2019年9月28日土曜日

判例裁決紹介(平成29年4月25日裁決、役員給与の相当性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年4月25日裁決で、役員給与が不相当であるとして、その妥当性が争われた事例です。

具体的には、インターネットを活用した中古自動車の輸出販売業を営む法人が代取に対して支給した役員給与が不相当に高額であり、その損金性が否定されるべきとした更正処分等を不服として(役員の職責を考慮しておらず)提起された事例である。役員給与に関する制度改正が大幅に行われた平成18年改正において、その制度の位置づけがいかなる状況になっているのか、変化があったのか等、多様な問題があり得るところでもある。そもそも従前この不相当の給与を否定する本件規定は多様な論点、争点を提起してきたものであり、制度改正もあって近年はその適用が紛争事例として顕在化するケースは減少していたものであるが、いわゆる残波事件等の状況から潮目は変わりつつあるのか、若干この不相当の役員給与を否定する紛争事例が増加傾向にあるように捉えられる。退職金が問題の中心になるものであるのかもしれないが、近年は団塊世代が70歳に近づきつつあり、経営者としても退職する時期になりつつあるような現況化においては、また問題が顕在化するのかもしれない。いずれにしても本件は、近年の事業環境において、不相当性が課題とされた類型に属するものであり、近年の状況において不相当性を議論する上で参考となるべき事例であろう。特に本件はインターネットを活用した事業を展開しており、従前の地域特性を重視した相当性の判断の枠組みにおいて妥当性、合理性が担保されるものであるのかというような状況も想定されつつあり、かかる点においても本件は参考となろう。

特に本件は当初の処分行政庁がなした、相当性の判断が一部、裁決の判断においては、修正が行われた事例であり、かかる点においても如何なる理由からその修正がなされたのかという点においても特徴的な事例であろう。

法人税法34条
2 内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

以上のように本件は、役員給与における不相当額の算定が課題となっているものであり、その判断枠組み、如何にして不相当と判断するのかという点が中心的な問題となっている。しかしながら、この朱の立証責任は課税庁にあるものであり、また、比準対象の同業他社の情報は、納税者である請求人には知り得るものではまったくないことからも納税者の側から検証、アクセスが不能な情報から判断がくだされることになる。かかる点で相当額の算定は課題となりうるものである。現行法制度において、この不相当に高額な給与がどのような所以をもって排除されるべきであるのかという点は、この法規の基本的な課題となるものであり、どのような制度背景を持っているのか、不相当であるかを判断する上で法令解釈上重要な点となる。不相当という文言をもって単純に不確定であると捉えい、かかる点は租税法規の基本的な立場、要請からは立法によって対応すべきものであるのかもしれないが、現行法の問題としては、納税者からはアクセスができない情報である比準対象となる企業等の選考等において恣意性の介入があるのか否か、客観性の確保、一定程度の合理性(そもそも不相当という文言自身が必ずしも明確な対象との比較においてどのような意義を有しているのかという点は定かとはいい難く、どの程度の合理性があれば足りるものであるのか、それを相当をみなすことができるのかという点は検討すべきであるかもしれない)を有しているのかという点が問題となるものと考えられる。
この具体的な制度趣旨としては、すなわち不相当に高額な給与をその損金性を否定する趣旨として、下記のように、職務執行の対価としての相当性を確保し、役員給与の恣意性の排除を企図しているものと理解している。
「法人税法第34条第2項は、内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。この規定の趣旨は、課税の公平性を確保する観点から、職務執行の対価としての相当性を確保し、役員給与の金額決定の背後にある恣意性の排除を図るという考え方によるものと解される。」

