2020年1月7日火曜日

判例裁決紹介(平成30年3月19日裁決、所得の事後的転換)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月19日裁決で、雑所得として申告した所得が事後的に転換し、元本の返済であったとして更正の請求を行ったところその立証不足をもとに、主張が退けられた事例です。

具体的には、本件は、請求人が4億の投資を行い、毎月1000万円の配当を受ける契約にて、振り込みを行ったところ、約5千万円に関しては配当が実施されたものの、それ以後は配当が実施されなかった場合において、かかる配当としての5千万円を雑所得として申告していたところ、かかる所得は元本の返済であるとして、所得そのものの発生を否定し更正の請求を行ったもので、その請求を否定した課税庁の処分につき不服を申し立てているものである。当該投資案件は詐欺的な案件であろうが、詐欺としての刑事処分が行われることは困難、立件は困難であるとの、担当弁護士からの報告書が提出されているものであり雑損控除の適用が困難な状況にあり、本件のような争い方がなされているものと考えられる。判断としては、上記のような担当弁護士からの報告書があることをもってその詐欺的な行為に近いものとして、所得の発生を否定するものであり、申告時点において、その所得が不存在、あるいは更正の請求の条件たる納税額等が過大であったとの主張が十分になされていないものとして、請求人の判断を否定している事例である。

そもそも本件は事後的には、4億の投資に対して毎月1000万円の配当という一種の詐欺的な契約、投資詐欺に類似する行為によるものであると捉えられる。このような特殊な事案、事実関係が起点となっているものと考えられるが、これらの状況から、所得が事後的に転換され、あるいは所得がその存在を抹消されるような状況(配当として入ってきた金額が所得として捉えられるのか、あるいは元本の一部弁済として捉えられるのか)が発生したことが本件の問題のスタートとなっている。いささか特殊な事実関係を基礎とするものであり、暦年ごとの課税年度が終了するたびに確定する所得税の申告において、確定申告後において、投資の結果や、時系列により、かかる所得の評価が変化したものと評価されよう。このような事後的な状況の反映は、一定の年度を区切って課税所得を計算する所得税法においては、発生しうるものであり(おそらくスポットでの課税取引を中心とする相続税や譲渡所得税においてより顕著でもあるかもしれないが)、このような対応において、租税法規がどのような救済を図るべきであるのかという点を検討する上で、あるいは契約、事実の評価を行う上では本件は有益な参考事例となるものと考えられる。

以上、本件では、まずは納税者の主張立証責任の充足が課題となって判断の基礎が形成されている。更正の請求の枠組みにある以上(なぜ本件のようなケースで更正の請求を採用したのかは定かではない、事後的な性質変換に関する救済措置としては更正の請求は、法令上、申告の誤りや過大を争うものであって相性が悪いと認識されるのであるが)、納税者に主張の立証責任があるとの判断であるのかもしれないが、近年は訴訟段階ではなく、裁決段階でも本件のように主張の立証責任が求められるケースが傾向として見られるようになっており(是非はともかく)、かかる点は本件に限らず、租税の実務家としても認識されていくべきであろう。かかる点からは単に租税の計算の基礎としての理解から租税法規の理解の方向性が重要となるように思われる。

また本件では、当初の段階では、約上の則り所得として認識をしていたことが問題となる(事後的には詐欺的なものであり、これに引っかかったことを問題視するのかもしれないが)。所得計算の誤り、あるいは過大であったことを請求の基礎とする枠組みが揺るがない以上、当初段階での所得としての認識を崩すことがない限り、更正の請求の対象としては、困難となるだろう。本件のように事後的な転換、変化へは相性が悪いものと考えざるを得ない。単に納税額の返還を求める手続きではないことは留意されるべきであろう。
このように本件はいわば申告後、事後的な変化、状況の変動に対して(なお、本件以外の翌年分の配当に関しては所得としての処理を行わず、修正申告を行っている)、所得の性質が変化したことを、契約による投資が損失に切り替わったことから裏付けられるのかという点が問題の基礎となっており、事実上民事関係の評価の問題とも捉えられるが、かかるような状況において所得の計算上救済を求めるものである。上記のように本件の事実関係からは、事後的な変化を反映させることは、制度の枠組みからはは困難と解さざるを得ない。ゆえなくして支払った租税負担であるとの認識から不当利得返還請求による救済の方法もあるのかもしれないが(裁決である以上、課税処分を争うものであって対象としては困難だが)、そもそも不当利得の成立の立証はハードルが高く同じく立証責任が納税者に求められることになろう。本件のような事後的な状況変化を如何にして救済すべきかという点は課題であるのかもしれないが、雑損控除の枠組みまで至らない段階のもの、いうなれば扱いが明確ではないグレーなもの(法的には不安定な、不明確な存在)を如何にして租税法規において対応を考えるのかという点は、立法に属する課題であるが、現実的には様々な事後的な状況が考えられ、具体的な対象を検討することは困難だろう。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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