言われているが、おそらく専門的な知見の蓄積や教育、マンパワーの不足は深刻だろう)物と考えられる。不動産をはじめとして財の保有という思考もシェアリングの進展とともに変化しつつあり、基幹税であるが、固定資産税も、保有のみに租税負担の根拠を求め利益の多寡に関わりなく負担を必要とされる租税として今後より、納税者からの追求は行われていくことになるものと考えられれよう(ちなみに私もこないだ固定資産税評価の練習してみましたが、基準の適用に関しては訴訟的には事実認定においてもかなり争う余地があるように思います)。

本件では原告が地図の関連業者であり、しかるに、かかる過大徴収を発見したものであるが、一般的な納税者においてもこれは気づくだろうか。実現性を無視すれば本来賦課課税である以上、申告納税方式を基礎とする国税よりもより処分理由、評価の理由説明を定め侵害規範としての性格へ担保すべきとも考えられるが執行においてとても実現性があるようには思われない(AIなどが解決するのかもしれないが)。地価の縦覧制度があることでそれを確認しなかったことを過失であるとして、相殺を求める主張は退けられており、賦課課税方式であることが注意義務違反の認定においても影響を及ぼしているものであろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年8月19日水曜日

判例裁決紹介(津地判平成30年3月15日、市街化調整区域に対する太陽光パネル設置に伴う固定資産税評価額の変更)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、津地判平成30年3月15日で、建物建設等が制限された市街化調整区域の山林に対して太陽光パネルの設置を行ったことにつき、新たに付与した固定資産税評価額(高額となる)を不服として提起された事例です。

具体的には原告が保有する土地(一面が傾斜地、市街化調整区域であって、建物等の建設、新設が制限されている、土地の取得価額は500万円、評価額は280万円)に対して、固定資産税評価額として、大部分が山林として評価が行われていたものに対して、太陽光パネルの設置が行われたことにより(実際に利用もなされている)、改めて付した評価額(雑種地としての評価、1400万円超)に基づく固定資産税が過大であるとして、提起された事例である。判示としては、原告の主張を認めず、適正な評価であるとして原告の主張(市街化調整区域としての反映、造成費等の反映等)は排斥されている。

取得価額を大幅に超える金額、あるいは従前との評価額においても大幅な乖離があるものであり、本件はその金額が高すぎるとの納税者の意思が起点となっているものである。納税者の感覚は理解できないものではないが・・・。本件は、近年増加している固定資産税評価額の適正性が争われたものであるが、太陽光パネルの設置を契機としたものであり、従前の土地活用においては存在しなかった大幅な収益を生み出しうる存在が出てきていることが本件も含め、太陽光パネルの設置に伴う租税関係紛争の増加に現れているものである。本件のような傾斜地で、山林のしかも市街化調整区域(私も開発審査会で関わりもありますが、また租税法規からも離れる問題ですが、そもそも市街化調整区域にあって市街化の抑制を図る制度趣旨から、家屋等の新設が事実上規制されている土地において、太陽光パネルのような構築物といえど設置が認められるという現状は趣旨に反するような気もします、現状の太陽光パネル位置づけなどから特に発電用途に利用される以上、駐車などのような構築物として位置づけるべきかは疑問です、郊外地の利用促進など土地の利用形態や周辺環境が変わっている現況化において、だいぶ昔に設定したゾーニングで市街化調整区域であるとした認定そのものが現況と不整合になっているのかもしれません)であるようなところには従前、家などを建築することが出来ないという性格からほとんど評価がなされない状況にあったものが、この設備が一般化したことにより、利用価値が出てきていることが注目されるものであろう(そのような意味で代表的な社会状況の変化になっているように思う)。この利用価値の新たな発生が租税法規においてどのように取り扱いをされるべきであるのかという部分が本件の問題の起点となっているものである。