上記のように、従前は隠れた利益処分の禁止をその基礎としていた、ものが若干の変化を持っているように課税庁における判断としては行われているようにも捉えられる。
職務執行の対価としての性質が強く出ているものと言えよう。このように考えるならば、その相当額の妥当性に関しては従来以上に比準対象の選考が重要な意義を持つことになる。しかも比準対象の事業内容のみならず、役員が担うべき業務が、職務が如何なるものであるのか、というような比較対象が重要性をもつことになろう。ただし、役員が担うべき職務や職責、職務権限などは経営を担う以上、一般の従業員のように、定型化されたものではなく、多様な職務内容が想定されるものであり、このような状況に対応した比準対象の選定が可能であるのかという疑問も発生するが、対価を判定するそもそもの職務が比較こんな場合が想定される)このような趣旨の変化がいかなる所以をもつものと考えられるのか、おそらくは平成18年改正の影響であろうが、相当額の算定においても考慮されるべきであろう。

請求人の主張は、選定した企業等の状況が、職責や職務が考慮されていない、相違している点が基礎となっている。従来は本制度は利益処分の不合理性を、職務の対価と言う概念と合わせて考慮していたが、上記のように、現状の本制度は、職務執行の対価としての妥当性、相当性を要求しているものと解している。しかるにであれば、納税者が主張するように、選定においては事業内容や、職務内容があるいは職責が重要視されるべきであろう。判断でも一部、処分行政庁が選定した企業において、請求人と異なる事業を営む対象が含まれていたことを理由として、一部処分行政庁の判断を結果として修正していることも、留意されるべきであろう。しかしながら、現状の制度の趣旨を上記のように職務執行との関連に焦点を当てて理解して良いものであるのかという点は、従前との対比において必ずしも定かではなく、本制度の基本的な趣旨をどのように解するのかという点は更に議論が必要だろう。

また、本件では、相当性の認定において、他の従業員との給与の伸び率の相違(大幅に代取が給与額が伸びている)が問題視されている。このような企業内部の状況も加味した相当性の具体的な判断は、他の企業、類似業種等を参照した相当性の判断を基礎とする現状の判断の枠組みにおいては、比較的特徴的なものであろう。納税者においてもアクセスが可能な情報であり、このような判断が今後増加するのであれば、実務家としては考慮要因としていく必要があろう。外国での業務なども行われているが、かかる点が考慮されていないことも現代の事業環境において妥当性を有しているのかという点は疑問が残る。さらに、インターネットによって構築された事業環境を基礎としている本件のような事業では、少なくとも事業実施領域は所在の地域に限定されるものではなく、果たして地域の特性、類似の地域の企業の情報という選定方針が相当性の判断として未だに合理的であるのかという点は、疑問を覚える。

本件では、上記のように給与の伸び率というような中長期の一定の時間的な幅の中での相当性を求めている。単にスポットとして一定時点の支払いのみが考慮要因として考えられるものではないこともまた、特徴として理解されるべきであろう。

2019年9月20日金曜日

判例裁決紹介(平成28年4月22日裁決、不法原因給付とみなし贈与、権利確定)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年4月22日裁決で、交際相手から給付された金員(不法原因給付)がみなし贈与に該当するのか否かが争われた事例です。

具体的には、本件は請求人が交際相手から受けたマンション購入に関する手付金相当額の金銭振込(最終的にマンション契約は解除手付金は違約金へ)がみなし贈与(大過なく受けた経済的利益に該当するのか否かが問題となった事例である。別件訴訟によって当該交際相手から返還請求を求められているものであるが、その中では、解除条件付贈与であり、また、請求人と交際を続けるための見返としての金銭給付であって、不法原因給付であるから返還義務がないものとして取り扱われたものであり、みなし贈与に該当するのかという点が中心的な争点となっているものである。課税庁は上記のようにみなし贈与としているが、請求人は、交際を継続されないこと等による精神的な損害を受けたものであって慰謝料的なものであるため贈与とはみなされないものとして主張が対立しているものである。当初のマンション購入契約段階では手付金を請求人と交際相手は負担するにあたって、両者の名義で行うなど(そのため相当額を金銭振込として請求人に給付している、実際は、それでも金銭交付を受けており、かかる時点でみなし贈与になるものと想定されるが)、共有の名義として贈与税負担を抑えることを企図した処理を行っているが、途中で、交際が破綻し、これによってかかる金員が贈与等となり得るのか否かという点が問題となっているものである。このような当初の事実関係があることから、明確に金銭の移動記録(振込等)存在しており、通常、このような明確な契約関係等がない場合であって経済的利益の実在がまずは問題になるものであるが、本件ではその点は問題となっていない。従って、経済的利益の供与、交付が純粋に下記相続税法9条に規定するみなし贈与に該当するのか否かという点が争点となっているものと考えられる。

