2020年7月28日火曜日

判例裁決紹介(福岡高判令和二年2月4日、上納金に対する所得課税、所得帰属の認定)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は福岡高判令和2年2月4日で、北九州を拠点とする反社会的団体の代表者に対する上納金が所得課税に該当するのかという点が争点となった事例です。

具体的には、北九州を拠点とする反社会的団体の代表(はっきりとは書きませんが、これだけでほぼ特定できるはずです)が傘下の組織、関連団体、フロントの企業がから得た上納金が、口座間で多数移動されているが、これが所得の帰属を表出しており、所得課税の対象となるものであるのか、という点が中心的な争点になっている事例である。犯罪収益、不法収益、不当収益が所得税法上、課税対象となることは、反対意見も根強いものの、現状においては、所得税法の解釈において、雑所得としての存在意義からも通説として、課税対象とすることに賛意が示されている(学説、判例ともに)。現実の社会においてはこのような反社会的な団体や、個人による活動は、残念ながら存在しているものであり、一般の日常生活からかけ離れたところにあるようでありながら、実は表裏一体のところに、意外と身近なところにあるものであり(本件でも飲食店等の団体からの上納金が取り上げられている)、この課税関係が争われた事例であろう(租税の取り締まりというよりは、反社会的勢力の取締としての意図が多分に含まれているであろうことは否定し難いが)。

過去においても不法収益に関する所得課税の事例、裁判例は存在していたが、本件のように詳細な事実認定から課税所得である旨が扱われた事例は珍しい。基本的に包括的所得概念のもと、あらゆる所得を課税所得とすることは所得税法上、ほぼ確定されているところであり、本件でもこの点は直接的な争点とはなっていない。本件の中心的な争点は、事実認定として、本件上納金が代表者の食として該当するものであるのか、いわば、所得の帰属が認定されているものであり、実質的な所得者として該当するものであるのかという部分の検討が中心となっているものである。この点において、資金の流れ、特に反社会的勢力の資金の流れが(おそらく犯罪収益が含まれていない日常的な不法収益が基礎となっているものであり全体の一部であろうが)、明らかとされた事例は珍しいものであろう。

かかる点において、本件の中心は、この所得の帰属、認定を判定する上で、推計が行われているものであるが、この手法の妥当性、他の推計に比して、いわば大雑把であるとの問題意識が本件の基礎を構成しているものであろう(控訴の趣旨も)。この妥当性に関しては、関係者の供述や、口座の資金移動を基礎として総合的に判断がなされており、裁判所の判断としては(地裁の判断に一部疑義がつけられているものの)、結論としての推計に一定の妥当性が認められるものと判断されている。推計や実質的な所得者の認定は、法的な関係を超えて、租税法規において、その効果を帰属させるものであり、種々の議論が存在しているが、確かに通常の租税法における推計の実施に比して、口座の動きの認定などが供述に依拠している部分があるなど、感覚的な部分は否めない。しかしながら、これは対象となる所得、団体の性格から、やむを得ないものであり、結論を左右するものではないだろう。中心として、継続的な資金移動、特に口座の維持管理に着目しているものであり、かかる点から帰属関係を認定していることは、租税法規の解釈において、管理支配を明らかとするものであり、従前の判例とも整合的である。大雑把、推計方法の合理性・妥当性という評価はあり得ようが、そもそもにおいて実額課税とは異なることは明らかであって、その認定の程度は、裁量の余地が大きいものと考えられる。本件は、口座の管理に焦点を当てており、多様な側面が議論されるべきであるが、収益の享受という、最も基本的な部分に焦点をあて管理支配という部分から帰属を判断しており、かかる点は今後も収益の帰属判定のベースを理解する上で参考となるべきものであろう。