(土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準)
第三百四十九条 基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(以下「基準年度の土地又は家屋」という。)に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(以下「基準年度の価格」という。)で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳(以下「土地課税台帳等」という。)又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳(以下「家屋課税台帳等」という。)に登録されたものとする。
2 基準年度の土地又は家屋に対して課する第二年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋に係る基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となつた価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとする。ただし、基準年度の土地又は家屋について第二年度の固定資産税の賦課期日において次の各号に掲げる事情があるため、基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となつた価格によることが不適当であるか又は当該市町村を通じて固定資産税の課税上著しく均衡を失すると市町村長が認める場合においては、当該土地又は家屋に対して課する第二年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとする。
一 地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情
二 市町村の廃置分合又は境界変更

以上のように、本件では平成27年の基準年度に付した評価額から利用用途が異なることを認定し(この利用用途の人体は近年ドローンなどで確認しているところもあるよう)、平成28年度になって改めて評価額の変更を行っているものである。本件の原告主張は、主に固定資産税評価における評価基準の適用にあたって、上記のように造成費用や市街化調整区域の反映がなされているのかという部分が中心的な争点となっている。しかしながらこの点は、固定資産税評価額の認定上、固定資産税評価基準の適用によるものであり、下記のように本件でも時価の判断においてその基準による評価が合理性を推定されているものであり、評価基準を逸脱した評価を行うことができる場合はかなり限定的な場合とされている。かかるような評価基準において二重の合理性(客観的な交換価値という部分と評価基準の関係)が法令解釈上適合的であるとの判断を前提とする以上、市街化調整区域としての特殊性を訴えても一定の配慮(評価においては50%の評価減を行っている)以上、その合理性をということは困難であろう。なお、造成費に関しては実際に土地の利用において必要とされていない以上、後出しじゃんけん的であるともいえるが、その考慮を否定した判断がなされている。


地方税法341条5号の「適正な時価」とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解され,固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が同期日における当該土地の客槻的な交換価値を上回る場合には,上記価格の決定は違法となる(最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。

 そして,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは,当該登録価格が,〔1〕当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るときであるか,あるいは,〔2〕これを上回るものではないが,その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく,又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合であって,同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回るときであると解される(最高裁平成25年7月12日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁参照)。


事実上、本件の争いとしては、原告の主張にも織り込まれていないが、基準年度の評価が離れて新たな評価額を付した段階が適正か否かという段階で問題の中心がほぼ解消されている。山林から雑種地へその地目が変更され、その評価額の認定が異なるものとして受け入れている段階(この点についてはほぼ争いがない)で、上記のような枠組みでは具体的な固定資産税評価の争いは、認定に過誤がない限りは、納税者の主張が認められることは期待できないだろう(大幅な評価額のアップは適正な負担であるのか、取得価額を大幅に超過することへの不服はあり得ようが)。


私見としては本件は現行の枠組みでは、上記のような判断となることは異論がないものといえよう。制度的な課題としてこのような大幅な負担の変更を許容するのか(過酷ではないか)あるいは、土地の利用拡大を図る上での成約となるとの主張もあり得ようが、いずれも立法に属する問題であり、太陽光パネルの登場という点で一部の特殊事例と捉えるべきか、あるいは社会情勢の変化に伴う具体的な現れであり、本件のような負担の大幅の変更を如何に捉えるべきか等を制度的に検討すべきであるのかより検討すべき段階にあるのかもしれない。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。




2020年8月13日木曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年1月17日、特定生産性向上設備の導入と事業の用に供しているか否か)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和2年1月17日で、中小企業における特定生産性向上設備の導入とその償却費が計上できるか否か、すなわち実際に事業のように供しているのか否かという部分が争われた事例です。