本件は、このように事実関係としては特殊な事例であるが、比較的ドロドロとした事実関係の存在自身が一般的には興味深いものであろうし、このような不法原因給付の返還請求自身が民事はともかくとして租税案件として取り扱われることはまれな事例であろう。法令解釈としては特段珍しいものでないのかもしれないが親族間、あるいは私的な関係における金銭のやり取りを考える上では参考となる事例ではないだろうか。


第九条 第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。

以上のように本件の中心的な争点は、本件の事実関係において、みなし贈与に該当するのか否かという点にある。納税者である請求人は交際に伴う慰謝料などの損害賠償に該当すると主張しているが、別件訴訟との整合性にかける点は否めない。最終的に本件の金員相当額は違約金として手元に残っていないことが影響しているのかもしれないが、金員の贈与のとして該当するという納税者の認識に至っていないことが起点となっているものであろう。贈与税に関しては、その使途が問題となるものではなく、受けた利益の存在が問題となっている点は当たり前のことでもあろうが、留意されるべきかもしれない。

最終的には本件では上記のように経済的利益の実在性は問題とならず、当該経済的利益がみなし贈与として該当するのかという点に焦点が当てられている。特に対価を支払うことなく、という点において、本件の事実関係が課題とされているのであろう。対価という点は幅広く解釈されているものであり、このような不法原因給付であっても返還義務がないことが確定しているものであり、この点が対価を支払っていないという点に該当するとされているものである。ただし、中心的な問題となっていないが、本件はどのタイミング贈与があったものとみなされるのかという点は、より検討が必要ではないだろうか。対価なく経済的利益の給付は行われていることは疑いようもないが、本件のように返還義務がないことが確定した段階をもって対価なくという点が認定されうるものであるならば、みなし贈与としての認定のタイミングは、後ろに移動することもあり得よう。対価なくという部分は贈与として認定されるタイミングにも影響を及ぼさないものであるのか、本件のような不法原因給付であるような場合において返還義務と対価の存在との関係はもう少しタイミングとしては議論されて良いのかもしれない。

以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年9月14日土曜日

判例裁決紹介(平成30年5月29日裁決、調整対象固定資産に関する電話照会と誤指導、正当な理由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年5月
29日裁決で、消費税の納税義務に係る電話照会でのご指導、特に調整対象固定
資産に関するご指導によって発生した附帯税の宥恕対応が焦点となった事例です。

具体的には、本件は太陽光発電等を取り扱う法人である請求人が、設立後、調整
対象固定資産を取得し、もって消費税の納税義務が発生しているものとして税理
士等が申告を行っていたが、税務署より納税義務に関するお尋ね文書が送付され、
それに対する税理士による照会(電話)による誤指導があったことにより、調整
対象固定資産の制度を適用がなく、基準年度における売上等から納税義務がない
ものとして申告をおこなわかった状況下において、後日、実際には当初の想定通
り納税義務がある状況であったことが判明し期限後申告を行ったところ、無申告
加算税の賦課が行われたことから、当該賦課における宥恕対象としてこのような
誤指導が原因であったものであり、正当な理由が存在するとして争われた事例で
ある。

