さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月1日裁決で、国外居住者に対する葬儀への出席費用や債務引継ぎに関する検認関連費用の債務控除該当性が争われた事例です。
具体的には、相続人たる請求人が米国に居住していた被相続人の財産を相続により取得した際に支出した費用として、葬儀のための渡米費用及び、米国における財産の引継ぎに必要な検認費用(プロペイト、100万以上)が債務控除として相続財産として控除することが可能であるのか否かという点が争われた事例である。本件のように、米国における相続の発生は、租税条約はあるものの1980年代で止まっており、幾分と時間が空いている。現在とは相続の状況が整合的であるのかという疑問は発生しよう。ましてや米国以外の状況までも相続の発生において鑑みられるような状況であると(課税庁は情報交換で口座情報は入手しているし)、本件のように検認手続費用などが発生した場合、どのように取り扱いを受けることになるのかという点は疑問に覚えることも増加するだろう。現在は、国外に財産を保有していることは珍しいものではなく(したがって国外財産の評価の不整合が問題とされるような状況も発生するわけだが)、評価やその引継ぎなど多様な問題が通常の国内の相続以上に想定される。このような状況は、国内法を基礎とする相続税法においては、いさささか想定外と捉えられるものであり(近年は民法改正により相続法の改正によって現代的な対応が図られているが、もしかすると本件のような課題も民事法の問題として処理されるべきであるのかもしれないが)、本件のような国外財産の関する費用の取り扱いは、今後の課題として検討されるべきであろう。かかる点において本件は参考となるべき事例であろう。本件はいずれも現行法の債務控除の判断から、その相続財産からの控除を否定している。上記のような国外財産の取り扱いは基本的には立法の範囲に属する問題として理解されよう。しかしながら相続税は他の租税に比して滞納、課税漏れが多いものであり、国外財産の把握(調書もこの流れからであろう)は、執行面の課題として所得税よりも課題が多いものと考えられる。
(債務控除)
第十三条 相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用
以上のように、本件は相続税法にいう、債務控除の対象として、以下のように判断され、その該当性を否定されている。現に存するものとして認められないことは明らかということで否定されている。
渡米費用が葬式費用に該当しないことは、被相続人にかかるものとして限定している法令の規定からは明らかであろう。葬式費用そのものは、多様なものを含みうるものであるが、限定的に理解されているものであろう。近年は葬儀も多様化しつつあり(宇宙葬まであるとか)、現状はこの解釈は儀礼的なものを中心に理解されているが、今後はどのようなものとして取り扱うべきであろうか。そもそもなぜ葬式費用が認められるのか、相続税における趣旨からみてどのように位置づけられるのか、より検討されるべきであろう。
「請求人が■■■■■■■■で執り行われた本件被相続人の葬儀へ出席するに際して支出した交通費等の費用であり、また、それ以外の本件費用は、本件被相続人の死亡後に発生した同人の遺産に係る検認手続(プロベイト)、本件遺言に基づく遺贈手続及び本件信託証書の定めに基づく信託財産の分配手続に係る諸費用であり、いずれの費用も、本件被相続人の債務で相続開始の際現に存するものに該当せず、また、本件被相続人に係る葬式費用にも該当しないことは明らかである。」
諸手続費用に関しては、相続のための必要経費であると認められるが、この点は立法の属するものであり、債務控除の対象として、法令が現に存する債務に限定していることは留意されるべきであろう。債務控除が相続時の純資産、特に客観的な形での把握に力点をおいており、このような必要経費の存在は認められていない。法令解釈上、債務の意義に関しては法令として解釈上の課題は少ないものであろうが、現に存するか否かという点が中心的な課題になる。債務控除は必要経費を考慮するものであるのかという点は基本的な趣旨として否定的に理解されるべきであろう。
以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
0 件のコメント:
コメントを投稿