2020年3月16日月曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年5月30日、給与の仮装と役員給与)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年(ついに令和の判例も扱うようになりました)5月30日で、従業員に対して支給した給与が仮装であり、内縁関係者への個人的な生活保障の支給であって、もって代表者に対する役員給与であるとして否定された事例です。

具体的には法人たる原告が損金として計上した従業員(元恋人、内縁関係)に対する給与(約45万、定額で手取り額を社会保障等から調整して一定額に)に対して調査によりかかる給与は仮装であって労務の提供ではなく(実際には労務の一部提供は認められているが、生活保障等のものとして認定)給与として支給していることは仮装であり、原告代表者が本来給付するべき支出の代替であってもって役員給与に該当するとして認定され、更正処分を行ったことに対して、勤務の実態が存在し、また一定の業務を行っており支給した給与全額が否認されることを不服として提起された事例である。

基本的に、事実関係の問題として、準配偶者的な存在(あえてこう書きます)が行う労働に対してどのように評価するのか、という点が中心的な争点であり、法令解釈としては特段問題となるものではないが(ある意味現代においても事実関係として、このような関係が存在していることを興味深く眺めるものでしょうか)理由附記等において一部、法令解釈上課題となっている部分もある。いずれにしてもこのようなガバナンスなどが課題とされる現代においてもこのような準配偶者的な存在への法人からの給与支給(正直、昭和かとも思いますし、実際このような給与否定の問題は、かつては多い事例であったようですが、最近は珍しい・・・おそらくは実際の現場では特に珍しいものではないのかもしれませんが、どちらかというとこの種の問題は相続におけるタイミングでの問題に移ってきている印象で、これも高齢社会でしょうか、また現場レベルでこのような話があれば教えて下さい)が従前と変わらず、中小企業においてガバナンスが機能しているものではなく、中小企業の実情として、相変わらず法人税法の具体的な想定が変わらないところであるということも示唆している事例であろう。すなわち代表者や一部の個人に法人の運営や決定が委ねられるものであり、コントロールが機能しているものではない(実質的には個人事業であることと大差がない)ような実態を典型的に表しているものと捉えられる。起業や中小企業においては、このような代表者にその権限等が集中することはある意味当然とでもいえることで、これが必要とされるエネルギーを生み、より拡張していく原動力となるものであり、企業の継続性とのバランスであるように考えるべきものであるのかもしれないが、我が国の場合は、特にこのような租税の局面では私的な費用との未分化がより強調され、より社会的な意義、貢献として企業の拡大等へつながらない、一定のラインにとどまるような法人の状況が認識されるものと考えられる。比較的俗な金銭部分に関わる租税関係分野の特徴も捉えられるのであろうが、このような個人との未分化の法人と個人の事業におけるバランスが今後の法人課税の一つの問題として取り扱われるだろう。おそらく、租税回避の手段として事実上使用されている法人の存在をどのように捉えるのか、中小法人に対する扱いをどのように調整していくべきであるのかという点が法人税の大きな課題となってくるものと考えられる。そもそも中小企業を大規模法人を同レベルのものとして取り扱うこと自体が非合理であり、もって大規模法人の制約になってきていることは現状の認識であろうし、個人のワーカー(ジョブ型の勤務が進展すればこのような存在がより顕在化するだろう)が増加していく現状を前提とすれば、このような法人を一律に捉えることは現状にそぐわないものと考えるべきであり、起業の拡張との衡平の視点からの検討もあろうが何らかの立法措置が必要(おそらく消費税の適格請求書導入とあわせて)だろう。

本件は一部勤務の状況が認められる(書類の受け取り等の一般事務が認められるが、勤務先が法人ではなく居住用家屋、肩もみなどの業務などを行っていると主張されている、使用している車両のリース費用も含む給与金額であるなど家屋、かつての同棲していた場所となっているなど勤務としての推測が困難な状況も多い。そもそも一般社会通念において40万円を超える月額給与を支払うものとして評価される職務内容であろうか)ものの租税法規の適用評価において、給与としての実態を認めず、内助の功として事実上、法人代表者が負担すべきものとして事実認定を行っている。現代の社会情勢において内助の功を評価する、生活保障というような存在を認定し、金銭支給すること自体も議論を呼ぶものであるものと言えようが、実態をどのように評価するのか、租税法規の適用においては実質を評価することは不可欠であるので事実関係に即した判断であろう。このような事実認定は近年においても存在する個人事業と類似した法人運営における、家事費的費消の取り扱いを検討する上で参考となろう。

法人税法130条
3 内国法人が、事実を隠蔽し、又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する給与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
4 前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。
以上、本件は、上記法人税法34条における役員給与における仮装隠蔽に当たる役員給与に該当するのか否かという点が中心的な争点となっている。一般的な事務を一部といえども担っていたことは、判示でも認めているが、下記のように非常に軽微なものとして認定している。ここに役員給与の仮装を認定する根拠としている。