本件の起点は、税務署からの一般的なお尋ね文書の送付によるものであり、この
ような送付があることが納税者にとっては、税務署の指導を裏付けるものである
として当該指導を信じたことに納税者の帰責性は存在しないとして、不服を提起
したものである。税理士という専門家が関与している段階で、このような税務署
の送付のような作業の誤解を信用したことは責められるべきものであろうが(専
門家責任として過失はあるだろうが)、納税者の立場からはこのようなお尋ね文
書の存在は、税務署の何らかの通知として理解することは大いに想定されるもの
であり、一定の納税者の主張は理解できるものであろう。本件の事実関係では係
る送付への対応としていったん照会作業を行っており、基本的にはそのタイミン
グにおける誤指導を起点としているが、その対応によっても正当な理由を構成す
るものであるのかという点が争いになっているものである。課税庁としては、正
当な理由の成立そのものよりも、調整対象固定資産に対する言及、納税者からの
照会において説明があったのか否かという点を否定的にとらえており、いわば、
誤指導そのものの存在を否定している。最終的には判断でも課税庁の主張を捉え、
納税者、税理士が作成した申告書におけるメモ書き等の資料は誤指導の存在の裏
付けとしては認定していないということから納税者の主張を排斥している。

現在は、本件のように課税庁からのお尋ね文書の存在は非常にポピュラーとなっ
てきているものであるが、この位置づけはどのようなものであろうか。本件のよ
うに納税義務の誤解の起点となるような状況は今後も想定されるものであるので
あろうか。そもそも法令上かかるお尋ねがどのような評価を受けるものであるの
かという点は定かではなく、実務家としてはこのような書類に対してはどのよう
な取り扱いをしているものであるのかという点は一度聞いてみたいところ。多く
の場合、納税者においては困惑の原因となるのではないだろうか。特に本件のよ
うに消費税の納税義務における判断は非常に重要な判断であるが、形式的な処理
でもあり、専門家としては留意すべき点であろう(よくミスが発生しているとこ
ろであるだろう)が、このような誤指導はやり取りにおいて想定されうるもので
あり、本件のようにメモ書きのような対応は、ごく一般的なものであろうが、本
件のような正当な理由の判断枠組みにおいては不十分であることもまた認識され
るべきであろう。かかる点においても本件は興味深い事例ではないだろうか。

(無申告加算税)
第六十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該
各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三十五条第二項(期限後申告等に
よる納付)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は
第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたこと
により当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでな
いときは、百分の十の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課
する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると
認められる場合は、この限りでない。

以上のように本件では、その中心的な争点となっている部分として上記無申告加
算税における正当な理由の存在が認められるのか否かという点を課題としている。
基本的には本件の事実関係、特に、調整対象固定資産(調整対象固定資産の取得
があったことは問題とされていない)に関する誤指導の起点として照会のタイミ
ングにおいて適正な説明が納税者からなされたのか、資料の提出があったのかと
いう点が主に争われている。

(新設法人の納税義務の免除の特例)
第十二条の二 その事業年度の基準期間がない法人(社会福祉法(昭和二十六年
法律第四十五号)第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人その他の専ら別表
第一に掲げる資産の譲渡等を行うことを目的として設立された法人で政令で定め
るものを除く。)のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の
金額が千万円以上である法人(以下この項及び次項において「新設法人」という。
)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間
(第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一項、第十
一条第三項若しくは第四項若しくは前条第一項若しくは第二項の規定により消費
税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産
の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第九条第一項本文の規定は、適用しな
い。
2 前項の新設法人が、その基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(第
三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間を除く。)中に調整対象固定資産
の仕入れ等を行つた場合には、当該新設法人の当該調整対象固定資産の仕入れ等
の日の属する課税期間から当該課税期間の初日以後三年を経過する日の属する課
税期間までの各課税期間(その基準期間における課税売上高が千万円を超える課
税期間及び第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一
項、第十一条第三項若しくは第四項、前条第一項から第三項まで若しくは前項の
規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)に
おける課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第九条第一項本文の規
定は、適用しない。

