さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年5月14日裁決で第三者による仮装行為と重加算税の賦課対象となるのか否かが争われた事例です。
具体的には、歯科医院を営む請求人(個人)が事業所得の申告をなしたところ、調査によりその必要経費とした外注費に架空経費の計上(過大計上)が行われていたことを指摘され、重加算税の賦課決定処分を受けたことにより、かかる架空経費の計上という仮装行為は、経理を委任していた第三者(税理士資格を有していない)が行ったもの(領収書の仮装などをそもそも行うこと自体が問題であることは言うまでもないが)であり、その責任を追うことは妥当ではないとして、提起したものである。委任契約における責任を委託者が負うのか租税法規の問題というよりは民事法の問題とも考えられるが、本件においては、重加算税の賦課決定の要件を充足するものであるのかという点が争点となっており、第三者の行為が納税者本人の行為と同視できるのか、どの程度の行為であれば納税者行為として重加算税の対象となるのかという点が中心的な課題となっているものである。
判断としては、請求人の主張を廃して、納税者の行為と同視されるものと評価して重加算税の賦課を認めている。第三者への委託、今回は専門的な業務、会計書類の作成に関する業務の委託であり、この点で、税理士ではない人への委任(納税者はこの点を知り得なかったという点から責任を否定している)の場合における重加算税の賦課において、納税者の責任をより強固に判断したものと捉えられよう。
(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
以上のように、本件は、重加算税の賦課決定における請求人以外の行為の責任を対象と捉えられるのかという点が問題とされているものである。従前と同様、本件でもその重加算税の性格から、刑事罰ではないとのことも鑑みて、適正な申告を確保する趣旨から、納税者以外の行為であっても同視できるのかという点から評価を行い、対象範囲を拡大している。この点は従来の判断と同様であり、特段法令解釈としては特徴的なものではないものと考えられる。しかしながら、委任契約において委託者としては、契約した先の行為を確認する義務を負うべきものであろうか、特に本件のような専門的業務において発生する委任において、必ずしもこの責任を全うすることが可能であるだろうか、この点の責任の所在をもって、納税者の行為と同視することができるとの評価が妥当であるのかという疑問は、発生し得よう。ましてや一定の説明を受けているとはいえ、納税者の本人の責任を当形で、虚偽の申告を見つける可能性を要求することが現実の納税者の専門的な知見に対する評価から妥当であるだろうか。
「通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。同項は、隠ぺい又は仮装の行為の主体を「納税者」としているが、形式的に隠ぺい又は仮装の行為の主体が納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、上記の重加算税の趣旨及び目的を没却することとなるから、納税者自らの行為でなければならないと厳格に解するのは相当ではなく、納税者以外の第三者がした隠ぺい又は仮装の行為について、納税者の行為と同視すべき事情が認められる場合においては、通則法第68条第1項に規定する「納税者」の隠ぺい又は仮装の行為に当たるものと解するのが相当である。」
納税者は、下記のように、最判を引用し同視する状況を、以下のような要件に限定するとの解釈を主張している。
「①本件代表者が隠ぺい又は仮装の行為をすること若しくはしたことを請求人が認識し、又は容易に認識し得たこと、②法定申告期限までにその是正や過少申告の防止に係る措置を講ずることができたにもかかわらず、請求人がこれを防止せずに隠ぺい又は仮装の行為が行われ、それに基づいて過少申告がされることの各要件を満たした場合
に限り、本件代表者の行為を請求人の行為と同視し得る(最高裁判所平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1661頁参照)」
に限り、本件代表者の行為を請求人の行為と同視し得る(最高裁判所平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1661頁参照)」
これは代表的な納税者以外の責任を認めることとされた判決であるが、この判断に従えば、第三者による行為に必ずしも責任が同視されうるものではないものとも考えられる。
しかしながら本件は、下記のように、確定申告、申告納税制度における税理士の責任やその職業的な性格を基礎として、上記の事案とは異なるものと評価して、上記判断の枠組みを否定している。これにより、第三者への委任という状況における一般的な問題と捉えるのではなく、申告納税制度の基礎的な書類作成の状況における納税者の委任と第三者の仮想取引の行為を行った点を中心に捉えた形での判断を行っているものであり、本件は個別の事例として(あるいは税理士の責任を逆に裏付けるものとして)、評価されるべきであろう。申告における委任契約の行為に対する特別な注意義務を有している(そもそも納税者にこのような責任を追わせることは過度な責任とも考えられるが、申告納税制度という原則からはやむを得ないものとも言えよう)と事実上、課税庁の判断としては行っているものと捉えられよう。すなわち第三者として会計業務に関するサービスの提供に関しては、納税者の行為とほぼ同視される可能性が高いと考えるべき。税理士への委任を除き、いわば申告納税制度における納税者としての責任を事実上拡張的に理解しているものと評価されるべきである。ネットを活用した役務提供が増加している現況においては、会計業務に関する役務提供は多様化しつつあるものの(その意味で個々の責任は問われるべきであろうが)、納税者としてはこのような責任の所在を認識しておくべきであろう。
「税理士資格を有しない者に記帳代行業務(申告資料となる帳簿書類の作成)を委任した場合と、適正な納税申告の実現について公共的使命を負う税
理士に当該業務を委任した揚合とでは、納税者が自らの申告内容等について負うべき注意義務の内容及び程度にも自ずと差があるというべき」
理士に当該業務を委任した揚合とでは、納税者が自らの申告内容等について負うべき注意義務の内容及び程度にも自ずと差があるというべき」
以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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