2020年3月30日月曜日

判例裁決紹介(平成30年5月13日裁決、生命保険契約の承継と相続財産)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年5月13日裁決で、実質的に権利承継が限定されていた生命保険契約の承継が相続時に行われ、もって相続財産を構成するものであるのかという点が争点となった事例です。

具体的には、相続人たる請求人が被相続人が締結した生命保険契約(保険者及び受取人が被相続人であり、被保険者が請求人等の請求人ではない、契約時に一括で約2000万支払い、相続時はまだ保険事故は発生しておらず、相続発生後、あまり期間をおかずに保険期間が満了となり、保険金が支払われ受領者は贈与税を支払っている)が相続財産に含まれていることを知らなかった請求人が、かかる生命保険(実質的には、財産受渡しの指定、課税を回避する意図を有した養老保険であると認識するのが妥当であり、純粋な生命保険契約と評価することは、妥当ではないだろうが)契約が、相続財産に含まれることが不当であるとして、提起した事例である。契約の存在を知らず(請求人が結婚後実家に寄り付いていなかったことなどが遠因であろうが)、実質的に相続タイミングではかかる不知から権利承継が実質的には承継していない、あるいは、相続時には、かかる点から財産価値が付与されるものではない(財産評価がゼロ)であるとして、本件申告による相続税の対象となる相続財産の範囲に当該保険契約を含んでいることを問題視しているものである。

相続税の申告において、最も重要かつ基礎的な点は相続財産の把握であるが、本件は典型的な論点であり、よく活用される保険契約の存在について、利害関係者となる相続人の一部が、かかる財産の不知と基礎として、実質的に権利行使を行うことができないものに対して課税されることに納得が行かないような状況は、至極当然に発生するものであろう(この契約の受取人、保険者がどのような対象であるのかなどより詳しくは、実務家に聞いてみたいところ)。かかる点において、本件は、保険契約に関する特殊な事実関係が基礎となっているものとしても評価できるものであるのかもしれないが、そして、法令解釈としては、特段特徴的なものではないものであるが、相続というタイミングにおいて一切の財産を課税対象とすることで発生する課題を端的に認識する上で、また、単純な相続税、相続財産の把握という点のみならず、家族間の日頃のやり取りまでもが検討課題となるという点を理解する上で専門家にとっても重要な事例であるように捉えられる。上記のように本件の起点はあくまでもかかる契約のような相続財産に属する契約の納税者が不知であるというシンプルな点が起点となっていることはより認識されるべきであろう。

(相続税の課税財産の範囲)
第二条 第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。
2 第一条の三第一項第三号又は第四号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものに対し、相続税を課する。

以上のように本件は、相続税法2条における相続財産の範囲が課題となっている。相続のタイミングで一切の財産を対象としていることは、法令上明らかであり、法解釈としては、特段争いはないものであろうが、財産という部分において、本件のような事実関係では、実質的には、財産としての価値を受益していないことが課税とのバランスが取れないことを問題の背景としているのであろう。財産を受け継ぐことを相続税の課税根拠としているという認識であれば、実質的な財産的価値が認識されないような契約の承継を行っている点が課税対象としていることと矛盾していると考えても無理はない。一般的な理解としてはこのような財産的な価値の受領が相続税の課税根拠として認識されているのであろうが、このような遺産取得税的な発想は基本的な趣旨としては必ずしも貫徹されていないことが我が国の相続税制の基礎にあるのであろう。本件なあくまでも契約の不知というような主観的な事情が背景にあるものであり、法規としては相続におけるタイミングにおいて一切の権利義務を承継するのであるからという、一種の機械的な判断から納税者の主張を排斥して課税を肯定している。確かに民法は相続の一般的効力として、