本件判断では下記のように、その正当な理由の説明の法解釈として以下のように、
示している。納税者の帰責性などの点は、従前の判断と整合的であり、本件のよ
うな相談、照会のような行政の処分等の行為ではなく、あくまでも立法の裏付け
のない作業、行政サービスに対しては、その成立があり得るのかという点が問題
になる。本件では極めて限定的な状況であるが、十分な資料の提出、説明等が条
件として付与されているが、必ずしも行政サービスにおける正当な理由の成立は
否定されていない。しかしながら、十分な資料等の存在が前提であり(そもそも、
十分とは主観的な判断であり、いかなるものを要求するものであるのかという点
は不確かであり)、照会のような状況下において、電話相談などにおいては実際
のところ、課税庁に十分な責任を負わせることは適当ではないことも理解されよ
うが、納税者においては課税庁の行為の類型においてその差異が存在することに
納得がいく意見を持つものは少ないだろう。この点は立法に属する問題であろう
が、現実的な照会や電話相談等の対応と誤りの発生は、如何に救済されるべきで
あるのかという点は慎重な考量が必要となるように考えられる。

「無申告加算税の趣旨からすれば、通則法第66条第1項ただし 書に規定する
「正当な理由」があると認められる場合とは、期限内申告書が 提出されなかっ
たことについて、真に納税者の責めに帰することのできない 客観的事情があり、
上記の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税 を賦課することが不当
又は酷となる場合をいうものと解するのが相当であ る。 そうすると、納税者か
らの納税申告に係る相談や質問について、「正当な 理由」があると認められる
場合としては、例えば、納税者から十分な資料の 提出及び説明があったにもか
かわらず、税務職員が納税者に対して誤った指 導を行い、納税者がその指導に
従ったことにより無申告となった場合で、か つ、納税者がその指導を信じたこ
とについてやむを得ないと認められる事情 がある場合など、無申告となったこ
とについて真にやむを得ない理由がある ため、無申告加算税を課することが不
当又は酷となる場合などがこれに当た ると解される。」

以上のように、本件では、行政サービスにおける相談等における状況下であるこ
とから、正当な理由の成立を十分な資料等の裏付けがあることを要求しているも
のと解して、非常に限定的に判断の基礎を構成している。無申告加算税における
正当な理由の存在そのものが問題となる以上は、上記の枠組みは、基本的には是
認されるものと考えられるが、ゆえにメモ書き程度の資料では、誤指導そのもの
の存在を裏付けるものとして認定されがたいことは、留意されるべきであろう。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いで
すが参考までに。

2019年9月10日火曜日

判例裁決紹介(大阪地判平成29年9月7日、不動産所得による必要経費の立証責任)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判平成29年9月7日で、不動産所得における必要経費として認められるのか否かという点が問題となった事例です。

具体的には、本件は個人として不動産所得を有する原告が白色申告にて、所有不動産の所得に関する確定申告を行っていた(損益通算による給与所得に関する源泉徴収の還付も)ところ、その必要経費として計上した経費(地代家賃、前払金の貸倒損失、リース料、架空経費、交際費等)が必要経費としての実態を備えていないものとしてまた、架空経費であるものとして更正処分及び重加算税の賦課決定処分を受けたことからその取消を求めた事例である。最終的には課税庁が主張するように、高額な源泉所得税の還付を不正に行うことを目的と下取引であり、課題となった経費に対する必要経費性や架空経費の存在は認定されているところであるが(実態として4ヶ月の給与が6000万、不動産所得の経費として交際費400万等、現実的にみて、社会通念上もその実在性が疑われるもので、よくこれが申告されたなというのが本音)、多様な経費に対して、如何にしてその必要経費性を否定しているのかという点は重要であろう。特に、近年は、副業や節税商品として不動産所得を活用し、その事業経費をもって有利な租税負担を見出す形式が増加している。このような状況下においては不動産所得の必要経費を如何に捉えるのかという点は重要な点であり、かかる点においても本件は参考となる事例ではないだろうか。高額な源泉所得税の還付や、関連会社の破産、火災の発生による証拠書類の紛失など、些か(というには特異かもしれないが)個別的な状況を前提としているものであり、ディスカウントして読むべきものであるのかもしれないが、不動産所得の裾野は広がりつつあり、このような源泉徴収還付との対応、私的費用の計上、架空経費の計上等は今後さらに課題となるものであろうし、かかる点においても本件は参考となろう。


(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
2 山林につきその年分の事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その山林の植林費、取得に要した費用、管理費、伐採費その他その山林の育成又は譲渡に要した費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