具体的には、本件の原告たる法人(運輸プラス太陽光発電事業、法人の事業年度は3/31が事業年度末)が、太陽光発電事業のため取得した発電設備及び発電設備を保護するフェンス等(法的設置義務のある)を事業年度末の近い3/28に取得し、租税特別措置法に定める中小企業者等の特定生産性向上設備の取得に伴う特別償却の適用した損金の計上を行った確定申告を行ったところ、課税庁より当該設備は、特に発電設備は送電を行う東京電力に接続する契約の申込みを行った段階であり、設備は存在するものの実際に発電を行い送電を行うことができるような状況にはなかったとして事業の用に供されていないと判断し、更正処分を行ったことを不服としてその取消を求めた事例である。
対象となる資産が事業のように供されているのか、如何なる段階にあるものと事業の用に供しているのかという判断を行うべきであるのか、そのタイミングを具体的にどのように判断するべきであるのかという点が中心的な争点になっているものである。以前、本件に関する裁決例を取り上げているが、当該裁決では太陽光設備本体は事業の用に供されていないという判断であり、フェンス等は機能しているとして一部納税者の主張を認めているものであるが、本件もその判断が維持されているものと考えられる。各種事業や設備を機能させる段階においては、当然幅があるものであり(テキストと異なり、いつ始まっているのかというのはそんな簡単に判別できるものではないことが実務における留意だろう)、このタイミングを具体的に判断する枠組みに関しては従前課題とされているものであるが、本件は比較的単純な太陽光発電の開始という点が争われたものであるが、本件の判断の枠組みは法人税法において如何なるタイミングをもって事業の用に供されているものと判断するべきものであるのかという点を考える上で興味深い事例であろう(特定生産性向上設備の特別償却に限らず)。基本的には、事業のように供しているのかという事実関係の問題とも言えようが、法人税法における事業とは、そして供しているとはどのように理解されるべきものであるのかという部分が起点となっているものであろう。事業はスポットで行われるものではなく、活動している、流動している概念であり、準備段階の存在や実際の活動においても様々なフェーズが考えられる。特に資産の活用において準備段階にある場合がどのように、事業に活用されるている段階にあるのかという点(おそらく複数の資産の結合による場合や、物理的な拠点を有しない資産などではより困難であろうが)、以下に判断されるのかという点は、今後も検討すべきかであろう。


租税特別措置法(現行法、対象は旧法)
第四十二条の十二の四 中小企業者等(第四十二条の六第一項に規定する中小企業者等又は前条第一項に規定する政令で定める法人で青色申告書を提出するもののうち、中小企業等経営強化法第十三条第一項の認定(以下この項において「認定」という。)を受けた同法第二条第二項に規定する中小企業者等に該当するものをいう。以下この条において同じ。)が、平成二十九年四月一日から平成三十一年三月三十一日までの期間(次項において「指定期間」という。)内に、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品、建物附属設備並びに政令で定めるソフトウエアで、同法第十三条第四項に規定する経営力向上設備等(経営の向上に著しく資するものとして財務省令で定めるもので、その中小企業者等のその認定に係る同条第一項に規定する経営力向上計画(同法第十四条第一項の規定による変更の認定があつたときは、その変更後のもの)に記載されたものに限る。)に該当するもののうち政令で定める規模のもの(以下この条において「特定経営力向上設備等」という。)でその製作若しくは建設の後事業の用に供されたことのないものを取得し、又は特定経営力向上設備等を製作し、若しくは建設して、これを国内にある当該中小企業者等の営む事業の用(第四十二条の六第一項に規定する指定事業の用又は前条第一項に規定する指定事業の用に限る。以下この条において「指定事業の用」という。)に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む事業年度(解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。次項及び第九項において「供用年度」という。)の当該特定経営力向上設備等の償却限度額は、法人税法第三十一条第一項又は第二項の規定にかかわらず、当該特定経営力向上設備等の普通償却限度額と特別償却限度額(当該特定経営力向上設備等の取得価額から普通償却限度額を控除した金額に相当する金額をいう。)との合計額とする。