いずれにしても、本件は、個別性の高い、あるいは租税法規を離れ、治安政策の意図なども含むものでろう。しかしながら日本国に居住するものとして、本件のような反社会団体の存在をどのように捉えるのかという部分も問題になるであろうが(そもそも反社会団体が金融機関の口座を頻繁に活用している事自体が驚きではあるが)、まずはこのような裁判が実現され、司法システムの中で議論され、公開されているという点は、敬意に値することであろうとは思う(関係者の皆さんの非常な努力によるものであろう)。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年7月18日土曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年10月18日、高額譲受による資産の譲渡と売上原価、寄附金)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年10月18日で、時価よりも高額(約1億)により購入した土地の譲渡に関する売上原価において、当該時価よりも高額な部分は除外することができるかどうかという点が争点になった事例です。

具体的には原告である不動産業を営む法人が、取得した土地(取得対価は、譲渡法人への当該法人の貸付け等の相殺による)に関する取得価額が時価よりも非常に高額(約1億円)であり、当該不動産の譲渡において、この高額な譲受金額をもって売上原価として損金計上を行い、もって繰越欠損を計上した確定申告につき、時価を超える金額は売上原価から除外されるべきものであるとしてその損金計上を否認した課税庁の処分を不服として提起された事案です。何故か岡山の事案が東京で争われるなど、些か不明な点もある事例ではあるのですが、売上原価という損金、費用計上において最も基本的な部分でありながらも、時価との対比、寄附金の認定等、法人税法上の計算の影響を受けるものとした事案であり、実務的にも影響を及ぼす(おそらく、金額的にもこのような取引は少ないでしょうし、そもそも高額譲受け自体が純経済人の行為としては不合理なものであることは言うまでもないことですが、意外とこのような関連会社等を活用した費用分配に属するような取引は行われているものであろう、グループ法人税制の点からも検討すべきであろうが)可能性があり、今後の参考となる事例だろう。


棚卸資産の販売の収益に係る「売上原価」とは,当該資産の「取得価額」を指し,購入した棚卸資産の「取得価額」には,「当該資産の購入の代価」が含まれるとされている(法人税法29条2項,法人税法施行令32条1項1号イ)。

本件土地のように購入した棚卸資産の「購入の代価」はその販売の収益に係る「売上原価」として損金の額に算入されることになるが,時価よりも高額な売買代金による高額譲受けが行われた場合に,当該資産の「購入の代価」をどのように評価すべきかについて,法人税法や法人税法施行令に直接の規定は設けられていない。

以上のように本件は、高値で仕入れた土地の金額が購入の対価として売上原価を構成するものであるのかという点が基本的な争点となっているものである。時価相当額がいくらであるのか、同族会社の行為計算否認の適用、当該高額部分は合理的な対価を含むものであるのかという点な中心的な争点となっていない(債権放棄における合理性と寄附金の関係が通常は争われるような事案ではあるだろうが何故かこの点は主張が少なく、主たる争点となっていない)。判示としては、寄附金の法人税法37条の解釈から本件のような高額譲受は、寄附金に相当するものであり、かかるようなものは、購入の対価に該当しないとして原告の主張を棄却している。

下記のように、法人税法は、37条8項において、いわゆる低額譲渡に関しては、明文をもって寄附金への該当を定めている。原告の主張は、このような法的な基礎を持たない、高額の譲受けの場合は、本件のような損金から除外することは、違法であるという主張を行っている。

  法人税法
(寄附金の損金不算入)
第三十七条
内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。

内国法人が資産譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち
実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

「経済的な利益の……無償の供与」をした場合における当該「経済的な利益」の時価として,法人税法37条7項が定義する「寄附金の額」に該当することから,当該金額が損金算入限度額を超えて損金の額に算入されないものであることを
確認的に規定したものと解される。
法人が時価よりも高額の売買代金により不動産等の資産を購入した場合も,売買代金と時価との差額は,買主たる法人から売主に「供与」された「経済的な利益」であり,そのうち「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」については,「経済的な利益の……無償の供与」をした場合における当該「経済的な利益」の時価として,法人税法37条7項が定義する「寄附金の額」に該当することになるから,当該金額は損金算入限度額を超えて損金の額に算入されないこととなるものと解される。」