以上のように、本件は、所得税法の必要経費として認められるのか否か、そして経費が架空であるのか否かという点が中心的な争点となっているものである。架空であるのか否かという点に関しては、基本的に事実関係の問題であろうが、必要経費であるのか否かという点については従前そもそも必要経費とはいかなる要件を有するものであるのかという点も含め多数の事例の蓄積が存在するものである。本件もその累計に属するものであるが、本件は他の事例と異なり、立証責任を納税者である原告に委ねており、かかる点からその主張立証が不充分である、抽象的であるとのことから、各費用(殆どの費用が)その必要経費性を否定されている。このような判断のアプローチをとっていることが特徴的な事例である。

具体的には、下記のように、
「総収入金額を得るため直接に要した費用」及び「所得を生ずべき業務について生じた費用」という文言に加え、所得を稼得するための投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けるという必要経費の控除の趣旨にも照らすと、ある支出が不動産所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには、当該支出が所得を生ずべき業務(不動産賃貸業)と合理的な関連性を有し、かつ、当該業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当である。そして、上記の判断は、単に事業主の主観的判断によるのではなく、当該業務の内容、当該支出(費用)の性質及び内容など個別具体的な諸事情に即し、社会通念に従って客観的に行われるべきである。」

一般論としての必要経費の意義、判断枠組みを示した上で、下記のように立証責任の分配を行っている。

「課税処分の取消訴訟においては、原則として、被告(課税庁)がその課税要件事実について主張立証責任を負い、不動産所得の金額の計算上控除する必要経費についても、その主張する金額を超えて存在しないことにつき主張立証責任を負うものと解される。しかし、必要経費は、所得算定の減算要素であって納税者に有利な事柄である上、納税者の支配領域内の出来事であるから、必要経費該当性(支出の存在及び数額並びに業務との合理的関連性及び業務遂行上の必要性)の主張立証は、通常、納税者たる原告の方が被告よりもはるかに容易である。したがって、必要経費該当性につき争いのある支出については、原告において、当該支出の具体的内容を明らかにし、その必要経費該当性について相応の立証をする必要があるというべきであり、原告がこれを行わない場合には、当該支出が必要経費に該当しないことが事実上推認されるというべきである。」

租税法規における処分に関しては、一般的に課税庁にその立証責任が課せられることは、処分性や財産権の保護、法的安定性の担保や任意調査の性格から鑑みて、概ね同意されるべきものと考えられる。本件もその一般原則は承認しつつも、本件においては事実上その立証責任を課税庁から納税者に転換しているものと捉えられる。証拠との距離から立証責任が例外的に納税者に移される可能性はやむを得ないものと考える(事業形態が多様であり、その業務自体も多種多様なものが想定される。また必要性に関してはも客観性が重要であるが一定程度事業主の主観的な判断が介在する余地は否めないため)が、本件のように、必要経費を減産項目ととして有利項目として捉え、その立証責任を広く納税者にあるものとしてその立証を求めていることは、本件の特異な点であろう。このような立証責任を有することが明らかであるならば、納税者としてもその主張や立証過程等において必要性等の配慮を行うべきものであろうし、予測可能性を損なうものとしても評価される意見がありえよう。特に原告が必要経費該当性に関してその立証が不充分である場合には、必要経費としての該当性を否定する推認が働いているとも判示しており、かかる点は、本件のように租税回避、不当な租税の還付を目的として社会的にみても不合理な経費計上を行っている事案であることを鑑みた事案であるのかもしれないが、これが一般性も持つものであるのか、すなわち必要経費に関しては事実上その立証を責任を追うべきものであるのかという点は更に検討が必要ではないだろうか。本件でもかかる前提から納税者の立証が殆どが単にこういったものに使用していたなどの使用用途を説明するのみであり、業務との関連性や必要性に関する立証が抽象的であり、かかる点から殆どの経費がその必要経費としての該当性を否定される事となっている。