(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

上記のように一切の権利義務を承継するものであり、被相続人に帰属する財産であれば、例外なく相続することを定めている。この点を鑑みれば、上記のように、不知であることを理由とした課税は相続税法の問題というよりも相続法の問題として受け入れがたいものであるとの判断されることとなる。かかる点で本件は相続税法というよりは民事法の問題であると捉えることもできようが、租税法規の立場としては、特に租税負担を課し、財産権の保護を侵害するという点からは実質的な受益がない状況を前提とした課税を構築することは反対意見を持つものもあり得よう。私見としては相続法が上記のように、定めている趣旨がいかなる所以にあるのかという点も考慮されるべきであろうし、相続税制が必ずしも取得税を貫徹しているものではない、また遺産税という点でもないことを基礎とするならば、本件の判断のように不知を考慮することは、主観的な事情を反映させることになり、不安定な課税を招くものであって、妥当と評価すべきではないものと考えられる。法令解釈としても相続税の対象として実質的な受益を条件としているとの趣旨を読み込むことはかえって主観の介在する余地を残すものであって安定性を損なうものと考えている。

但し、本件では、相続のタイミングの財産的価値の存在を問題ともしている。本件のように、相続が発生した後の事情、例えば相続人が管理不能であって財産的価値が把握されないような、相続後の事情を反映させることができるのかどうかという点は、また検討課題となるだろう。相続税が相続という一点のタイミングを基礎としている、あるいはフィクションとしてこのタイミングを基礎としている制度構築から、やむを得ないものとしても捉えられるところであるのかもしれないが、相続から申告においては一定のタイムラグ、あるいは後発的な事情の発生によって財産的価値の喪失が考慮されることは制度上も一定の考慮がなされていることは含むべきであろう。私見としては本件のように納税者の不知のような帰責性が認められるような事情においてまで後発的な事情として認識することは、現行法としては想定外というべきと考えられるが、近年の相続を取り巻く環境から肯定する意見も考えられるのかもしれない(この点では立法論として検討課題というべきかもしれない)。すなわち財産価値の変動や突発的な相続の発生、我が国の相続の事情等を考慮すれば、上記のように事後的な考慮を拡張的に考えることは一定の理解が得られるのかもしれない。近年の異常事態であるとの認識が見解にも影響している(本来ならばこのような異常事態を前提とした議論は論理的ではないのであろうが)、税制が必ずしも論理のみで構築されているものではないという認識が生まれたときから租税の世界にいる身としては拭い難い以上、本件のような受益を前提とした相続税に対する主張は基底にあるものとして認識されるべきではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2020年3月23日月曜日

判例裁決紹介(令和元年6月20日裁決、取締役の不正行為と法人における重加算税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和元年6月20日裁決で、取締役の横領等の不正行為による架空費用の計上が法人における重加算税の賦課対象となりうるのかという点が争われた事例です。

具体的には法人たる請求人が法人税の確定申告において損金として計上していた営業協力費、外注費等に関して、専務取締役(利益の7割を稼いでいる)たる者がなした取引先に内容虚偽の架空請求書を作成させ、もって金員を搾取した行為によるものであるとして、調査により、かかる行為は仮装隠蔽に該当する行為であるとして重加算税が賦課決定をなした処分につき不服を申し出ているものである。かかる行為は取締役個人が行った不正行為であり、当該専務は経理や申告等の業務を職務として担当しているものではないとして、法人の行為ではなく、取締役の責任であって重加算税の対象となることを問題視しているものである。実質的には法人も当該役員の被害者であり、損害賠償請求や、求償の問題となるものであるが(この点について、その計上に関する課題は、異時、同時など、固有の論点として従前存在しているが)、この横領行為により、被害を受けた上で更に、租税負担として非常に重い税率となる重加算税を賦課されることに納得が行かないという素朴な思いが起点となっているものであろう。この種の事案は、多様な事例が存在するものの、本件もその類型として、如何にして法人の行為と実際の行為者が同一視されるものであるのかという点が事実認定として課題となるべき事案である。法令解釈上特段特徴的なものではないが、納税者が主張するように、課税処分に関連する申告行為等に限定したものを対象として捉える法令解釈を否定して、対象範囲を比較的幅広く理解して、重加算税の対象としている点は従前と整合的な判断であろう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

