2019年11月24日日曜日

判例裁決紹介(平成30年5月18日裁決、慰安旅行費用と給与所得課税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年5月18日裁決で、慰安旅行費用を法人が負担した場合における給与所得課税として対象となるのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、本件は、税理士法人たる請求人がその役員及び従業員と海外旅行(6泊7日)へ行った(今どき、まだあるんですね少し驚きです)際に、法人が負担した費用(慰安旅行費用が給与所得(役員の場合は、役員給与として法人税の問題に)として課税されうるとした更正処分、源泉徴収義務を有するとした判断に対して不服とするものである。
税理士法人である以上、下記のようなレクリエーション費用に関する通達の存在を知らないことはありえないものであり、指摘される覚悟があったものであるものであろうが、通達の条件を超える慰安旅行費用の負担が如何なる所以をもっってその給与課税をもたらすことになるのかという点を検討することが本件の起点となっている。事実関係としては特段珍しいものではない(現実的には、そもそも慰安旅行が主流か否かという問題はあるが)が、給与課税との境界を如何に捉えるのかという点を考える上では、参考となるべき事例であると言えよう。この種の慰安旅行に関しては従来議論が存在する分野であり、給与課税以外にも交際費課税など複数の論点が考えられるものであろうが、争い方の問題や参加率の問題など(そもそもなぜ参加率が問題とされているのかは釈然としない)課題の起点として本件は有益なものであろう。

所得税基本通達

(課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用)

36-30 使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。
(注)上記の行事に参加しなかった者(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を含む。)に支給する金銭については、給与等として課税することに留意する。
以上のように本件は、上記基本通達において、不課税とされているレクリエーション費用の負担が社員に対する経済的利益として考慮されるべきであるのかという点が課題となっているものである。上記のように通達では、差し支えないとしているのみであり、積極的な不課税と求めているものではなく、法令上の根拠を如何に捉えるべきであるのかという点は些か薄弱であることは否めない。なぜ不課税としているのかという点はその根拠を如何に理解するのかという点がまずは重要となろう。
この点に関しては、下記のように国税庁のタックスアンサーにおいては、より具体的に少額不追求の趣旨を全面に押し出した見解を示しているが、このような根拠は行政上の便宜によるものであり、納税者の不利益が見込ま得難いことがその背景にあるものの、理論的には、かかるような不課税は、租税法律主義等との関連から否定的な意見もあり得よう。そもそも少額不追求というもの自身が必ずしも明確なものではなく、裁量的な意義が強いものであり、下記のようにタックスアンサーにおいても具体的な基準が明記されているものであるが、かかる点の合理性や、境界的な状況は必ずしも根拠がない状況で課税非課税の状況が始まることになろう。この点は強い納税者側からの予測可能性等に対する指摘がありうるところである。
タックスアンサー
従業員レクリエーション旅行の場合は、その旅行によって従業員に供与する経済的利益の額が少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱しないものであると認められ、かつ、その旅行が次のいずれの要件も満たすものであるときは、原則として、その旅行の費用を旅行に参加した人の給与としなくてもよいことになっています。
(1) 旅行の期間が4泊5日以内であること。
 海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であること。
(2) 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること。
 工場や支店ごとに行う旅行は、それぞれの職場ごとの人数の50%以上が参加することが必要です。
判断は、下記のように、給与所得に関する一般的解釈から、非常に広義な給与課税対象の決定を基礎においている。この点がまずは存在するものであり、かかる前提からさらに、非課税へと対象を決定するアプローチとなる。通常であれば、このような広義性ゆえには、上記のような通達解釈は困難であろうが、現行制度はフリンジベネフィットの課税問題として、本件のような費用負担に関しては経済的利益としての給与課税を回避している。

「給与等とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者の
指揮命令に服して提供した非独立的な労務又は役務の対価として受
ける給付をいうものであると解される。そして、その給付には金銭
のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解される(最
高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672
頁、最高裁平成17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号
64頁、最高裁平成27年10月8日第一小法廷判決・集民251
号1頁参照)。」

