さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月
27日裁決で、住宅借入金等特別控除の適用対象となる「取得」の意義及び信義
則の適用が課題となった事例です。
具体的には、本件は、個人である請求人が配偶者と共有していた家屋を、配偶者
が負担する住宅ローン付きで当該持分を贈与により取得した場合において、かか
る負担付贈与に関する部分も含め自身の所得税の確定申告において住宅借入金等
特別控除の適用を行ったうえで申告したところ、かかる負担付贈与に関する取得
は、配偶者等からの取得であり、租税特別措置法に規定する取得には該当しない
として特別控除の適用を否定した事例である。租税特別措置における特別控除の
適用要件としての取得がいかなる意義を有するものであるのかという点が課題と
なっているものであり、法文において明確にその取得の対象を規制している点で
もあるが、かかる取得への本件の負担付贈与による取得が該当するものであるの
か否かという点、また、この特別控除の適用に当たり、請求人は負担付贈与の実
行前に税務署に対して電話による相談及び窓口での相談を行っていることで、そ
の回答によって対象となる旨説明されていたが、かかる点が覆されたこと(実際
に統括官が請求人に対して謝罪に訪れている)において、課税処分に対して信義
則の適用により請求人自信を保護すべきものであるのか否かという点が中心的な
争点となっているものである。
住宅借入金等特別控除の適用は、所得税の確定申告において重要な位置づけを占
める租税特別措置であることに異論は少ないものと考えられ、実務上もその適用
に関しては関心が高いものと想定されるが、制度名称にあるように家屋の取得を
要件としながらも、実際にはその取得の対象を法が明確に制限していることはあ
まり留意されていないものであるのかもしれない。配偶者等からの取得を明確に
制限している点は、実務上は当たり前のことであるのかもしれないが、取得該当
性は課題となることは留意されるべきものであろうことは、本件の示唆となるの
ではないだろうか。家屋の取得は多様なものが想定され(消費税でも問題となる
が)、一般にいうところの取得よりは租税特別措置としてその適用要件は限定的
に解される。法文上明記されているものでもあるので解釈というよりは制度趣旨
との整合性に対する理解の問題であるのかもしれないが、実務上も参考となるよ
うにとらえられる。
また本件では、信義則の適用が問題ともなっているが、従前の最判が示した要件
への形式的な適用にとどまっており(裁決である以上いたしかたないのかもしれ
ないが)、近年の課税庁と納税者のやり取りが増加している中で、課税庁の行為
と納税者の信頼の保護の対応をどのように考えるのかという点を検討する上で参
考となるものと考えられる。
住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除)
第四十一条 個人が、国内において、住宅の用に供する家屋で政令で定めるもの
(以下この項から第二十一項までにおいて「居住用家屋」という。)の新築若し
くは居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは建築後使用されたこ
とのある家屋(耐震基準(地震に対する安全性に係る規定又は基準として政令で
定めるものをいう。第二十五項において同じ。)又は経過年数基準(家屋の構造
に応じた建築後の経過年数の基準として政令で定めるものをいう。同項において
同じ。)に適合するものに限る。)で政令で定めるもの(以下この項から第二十
一項まで及び第二十五項において「既存住宅」という。)の取得(配偶者その他
その者と特別の関係がある者からの取得で政令で定めるもの及び贈与によるもの
を除く。以下この項、第十項及び第二十五項において同じ。)又はその者の居住
の用に供する家屋で政令で定めるものの増改築等(以下この項、第三項、第五項、
第六項、第九項、第十一項、第二十一項及び次条において「住宅の取得等」とい
う。)をして、これらの家屋(当該増改築等をした家屋については、当該増改築
等に係る部分。以下この項、第六項及び第九項において同じ。)を平成十一年一
月一日から平成三十三年十二月三十一日までの間にその者の居住の用に供した場
合(これらの家屋をその新築の日若しくはその取得の日又はその増改築等の日か