このような事実上の推認を伴うものであるとの判断は、課税庁の主張をそのまま採用しているものであるが、納税者にとって有利項目であることをもって責任を転換することが妥当であるのかという点は意見が別れよう。たしかに現在は処分理由の提示や理由附記の制度は整いつつあり(その程度や実効性はまだ一般性を持っているものと評価することは困難であろうが)、かかる点から立証責任を合理的に分配することは一定の合理性があるものと考えられる。しかしながら前記の通り本件は不当な還付を目的とした処理を認定されているものであり、かかる点からも特異な事例と理解し、一般的に必要経費に関する立証責任が転換され(課税庁にあるとする責任を転換すること)、必要経費の該当性否定の推定が働いているものと考えることが妥当であるのかという点は(更に有利項目であることをもって転換を図ることが妥当出るのかという点も)更に検討が必要ではないだろうか。もしかかる判断のように立証責任が課せられるものとして理解するならば、実務上も特に必要経費に対する準備資料の考え方や必要経費の要件の精緻化などは重要な点となるだろうし、理由附記の実効性の確保(附記の程度等)は更に一般論としてだけではなく、附記の程度などは一般的なものだけではなく、処分理由項目によっても差異が発生する可能性もまたあるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年9月4日水曜日

判例裁決紹介(東京地判平成30年6月29日、消費税における偽りその他不正の行為)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成30年6月29日で、消費税において課税の消滅時効を判断する偽りその他不正の行為の有無が争われた事例です。

具体的には、本件は医療従事者派遣事業を営む原告が所得税の確定申告において当該事業を記載せず(この点に関する重加算税等の賦課に関しては争いがない)、消費税の申告も行っていなかった(未申告)状況において、調査により等が未申告等が判明し、もって期限後申告を行ったところ重加算税等の賦課決定処分を受けたことから、それを不服として提起された事例である。中心的な争点は当該処分の基礎となるべき課税権が、消滅時効を迎えているのか否かという点であり、通常の5年の時効を延長し、7年の行使をおこなことができるのか否か、すなわちその適用要件たる国税通則法70条4項の偽りその他不正の行為が存在しているのか否かという点が問題となっているものである。 特に、所得税の事業所得における記載の排除を行っている仮想隠蔽行為の存在が前提となっており、所得税の過少申告と消費税の未申告を一連の行為として評価し、当該不正が成立しているのか否かという点を判断すべきであるのか、という点が納税者と課税庁の対立となっている(ここの課税要件は異なるものであり、一連のものとして評価されるべきであるのかという点は事実認定の問題であるのかもしれないが密接に関連するものとして評価されうるものであるのかは問題ではないだろうか)。従前、 所得課税を基礎とする所得税法や法人税法においては、如何なるものが偽りその他不正の行為に該当するのかという点につき、事例の集積があるものであるが、本件は消費税における当該偽りその他不正の行為の有無が本件事実関係において認定されうるのかという点が、課題となっているものであり、近年重要性がましている消費税においてかかる徴収権の延長が図られるものであるのか判断する上で参考となる事例であると考えられる。


国税通則法70条
4 次の各号に掲げる更正決定等は、第一項又は前項の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。
一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税(当該国税に係る加算税及び過怠税を含む。)についての更正決定等

以上のように本件は徴収権の時効の延長を判断すべき起点となる課題となる偽りその他不正の行為の本件事実関係において、特に消費税の未申告の状況(納税者の主張としては納税義務に対する無理解が原因との主張も行われているが申告納税制度を採用する制度上かかるような無理解は必ずしも未申告を支える理由とはならないものと考えられる)が偽りその他不正の行為の成立があるものと判断されるのかという点が課題となっている。従前、この偽りその他不正の意義としては、所得税法人税を中心に判例が存在しているが、本件でも下記のように最判を用いて、偽りその他不正の行為としては、単なる未申告は該当するものではなく、何らかの偽計その他の工作を行うこと伴う必要があるものであり、所得の秘匿工作画素の代表的な工作であり、かかる点は、税務当局の所得把握が困難とさせる一切の行為を指すものとして従前の判断を踏襲している。そもそも税務当局の所得把握が困難とさせる行為というものが抽象的であり、非常に広範囲な行為を対象としているものとなっているが、徴収権の時効延長を一定程度制限を付与している70条4項の趣旨との関連においていかに判断されるべきであるのかという点は、より検討課題であるのではないだろうか。