このような通達処理の合理性(通達に根拠をそもそも求めること自体が問題ではあるのかもしれないが、)は上記のように少額不追求という点ではなく、費用負担の社会的な慣行に基礎を置いているように判断している。趣旨に相違が見られるものであるが(国民感情という不明瞭な点が基礎となっている、国民感情的には、現状自身が使用者が負担するとはいえ、このようなものは業務上のものであろうと認識するであろうから確かに給与課税には反発するであろうが)、昭和63年に出された通達と社会状況が現況に置いて整合しているのかという点においても、疑問の予知はあるのではないだろうか。

「使用者が会食、旅行、演芸会、運動会等のレクリエーション行事の費用を
負担する場合、これらの行事に参加した従業員等が受ける経済的利
益について、一定の要件を満たすことを条件に課税しなくて差し支
えない旨定めている。この取扱いは、使用者が費用を負担してレク
リエーション行事を行うことが一般化しており、当該レクリエーシ
ョン行事が社会通念上一般的に行われていると認められるようなも
のであれば、あえてこれに課税するのは国民感情からしても妥当で

はないことを考慮したものとして合理性を有する」

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年11月23日土曜日

判例裁決紹介(平成30年6月19日裁決、医師のゴルフプレー費用と必要経費の該当性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年6月
19日裁決で、医師が行った事業に関する必要経費として、医師がプレーしたゴ
ルフ代、ゴルフコンペ費用、セミナーへの参加費用としての旅費等が該当するの
か否かという点が問題となっているものです。

具体的には、本件は医師である請求人が当該事業所得の計算上必要経費に算入し
たゴルフプレー代等が、処分行政庁によってかかる費用は、家事費、家事関連費
であり、必要経費該当性を否認しもって更正処分等を行ったことを不服として、
かかる費用は必要経費性を有すると主張して、処分の取り消しを求めたものであ
る。
典型的な個人の趣味的な費用、費消的費用に関する必要経費としての該当性を争
う事例であり、特段特徴的な事例ではないとも考えられる。そもそも最初の印象
はなぜこれを顧問税理士が、認めていたのか正直疑問に覚えた事例であるところ
であるが、近年でもこの種の費用を必要経費として、もって所得を減少させる措
置を図る個人事業主は実務上は当然のものであるのかもしれない(名声を高める
や情報交換などの観点からの必要性が主に主張されるが)。事実関係からは、税
理士の配偶者や子供(小学生が)が、医師が参加を促したセミナーへの旅費が計
上されているなど、請求人と税理士の関係が偲ばれる事例でもあろう。いずれに
しても本件はこの種の趣味的な費用支出に対して必要経費としての該当性が認め
られるのかという点を起点として、事業所得への必要経費の判断に対して、近年
の事例として、ティーチングケースとしても参考となるものと考えられる。ただ
し、本件では、必要経費としての該当性を判断する上で、必要経費としての要件
という点を中心においているものではなく、すなわち、必要性や直接性(そもそ
もこの種の必要経費における直接性とはいかなるものであるのかあまり明瞭では
ないが)、の問題として、議論されるケースが必要経費の該当性の判断において
は通常ではあろうが、本件はこの種の判断を用いることなく、家事費、家事関連
費、特に関連費としての明確な区分を要求するいわば手続的な規定の充足が図ら
れているか否かという点を中心的なアプローチとして判断を行っている。この必
要な部分を区分することが非常に困難であり、従前家事関連費の判断においては、
この区分を要求する事例は少なかったものであろうが、このアプローチを用いて
必要経費を否認する事例が増加傾向にあり、この要件の充足を納税者に求めるこ
とで、事実上、必要経費としての必要性の具体的な説明を納税者に求めている、
立証すべき責任の起点を納税者に転嫁している。さらに判断でも立証責任に関し
て、下記のように、原則的にその立証責任を課税庁に求めながらも、一定の納税
者による反証などにおいて合理的な説明がなされない場合は、その算入を否定す
るように判断している。このような立証責任の事実上の転換が近年増加しており、
果たすべき責任、必要性への対応、準備も自ずと変化しつつあることは実務家に
おいても認識されるべきであろう。

