さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年2月26日裁決で、特例適用に関する過少申告加算税の賦課に関する宥恕として税務署での税務相談での署員の誤りを見逃したことが該当するのかという点が争われた事例です。
具体的には、本件は居住用財産譲渡に関する特別控除(3000万円)の適用に関する誤り(適用できない譲渡に対して適用を申請して確定申告)に端を発する修正申告に対して、過少申告加算税の賦課決定処分を受けた請求人が、そもそも当該申告の誤りは、税務署が開催する申告相談会での提出(確定申告)の際に署員のチェック漏れによるものであり、正当な理由があるとして当該処分の取消しを求めたものである。最終的な判断としては、請求人の主張を認めず、正当な理由の成立を認めていない。宥恕規定としての正当な理由に該当するのかという点が争点となる事例は多数存在するものであるが、納税者の直接的な行為ではなく、申告相談会での税務署職員の行動(本件の場合は、単純な受理業務におけるチェックであるが)が正当な理由に対して如何なる影響を及ぼすものであるのかという点が争われた事例としては特徴的なものであろう。本件はかかる点において、正当な理由の法解釈、事実認定を判断する上で、参考となる事例であるだろう。まれに、課税庁職員のミスが課題とされる事例はあるが(殆どの場合は賠償は認められない。)、申告相談会という納税者向けのサービスが法令上どのように位置づけられるのかという点も課題となっているものと言えよう。
国税通則法
過少申告加算税)
第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の五の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。
4 次の各号に掲げる場合には、第一項又は第二項に規定する納付すべき税額から当該各号に定める税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。
一 第一項又は第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合 その正当な理由があると認められる事実に基づく税額
以上のように本件は、国税通則法に定める過少申告加算税の正当な理由が課題となっているものである。
「通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税
義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであ
り、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不
公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を
防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行
政上の措置である。このような過少申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第
65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められる」場合と
は、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記の
ような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦
課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最
高裁平成18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参
照)。」
義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであ
り、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不
公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を
防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行
政上の措置である。このような過少申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第
65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められる」場合と
は、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記の
ような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦
課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最
高裁平成18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参
照)。」
本件の判断は、上記のように、最高裁判例を引用して、正当な理由が納税者への帰責性が中心的な概念として判断されているものである。これに対して事実関係の当てはめとして、本件判断は、申告納税制度の基本的な趣旨と、以下のように税務署が行う納税相談を判断してその帰責性を指摘して、もって納税者の主張を退けている。
「税務署における納税相談は、税務署側で具体的な調査を行
うことはなく、納税者の申立ての範囲内で行政サービスとして納税申告をす
る際の参考とするための指導又は助言を行うものにすぎない」
うことはなく、納税者の申立ての範囲内で行政サービスとして納税申告をす
る際の参考とするための指導又は助言を行うものにすぎない」
このように、税務相談は、一種のサービスであって、指導助言を行う場であるからという点を強調している。本件は、納税者の特例適用において必要な書類(登記事項証明書)の添付がなかったことも、影響しているのかもしれないが(特例適用の正当性を判断する材料がなかったという点で)、一般的にこのような前提にたつものであれば、税務相談はにおける課税庁の対応は、正当な理由としての適用においては否定的に捉えられることになろう。納税者の帰責性を判断する枠組みが基礎となるものではあるが、このような課税庁職員の行動が事実上対象外となることは、妥当であるのかという点は課題となるだろう。現実的に税務署という専門機関における判断・行為が税務相談という位置づけであっても枠外に置かれうるものとして一般の納税者に対して理解が得られるものであろうか。確かに調査等の対応がなされているものではないが、課税庁職員によるチェックが行われている段階において、納税者が誤りのチェックをしているものという信頼や期待を申告納税制度という前提があるからといって否定的に捉え、一律に税務署での相談会での行為を納税者の帰責性を判断する上で否定的に捉えることが理解されうるものであるのかという点は困難であろう。
以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。