さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年4月25日裁決で、役員給与が不相当であるとして、その妥当性が争われた事例です。
具体的には、インターネットを活用した中古自動車の輸出販売業を営む法人が代取に対して支給した役員給与が不相当に高額であり、その損金性が否定されるべきとした更正処分等を不服として(役員の職責を考慮しておらず)提起された事例である。役員給与に関する制度改正が大幅に行われた平成18年改正において、その制度の位置づけがいかなる状況になっているのか、変化があったのか等、多様な問題があり得るところでもある。そもそも従前この不相当の給与を否定する本件規定は多様な論点、争点を提起してきたものであり、制度改正もあって近年はその適用が紛争事例として顕在化するケースは減少していたものであるが、いわゆる残波事件等の状況から潮目は変わりつつあるのか、若干この不相当の役員給与を否定する紛争事例が増加傾向にあるように捉えられる。退職金が問題の中心になるものであるのかもしれないが、近年は団塊世代が70歳に近づきつつあり、経営者としても退職する時期になりつつあるような現況化においては、また問題が顕在化するのかもしれない。いずれにしても本件は、近年の事業環境において、不相当性が課題とされた類型に属するものであり、近年の状況において不相当性を議論する上で参考となるべき事例であろう。特に本件はインターネットを活用した事業を展開しており、従前の地域特性を重視した相当性の判断の枠組みにおいて妥当性、合理性が担保されるものであるのかというような状況も想定されつつあり、かかる点においても本件は参考となろう。
特に本件は当初の処分行政庁がなした、相当性の判断が一部、裁決の判断においては、修正が行われた事例であり、かかる点においても如何なる理由からその修正がなされたのかという点においても特徴的な事例であろう。
法人税法34条
2 内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
以上のように本件は、役員給与における不相当額の算定が課題となっているものであり、その判断枠組み、如何にして不相当と判断するのかという点が中心的な問題となっている。しかしながら、この朱の立証責任は課税庁にあるものであり、また、比準対象の同業他社の情報は、納税者である請求人には知り得るものではまったくないことからも納税者の側から検証、アクセスが不能な情報から判断がくだされることになる。かかる点で相当額の算定は課題となりうるものである。現行法制度において、この不相当に高額な給与がどのような所以をもって排除されるべきであるのかという点は、この法規の基本的な課題となるものであり、どのような制度背景を持っているのか、不相当であるかを判断する上で法令解釈上重要な点となる。不相当という文言をもって単純に不確定であると捉えい、かかる点は租税法規の基本的な立場、要請からは立法によって対応すべきものであるのかもしれないが、現行法の問題としては、納税者からはアクセスができない情報である比準対象となる企業等の選考等において恣意性の介入があるのか否か、客観性の確保、一定程度の合理性(そもそも不相当という文言自身が必ずしも明確な対象との比較においてどのような意義を有しているのかという点は定かとはいい難く、どの程度の合理性があれば足りるものであるのか、それを相当をみなすことができるのかという点は検討すべきであるかもしれない)を有しているのかという点が問題となるものと考えられる。
この具体的な制度趣旨としては、すなわち不相当に高額な給与をその損金性を否定する趣旨として、下記のように、職務執行の対価としての相当性を確保し、役員給与の恣意性の排除を企図しているものと理解している。
「法人税法第34条第2項は、内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。この規定の趣旨は、課税の公平性を確保する観点から、職務執行の対価としての相当性を確保し、役員給与の金額決定の背後にある恣意性の排除を図るという考え方によるものと解される。」
上記のように、従前は隠れた利益処分の禁止をその基礎としていた、ものが若干の変化を持っているように課税庁における判断としては行われているようにも捉えられる。
職務執行の対価としての性質が強く出ているものと言えよう。このように考えるならば、その相当額の妥当性に関しては従来以上に比準対象の選考が重要な意義を持つことになる。しかも比準対象の事業内容のみならず、役員が担うべき業務が、職務が如何なるものであるのか、というような比較対象が重要性をもつことになろう。ただし、役員が担うべき職務や職責、職務権限などは経営を担う以上、一般の従業員のように、定型化されたものではなく、多様な職務内容が想定されるものであり、このような状況に対応した比準対象の選定が可能であるのかという疑問も発生するが、対価を判定するそもそもの職務が比較こんな場合が想定される)このような趣旨の変化がいかなる所以をもつものと考えられるのか、おそらくは平成18年改正の影響であろうが、相当額の算定においても考慮されるべきであろう。
請求人の主張は、選定した企業等の状況が、職責や職務が考慮されていない、相違している点が基礎となっている。従来は本制度は利益処分の不合理性を、職務の対価と言う概念と合わせて考慮していたが、上記のように、現状の本制度は、職務執行の対価としての妥当性、相当性を要求しているものと解している。しかるにであれば、納税者が主張するように、選定においては事業内容や、職務内容があるいは職責が重要視されるべきであろう。判断でも一部、処分行政庁が選定した企業において、請求人と異なる事業を営む対象が含まれていたことを理由として、一部処分行政庁の判断を結果として修正していることも、留意されるべきであろう。しかしながら、現状の制度の趣旨を上記のように職務執行との関連に焦点を当てて理解して良いものであるのかという点は、従前との対比において必ずしも定かではなく、本制度の基本的な趣旨をどのように解するのかという点は更に議論が必要だろう。
また、本件では、相当性の認定において、他の従業員との給与の伸び率の相違(大幅に代取が給与額が伸びている)が問題視されている。このような企業内部の状況も加味した相当性の具体的な判断は、他の企業、類似業種等を参照した相当性の判断を基礎とする現状の判断の枠組みにおいては、比較的特徴的なものであろう。納税者においてもアクセスが可能な情報であり、このような判断が今後増加するのであれば、実務家としては考慮要因としていく必要があろう。外国での業務なども行われているが、かかる点が考慮されていないことも現代の事業環境において妥当性を有しているのかという点は疑問が残る。さらに、インターネットによって構築された事業環境を基礎としている本件のような事業では、少なくとも事業実施領域は所在の地域に限定されるものではなく、果たして地域の特性、類似の地域の企業の情報という選定方針が相当性の判断として未だに合理的であるのかという点は、疑問を覚える。