さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は福岡高判令和2年2月4日で、北九州を拠点とする反社会的団体の代表者に対する上納金が所得課税に該当するのかという点が争点となった事例です。
具体的には、北九州を拠点とする反社会的団体の代表(はっきりとは書きませんが、これだけでほぼ特定できるはずです)が傘下の組織、関連団体、フロントの企業がから得た上納金が、口座間で多数移動されているが、これが所得の帰属を表出しており、所得課税の対象となるものであるのか、という点が中心的な争点になっている事例である。犯罪収益、不法収益、不当収益が所得税法上、課税対象となることは、反対意見も根強いものの、現状においては、所得税法の解釈において、雑所得としての存在意義からも通説として、課税対象とすることに賛意が示されている(学説、判例ともに)。現実の社会においてはこのような反社会的な団体や、個人による活動は、残念ながら存在しているものであり、一般の日常生活からかけ離れたところにあるようでありながら、実は表裏一体のところに、意外と身近なところにあるものであり(本件でも飲食店等の団体からの上納金が取り上げられている)、この課税関係が争われた事例であろう(租税の取り締まりというよりは、反社会的勢力の取締としての意図が多分に含まれているであろうことは否定し難いが)。
過去においても不法収益に関する所得課税の事例、裁判例は存在していたが、本件のように詳細な事実認定から課税所得である旨が扱われた事例は珍しい。基本的に包括的所得概念のもと、あらゆる所得を課税所得とすることは所得税法上、ほぼ確定されているところであり、本件でもこの点は直接的な争点とはなっていない。本件の中心的な争点は、事実認定として、本件上納金が代表者の食として該当するものであるのか、いわば、所得の帰属が認定されているものであり、実質的な所得者として該当するものであるのかという部分の検討が中心となっているものである。この点において、資金の流れ、特に反社会的勢力の資金の流れが(おそらく犯罪収益が含まれていない日常的な不法収益が基礎となっているものであり全体の一部であろうが)、明らかとされた事例は珍しいものであろう。
かかる点において、本件の中心は、この所得の帰属、認定を判定する上で、推計が行われているものであるが、この手法の妥当性、他の推計に比して、いわば大雑把であるとの問題意識が本件の基礎を構成しているものであろう(控訴の趣旨も)。この妥当性に関しては、関係者の供述や、口座の資金移動を基礎として総合的に判断がなされており、裁判所の判断としては(地裁の判断に一部疑義がつけられているものの)、結論としての推計に一定の妥当性が認められるものと判断されている。推計や実質的な所得者の認定は、法的な関係を超えて、租税法規において、その効果を帰属させるものであり、種々の議論が存在しているが、確かに通常の租税法における推計の実施に比して、口座の動きの認定などが供述に依拠している部分があるなど、感覚的な部分は否めない。しかしながら、これは対象となる所得、団体の性格から、やむを得ないものであり、結論を左右するものではないだろう。中心として、継続的な資金移動、特に口座の維持管理に着目しているものであり、かかる点から帰属関係を認定していることは、租税法規の解釈において、管理支配を明らかとするものであり、従前の判例とも整合的である。大雑把、推計方法の合理性・妥当性という評価はあり得ようが、そもそもにおいて実額課税とは異なることは明らかであって、その認定の程度は、裁量の余地が大きいものと考えられる。本件は、口座の管理に焦点を当てており、多様な側面が議論されるべきであるが、収益の享受という、最も基本的な部分に焦点をあて管理支配という部分から帰属を判断しており、かかる点は今後も収益の帰属判定のベースを理解する上で参考となるべきものであろう。
いずれにしても、本件は、個別性の高い、あるいは租税法規を離れ、治安政策の意図なども含むものでろう。しかしながら日本国に居住するものとして、本件のような反社会団体の存在をどのように捉えるのかという部分も問題になるであろうが(そもそも反社会団体が金融機関の口座を頻繁に活用している事自体が驚きではあるが)、まずはこのような裁判が実現され、司法システムの中で議論され、公開されているという点は、敬意に値することであろうとは思う(関係者の皆さんの非常な努力によるものであろう)。