さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。
今回は、東京地判令和2年3月11日で、法人が行ったパートナーシップ持分の現物出資が適格現物出資に該当するのか否かという点が課題になった事例です。
具体的には、本件は原告たる法人(薬品会社)がその研究開発等のため米国法人とジョイントベンチャーを組成していたところ、かかる持分を英国子会社に現物出資し、国外における知的財産の活用(治験等)を図ろうとしたところ、当該現物出資における対象財産が国内にある資産であるとして、適格現物出資に該当しないとした課税庁の判断につき、当該持分は外国に所在する知財等の一連の事業用財産であり、国内にない、国外にあるものであるとして適格現物出資の対象となることを主張した納税者の主張が認められた事例である。
適格現物出資という、いささか特殊な組織再編における制度を活用した取引の適格性が課題となった事例であり、その対象となる資産がさらに、知的財産を中心とした(製薬業界における)事業用資産を対象としたジョイントベンチャーの持分であることが問題を提起しているものであるが、国内における適格現物出資の適否を争う事例として、先例的な事例であることは間違いなく、今後の実務における参考となるものであろう(殆どの租税専門家が適格現物出資はあまり目にかかるものではないだろうが、本件判断における国内の事業所に属するという枠組みは、管理という部分も含んでおり、課税庁の判断方法においても影響を及ぼす可能性があるのではないだろうか)。また、本件としては、課税庁の主張、資産が国内にあるという主張が排斥されたものであり、このような特殊な取引における課税庁の判断が覆された根拠や事前照会の対象となった取引(事前照会の段階では適格現物出資であるとされている)であり、この部分がなぜ覆され非適格として本件のような課税処分に至ることになっているのか(事前照会の覆すことの信義則との関連、判示では触れられていないが原告被告の主張の対比は重要だろう)等の観点からも、重要な点であるように考えられる。
法人税法2条
十二の十四 適格現物出資 次のいずれかに該当する現物出資(外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債(以下この号において「国内資産等」という。)の移転を行うもの(当該国内資産等の全部が当該外国法人の恒久的施設に属するものとして政令で定めるものを除く。)、外国法人が内国法人又は他の外国法人に国外にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債(以下この号において「国外資産等」という。)の移転を行うもの(当該他の外国法人に国外資産等の移転を行うものにあつては、当該国外資産等が当該他の外国法人の恒久的施設に属するものとして政令で定めるものに限る。)及び内国法人が外国法人に国外資産等の移転を行うもので当該国外資産等の全部又は一部が当該外国法人の恒久的施設に属しないもの(国内資産等の移転を行うものに準ずるものとして政令で定めるものに限る。)並びに新株予約権付社債に付された新株予約権の行使に伴う当該新株予約権付社債についての社債の給付を除き、現物出資法人に被現物出資法人の株式のみが交付されるものに限る。)をいう。イ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該現物出資ロ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該現物出資のうち、次に掲げる要件の全てに該当するもの(1) 当該現物出資により現物出資事業(現物出資法人の現物出資前に行う事業のうち、当該現物出資により被現物出資法人において行われることとなるものをいう。ロにおいて同じ。)に係る主要な資産及び負債が当該被現物出資法人に移転していること。(2) 当該現物出資の直前の現物出資事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該現物出資後に当該被現物出資法人の業務(当該被現物出資法人との間に完全支配関係がある法人の業務並びに当該現物出資後に行われる適格合併により当該現物出資事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該合併法人及び当該合併法人との間に完全支配関係がある法人の業務を含む。)に従事することが見込まれていること。(3) 当該現物出資に係る現物出資事業が当該現物出資後に当該被現物出資法人(当該被現物出資法人との間に完全支配関係がある法人並びに当該現物出資後に行われる適格合併により当該現物出資事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該合併法人及び当該合併法人との間に完全支配関係がある法人を含む。)において引き続き行われることが見込まれていること。ハ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人(当該現物出資が法人を設立する現物出資である場合にあつては、当該現物出資法人と他の現物出資法人)とが共同で事業を行うための現物出資として政令で定めるもの