しかしながら、判示は、上記のように、法人税法の寄附金規定は、取引を否認するものではなく、租税法規の適用上、その効果を損金算入否認という形で表現するものであり、寄附金の額としては、非常に広範囲のものを対象としており、8項は確認的な規定(少し話はずれるが、そもそも8項における低額譲渡のうち、その具体的な金額を規定する実質的に贈与等した金額と認められる金額とはいかなるものであるのだろうか、実質的にという部分をどのように解するべきであるのかという点は解釈論としても具体的な金額を確定するためにも些か不確定な文言であるようにも捉えられる)であるとして、本件のような高額譲受においても寄附金の該当性を認めている。寄附金規定の包括的な対象を基礎としている以上、8項を確認規定と理解して、7項から本件のような高額譲受に関しても寄附金該当性を認める事となっているものであろう(この是非に関しては賛否が分かれる物と言えようが法人税法がその固有概念として寄附金を包括的に規定していることは明らかであり、高額譲受を対象から除外していると理解することは趣旨に反するものであろう。具体的な金額として実質的な金額を如何に捉えるのかという点は気になるところであるが、本件では時価との対比される金額については大きな争いはない。)。

以上のように判示は前提として寄附金規定の解釈から、このような高額譲受の時価との乖離相当額を売上原価として否定して損金に算入することを否定しているものである。しかし、以下のように、寄附金としての該当から、損金算入制限を受けるものであるという点から下記のように売上原価、あるいは購入の対価ではないとする判断、直接的に売上原価から除外して、損金算入はできないと判断をすることの論理が必ずしも定かではない。

たしかに法人税法は、寄附金への該当するものとして認定されるものに関しては、損金算入を否定しており、結果として損金算入を否定するという点において売上原価から除外することと差異はないのかもしれない。しかしながら、寄附金規定は損金算入限度額を設け、その超過額を損金算入を否認するものであり、売上原価ではないとして損金としての該当性を判断するものとは法人税法上の適用される計算構造が異なるものである。寄附金としての認定、該当性を基礎とするならば、37条の直接的な適用による損金算入限度額の計算に当てはめられるべきではないだろうか。従って判示は下記のように売上原価とは異なる別の費用損失として損金該当性を判断するものとしているが、仮に別の費用損失であるとしても寄附金への該当性が直接争われるべきものであることには変わりなく、本件ではこの点の検討、特に対価性の議論がより行われるべきであるのではないだろうか(おそらく本件高額部分が結論として寄附金へ該当して損金算入に制限を加えられることに相違はなく、売上原価に該当しないからと言う部分を判断しているだけでは本件の中心的な争点である損金算入への影響を判断することは困難であろう。)。


「「寄附金の額」と評価される場合には,法人税法の適用上,損金の額への算入が制限されるのであるから,そのような扱いを受ける当該差額は,当該資産の販売の収益に係る費用として当然に損金の額に算入される「
売上原価」とは異質なものといわざるを得ず,「売上原価」とは異なる費用又は損失の額として別途損金該当性を判断すべきもの」

判示でも述べられているように、法人税法上の寄附金規定は、私法上の法律行為としての否定や変更等を伴うものではなく、寄附金への該当から損金への否定を行うのみである。上記のように売上原価とは異質なものとして評価してるが、本件はあくまでも寄附金という法人税法上の損金の一般規定ではなく別段の定めという部分の課題であり、法人税施行令が購入の対価を持って棚卸資産取得額と定めている部分について、特に購入の対価の解釈を寄附金規定の影響を鑑み、固有の概念として理解しているようにも捉えられる。すなわち対価という私法部分での評価を覆すものとして、限定的に捉えるべきものであろうか(最終的な結果は変わらないかもしれないがこの部分の解釈に関しては予測可能性を基礎とする租税法規の解釈においては整合しているものであろうか)。29条と37条の関係の問題であるのかもしれないが、法規上は29条において売上原価として認めても37条の適用の余地はあるものであろう。課税庁の主張としては売上原価として認定することで対価性が認められ、もって寄附金の該当性を否定されることになることを危惧したものとも理解することはできるが、8項とは異なり明文の規定がない高額譲受を用いて法人税法上の売上原価、購入の対価の範囲を限定的に解することは租税法規の基本的な要請として予測可能性を担保しているものとは言い難いのでないだろうか。本件は寄附金としての該当性を中心的な争点として争われるべきものであったように思われる。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年7月13日月曜日

