さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年4月23日裁決で、趣味的な行為による所得が事業として認められるのか否かが課題となった事例です。
具体的には本件は、請求人(代表取締役として給与所得あり)が、個人として営んだ行為(レコード、オートバイ、ラジコン等のレンタルを行った結果、生じた損失を事業所得における損失として、給与所得との損益通算を企図した申告を行ったところ、当該行為は事業としては認められず、趣味的な行為に伴う損失であって、雑損失として計算されるべきとして損益通算を否定した課税庁による課税処分を不服として提起された事例である。本件では請求人は多様な行為を行っており、一部車両のレンタルに関しては、第三者である運輸局の免許も保持している(車両賃貸に関する)ような状況であり、同好の士にとっては貴重なレコード、オートバイ、ラジコン等のレンタルを行っているものである。このような状況を踏まえ、本件では、詳細な事実認定を行い、事業としての該当性を否定している事例である。本件は事業として認められるものであるのか、規模や社会的な地位を認められるものであるのかという点を中心に、事業と雑所得の区分を如何にして区分されるべきであるのかという点が争われた、典型的な事例であり、その基準を巡ってはよく議論されているものである。本件もその累計に属するものであるとも言えようが、本件のように、趣味的な行為が起点となって発生した所得を如何に取り扱うのかという点は、珍しい。本件ではあまり問題となっていないが、近年は、ICTの発達によって趣味的な行為であっても一定の所得を稼ぎ出す、市場性、利益獲得の意図が成立しうるような市場の発生が想定される状況になりつつあり、また副業の活発化など、趣味的な行為による所得の発生に関して、事業として如何に評価されうるものであるのか、再検討すべき状況にあるのではないかとの問題も考えられる状況とも考えられ、本件は、特段法令解釈としては、特徴的なものではないが、現行法の枠組みに置いてどのような点を重視し、事業と雑の区分を行う基準となっているのかという点を考える上では、ティーチングケース、環境変化と事業の認定における参考事例として有益なものであろう。
(事業所得)
第二十七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
(事業の範囲)
一 農業
二 林業及び狩猟業
三 漁業及び水産養殖業
四 鉱業(土石採取業を含む。)
五 建設業
六 製造業
七 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)
八 金融業及び保険業
九 不動産業
十 運輸通信業(倉庫業を含む。)
十一 医療保健業、著述業その他のサービス業
十二 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業
「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反覆継続して業務を遂行する
意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であると解される。」
意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であると解される。」
以上のように本件は、所得税、施行令における事業とはいかなるものであるのかという点を基礎としている。従来はこの事業と雑の区分に関しては、社会的な地位が認められるのかという点が中心的な争点として争われるケースが中心であった。本件も上記のように法令解釈を基礎として、事業の環境、社会的な認知の状況を基礎として、事実認定をベースに、事業としての該当性を否定している。本件では特に請求人の行為が趣味的な行為の延長であって事業としての外形的な状況に至っていないという点を基礎として判断を行っている。上記のように近年はネット環境の変化もあり、趣味的な要因を持つものであっても市場性を確保できるような状況が顕現しつつある。このように考えれば、事業と趣味を明確に二律背反のようなものとして捉えることは現状の前提として妥当なものと言えるだろうか。私見ではこのような趣味的な要因であっても事業としての営利性や遂行の意図が本来ならば問題とされるものであり、趣味的行為として認められるものであっても事業としての該当性を直接的に否定されるべきものではないという時代的な背景にあるように捉えている。もちろん、個人が行う行為は多様であり、趣味的な行為も非常に多岐にわたるものであろう。ただし市場へのアクセスは従前とは明らかに変化しており、収益化、営利性を備えるような場合は想定され得よう。結果としての損失の発生は、趣味的な行為故に事業としての該当性を否定される要因ともなりえる状況もあり得ようが、損益通算の意図としての存在、租税回避的な行為としての否定を事業としての認定に依拠するのではなく、どのように行うべきであるのかも課題とはなろう。条文はあくまでも対価性と継続性を基礎として判断することを求めており、文理解釈、予測可能性の観点からは趣味的な要因の排除による不安定な要因はできる限り排除されるべきではないだろうか。
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