以上のように、本件は、この製薬開発等にかかる知財等の現物出資が適格現物出資に該当するのかという部分が争点となり、より具体的には適格現物出資の対象から除外している法人税法に定める国内の資産を外国法人に現物出資した場合に該当するのかという部分が課題となっているものである。出資行為の真実性が問題になっている(租税回避等)ものではなく、実態を伴う資産であることに争いはないが、具体的に対象となった資産が、有形物、建物等として個別に認識把握されるような種別の資産ではなく、関連する知財、利用権、受益権等を一まとまりとしたJVの持分を起点にケイマン諸島に特例パートナーシップを組成し、かかる持分をその対象として行われた外国法人への出資が適格性を有するものであるのかという部分が課題となっている。なお、本件持分は日本における帳簿上は、投資有価証券として計上されている。当該持分は日本法における株式の譲渡とは異なり(組合の持分を譲渡するという発想が日本法においては希薄であるが、この点が本件の問題の基礎にあるようにも思う)、あくまでもパートナーシップの持分という事業用資産の共有持分と契約上の義務関係の結合体の出資であることが問題を複雑にしているものである。
判示では、「我が国の組合に類似した事業体であり,ELPS法及び本件パートナーシップ契約においても,CILPの事業用財産の共有持分(準共有持分を含む。)と切り離されたパートナーとしての契約上の地位のみが他に移転することは想定されていないものと解される。この点が,法人における株式の移転とは根本的に異なる点である。」としているが、本件は事実認定として、この持分がパートナーシップという契約の主たる契約の目的から主たる財産である事業用資産(そもそも事業用資産というくくり方が必ずしも明確な区分ではないが)に対する所属地の問題として国内に存在しないものとして判断されたものになる(より具体的には構成する資産ごとに分割して所属を決定するものではなく、包括的にその管理状況を行っていることは本件に限らず、この主の資産の管理を判断する上で参考となるものと考える)。本件は、まずは対象となる資産がどのようなものであるのか、そして制度趣旨から管理の状況を基礎に資産の所属を判定する二段階の判断をもって適格性を判断していることになろう。持分が組合課税におけるパススルー課税という特色(課税上透明である)を基礎に出資の対象資産ではないとの原告の主張は採用されていない。
10【旧法では9】 法第二条第十二号の十四に規定する国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債は、国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)の規定による鉱業権及び採石法(昭和二十五年法律第二百九十一号)の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産(外国法人の発行済株式等の総数の百分の二十五以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式を除く。)又は負債とし、同条第十二号の十四に規定する当該外国法人の恒久的施設に属するものとして政令で定めるものは、外国法人に同号に規定する国内資産等の移転を行う現物出資のうち当該国内資産等の全部が当該移転により当該外国法人の恒久的施設を通じて行う事業に係るものとなる現物出資(当該国内資産等に法第百三十八条第一項第三号又は第五号(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得を生ずべき資産が含まれている場合には、当該資産につき当該移転後に当該恒久的施設による譲渡に相当する同項第一号に規定する内部取引がないことが見込まれているものに限る。)とする。
この対象となる資産の国内にあるか否かという判断基準が上記の施行令規定であり、本件ではその他国内にある事業所に属する資産という部分が問題になっている。
この点について判示は、下記のように、現状の基準として通達における帳簿への記帳を原則的な判断方法として採用し、実質的に経常的な管理によるいささか曖昧な判断基準をおいていることになる。
「本件現物出資の対象資産が施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かが争点であるところ,この点の判断基準に関し,法人税基本通達1-4-12は,「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かは,原則として,当該資産が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するが,実質的に国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認められる資産については,国内にある事業所に属する資産に該当することになる旨を定めている。」