以上のように、本件の中心的な争点は法人という集合体、組織体としての存在において、上記のように、納税者とのみ法令が規定している状況においてこれを如何に解するのかという点が課題となる。判断は、以下のように重加算税の基本的な趣旨から納税者の範囲を解している。通常、納税者という文言に忠実に理解すれば、実際に納税申告を行う者に限定されるという解釈も自然と言えようが、本件では、基本的な趣旨から一定の拡張の余地を認めて、法人の場合は、地位と権限を有すること及び、法人の行為と評価できるものであるのか、という観点を基準として、判断を行うこととしている。この点は、下記のように、納税者の主張として主観的責任を制限するものであるとの主張(そもそも主観的な責任というものがどのようなものであるのかという点は定かではないが)を排斥している。

私見としても重加算税の対象たる仮装隠蔽行為を虚偽の申告のみではなく、架空経費の計上なども対象としている以上、行為者を限定的に理解することは、困難であると考える。法人が集合体としての性格を有する以上、一定の役員や従業員の行為を法人とかけ離れた行為として評価していくことは、些か法令の趣旨に反するものと言えよう。実質的にも法人の多数を占める中小企業の構造を鑑みれば、個人の行為と組織の行為を切り離すことは難しいと捉えるべきである。また、重加算税が制裁的な性質を持つことは否定されないが、あくまでも、刑事罰とは異なるものであり、明確に対象範囲を限定することは申告納税を支える公平性の点から過度に限定しているものと判断される。

「重加算税の税率は、他の加算税の税率より2倍以上高いこと、通則法第68条第1項は、他の加算税の規定(第65条ないし第67条)と異なり、その課税要件である隠蔽又は仮装の主体を「納税者」と明示していることなどからすれば、重加算税は納税義務違反の発生を防止し、納税の実を上げようとする趣旨のものであることは当然として、納税に関して隠蔽又は仮装という反社会的、反道徳的な不正行為を行い、納税を免れようとした者に対する一種の制裁的規定の性質も有するものといえる。したがって、通則法第68条第1項に規定する「納税者」は、基本的に納税者本人(法人の場合は、その代表者)を指すものと解される。しかしながら、法人における事業活動、経済活動は、一般的に組織的活動として行われ、その活動に複数の人間が有機的に関与することが多いことは周知のとおりであり、現実には、組織に所属する複数の者がそれぞれの部署において一定の権限を与えられ、その権限と裁量に基づき、法人としての有機的な事業活動を担っているのが常態であるといえる。法人が納税義務者である場合、その「納税者」とは、代表者個人ではなく、代表者を頂点とする有機的な組織体としての法人そのものであるから、法人の意思決定機関である代表者自身が隠蔽又は仮装を行った場合に限らず、法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき、法人の業務として行った隠蔽又は仮装であって、全体として、納税者たる法人の行為と評価できるものについては、納税者自身が行った行為と同視され、通則法第68条第1項の重加算税の対象となるものと解するのが相当である。」

以上、上記のような判断では、法令解釈として拡張的な意義として理解され、下記請求人の主張を棄却している。重加算税が他の附帯税よりも非常に高率な税負担を課していることを重視するならば、一定の限定的な判断も理解されるところであろう。納税者が被害者であることも考えれば衡平とも考える意見もあり得る。

「重加算税制度は、悪質な納税義務違反の発生を防止することを目的とし、納税者に対し主観的責任を追及することを趣旨とする制度である。 そして、重加算税の賦課は、納税者本人による隠蔽又は仮装を要件としているところ、別人格である自然人の行為を納税者の行為と同視する旨の法令の規定は存在しないのであるから、両者の行為を同視することはできず、身体のない法人に重加算税が課されるのは、別人格である自然人の行為をもって重加算税賦課の要件事実、すなわち納税者による隠蔽又は仮装があったと規範的に評価できる場合に限られる。」

「具体的にいうと、納税者が法人の場合については、現実に組織として行う法人の申告納税を適正に執り行うべき者が、過少申告の認識があるかどうかまでは問わないとしても、その行為の意味を理解しながら隠蔽又は仮装を行った場合に、悪質な納税義務違反を納税者(法人)が行ったものと評価され、主観的責任の追及としての重加算税が課されるものである。 上記「現実に組織として行う法人の申告納税を適正に執り行うべき者」とは、典型的には、法人の納税申告の最終責任者としての代表者のほか、経理や申告手続を行う者として法人内で権限を有する経理責任者と経理責任者の下で経理や申告手続事務を実際に行っている担当者をいうと解すべきである。」