減価償却資産は,法人の事業に供され,その用途に応じた本来の機能を発揮することによって収益の獲得に寄与するものと解されるから(最高裁平成20年9月16日第三小法廷判決・民集62巻8号2089頁),ある資産を「事業の用に供した」か否かは,個別具体的な事実関係を前提として,当該資産をその用途に応じた本来の機能を発揮するために使用を開始したと認められるか否かにより,認定及び判断すべきものと解するのが相当である。


本件判示では、上記のように、最判を引用して、事業の用に供することを用途に応じた本来の機能という点をメルクマールとして解している。この本来の機能をいかに判断するのかという点がいささか抽象的なものであり、そもそも法人の事業をどのように捉えるのかという部分も関連して幅があるものとして考えられよう。本来の機能という点は法人が行う行為事業が非常に多様であることを鑑みても、これをいかにして判断すべきであるのかという点が課題となろう。

件発電システム本体を「事業の用に供した」ということができるのは,本件発電システム本体により発電した電力を本件電気事業者に対して売電することができることが物理的に可能となったときであるというべきである。


上記のように、本件では明確に物理的に可能となったという点をもとに、本来の機能を発揮したとして実際の稼働を、そして収益獲得までの貢献をベースに判断しており、客観的な部分を基礎においている、実際の収益獲得の行為そのものを要求しているものではなく、収益獲得の貢献の有無が課題とされているものであろう。そもそもこの種の固定資産、減価償却資産は収益との直接の関係性は期待できるものではなく、間接的な部分にとどまるものであるから、実際に収益獲得を求めているものではないことは理解されようが、この判断を経営者、法人の事業目的のベースで判断しているわけではないことも留意されよう。資産の利用は法人の意思に左右されるものであるが、目的ベースで判断することは主観的な判断を行うことになり、法的安定性を損なうものと言えよう。本件判断では物理的に資産が利用可能な状態にあることが重要な判断の起点となるべきと理解するべきであろう。もちろん近年は、物理的な実態を有した資産に限らず、活用されることがほとんどであり(このような資産類型の判断の枠組みが更に問題になるだろうが)事業の用に供していることはこのような物理的な存在に依拠した判断以外の基準も更に検討されるべきものであろう。

このように考えると判示でも、納税者の主張においても行われているが、外形が完成した不動産の募集における広告等においても事業を開始したと判断されている通達が本件に適用されうるか、すなわち実際の資産を活用していなくとも(本件では太陽光発電を設備を稼働させているのか)、判断しうる余地があるものとして理解されるのかという点が主張されているように、本件通達が実物資産の稼働の有無を緩和するような通達であるのか、どのような性格を持つものであるのかは議論が必要であるが(不動産事業において入居者の獲得は内容的に関連することは特に異論の余地がないだろうし、実物資産を見せるなど程度問題であるが稼働状態にあるとも認定できよう)、そもそも、本件の事実関係では発送電先との接続ができていない点で、適用の事実関係が異なるとも言えるが。ただ、主張のように実際の稼働を問わず使える状態にあること(資産の設置や、準備が出来ていること)が判断の基準となるものではない、供しているという文言の解釈として実際に収益稼得に直接的に関連付けられなくとも適用の余地はあり得ようが、実際に稼働していなくとも、あるいは稼働できる可能性がかける場合において、適用の可能性があるとは評価しがたいものと考える。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2020年8月4日火曜日

判例裁決紹介(東京地判令和2年3月11日、国外にて組成されたパートナーシップ持分の現物出資の適格性、資産の国内所属判定)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。
今回は、東京地判令和2年3月11日で、法人が行ったパートナーシップ持分の現物出資が適格現物出資に該当するのか否かという点が課題になった事例です。

