さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年1
2月15日裁決で、相続財産として被相続人が履行した連帯保証に関する求償権
の存在が課題となった事例です。
具体的には、本件は、租税の専門家である税理士を含む相続人である請求人がな
した相続税申告において、被相続人が相続開始前に和解協議等により負担するこ
ととなった連帯保証債務の履行に伴う求償権(対象は相続人)が、当該相続時点
において存在しており、相続財産を構成するものであるのか否かという点が課題
となっている事例である。課税庁がかかる求償権の存在を認定し、相続財産とし
て更正処分を行ったのに対して、請求人はかかる求償権は、発生はしたものの、
和解の中で、行使を実質的に制限しており、また和解成立後実際に4年以上にわ
たってかかる求償権の行使を行っていないことから、かかる求償権は相続開始時
点ではすでに放棄されたものであり、相続財産を構成しないとして主張に対立が
あるものであって、判断では課税庁の主張が認められているものである。連帯保
証の履行により求償権が発生したことは和解等においても確認されており、かか
る権利が放棄されているものと判断される状況にあるのか否かという点が基本的
な争点となっている。従って当該求償権がいかなる状態にあったのかという点が
課題であり、いわば事実認定の問題であるが、本件のような連帯保証に伴う求償
権の発生取得、そして権利の放棄のような状況は、被相続人の判断による権利で
あり、明示的な書類等の存在もなく、相続人が必ずしも明確に把握しているよう
な状況ではない場合も想定される。さらには、相続開始段階での混乱等も鑑みれ
ば、権利の消滅などに関する情報は混乱要因として想定されうるものであり(特
に本件のよう被相続人と相続人の関係における求償権であるような場合では)、
相続開始時点においていかなる権利が存在していたのかという点を検討する際に
は、本件のような求償権の放棄という特殊な権利関係であるともとらえられると
ころではあるかもしれないが、引用されている求償権が放棄されているものとし
て判断された事例を含め事実認定の参考として本件は捉えられるのではないだろ
うか。
「本件被相続人は、本件和解の成立時及びその直後の 段階では、本件求償権を
放棄する意思はなく、本件被相続人が黙示で あれ本件求償権を放棄したことは
なかったと認められる。」
「確かに、上記(1)のホのとおり、本件被相続人は、本件和解日か ら本件相
続の開始までの約4年7か月の間、■■■■■に対して本件 求償権を行使していない
が、長期間にわたって権利を行使しないこと が直ちに権利の放棄を意味するも
のではないから、このことをもって、直ちに本件求償権についての黙示的な放棄
の意思表示があったということはできない。」
「権利の放棄の意 思表示といえるためには、単に権利を行使しないだけではな
く、権利 を積極的に消滅させる意思が黙示であっても意思表示と評価できる程
度に認められるような事実関係が必要であるところ、上記イ並びに上 記(イ)
及び(ロ)で検討したとおり、本件被相続人については本件 求償権を放棄する
黙示の意思表示は認められない。」
以上のように本件では、和解により実質的に求償権の放棄、債務免除が行われて
おり、相続開始時点において、当該権利が存在しているのか否かという点が中心
的な争点となっている。上記では、事実認定の結果として、請求人の主張を否定
し、実質的に求償権を放棄しているかのような状況に対しては、認めがたいとの
認定を行っている点は着目されるべきであろう。相続人には税理士が含まれてお
り、求償権の放棄は一方で経済的負担を伴う債務の免除であり、贈与税等の対象
となりうることが懸念され、かかる点から、求償権の放棄を明文では明らかとは
していないものの、権利の放棄の意思は存在しているというような状況(長期間
の未行使等)から実質的に求償権の放棄による相続財産としての該当性を否定す
ることを意図したものと評価されている。
本件の判断は、和解条件や、その後における明確な意思表示の存在があったのか
否か、明示的な状況を作出していないとして放棄を認めていない。忠実に和解の
文言等に従っているものであり、客観的な放棄の状況を求めていることは基本的
な視点として留意されるべきであろう。特に請求人には租税の専門家としての税
理士等が含まれており、放棄による贈与税の申告がなされていないことなども考
慮要因としている点は特殊事情であると考えられる。引用裁決によれば、長期間
の権利の未行使も実質的に求償権の放棄に該当する場合もありうることを示して
いるが、本件では係る点に関しては家族内の求償権であるなど等を考慮して、長
期間の未行使による実質的な求償権の放棄を否定している点は、本件の特徴であ
ると考えられる。
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