なお、本件で示された法人の行為と同視されるか否かの基準として権限と地位を重視している。但し、名目的な地位の名称ではなく、実質的な権限の存在、外形的な取引、取引先の評価を中心とした認定を行っていることは留意されるべきであろう。外部との取引における権限を基礎とすることで、法人の行為としての同質性を図る上で、客観的な担保を求めていることは事実を評価する上で、重要と理解されているものと理解される。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年3月16日月曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年5月30日、給与の仮装と役員給与)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年(ついに令和の判例も扱うようになりました)5月30日で、従業員に対して支給した給与が仮装であり、内縁関係者への個人的な生活保障の支給であって、もって代表者に対する役員給与であるとして否定された事例です。

具体的には法人たる原告が損金として計上した従業員(元恋人、内縁関係)に対する給与(約45万、定額で手取り額を社会保障等から調整して一定額に)に対して調査によりかかる給与は仮装であって労務の提供ではなく(実際には労務の一部提供は認められているが、生活保障等のものとして認定)給与として支給していることは仮装であり、原告代表者が本来給付するべき支出の代替であってもって役員給与に該当するとして認定され、更正処分を行ったことに対して、勤務の実態が存在し、また一定の業務を行っており支給した給与全額が否認されることを不服として提起された事例である。

基本的に、事実関係の問題として、準配偶者的な存在(あえてこう書きます)が行う労働に対してどのように評価するのか、という点が中心的な争点であり、法令解釈としては特段問題となるものではないが(ある意味現代においても事実関係として、このような関係が存在していることを興味深く眺めるものでしょうか)理由附記等において一部、法令解釈上課題となっている部分もある。いずれにしてもこのようなガバナンスなどが課題とされる現代においてもこのような準配偶者的な存在への法人からの給与支給(正直、昭和かとも思いますし、実際このような給与否定の問題は、かつては多い事例であったようですが、最近は珍しい・・・おそらくは実際の現場では特に珍しいものではないのかもしれませんが、どちらかというとこの種の問題は相続におけるタイミングでの問題に移ってきている印象で、これも高齢社会でしょうか、また現場レベルでこのような話があれば教えて下さい)が従前と変わらず、中小企業においてガバナンスが機能しているものではなく、中小企業の実情として、相変わらず法人税法の具体的な想定が変わらないところであるということも示唆している事例であろう。すなわち代表者や一部の個人に法人の運営や決定が委ねられるものであり、コントロールが機能しているものではない(実質的には個人事業であることと大差がない)ような実態を典型的に表しているものと捉えられる。起業や中小企業においては、このような代表者にその権限等が集中することはある意味当然とでもいえることで、これが必要とされるエネルギーを生み、より拡張していく原動力となるものであり、企業の継続性とのバランスであるように考えるべきものであるのかもしれないが、我が国の場合は、特にこのような租税の局面では私的な費用との未分化がより強調され、より社会的な意義、貢献として企業の拡大等へつながらない、一定のラインにとどまるような法人の状況が認識されるものと考えられる。比較的俗な金銭部分に関わる租税関係分野の特徴も捉えられるのであろうが、このような個人との未分化の法人と個人の事業におけるバランスが今後の法人課税の一つの問題として取り扱われるだろう。おそらく、租税回避の手段として事実上使用されている法人の存在をどのように捉えるのか、中小法人に対する扱いをどのように調整していくべきであるのかという点が法人税の大きな課題となってくるものと考えられる。そもそも中小企業を大規模法人を同レベルのものとして取り扱うこと自体が非合理であり、もって大規模法人の制約になってきていることは現状の認識であろうし、個人のワーカー(ジョブ型の勤務が進展すればこのような存在がより顕在化するだろう)が増加していく現状を前提とすれば、このような法人を一律に捉えることは現状にそぐわないものと考えるべきであり、起業の拡張との衡平の視点からの検討もあろうが何らかの立法措置が必要(おそらく消費税の適格請求書導入とあわせて)だろう。

