さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年5月18日裁決で、慰安旅行費用を法人が負担した場合における給与所得課税として対象となるのか否かという点が争われた事例です。
具体的には、本件は、税理士法人たる請求人がその役員及び従業員と海外旅行(6泊7日)へ行った(今どき、まだあるんですね少し驚きです)際に、法人が負担した費用(慰安旅行費用が給与所得(役員の場合は、役員給与として法人税の問題に)として課税されうるとした更正処分、源泉徴収義務を有するとした判断に対して不服とするものである。
税理士法人である以上、下記のようなレクリエーション費用に関する通達の存在を知らないことはありえないものであり、指摘される覚悟があったものであるものであろうが、通達の条件を超える慰安旅行費用の負担が如何なる所以をもっってその給与課税をもたらすことになるのかという点を検討することが本件の起点となっている。事実関係としては特段珍しいものではない(現実的には、そもそも慰安旅行が主流か否かという問題はあるが)が、給与課税との境界を如何に捉えるのかという点を考える上では、参考となるべき事例であると言えよう。この種の慰安旅行に関しては従来議論が存在する分野であり、給与課税以外にも交際費課税など複数の論点が考えられるものであろうが、争い方の問題や参加率の問題など(そもそもなぜ参加率が問題とされているのかは釈然としない)課題の起点として本件は有益なものであろう。
所得税基本通達
(課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用)
36-30 使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。
(注)上記の行事に参加しなかった者(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を含む。)に支給する金銭については、給与等として課税することに留意する。
以上のように本件は、上記基本通達において、不課税とされているレクリエーション費用の負担が社員に対する経済的利益として考慮されるべきであるのかという点が課題となっているものである。上記のように通達では、差し支えないとしているのみであり、積極的な不課税と求めているものではなく、法令上の根拠を如何に捉えるべきであるのかという点は些か薄弱であることは否めない。なぜ不課税としているのかという点はその根拠を如何に理解するのかという点がまずは重要となろう。
この点に関しては、下記のように国税庁のタックスアンサーにおいては、より具体的に少額不追求の趣旨を全面に押し出した見解を示しているが、このような根拠は行政上の便宜によるものであり、納税者の不利益が見込ま得難いことがその背景にあるものの、理論的には、かかるような不課税は、租税法律主義等との関連から否定的な意見もあり得よう。そもそも少額不追求というもの自身が必ずしも明確なものではなく、裁量的な意義が強いものであり、下記のようにタックスアンサーにおいても具体的な基準が明記されているものであるが、かかる点の合理性や、境界的な状況は必ずしも根拠がない状況で課税非課税の状況が始まることになろう。この点は強い納税者側からの予測可能性等に対する指摘がありうるところである。
タックスアンサー
従業員レクリエーション旅行の場合は、その旅行によって従業員に供与する経済的利益の額が少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱しないものであると認められ、かつ、その旅行が次のいずれの要件も満たすものであるときは、原則として、その旅行の費用を旅行に参加した人の給与としなくてもよいことになっています。
(1) 旅行の期間が4泊5日以内であること。
海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であること。
(2) 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること。
工場や支店ごとに行う旅行は、それぞれの職場ごとの人数の50%以上が参加することが必要です。
判断は、下記のように、給与所得に関する一般的解釈から、非常に広義な給与課税対象の決定を基礎においている。この点がまずは存在するものであり、かかる前提からさらに、非課税へと対象を決定するアプローチとなる。通常であれば、このような広義性ゆえには、上記のような通達解釈は困難であろうが、現行制度はフリンジベネフィットの課税問題として、本件のような費用負担に関しては経済的利益としての給与課税を回避している。
「給与等とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者の
指揮命令に服して提供した非独立的な労務又は役務の対価として受
ける給付をいうものであると解される。そして、その給付には金銭
のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解される(最
高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672
頁、最高裁平成17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号
64頁、最高裁平成27年10月8日第一小法廷判決・集民251
号1頁参照)。」
指揮命令に服して提供した非独立的な労務又は役務の対価として受
ける給付をいうものであると解される。そして、その給付には金銭
のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解される(最
高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672
頁、最高裁平成17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号
64頁、最高裁平成27年10月8日第一小法廷判決・集民251
号1頁参照)。」
このような通達処理の合理性(通達に根拠をそもそも求めること自体が問題ではあるのかもしれないが、)は上記のように少額不追求という点ではなく、費用負担の社会的な慣行に基礎を置いているように判断している。趣旨に相違が見られるものであるが(国民感情という不明瞭な点が基礎となっている、国民感情的には、現状自身が使用者が負担するとはいえ、このようなものは業務上のものであろうと認識するであろうから確かに給与課税には反発するであろうが)、昭和63年に出された通達と社会状況が現況に置いて整合しているのかという点においても、疑問の予知はあるのではないだろうか。
「使用者が会食、旅行、演芸会、運動会等のレクリエーション行事の費用を
負担する場合、これらの行事に参加した従業員等が受ける経済的利
益について、一定の要件を満たすことを条件に課税しなくて差し支
えない旨定めている。この取扱いは、使用者が費用を負担してレク
リエーション行事を行うことが一般化しており、当該レクリエーシ
ョン行事が社会通念上一般的に行われていると認められるようなも
のであれば、あえてこれに課税するのは国民感情からしても妥当で
はないことを考慮したものとして合理性を有する」
負担する場合、これらの行事に参加した従業員等が受ける経済的利
益について、一定の要件を満たすことを条件に課税しなくて差し支
えない旨定めている。この取扱いは、使用者が費用を負担してレク
リエーション行事を行うことが一般化しており、当該レクリエーシ
ョン行事が社会通念上一般的に行われていると認められるようなも
のであれば、あえてこれに課税するのは国民感情からしても妥当で
はないことを考慮したものとして合理性を有する」