「、所得の存在について原処分庁に立証責任がある以上、原則として、原 処分
庁において、収入のみならず経費についても、原処分庁の主張額以上 に必要経
費が存在しないことを立証すべき責任があると解される。 もっとも、原処分庁
は、必要経費の存否に関連する事実に直接関与して いないのに対し、請求人は
より証拠に近い立場にあること、一般に、不存 在の立証が困難であることに鑑
みると、更正時に存在し、又は提出された 資料等をもとに判断して、当該支出
を必要経費に算入することができない ことが事実上推認できる場合には、請求
人において、その推認を破る程度 の具体的な反証、すなわち、当該支出と業務
との関連性を合理的に推認さ せるに足りる具体的な立証を行わない限り、当該
支出の必要経費への算入 は否定されるというべきである。」

いずれにしても必要経費の判断においては、対象となる経費の性格が異なるがゆ
えに対応するアプローチが異なるものとも考えられるものともいえようが、この
種のアプローチが増加傾向にあることは、特に裁決段階では増加しており、留意
されるべきであろう。すなわち実務としてもその準備として必要性への対応、区
分把握の必要性に対して一定の配慮が必要となっていくことであろう。

そもそも事業所得の経費として、給与とは異なり広範な必要経費が認められる
(これは小規模な同族会社などの法人も同様であろうが)ような理解、傾向は問
題ではないだろうか。多くの場合事業所得や法人化の大きなメリットと捉えられ
ることが多い(このような説明を行っている事例は枚挙にいとまがないだろう)
が、近年のこのような傾向に関しては、過大視されつつあることは否めず、上記
のようなアプローチが興隆してきているのではないだろうか。租税負担の公平性
や今後の働き方の変化によって個人事業が増加することも鑑みるならば、必要経
費(及び法人の損金)へのアプローチも修正が必要となりつつあるのではないだ
ろうか。

(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額
(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに
雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金
等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあ
るものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額
を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他
これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年に
おいて債務の確定しないものを除く。)の額とする。

以上の所得税法の基本的な解釈は下記のように判断でも維持されている。必要経
費と家事費の区分、さらには事業との関連性と必要性を要するものと解されてい
る。この点は解釈としては判例とも整合しており特段特徴的なものではないが、
後半部分の必要経費性の判断のみならず、本件ではこの両者を混合させたアプロ
ーチが採用されているものと理解される。

「事業所得の金額の計算上、必要経費が総収入金額から控除されることの 趣旨
は、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを回避することにあると解 されると
ころ、個人の事業主は、日常生活において事業による所得の獲得 活動のみなら
ず、所得の処分としての私的な消費活動も行っているのであ るから、事業所得
の金額の計算に当たっては、事業の必要経費と所得の処 分である家事費とを明
確に区分する必要がある。そして、所得税法第37 条第1項、同法第45条第
1項第1号及び所得税法施行令第96条は、上 記1(2)のとおりそれぞれ規
定しているところ、以上の各規定の文言及 び事業所得の金額の計算上必要経費
が総収入金額から控除されることの趣 旨に照らすと、ある支出が事業所得の金
額の計算上必要経費として控除さ れるためには、当該支出が所得を生ずべき事
業と直接関係し、かつ、当該 事業の遂行上必要であることを要すると解するの
が相当である。そして、 かかる費用に該当するか否かの判断は、単に業務を行
う者の主観的な動 機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の
趣旨・目的等 の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行
われなけ ればならないと解される。」

以上のように、本件におけるアプローチは家事費、家事上の経費と各種所得の関
連を持った経費の存在に着目している。しかしながら、家事上の経費とは、判断
でも多くの場合、所得の処分として理解されているものであり、趣味的な費用な
ど多様な費用を含む概念であることであろうが、本件のように家事費、関連費と
して区分をより求めるものと判断されるなならば、この家事上の経費とは如何な
るものであるのかという点からの検討も必要となろう。所得の処分という表現の
みでは必ずしもその意味するところは明らかとは言えず、何が処分であり、対し
て所得、収入に対して関連するものであるのかという点は、具体的に判断する上
で、支障をきたすものとも考えられる。おそらく本件のようなゴルフ場費用や交
通費などが家事上の経費であることは社会通念に照らせば疑いようがないもので
あるのかもしれないが、趣味的な費用、特に趣味と事業の区分が情報機器の発達
によって曖昧となりつつあるものであり、より家事上の経費に関する具体的なア
プローチが必要となってくるのではないだろうか。