判例裁決紹介(最判令和2年7月2日、破産会社における過払金返還請求に過年度損益修正と公正処理基準)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は最判令和2年7月2日)で、非常に最近の最判ですが、破産会社における高裁が認めた過年度への遡っての損益の修正を否定した事例です。

具体的には、非上告人である法人(破産会社、管財人あり)が平成24年に破産手続きを行い、かかる破産手続の確定により過払金返還請求による債務(制限超過利息に関する不当利得の返還請求)が確定したことを受けて、もって過去に納付した法人税の申告における益金の修正が行われたものとして更正の請求(返還された金額を破産弁済に活用する)を行ったことに付き、課税庁が前期損益修正として、当該確定した年度における損益として扱うべきであり、更正すべき理由がないとした処分について、その取消を求めた事例である。納税者としては不当利得であり、各事業年度に遡って事業年度における各益金を修正して納税額を返還すべきとしていたが、課税庁は、前期損益修正として、当該債務の確定、したタイミングでの計上を行うべきとして、主張が対立しているものである。法律的な側面に慣れている人であれば、当該過払金は、益金として計上されているものであるが、不当利得であり無効(取り消し)対象であって、最初からなかったものであり、法人所得として捉えること自体が問題であるとの考えに親和的であろうが、本件は、その処理方法として債務が手続きにより確定した段階をもって損益を計上すべきとした(これが、従来の処理であろうが)対応が中心的な争点となっているものである。

原審は、破産会社であり、会社法における損益の遡及修正は、
「破産会社において過年度に計上した収益の額を修正する必要がある場合には,事後的な修正をしても,株主
等の利害関係人や債権者との利害調整の基盤が揺らぐとは考えられない。」

として、利害調整を基礎としたものであり、破産会社の特徴から事後的な修正であっても利害関係者等との調整が困難になるものではないとして、いわゆる法人税法22条4項の公正処理基準への該当性を認め、納税者の主張を認め、過年度の法人所得の修正を認めたものであるが、会社法や企業会計における、基本的な目標としての利害関係の調整という視点をもって公正処理基準への該当性を認めうる、拡張的に捉えたものであるように考えられるものであったが、本判決は、この該当性を否定して、破産会社であっても、法人税法の基本的な原則である、事業年度ごとに計算することから逸脱することが公正処理基準の観点から認められるものではないとしている。本件では明確に公正処理基準の意義をどのように解するものであるのかという点は最判において触れられていないが、破産会社という特徴をもって(弁済額を多くするため)公正処理基準の該当性を図ることは否定的に捉えられているものである。

法人税法における公正処理基準は、下記のように、別段の定めがるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に準拠することを認めた基準であるが、損も具体的な範囲がいかなるものであるのかという点は、従来課題とされてきた。

法人税法22条
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

私見としても、公正処理基準は法人税法の基本的な目標として適正な法人所得の計算にあるものであり、かかる目的の範囲内で便宜的に会計基準や会社法における処理を許容するものであると考えるが、会社法等における利害調整の目的(具体的にどのような対象の利害調整を対象としているのかという部分が多様であるように思われ、具体的な指針として機能するものであるのか、租税法規の立場から疑問であるであるが)、から、かかる点への影響が限定的であるとして、公正処理基準への該当性を判断する枠組みは法人税法の解釈として採用し得ないものであると考える(この点は他の会計処理の該当性判断においても同様であろう)。公正処理基準はあくまでも法人税法の規定として捉えられるべきであろう。