本件は一部勤務の状況が認められる(書類の受け取り等の一般事務が認められるが、勤務先が法人ではなく居住用家屋、肩もみなどの業務などを行っていると主張されている、使用している車両のリース費用も含む給与金額であるなど家屋、かつての同棲していた場所となっているなど勤務としての推測が困難な状況も多い。そもそも一般社会通念において40万円を超える月額給与を支払うものとして評価される職務内容であろうか)ものの租税法規の適用評価において、給与としての実態を認めず、内助の功として事実上、法人代表者が負担すべきものとして事実認定を行っている。現代の社会情勢において内助の功を評価する、生活保障というような存在を認定し、金銭支給すること自体も議論を呼ぶものであるものと言えようが、実態をどのように評価するのか、租税法規の適用においては実質を評価することは不可欠であるので事実関係に即した判断であろう。このような事実認定は近年においても存在する個人事業と類似した法人運営における、家事費的費消の取り扱いを検討する上で参考となろう。

法人税法130条
3 内国法人が、事実を隠蔽し、又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する給与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
4 前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。
以上、本件は、上記法人税法34条における役員給与における仮装隠蔽に当たる役員給与に該当するのか否かという点が中心的な争点となっている。一般的な事務を一部といえども担っていたことは、判示でも認めているが、下記のように非常に軽微なものとして認定している。ここに役員給与の仮装を認定する根拠としている。

「その一部に原告の業務といえるものが含まれていたとしても、家庭の主婦が夫に頼まれて行う事務の範囲にとどまる軽微な内容のものにすぎない。」

さらに、下記のように、内縁の妻の行為として評価して、内助の功としての作業にとどまるもの(このような表現は内助の功を不当に低く評価するものとして異論もあろう)として、雇用契約に基づく職務としての評価はできないものと判断している。
本件はかかる判断が社会通念にしたがって、妥当性を有するのかという点で安定性を欠く判断とも指摘されうるところでもあろうが、特に、原告の主張はこの種の主張においてよく見受けられる創意工夫に満ちた職務のため気持ちよく仕事ができるように、サポートしていたという主張がなされているが、当該従業員と代表者の関係性が基礎となった判断を覆す主張とは評価されていないものと考えられる。金額の相当性の問題として業務内容を問うことはあり得ようが、あくまでも従業員への支給の根拠が職務として雇用に基づくものであるのかという部分が重要な争点となっているものであり、事実上納税者に立証責任が転嫁されているものと言えよう。この種の転嫁は近年の訴訟において珍しいものではなく、職務として評価されるものであるのか、という部分において、単なるサポートなどのようなものではなく、サポートとしての必要性が明らかにされるべきであり、更には、提供者との関係性もまた、検討されることになるだろう。社会通念に従った判断は租税法規の領域としては予測可能性という点で不安定であるとの評価は異論はないが、申告納税の基本的趣旨を鑑みこのような必要性や業務との関連性がより必要されるものと判断されよう。

「自宅で仕事をする夫を支える内縁の妻としての行為であるというほかなく、これを■■自身が原告の従業員として行った業務と評価することはできないものである。原告
は、原告代表者が建設用機械の構想を練り、設計をするという創意工夫に満ちた仕事をしていたものであり、■■は原告代表者が気持ちよく仕事ができるようにサポートをしていたと主張するが、そのような原告代表者の仕事の性質や■■の貢献を考慮に加えたとしても、■■が行っていた活動がいわゆる内助の功に他ならないものであるとの上記評価が左右されるものではない。」