(家事関連費等の必要経費不算入等)
第四十五条 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動
産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必
要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

(家事関連費)所得税法施行令
第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規
定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所
得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を
明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認
を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に
基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要
であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

また、このように家事上の経費の判断を行う上では、事実上立証責任の転換と上
記したものの、納税者段階での、事業との関連から、事業との関連や必要性が重
要になるものと考えられる。
「情報収集等 は、ゴルフをプレーしなければその目的を達することができない
性 質のものではなく」
この点で、本件では必要性の判断において、代替性がないことをその必要性の判
断の枠組み用いている。この代替性をどの程度存在しているのかという点が必要
性において重要であるのかという点が定かではないが、単に主観的な(名声をう
る、評判をうる等、判断ではこの点は全く根拠のないものとして一蹴されている)
必要性の主張においては重要視されるものではないという点は重要であろう。解
釈論として必要性=代替性の欠如と理解することは、また困難であるが、必要性
のアプローチとしてこの代替性が重要なキーとなっていることは、特に直接費用
として理解される原価とは異なる一般的な対応費用における必要性の判断におい
ては、重要であるものと認識されるべきである。

以上毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参
考までに。

2019年11月11日月曜日

判例裁決紹介(平成30年3月19日裁決、事前通知直後に出された修正申告と過少申告加算税の宥恕)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月19日裁決で、事前通知直後に提出された修正申告書に対する過少申告加算税の適用が争点となった事例です。

具体的には、法人である請求人がなした確定申告に対して実地の調査委に入る旨の事前通知が行われたところ(この実施に関しては要件を充足しており、違法性はない)、その直後に修正申告書を納税者が提出した状況下において、事前に準備していたことを考慮して、過少申告加算税の賦課決定処分対して意義を唱える事例である。修正申告の提出と過少申告加算税の賦課に関しては、古くより宥恕、過少申告加算税の軽減、免除が議論されてきており、調査の実施前段階であれば、一定の考慮が図られる事例も多く、一定のリスクのある申告においてこのような状況を活用を図るような状況も見られてきたものである。本件もそのような過少申告加算税に対して事前通知が行われた直後に修正を図り、軽減を企図したものであるが、かかる点が思惑と異なる点になっていることが、本件の起点となっているものであろう。旧来はこのような状況においては、更正の予知があるのか否かという点が主たる論点とされていたものであるが、平成23年の事前通知の法定化に伴い状況は変動している点が、留意されるべきであろう。かかる点において本件のような過少申告加算税に対する宥恕と修正申告の関係を検討する、特に現行制度における関係を議論する上では、本件は有益な事例であろう。

(過少申告加算税)
第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の五の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない

以上のように本件は、事前通知が法定化された現況下において、事前通知後に提出された修正申告に対する過少申告加算税の宥恕の可否を争点としているものである。この過少申告加算税のそもそもの趣旨としては、下記のように判断では行っており、若干省略的ではあるが、これに基づきその宥恕に関しては国税通則法は65条において上記のように、調査による更正の予知があったことがあるのかという点が法文の要件とされてきたものであり、この点は従前と相違がない。しかるに予知とはどのような段階にあることを意味するものであるのかという点を中心に議論が行われ、事例が蓄積されている。しかるに本件の状況は5項の追加による事前通知が行われる前であることをその基本的な条件として追加している。しかるに従前と実質的には宥恕の適用に関しては、状況が異なっており、事前通知が行われた段階で過少申告加算税の賦課は回避することが困難な状況になっているものと解する他ない。この点は重要な変化であり、事前通知の有無と言う形式的な部分が重要な判定要因になってきていることは現況として理解されるべきであろう。かかる点において予知の状況にあるか否かという点は、相対的にその役割を低下しており、今後の問題の局面は、事前通知段階ではなく、その前の段階、例えば、税務署からのお尋ね、文書問い合わせなどのような状況(そもそもこの法的な位置づけはまだ定まっていないものとも考えられるが)における更正に対する納税者の認知状況に争点が移りつつあるように考えられる。