「その一部に原告の業務といえるものが含まれていたとしても、家庭の主婦が夫に頼まれて行う事務の範囲にとどまる軽微な内容のものにすぎない。」

さらに、下記のように、内縁の妻の行為として評価して、内助の功としての作業にとどまるもの(このような表現は内助の功を不当に低く評価するものとして異論もあろう)として、雇用契約に基づく職務としての評価はできないものと判断している。
本件はかかる判断が社会通念にしたがって、妥当性を有するのかという点で安定性を欠く判断とも指摘されうるところでもあろうが、特に、原告の主張はこの種の主張においてよく見受けられる創意工夫に満ちた職務のため気持ちよく仕事ができるように、サポートしていたという主張がなされているが、当該従業員と代表者の関係性が基礎となった判断を覆す主張とは評価されていないものと考えられる。金額の相当性の問題として業務内容を問うことはあり得ようが、あくまでも従業員への支給の根拠が職務として雇用に基づくものであるのかという部分が重要な争点となっているものであり、事実上納税者に立証責任が転嫁されているものと言えよう。この種の転嫁は近年の訴訟において珍しいものではなく、職務として評価されるものであるのか、という部分において、単なるサポートなどのようなものではなく、サポートとしての必要性が明らかにされるべきであり、更には、提供者との関係性もまた、検討されることになるだろう。社会通念に従った判断は租税法規の領域としては予測可能性という点で不安定であるとの評価は異論はないが、申告納税の基本的趣旨を鑑みこのような必要性や業務との関連性がより必要されるものと判断されよう。

「自宅で仕事をする夫を支える内縁の妻としての行為であるというほかなく、これを■■自身が原告の従業員として行った業務と評価することはできないものである。原告
は、原告代表者が建設用機械の構想を練り、設計をするという創意工夫に満ちた仕事をしていたものであり、■■は原告代表者が気持ちよく仕事ができるようにサポートをしていたと主張するが、そのような原告代表者の仕事の性質や■■の貢献を考慮に加えたとしても、■■が行っていた活動がいわゆる内助の功に他ならないものであるとの上記評価が左右されるものではない。」

このような判断から、本件は、本件給与を役員給与であると認定して、帰属先を役員であるとしている。上記法人税法34条4項において、給与概念として、一般の判断を超えて、より広範囲に対象とすることは解釈の余地がなく、この中に本件も該当するとの判断である。経済的利益という部分は些か曖昧なものであるが、本件のように、例示の債務免除とは経済的利益の付与が法律の裏付けが必ずしも存在せず、直接的ではない(法的な夫婦ではない、このような内助の功への支給は法的な背景を有するものでは必ずしもないだろう)ものであっても役員が個人的に負担すべきものと評価している点は本件の特徴的なものであろう(経済的利益の範囲を非常に広く判断する枠組みだろう)。このような経済的な利益は、純粋な所得の帰属というよりは、法人が負担する所以があるのか否かという視点が強調されているものと考えられる。なお、本件では納税者たる原告が主張する金額ベースにおいて全額を否定している処分ではなく、一部の妥当性を認めるべきであるとの主張は顧みることは行われていない。業務内容自身が曖昧で管理がなされておらず、職務との因果関係を判断する材料に乏しかったのであろう。

2 税務署長は、内国法人の提出した青色申告書又は連結確定申告書等に係る法人税の課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法第二十八条第二項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない。

また、本件では、青色申告における理由附記に関して、如何なる程度であるべきであるのかという点に関して、以下のように判断を行っている。国税通則法の改正や行政事件訴訟法改正により不利益処分における理由提示の適用を国税の処分においても対象とされた事により、国税の処分における理由附記は如何なる程度であるべきであるのかという点は、新たな議論が必要とされるものとして検討が存在しているが、本件のように、青色申告における帳簿記載を否定した処分における理由附記の程度は、一般的な行政事件訴訟法とは異なるものと認識されているものと解されている(但し、原告納税者の理由附記の不備の主張は排斥されている)。すなわち下記のように、最判の青色申告に関する理由附記の判断を強調して、いることは留意されるべきであろう。一般的な処分とは異なり、法があえて、青色申告において特別に理由附記を規定している以上(残存させている)、その程度は、一般的な理由附記とは異なる程度が設けられているものと理解すべきであり、異なる具体的な記述が必要となるものと解すべきであると理解すべきであろう。しかしながらより具体的なより信憑性がある(青色申告の帳簿記載事項より)というものをどのように理解するべきであるのかという点は、必ずしも明確ではない。この点をより具体化していく必要があろう。

「最高裁法人税法130条2項が青色申告書に係る法人税の課税標準又は
欠損金等の更正をする場合に更正通知書に更正の理由を付記すべきものと
しているのは、同法が、青色申告制度を採用し、青色申告書に係る金額の
計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくもので
ある以上、その帳簿書類の記載を無視して更正されることがないことを納
税者に保障した趣旨に鑑み、更正をする処分行政庁の判断の慎重さや合理
性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせ
て不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解され、したがって、帳簿
書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に付記すべ
き理由としては、単に更正にかかる勘定科目とその金額を示すだけではな
く、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう性のある資料を
適示することによって具体的に明示することを要すると解すのが相当であ
る〔最高裁昭和56年(行ツ)第36号同60年4月23日第三小法廷判
決・民集39巻3号850頁参照〕。」

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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