このような判断から、本件は、本件給与を役員給与であると認定して、帰属先を役員であるとしている。上記法人税法34条4項において、給与概念として、一般の判断を超えて、より広範囲に対象とすることは解釈の余地がなく、この中に本件も該当するとの判断である。経済的利益という部分は些か曖昧なものであるが、本件のように、例示の債務免除とは経済的利益の付与が法律の裏付けが必ずしも存在せず、直接的ではない(法的な夫婦ではない、このような内助の功への支給は法的な背景を有するものでは必ずしもないだろう)ものであっても役員が個人的に負担すべきものと評価している点は本件の特徴的なものであろう(経済的利益の範囲を非常に広く判断する枠組みだろう)。このような経済的な利益は、純粋な所得の帰属というよりは、法人が負担する所以があるのか否かという視点が強調されているものと考えられる。なお、本件では納税者たる原告が主張する金額ベースにおいて全額を否定している処分ではなく、一部の妥当性を認めるべきであるとの主張は顧みることは行われていない。業務内容自身が曖昧で管理がなされておらず、職務との因果関係を判断する材料に乏しかったのであろう。

2 税務署長は、内国法人の提出した青色申告書又は連結確定申告書等に係る法人税の課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法第二十八条第二項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない。

また、本件では、青色申告における理由附記に関して、如何なる程度であるべきであるのかという点に関して、以下のように判断を行っている。国税通則法の改正や行政事件訴訟法改正により不利益処分における理由提示の適用を国税の処分においても対象とされた事により、国税の処分における理由附記は如何なる程度であるべきであるのかという点は、新たな議論が必要とされるものとして検討が存在しているが、本件のように、青色申告における帳簿記載を否定した処分における理由附記の程度は、一般的な行政事件訴訟法とは異なるものと認識されているものと解されている(但し、原告納税者の理由附記の不備の主張は排斥されている)。すなわち下記のように、最判の青色申告に関する理由附記の判断を強調して、いることは留意されるべきであろう。一般的な処分とは異なり、法があえて、青色申告において特別に理由附記を規定している以上(残存させている)、その程度は、一般的な理由附記とは異なる程度が設けられているものと理解すべきであり、異なる具体的な記述が必要となるものと解すべきであると理解すべきであろう。しかしながらより具体的なより信憑性がある(青色申告の帳簿記載事項より)というものをどのように理解するべきであるのかという点は、必ずしも明確ではない。この点をより具体化していく必要があろう。

「最高裁法人税法130条2項が青色申告書に係る法人税の課税標準又は
欠損金等の更正をする場合に更正通知書に更正の理由を付記すべきものと
しているのは、同法が、青色申告制度を採用し、青色申告書に係る金額の
計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくもので
ある以上、その帳簿書類の記載を無視して更正されることがないことを納
税者に保障した趣旨に鑑み、更正をする処分行政庁の判断の慎重さや合理
性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせ
て不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解され、したがって、帳簿
書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に付記すべ
き理由としては、単に更正にかかる勘定科目とその金額を示すだけではな
く、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう性のある資料を
適示することによって具体的に明示することを要すると解すのが相当であ
る〔最高裁昭和56年(行ツ)第36号同60年4月23日第三小法廷判
決・民集39巻3号850頁参照〕。」

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年3月9日月曜日

判例裁決紹介(平成30年5月14日裁決、第三者による仮装行為と重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年5月14日裁決で第三者による仮装行為と重加算税の賦課対象となるのか否かが争われた事例です。

具体的には、歯科医院を営む請求人(個人)が事業所得の申告をなしたところ、調査によりその必要経費とした外注費に架空経費の計上(過大計上)が行われていたことを指摘され、重加算税の賦課決定処分を受けたことにより、かかる架空経費の計上という仮装行為は、経理を委任していた第三者(税理士資格を有していない)が行ったもの(領収書の仮装などをそもそも行うこと自体が問題であることは言うまでもないが)であり、その責任を追うことは妥当ではないとして、提起したものである。委任契約における責任を委託者が負うのか租税法規の問題というよりは民事法の問題とも考えられるが、本件においては、重加算税の賦課決定の要件を充足するものであるのかという点が争点となっており、第三者の行為が納税者本人の行為と同視できるのか、どの程度の行為であれば納税者行為として重加算税の対象となるのかという点が中心的な課題となっているものである。

判断としては、請求人の主張を廃して、納税者の行為と同視されるものと評価して重加算税の賦課を認めている。第三者への委託、今回は専門的な業務、会計書類の作成に関する業務の委託であり、この点で、税理士ではない人への委任(納税者はこの点を知り得なかったという点から責任を否定している)の場合における重加算税の賦課において、納税者の責任をより強固に判断したものと捉えられよう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