本件のように益金の基礎たる部分に法律的な原因がないものと理解される部分に関しては、すなわち不当利得にかかる部分に関して租税負担を課すこと自体に反対意見があることは理解されるが(おそらく法律を生業とする人にとっては不当利得でも課税されることには違和感が強いのであろう)、本件は立法に属するものであり、租税法律関係の早期安定や、欠損金、不当利得の取り扱い、破産会社に限定されず一般法人における遡及修正の是非等の総合的な観点から検討されるべきものであるのではないだろうか(申告納税方式を基礎とする以上、そして包括的な所得を基礎とする以上は、各事業年度に区分して課税を行う現状を否定する事になりかねず、法人税法全体の体系に反するものであり、制度的にはハードルが高いように思われる)。

本件判示も下記のように、事業年度ごとの計算を法人税法の原則としており、遡及修正は反するものとして理解している。一般的な会計基準や会計慣行においても遡及修正は認められていないところから、法人税法が先行すべき理由はないものと判断しているのであろう。課税標準を明確に事業年度として、確定決算主義を採用することで、各事業年度の確定し他申告をベースにした計算方法がベースであるという点は、本件のように、破産会社に限らず、一般的に言えることでもあり、本件の判示として、破産会社以外に、一般法人においてもその遡及を廃することになるとも射程範囲として理解することもできよう。

法人税法も,事業年度(法人の財産及び損益の計算の単位となる期間で,法令で
定めるもの又は法人の定款等で定めるもの等。13条)における所得の金額を課税
標準として課税することとし(21条),確定した決算に基づき各事業年度の所得
の金額等を記載した申告書を提出すべきものとしており(74条1項),国税通則
法も,当該申告書の提出による申告をもって,当該事業年度の終了時に成立した法
人税の納税義務につき納付すべき税額が確定することとしている(15条2項3
号,16条1項1号及び2項1号)。


いずれにしても判示は、破産会社において、
「課税関係の調整が図られる場合を定めたこのような特別の規定が,破産者である法人につい
ても適用されることを前提とし,具体的な要件と手続を詳細に定めていることから
すれば,同法は,破産者である法人であっても,特別に定められた要件と手続の下
においてのみ事業年度を超えた課税関係の調整を行うことを原則としているもの」

として、公正処理基準による法人税法の計算原則からの例外を許容しないと判断している。
他の法人税法規定による、課税関係、特に、過年度損益修正を規定している繰越欠損の規定から、法人税法は、法人税法は原則的な計算を基礎としているものであり、かかる計算が法人税法の計算として基礎的な目的に相当するものであると理解しているといえよう。しかるに、このように考えるならば、上記のように破産会社に限らず一般法人も遡及修正は否定的に解されることになるだろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年7月4日土曜日

判例裁決紹介(最判令和元年7月16日、固定資産税評価取消訴訟における、主張の追加の可否、前置の趣旨)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は最判令和元年7月16日で、固定資産税評価における取消訴訟において、主張の追加を認めるのか否かという点が課題となった事例です。

具体的には、本件は、上告人で固定資産税を納付した者が、その評価額に対して不服であるとして評価委員会に申立て、更に地裁高裁と訴訟が継続されているものであり、本件では、高裁においてその主張立証において評価不服における理由追加を行ったことの是非について最高裁判例が出たものである。申告納税方式ではなく、賦課課税方式を採用するwが国の地方税の体系において、固定資産税評価委員会による審査の前置が求められているところにおいて、原則としてこの前置、評価委員会における審理を要求している現状があるところ、高裁は、この前置主義の趣旨から、主張の追加は認められないと判断したものの、最高裁は、その判断として、理由の追加を認めたものである。著名な租税弁護士であった方が裁判長を務める第三小法廷における判断であるが、前回一致で、かかる判断を行っており、追加主張に対する審理を尽くさせるべく、差戻しが行われている事例である(かかる点において評価方法の合理性、評価額の適正性というよりは、訴訟における方法論が中心的な判示となっているもの)。