具体的には、本件は原告たる法人(薬品会社)がその研究開発等のため米国法人とジョイントベンチャーを組成していたところ、かかる持分を英国子会社に現物出資し、国外における知的財産の活用(治験等)を図ろうとしたところ、当該現物出資における対象財産が国内にある資産であるとして、適格現物出資に該当しないとした課税庁の判断につき、当該持分は外国に所在する知財等の一連の事業用財産であり、国内にない、国外にあるものであるとして適格現物出資の対象となることを主張した納税者の主張が認められた事例である。

適格現物出資という、いささか特殊な組織再編における制度を活用した取引の適格性が課題となった事例であり、その対象となる資産がさらに、知的財産を中心とした(製薬業界における)事業用資産を対象としたジョイントベンチャーの持分であることが問題を提起しているものであるが、国内における適格現物出資の適否を争う事例として、先例的な事例であることは間違いなく、今後の実務における参考となるものであろう(殆どの租税専門家が適格現物出資はあまり目にかかるものではないだろうが、本件判断における国内の事業所に属するという枠組みは、管理という部分も含んでおり、課税庁の判断方法においても影響を及ぼす可能性があるのではないだろうか)。また、本件としては、課税庁の主張、資産が国内にあるという主張が排斥されたものであり、このような特殊な取引における課税庁の判断が覆された根拠や事前照会の対象となった取引(事前照会の段階では適格現物出資であるとされている)であり、この部分がなぜ覆され非適格として本件のような課税処分に至ることになっているのか(事前照会の覆すことの信義則との関連、判示では触れられていないが原告被告の主張の対比は重要だろう)等の観点からも、重要な点であるように考えられる。

 法人税法2条
十二の十四 適格現物出資 次のいずれかに該当する現物出資(外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債(以下この号において「国内資産等」という。)の移転を行うもの(当該国内資産等の全部が当該外国法人の恒久的施設に属するものとして政令で定めるものを除く。)、外国法人が内国法人又は他の外国法人に国外にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債(以下この号において「国外資産等」という。)の移転を行うもの(当該他の外国法人に国外資産等の移転を行うものにあつては、当該国外資産等が当該他の外国法人の恒久的施設に属するものとして政令で定めるものに限る。)及び内国法人が外国法人に国外資産等の移転を行うもので当該国外資産等の全部又は一部が当該外国法人の恒久的施設に属しないもの(国内資産等の移転を行うものに準ずるものとして政令で定めるものに限る。)並びに新株予約権付社債に付された新株予約権の行使に伴う当該新株予約権付社債についての社債の給付を除き、現物出資法人に被現物出資法人の株式のみが交付されるものに限る。)をいう。イ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該現物出資ロ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該現物出資のうち、次に掲げる要件の全てに該当するもの(1) 当該現物出資により現物出資事業(現物出資法人の現物出資前に行う事業のうち、当該現物出資により被現物出資法人において行われることとなるものをいう。ロにおいて同じ。)に係る主要な資産及び負債が当該被現物出資法人に移転していること。(2) 当該現物出資の直前の現物出資事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該現物出資後に当該被現物出資法人の業務(当該被現物出資法人との間に完全支配関係がある法人の業務並びに当該現物出資後に行われる適格合併により当該現物出資事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該合併法人及び当該合併法人との間に完全支配関係がある法人の業務を含む。)に従事することが見込まれていること。(3) 当該現物出資に係る現物出資事業が当該現物出資後に当該被現物出資法人(当該被現物出資法人との間に完全支配関係がある法人並びに当該現物出資後に行われる適格合併により当該現物出資事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該合併法人及び当該合併法人との間に完全支配関係がある法人を含む。)において引き続き行われることが見込まれていること。ハ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人(当該現物出資が法人を設立する現物出資である場合にあつては、当該現物出資法人と他の現物出資法人)とが共同で事業を行うための現物出資として政令で定めるもの