以上のように、本件は、重加算税の賦課決定における請求人以外の行為の責任を対象と捉えられるのかという点が問題とされているものである。従前と同様、本件でもその重加算税の性格から、刑事罰ではないとのことも鑑みて、適正な申告を確保する趣旨から、納税者以外の行為であっても同視できるのかという点から評価を行い、対象範囲を拡大している。この点は従来の判断と同様であり、特段法令解釈としては特徴的なものではないものと考えられる。しかしながら、委任契約において委託者としては、契約した先の行為を確認する義務を負うべきものであろうか、特に本件のような専門的業務において発生する委任において、必ずしもこの責任を全うすることが可能であるだろうか、この点の責任の所在をもって、納税者の行為と同視することができるとの評価が妥当であるのかという疑問は、発生し得よう。ましてや一定の説明を受けているとはいえ、納税者の本人の責任を当形で、虚偽の申告を見つける可能性を要求することが現実の納税者の専門的な知見に対する評価から妥当であるだろうか。

「通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。同項は、隠ぺい又は仮装の行為の主体を「納税者」としているが、形式的に隠ぺい又は仮装の行為の主体が納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、上記の重加算税の趣旨及び目的を没却することとなるから、納税者自らの行為でなければならないと厳格に解するのは相当ではなく、納税者以外の第三者がした隠ぺい又は仮装の行為について、納税者の行為と同視すべき事情が認められる場合においては、通則法第68条第1項に規定する「納税者」の隠ぺい又は仮装の行為に当たるものと解するのが相当である。」

納税者は、下記のように、最判を引用し同視する状況を、以下のような要件に限定するとの解釈を主張している。

「①本件代表者が隠ぺい又は仮装の行為をすること若しくはしたことを請求人が認識し、又は容易に認識し得たこと、②法定申告期限までにその是正や過少申告の防止に係る措置を講ずることができたにもかかわらず、請求人がこれを防止せずに隠ぺい又は仮装の行為が行われ、それに基づいて過少申告がされることの各要件を満たした場合
に限り、本件代表者の行為を請求人の行為と同視し得る(最高裁判所平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1661頁参照)」

これは代表的な納税者以外の責任を認めることとされた判決であるが、この判断に従えば、第三者による行為に必ずしも責任が同視されうるものではないものとも考えられる。
しかしながら本件は、下記のように、確定申告、申告納税制度における税理士の責任やその職業的な性格を基礎として、上記の事案とは異なるものと評価して、上記判断の枠組みを否定している。これにより、第三者への委任という状況における一般的な問題と捉えるのではなく、申告納税制度の基礎的な書類作成の状況における納税者の委任と第三者の仮想取引の行為を行った点を中心に捉えた形での判断を行っているものであり、本件は個別の事例として(あるいは税理士の責任を逆に裏付けるものとして)、評価されるべきであろう。申告における委任契約の行為に対する特別な注意義務を有している(そもそも納税者にこのような責任を追わせることは過度な責任とも考えられるが、申告納税制度という原則からはやむを得ないものとも言えよう)と事実上、課税庁の判断としては行っているものと捉えられよう。すなわち第三者として会計業務に関するサービスの提供に関しては、納税者の行為とほぼ同視される可能性が高いと考えるべき。税理士への委任を除き、いわば申告納税制度における納税者としての責任を事実上拡張的に理解しているものと評価されるべきである。ネットを活用した役務提供が増加している現況においては、会計業務に関する役務提供は多様化しつつあるものの(その意味で個々の責任は問われるべきであろうが)、納税者としてはこのような責任の所在を認識しておくべきであろう。

「税理士資格を有しない者に記帳代行業務(申告資料となる帳簿書類の作成)を委任した場合と、適正な納税申告の実現について公共的使命を負う税
理士に当該業務を委任した揚合とでは、納税者が自らの申告内容等について負うべき注意義務の内容及び程度にも自ずと差があるというべき」

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。