2020年3月23日月曜日

判例裁決紹介(令和元年6月20日裁決、取締役の不正行為と法人における重加算税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和元年6月20日裁決で、取締役の横領等の不正行為による架空費用の計上が法人における重加算税の賦課対象となりうるのかという点が争われた事例です。

具体的には法人たる請求人が法人税の確定申告において損金として計上していた営業協力費、外注費等に関して、専務取締役(利益の7割を稼いでいる)たる者がなした取引先に内容虚偽の架空請求書を作成させ、もって金員を搾取した行為によるものであるとして、調査により、かかる行為は仮装隠蔽に該当する行為であるとして重加算税が賦課決定をなした処分につき不服を申し出ているものである。かかる行為は取締役個人が行った不正行為であり、当該専務は経理や申告等の業務を職務として担当しているものではないとして、法人の行為ではなく、取締役の責任であって重加算税の対象となることを問題視しているものである。実質的には法人も当該役員の被害者であり、損害賠償請求や、求償の問題となるものであるが(この点について、その計上に関する課題は、異時、同時など、固有の論点として従前存在しているが)、この横領行為により、被害を受けた上で更に、租税負担として非常に重い税率となる重加算税を賦課されることに納得が行かないという素朴な思いが起点となっているものであろう。この種の事案は、多様な事例が存在するものの、本件もその類型として、如何にして法人の行為と実際の行為者が同一視されるものであるのかという点が事実認定として課題となるべき事案である。法令解釈上特段特徴的なものではないが、納税者が主張するように、課税処分に関連する申告行為等に限定したものを対象として捉える法令解釈を否定して、対象範囲を比較的幅広く理解して、重加算税の対象としている点は従前と整合的な判断であろう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

以上のように、本件の中心的な争点は法人という集合体、組織体としての存在において、上記のように、納税者とのみ法令が規定している状況においてこれを如何に解するのかという点が課題となる。判断は、以下のように重加算税の基本的な趣旨から納税者の範囲を解している。通常、納税者という文言に忠実に理解すれば、実際に納税申告を行う者に限定されるという解釈も自然と言えようが、本件では、基本的な趣旨から一定の拡張の余地を認めて、法人の場合は、地位と権限を有すること及び、法人の行為と評価できるものであるのか、という観点を基準として、判断を行うこととしている。この点は、下記のように、納税者の主張として主観的責任を制限するものであるとの主張(そもそも主観的な責任というものがどのようなものであるのかという点は定かではないが)を排斥している。

私見としても重加算税の対象たる仮装隠蔽行為を虚偽の申告のみではなく、架空経費の計上なども対象としている以上、行為者を限定的に理解することは、困難であると考える。法人が集合体としての性格を有する以上、一定の役員や従業員の行為を法人とかけ離れた行為として評価していくことは、些か法令の趣旨に反するものと言えよう。実質的にも法人の多数を占める中小企業の構造を鑑みれば、個人の行為と組織の行為を切り離すことは難しいと捉えるべきである。また、重加算税が制裁的な性質を持つことは否定されないが、あくまでも、刑事罰とは異なるものであり、明確に対象範囲を限定することは申告納税を支える公平性の点から過度に限定しているものと判断される。

「重加算税の税率は、他の加算税の税率より2倍以上高いこと、通則法第68条第1項は、他の加算税の規定(第65条ないし第67条)と異なり、その課税要件である隠蔽又は仮装の主体を「納税者」と明示していることなどからすれば、重加算税は納税義務違反の発生を防止し、納税の実を上げようとする趣旨のものであることは当然として、納税に関して隠蔽又は仮装という反社会的、反道徳的な不正行為を行い、納税を免れようとした者に対する一種の制裁的規定の性質も有するものといえる。したがって、通則法第68条第1項に規定する「納税者」は、基本的に納税者本人(法人の場合は、その代表者)を指すものと解される。しかしながら、法人における事業活動、経済活動は、一般的に組織的活動として行われ、その活動に複数の人間が有機的に関与することが多いことは周知のとおりであり、現実には、組織に所属する複数の者がそれぞれの部署において一定の権限を与えられ、その権限と裁量に基づき、法人としての有機的な事業活動を担っているのが常態であるといえる。法人が納税義務者である場合、その「納税者」とは、代表者個人ではなく、代表者を頂点とする有機的な組織体としての法人そのものであるから、法人の意思決定機関である代表者自身が隠蔽又は仮装を行った場合に限らず、法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき、法人の業務として行った隠蔽又は仮装であって、全体として、納税者たる法人の行為と評価できるものについては、納税者自身が行った行為と同視され、通則法第68条第1項の重加算税の対象となるものと解するのが相当である。」

以上、上記のような判断では、法令解釈として拡張的な意義として理解され、下記請求人の主張を棄却している。重加算税が他の附帯税よりも非常に高率な税負担を課していることを重視するならば、一定の限定的な判断も理解されるところであろう。納税者が被害者であることも考えれば衡平とも考える意見もあり得る。

「重加算税制度は、悪質な納税義務違反の発生を防止することを目的とし、納税者に対し主観的責任を追及することを趣旨とする制度である。 そして、重加算税の賦課は、納税者本人による隠蔽又は仮装を要件としているところ、別人格である自然人の行為を納税者の行為と同視する旨の法令の規定は存在しないのであるから、両者の行為を同視することはできず、身体のない法人に重加算税が課されるのは、別人格である自然人の行為をもって重加算税賦課の要件事実、すなわち納税者による隠蔽又は仮装があったと規範的に評価できる場合に限られる。」

「具体的にいうと、納税者が法人の場合については、現実に組織として行う法人の申告納税を適正に執り行うべき者が、過少申告の認識があるかどうかまでは問わないとしても、その行為の意味を理解しながら隠蔽又は仮装を行った場合に、悪質な納税義務違反を納税者(法人)が行ったものと評価され、主観的責任の追及としての重加算税が課されるものである。 上記「現実に組織として行う法人の申告納税を適正に執り行うべき者」とは、典型的には、法人の納税申告の最終責任者としての代表者のほか、経理や申告手続を行う者として法人内で権限を有する経理責任者と経理責任者の下で経理や申告手続事務を実際に行っている担当者をいうと解すべきである。」

なお、本件で示された法人の行為と同視されるか否かの基準として権限と地位を重視している。但し、名目的な地位の名称ではなく、実質的な権限の存在、外形的な取引、取引先の評価を中心とした認定を行っていることは留意されるべきであろう。外部との取引における権限を基礎とすることで、法人の行為としての同質性を図る上で、客観的な担保を求めていることは事実を評価する上で、重要と理解されているものと理解される。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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