以上のように、本件は、この製薬開発等にかかる知財等の現物出資が適格現物出資に該当するのかという部分が争点となり、より具体的には適格現物出資の対象から除外している法人税法に定める国内の資産を外国法人に現物出資した場合に該当するのかという部分が課題となっているものである。出資行為の真実性が問題になっている(租税回避等)ものではなく、実態を伴う資産であることに争いはないが、具体的に対象となった資産が、有形物、建物等として個別に認識把握されるような種別の資産ではなく、関連する知財、利用権、受益権等を一まとまりとしたJVの持分を起点にケイマン諸島に特例パートナーシップを組成し、かかる持分をその対象として行われた外国法人への出資が適格性を有するものであるのかという部分が課題となっている。なお、本件持分は日本における帳簿上は、投資有価証券として計上されている。当該持分は日本法における株式の譲渡とは異なり(組合の持分を譲渡するという発想が日本法においては希薄であるが、この点が本件の問題の基礎にあるようにも思う)、あくまでもパートナーシップの持分という事業用資産の共有持分と契約上の義務関係の結合体の出資であることが問題を複雑にしているものである。

判示では、「我が国の組合に類似した事業体であり,ELPS法及び本件パートナーシップ契約においても,CILPの事業用財産の共有持分(準共有持分を含む。)と切り離されたパートナーとしての契約上の地位のみが他に移転することは想定されていないものと解される。この点が,法人における株式の移転とは根本的に異なる点である。」としているが、本件は事実認定として、この持分がパートナーシップという契約の主たる契約の目的から主たる財産である事業用資産(そもそも事業用資産というくくり方が必ずしも明確な区分ではないが)に対する所属地の問題として国内に存在しないものとして判断されたものになる(より具体的には構成する資産ごとに分割して所属を決定するものではなく、包括的にその管理状況を行っていることは本件に限らず、この主の資産の管理を判断する上で参考となるものと考える)。本件は、まずは対象となる資産がどのようなものであるのか、そして制度趣旨から管理の状況を基礎に資産の所属を判定する二段階の判断をもって適格性を判断していることになろう。持分が組合課税におけるパススルー課税という特色(課税上透明である)を基礎に出資の対象資産ではないとの原告の主張は採用されていない。

10【旧法では9】 法第二条第十二号の十四に規定する国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債は、国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)の規定による鉱業権及び採石法(昭和二十五年法律第二百九十一号)の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産(外国法人の発行済株式等の総数の百分の二十五以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式を除く。)又は負債とし、同条第十二号の十四に規定する当該外国法人の恒久的施設に属するものとして政令で定めるものは、外国法人に同号に規定する国内資産等の移転を行う現物出資のうち当該国内資産等の全部が当該移転により当該外国法人の恒久的施設を通じて行う事業に係るものとなる現物出資(当該国内資産等に法第百三十八条第一項第三号又は第五号(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得を生ずべき資産が含まれている場合には、当該資産につき当該移転後に当該恒久的施設による譲渡に相当する同項第一号に規定する内部取引がないことが見込まれているものに限る。)とする。

この対象となる資産の国内にあるか否かという判断基準が上記の施行令規定であり、本件ではその他国内にある事業所に属する資産という部分が問題になっている。

 この点について判示は、下記のように、現状の基準として通達における帳簿への記帳を原則的な判断方法として採用し、実質的に経常的な管理によるいささか曖昧な判断基準をおいていることになる。
「本件現物出資の対象資産が施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かが争点であるところ,この点の判断基準に関し,法人税基本通達1-4-12は,「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かは,原則として,当該資産が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するが,実質的に国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認められる資産については,国内にある事業所に属する資産に該当することになる旨を定めている。」

 
「その資産の経常的な管理がどの事業所において行われていたかを判定し,その判定に当たっては当該資産が当該事業所の帳簿に記帳されていたか否かを重要な考慮要素とし,次いで,その判定の結果当該資産の経常的な管理が行われていたと認められる事業所が国内にある事業所に当たるか否かを判定し,それが肯定された場合に「国内にある事業所に属する資産」に該当すると認める旨をいう趣旨に理解することが可能である。このように理解される判断基準は,前記法令の趣旨に鑑みて,合理性を有するものということができ,本件においても,基本的にこの基準に沿って検討するのが相当である。」