「期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったとき
は、通則法第65条第1項の規定により、その修正申告により納付すべき税
額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税
を賦課するのが原則である。もっとも、納税者の自発的な修正申告を奨励す
る一方で、法令の定めに従った正確な内容の期限内申告書の提出を促す趣旨
から」

また、本件ではあまり争点になっていないが、事前通知の直後の提出というものはどのように評価されるべきであろうか。事前に準備していたことを改悛の現れと見るのか、そもそも事前に準備していたことが、予知という状況を裏付けるものであるのか、評価は分かれるように思う。私見としては、直後の提出は事前にその申告におけるリスクを認識していたことが容易に疑えるものであり、予知していたことに対する高い蓋然性を有しているようにも考えるのであるのだか。この点は実務ではどのように問題のある、申告などに対してアプローチしているのか、という点は聞いてみたいところです。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年11月2日土曜日

判例裁決紹介(神戸地判平成30年12月26日、通達改正による評価方法の変化と不当利得)

また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は神戸地判平成30年12月26日で、通達改正に伴って発生した財産評価の引下げを契機に従前の通達評価によって納税していた相続税額が不当利得であるとしてその返還を求めたものです。

具体的には、相続人たる原告が被相続人から相続により取得した株式に対して、財産評価基本通達に基づき評価を行った上で、確定申告を実施したが、その後、当該通達の定めに対して、別件訴訟が提起され高裁判決によってその通達の合理性が否定され、もって通達改正が行われたことを契機として、本件相続税申告によっても修正後の評価方法を適用したところ、従前の評価方法による場合と比して1億円近い差額が発生したため、当該差額は不当利得であるとしてその返還を求めるものである。なお、別件訴訟が確定した段階ではすでに更正の請求の期限は超過している(訴訟による請求も棄却)。納税者の立場から見れば、このような行政が発行している通達の改正に伴って従前と大きな納税額の相違が出ること自体が衡平負担の観点からは許容できるものではないことは用意に理解できるものであるが、本件判断は不当利得の成立も否定しており、通達改正の影響は実質的にその以前の状況に対して遮断されているような状況になっているものである。著名な財産評価に関する判決(純資産価額方式一辺倒から類似業種比準方式を適用可へ)による通達改正であるが、このような通達改正の影響を租税法規において如何に評価し、適用を行っていくべきであるのか、改正前の納税者の救済を如何にして図るべきかという課題を明らかとするものであると考えられる。

、「納税者が、申告が無効であるとして、申告により納付した租税を不当利得として返還請求をし得るのは、納税申告書の記載内容に客観的に明白かつ重大な過誤があり、通則法等の定める方法以外にその是正を許さないならば、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限られると解するのが相当である(以上につき、最高裁平成22年10月15日第二小法廷判決・民集64巻7号1764頁、最高裁昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁参照)。」

判示では、上記のように不当利得の成立を最判を引用し、限定的に解している。最終的には原告の主張立証として特段の事情があるのか否かという点で判断不足として、主張を棄却していることになる。通達の実務上の位置づけを鑑みれば、特に財産評価基本通達における通達と時価の関係は、事実上の法令として理解しても差し支えないレベルとの評価もあり得るところであり、かかる点を信用して申告を行った原告の救済は図られるべきとの指摘も合理性があるだろう。しかしながら法令解釈上は困難であり立法によるべきものである(相続税の高額負担者のために立法措置が行われる可能性は極めて低いだろうが)。

本件では、前訴として通知処分の取消し請求と本件のような不当利得の関係性も整理されている点は今後の訴訟対応においても重要な点であろう。


以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度が低いですが参考までに。