「国税通則法70条4項にいう「偽りその他不正の行為」、同法73条3
項にいう「偽りその他不正の行為」は同義であり、罰則規定(例えば消費
税法64条1項1号)にいう「偽りその他不正の行為」とも同義と解され
るところ、罰則規定において、「偽りその他不正の行為」による租税ほ脱
の罪(例えば消費税法64条1項1号)と、単純不申告罪(例えば同法
66条)とが別個に規定されていることなどからすると、「偽りその他不
正の行為」とは、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不
能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行うことをい
い、かかる工作を伴わない単なる不申告は「偽りその他不正の行為」に当
たらないと解される
(最高裁昭和42年11月8日大法廷判決・刑集21
巻9号1197頁参照)。
(2) 所得を課税対象とする所得税や法人税においては、真実の所得を隠蔽
し、それが課税対象となることを回避するため、所得金額を殊更に過少に
記載した内容虚偽の確定申告書を税務署長に提出する行為は「偽りその他
不正の行為」に当たり(最高裁昭和48年3月20日第三小法廷判決・刑
集27巻2号138頁参照)、所得秘匿工作をした上で申告をしなかった
場合には、所得秘匿工作を伴う不申告の行為が「偽りその他不正の行為」
に当たると解される(
最高裁昭和63年9月2日第三小法廷決定・刑集
42巻7号975頁参照)。
そして、そこでいう所得秘匿工作とは、虚偽の収支計算書の提出や二重
帳簿の作成といった積極的に税務当局を欺く行為にとどまらず、売上を正
確に記載した帳簿を作成している場合に売上金の一部を仮名又は借名の預
金口座に入金保管すること(最高裁平成6年9月13日第三小法廷決定・
刑集48巻6号289頁参照)など、税務当局による所得の把握を困難に
させる一切の行為を指す
と解される。」

本件では以上のように、最判における判断を用いて、下記のように最終的に消費税においては課税要件としての資産の譲渡等を秘匿する行為があれば、未申告であっても延長が図られるものとしている。従来の判断は所得税法等が中心となっているものであり、間接税、流通税として課税構造が異なるものであり、必ずしも、秘匿工作の存在が同様に判断の基礎に置くべきものであるのかという点は明確に根拠が示されていない。70条の文理から単なる未申告が対象とならないことは確定しているものと考えられるが、秘匿工作の存在を課税要件全般を対象とするものであるのかという点は更に検討すべきものではないだろうか。

「資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並
びに役務の提供)を課税対象とする消費税等においては、資産の譲渡等を
秘匿する工作を伴う不申告の行為があれば、それが「偽りその他不正の行
為」に当たり、資産の譲渡等の秘匿工作とは、税務当局による資産の譲渡
等の把握を困難にさせる一切の行為を指す
と解される。」

また、本件では、事実認定の問題でもあろうが、秘匿工作として所得税における本件事業の過少申告(隠蔽)が基本的な前提となって、資産の譲渡等の秘匿を認定している。納税者が主張するように、両者は異なるものであり、一連のものとして評価して偽りその他不正の行為の認定を行うべきではないものとしている点は退けられている。このように所得税(特に事業、法人税も同様だろうが)における計算と消費税の課税要件の充足が別個の租税法規でありながら密接に関連するものとして理解されていることは留意されるべきであろう。消費税において適格請求書保存方式が本格導入されれば、かかるような帳簿構造を前提としている密接な判断は回避されるものであるのかもしれないが、資産の譲渡等の把握は、所得と異なるものであり、課税当局における把握の困難さは同列に扱われるべきものであろうか(把握が困難という点が抽象的であることも課題となるだろうが)。ただし、課税当局において把握が困難とさせるような幅広い状況を前提としているならば、事実上所得税における行為と消費税における行為は一連のものとして評価されることになる現状は回避し難いのかもしれない。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。