 この判断方法に関しては判示は上記のように、その合理性を、適格現物出資とその対象範囲の制限の趣旨から肯定している。この制度趣旨としては、
適格現物出資制度は,平成13年度税制改正で導入された組織再編税制の一部であり,内国法人が法人に対して行う資産(資産と併せて負債を出資する場合の負債を含む。)の現物出資は,法人税法上は資産の譲渡として扱われ,現物出資の時点で当該資産の時価による譲渡があったものとして法人税の課税対象となるのが原則であるが(法人税法22条2項),その現物出資が適格現物出資に該当する場合には,それによる譲渡損益の繰延べが認められている(法人税法62条の4第1項)。これは,法人税の負担が現物出資による企業再編の阻害要因となることを防止し,企業再編を容易にするために定められたものであると解
される。
 ただし,法人税法2条12号の14の括弧書きにおいて「外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの」が適格現物出資から除かれており,この規定を受けた施行令4条の3第9項は,国内にある資産又は負債として「国内にある不動産,国内にある不動産の上に存する権利,鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産又は負債」を定めている。これらの定めは,国内にある含み益のある資産を外国法人に移転することでその含み益に対する課税が行われなくなることを規制し,我が国の課税権を確保しようとする趣旨で規定されたものであると解される。」

 と判断しており、本件はこの適格現物出資における課税権の確保をという制度趣旨をもとにしている点を判示している点は特徴的であり、より具体的には譲渡損益の繰延の適否を判断する上で、含み益を起点としている点にある。この点から帳簿計上と経常的な管理による判断を裏付けているのであろう。しかしながら、帳簿記帳は、本件のような無形資産であれば特に、操作性が高いものであり、また経常的な管理という表現はいかなる程度の管理や、期間等、非常に幅のある概念であると考えざるを得ない(実際、本件のような資産であれば、複合的な資産であり、管理の場所等は見解が別れよう、また管理という部分は如何なるものを指しているのか定かではない、本件では一箇所として事実関係を整理しているが包括的な資産であれば、管理の場所も複数箇所に及ぶことはあり得るのではないか)、解釈として捉えるならば、予測可能性、法的安定性に代表される租税法規の基本原則に適合的であるのかという部分では疑問である。

おそらく本件の起点は帳簿計上の状況、持分を投資有価証券(法的にも譲渡可能な持分という位置づけであることが強調されている)として財産的価値のあるものとしているが、この点を重視する通達の立場を鑑みた課税庁の判断が問われているものではないだろうか(主張においては資産の管理運営の場所が帳簿において、表象されているとしているが、事前照会が覆ったこともこの点を起点にしているように考えられる)。帳簿が会計記録として財産的価値を基礎としている以上致し方ない部分はあるが、含み益のある資産の記録が重要な判断の要因となっている解釈であるように捉えられる(形式的な)。しかしながら本制度の趣旨はあくまでも、国内にある資産に対する課税権の確保が主たる趣旨であり、管理という継続的な期間的幅のある概念で判断している点(実質的に)が強調されよう。管理を通じた含み益の形成過程と課税権の配分という国際課税の原則の整合が図られているものと考えられる。かかる解釈、通達における管理を重視した(そもそも管理とはどのような行為を指すのかという点は必ずしも明らかではないのではないかとも言えようが)判断が本件の特徴であり、

ただし、属するという文言を考えるとあくまでも現物出資時のスポットにおける帰属関係が基礎となるものともいえ、上記のように管理という実質的な判断を解釈として持ち出すことには賛否が分かれることもありうる。いずれにしても本件は適格現物出資における資産判定の基礎となる事例として今後も重要であり、地裁段階の判例であり、判示が変化する可能性もあるが、本件は重要な事例であろう。

以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。