申告納税における、理由附記、そしてそれに伴う理由の差し替え、追加等の訴訟についての是非に関しては、過去に裁判例ば存在するものであるが、賦課課税を基礎とした固定資産税において、このような取消訴訟段階での理由追加が認められるものであることが判断されたことは初めての事例であり、近年固定資産税に関する訴訟が増加傾向にあることから、評価委員会審理段階での調査のみならず、このような複雑な評価制度の理解がまだまだ納税者段階でも十分ではない現状を評価するならば、本件判断は、納税者としての権利保護という点を追求するものであると評価されるものであり、かかる点において重大な影響を持つべき重要な判例であるが、評価に関する納税者主張の審理を厳密に行う必要があるものであり、評価委員会の運営、評価実務においても現状の賦課課税方式に依拠した複雑な評価方法においても、影響を及ぼしうる事例ではないだろうか。法的安定性や予測可能性をベースとする租税法規の解釈よりも資産保有に対する課税として財産権への配慮がより求められることになるのかもしれない。


地方税法(固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出)
第四百三十二条 固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(第三百八十九条第一項、第四百十七条第二項又は第七百四十三条第一項若しくは第二項の規定によつて道府県知事又は総務大臣が決定し、又は修正し市町村長に通知したものを除く。)について不服がある場合においては、第四百十一条第二項の規定による公示の日から納税通知書の交付を受けた日後三月を経過する日まで若しくは第四百十九条第三項の規定による公示の日から同日後三月を経過する日(第四百二十条の更正に基づく納税通知書の交付を受けた者にあつては、当該納税通知書の交付を受けた日後三月を経過する日)までの間において、又は第四百十七条第一項の通知を受けた日から三月以内に、文書をもつて、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。ただし、当該固定資産のうち第四百十一条第三項の規定によつて土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとみなされる土地又は家屋の価格については、当該土地又は家屋について第三百四十九条第二項第一号に掲げる事情があるため同条同項ただし書、第三項ただし書又は第五項ただし書の規定の適用を受けるべきものであることを申し立てる場合を除いては、審査の申出をすることができない
2 行政不服審査法第十条から第十二条まで、第十五条第十八条第一項ただし書及び第三項、第十九条第二項(第三号及び第五号を除く。)及び第四項並びに第二十三条の規定は、前項の審査の申出の手続について準用する。この場合において、同法第十一条第二項中「第九条第一項の規定により指名された者(以下「審理員」という。)」とあるのは「地方税法第四百三十二条第一項の審査の申出を受けた固定資産評価審査委員会(以下「審査庁」という。)」と、同法第十九条第二項中「次に掲げる事項」とあるのは「次に掲げる事項その他条例で定める事項」と読み替えるものとする。
3 固定資産税の賦課についての審査請求においては、第一項の規定により審査を申し出ることができる事項についての不服を当該固定資産税の賦課についての不服の理由とすることができない。
(固定資産評価審査委員会の審査の決定の手続)
第四百三十三条 固定資産評価審査委員会は、前条第一項の審査の申出を受けた場合においては、直ちにその必要と認める調査その他事実審査を行い、その申出を受けた日から三十日以内に審査の決定をしなければならない。
2 不服の審理は、書面による。ただし、審査を申し出た者の求めがあつた場合には、固定資産評価審査委員会は、当該審査を申し出た者に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。
3 固定資産評価審査委員会は、審査のために必要がある場合においては、職権に基づいて、又は関係人の請求によつて審査を申し出た者及びその者の固定資産の評価に必要な資料を所持する者に対し、相当の期間を定めて、審査に関し必要な資料の提出を求めることができる。
4 固定資産評価審査委員会は、審査のために必要がある場合においては、固定資産評価員に対し、評価調書に関する事項についての説明を求めることができる。
5 審査を申し出た者は、市町村長に対し、当該申出に係る主張に理由があることを明らかにするために必要な事項について、相当の期間を定めて、書面で回答するよう、書面で照会をすることができる。ただし、その照会が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