「その資産の経常的な管理がどの事業所において行われていたかを判定し,その判定に当たっては当該資産が当該事業所の帳簿に記帳されていたか否かを重要な考慮要素とし,次いで,その判定の結果当該資産の経常的な管理が行われていたと認められる事業所が国内にある事業所に当たるか否かを判定し,それが肯定された場合に「国内にある事業所に属する資産」に該当すると認める旨をいう趣旨に理解することが可能である。このように理解される判断基準は,前記法令の趣旨に鑑みて,合理性を有するものということができ,本件においても,基本的にこの基準に沿って検討するのが相当である。」
この判断方法に関しては判示は上記のように、その合理性を、適格現物出資とその対象範囲の制限の趣旨から肯定している。この制度趣旨としては、
「
適格現物出資制度は,平成13年度税制改正で導入された組織再編税制の一部であり,内国法人が法人に対して行う資産(資産と併せて負債を出資する場合の負債を含む。)の現物出資は,法人税法上は資産の譲渡として扱われ,現物出資の時点で当該資産の時価による譲渡があったものとして法人税の課税対象となるのが原則であるが(法人税法22条2項),その現物出資が適格現物出資に該当する場合には,それによる譲渡損益の繰延べが認められている(法人税法62条の4第1項)。これは,法人税の負担が現物出資による企業再編の阻害要因となることを防止し,企業再編を容易にするために定められたものであると解
される。
ただし,法人税法2条12号の14の括弧書きにおいて「外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの」が適格現物出資から除かれており,この規定を受けた施行令4条の3第9項は,国内にある資産又は負債として「国内にある不動産,国内にある不動産の上に存する権利,鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産又は負債」を定めている。これらの定めは,国内にある含み益のある資産を外国法人に移転することでその含み益に対する課税が行われなくなることを規制し,我が国の課税権を確保しようとする趣旨で規定されたものであると解される。」
と判断しており、本件はこの適格現物出資における課税権の確保をという制度趣旨をもとにしている点を判示している点は特徴的であり、より具体的には譲渡損益の繰延の適否を判断する上で、含み益を起点としている点にある。この点から帳簿計上と経常的な管理による判断を裏付けているのであろう。しかしながら、帳簿記帳は、本件のような無形資産であれば特に、操作性が高いものであり、また経常的な管理という表現はいかなる程度の管理や、期間等、非常に幅のある概念であると考えざるを得ない(実際、本件のような資産であれば、複合的な資産であり、管理の場所等は見解が別れよう、また管理という部分は如何なるものを指しているのか定かではない、本件では一箇所として事実関係を整理しているが包括的な資産であれば、管理の場所も複数箇所に及ぶことはあり得るのではないか)、解釈として捉えるならば、予測可能性、法的安定性に代表される租税法規の基本原則に適合的であるのかという部分では疑問である。
おそらく本件の起点は帳簿計上の状況、持分を投資有価証券(法的にも譲渡可能な持分という位置づけであることが強調されている)として財産的価値のあるものとしているが、この点を重視する通達の立場を鑑みた課税庁の判断が問われているものではないだろうか(主張においては資産の管理運営の場所が帳簿において、表象されているとしているが、事前照会が覆ったこともこの点を起点にしているように考えられる)。帳簿が会計記録として財産的価値を基礎としている以上致し方ない部分はあるが、含み益のある資産の記録が重要な判断の要因となっている解釈であるように捉えられる(形式的な)。しかしながら本制度の趣旨はあくまでも、国内にある資産に対する課税権の確保が主たる趣旨であり、管理という継続的な期間的幅のある概念で判断している点(実質的に)が強調されよう。管理を通じた含み益の形成過程と課税権の配分という国際課税の原則の整合が図られているものと考えられる。かかる解釈、通達における管理を重視した(そもそも管理とはどのような行為を指すのかという点は必ずしも明らかではないのではないかとも言えようが)判断が本件の特徴であり、
ただし、属するという文言を考えるとあくまでも現物出資時のスポットにおける帰属関係が基礎となるものともいえ、上記のように管理という実質的な判断を解釈として持ち出すことには賛否が分かれることもありうる。いずれにしても本件は適格現物出資における資産判定の基礎となる事例として今後も重要であり、地裁段階の判例であり、判示が変化する可能性もあるが、本件は重要な事例であろう。
以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。