以上のように、本件は固定資産税における、取消訴訟において、評価委員会において、審理されていない理由の追加が認められるのかという点が判断されたものである。原審段階では、上記地方税法が、前置により、価格評価に関しては基本的に評価委員会に限定されるものであるという文言から、新たな評価に関する理由の追加は認められないとしたものであるが、最判では下記のように、前置の趣旨を納税者の権利保護と行政の適正な運営の確保を図る趣旨に求めている。ここに専門的な租税に関する審理の追求を図り、租税法律関係の早期の安定を基礎とする申告納税制度をベースとした国税との相違を見ることができる。専門技術的に適正性を図ることに力点がおかれるものではなく、納税者の件r2を保護することにも注意が図られるものとした、評価審査委員会及び、その前置による審査の意義にあるものと理解される。

「固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(以下「登録価格」という。)に不服がある場合には,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(地方税法432条1項),同委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同委員会に対する審査の申出及び審査決定の取消訴訟によることによってのみ争うことができる(同法434条2項)とされている。上記審査は,納税者の権利を保護するとともに,固定資産税の賦課に係る行政の適正な運営の確保を図る趣旨に出るものであり,同委員会が,職権により,審査に必要な資料の収集等をすることができるものとされていること(同法433条3項,11項,行政不服審査法(平成26年法律第68号による改正前のもの)27条,29条,30条)をも併せ考えると,同委員会は,審査申出人の主張しない事由についても審査の対象とすることができると解すべきである。そうすると,同委員会による審査の対象は,登録価格の適否を判断するのに必要な事項全般に及ぶというべきであり,審査決定の取消訴訟においては,同委員会による価格の認定の適否が問題となるのであって,当該価格の認定の違法性を基礎付ける具体的な主張は,単なる攻撃防御方法にすぎないから,審査申出人が審査の際に主張しなかった違法事由を同訴訟において主張することが,地方税法434条2項等の趣旨に反するものであるとはいえない。」

明確に評価審査委員会による審査の趣旨を納税者の権利保護と固定資産税の賦課における行政の適正な運営という点に解して、かかる点から、追加主張においても単なる攻撃防御の手段であるとして、前置制度の趣旨を理解している点は本件の特徴的な点である。個人的にはこの点から、固定資産税の判断において追加主張の許容以外にも波及する可能性があるものであるのか注目される。
権利の保護と、行政運営の適正化を趣旨とした租税制度自体が他に例があるのかという点も更に検討したいところであるが、これほど明確に権利保護の観点を租税制度に認めた事例は近年の我が国の租税制度の理解においては非常に珍しい物と考えられる。更に評価委員会の審査対象を登録価格の適否を判断する全てに及ぶものと審査対象の範囲を非常に広範囲に捉えていることも重要であろう。この点からは、評価委員会の位置づけ、前置主義の理解が変化したものともいえ、今後の評価委員会の運営においても幅広い、積極的な資料収集が求められることになるともいえる。本件では賦課課税方式であるがゆえの判断であるのかという点は定かではないが(特に明記されていない)、本件判示を契機に理由附記等の整備が国税とは異なっており、かかる点からも評価委員会の趣旨、機能は理解、整備されていくことになるのであろうか(実態的にそのような運営が可能であるのかという点は、評価方法の複雑さから難しいのではないかともいえようが)、何れにせよ納税者の権利保護の観点からは重要な判断であり、取消訴訟での追加が認められるということによる本判決の影響を更に検討していく必要があるだろう。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。