ら六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)において、その者が当該
住宅の取得等に係る次に掲げる借入金又は債務(利息に対応するものを除く。次
項から第十項まで、第十四項、第二十四項及び次条において「住宅借入金等」と
いう。)の金額を有するときは、当該居住の用に供した日の属する年(第三項及
び第四項並びに次条において「居住年」という。)以後十年間(同日(以下この
項及び第四項において「居住日」という。)の属する年が平成十一年若しくは平
成十二年である場合又は居住日が平成十三年一月一日から同年六月三十日までの
期間(同項及び次条第三項第一号において「平成十三年前期」という。)内の日
である場合には、十五年間)の各年(当該居住日以後その年の十二月三十一日
(その者が死亡した日の属する年にあつては、同日。次項、第六項、第十項及び
次条第一項において同じ。)まで引き続きその居住の用に供している年に限る。
第四項において「適用年」という。)のうち、その者のその年分の所得税に係る
その年の所得税法第二条第一項第三十号の合計所得金額が三千万円以下である年
については、その年分の所得税の額から、住宅借入金等特別税額控除額を控除す
る。
租税特別措置法施行令第26条
3 法第四十一条第一項に規定する政令で定める取得は、同項に規定する既存住
宅若しくは同条第二十五項に規定する要耐震改修住宅又は同条第一項に規定する
住宅の取得等とともにする当該住宅の取得等に係る家屋の敷地の用に供される土
地若しくは当該土地の上に存する権利(以下この条において「土地等」という。)
の取得で次に掲げる者(その取得の時において個人と生計を一にしており、その
取得後も引き続き当該個人と生計を一にする者に限る。)からの取得とする。
一 当該個人の親族
二 当該個人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
三 前二号に掲げる者以外の者で当該個人から受ける金銭その他の資産によつて
生計を維持しているもの
四 前三号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
以上のように、本件の争点の一つは住宅借入金等特別控除の適用対象となる取得
の意義において本件のような配偶者からの負担付贈与を対象に含むものと解され
るものであるのか否かという点が課題となる。本件では配偶者からの贈与であり、
上記の租税特別措置法施行令における制約においてこれを適用対象外とすること
は困難であるとの判断が示されている。請求人は上記施行令の規定は、一定の利
益を企図したものとして本件における適用を否定する主張を行っているが、租税
法規の基本的な要請で租税法律主義に照らせば、租税特別措置であれど、ベネフ
ィットを提供するものとして厳格に解釈されるべきものとは言えないかもしれな
いが(軽減規定であり厳格に解釈すべきとの意見もあろうが)法文の文言を趣旨
に照らして縮小的に解釈することは困難であると認識されるべきものととらえた
ものといえよう。上記租税特別措置法の規定によれば、配偶者による上記規定に
よるもの以外であっても贈与である場合は取得から除外する旨が明確であるが
(本件規定はその意義において、一般の取得という用語ん意義を修正するものと
して創設的規定ととらえるべきだろう)、本件の事実関係から離れて、負担付贈
与がこの贈与に含まれるものであるのかという点が課題となるだろう。私見とし
ては負担付贈与であっても贈与として住宅借入金等特別控除の政策目的との関連
において整合性が取れているものではないと考えられる。
また、本件における中心的なもう一つの争点として、かかる負担付贈与の取得に
つき、控除がない旨の判断につき、請求人に対して電話・窓口等において相談を
課税庁に対して複数回行っており、適用対象である旨誤って回答を得ており、請
求人の事実関係の主張においては統括官による謝罪もあった旨が記載されている
(この点は判断において考慮要素であったものではないのか、事実の認定におい
ては特段言及されていないが、)ような状況下において納税者の行為につき信義
則の適用があり、その信頼の保護を図るべきではないのかという点が課題となっ
ている。判断では、下記のように租税法規における信義則の適用を判断したリー
ディングケースである最判を引用し、本件のような事実関係においてもその適用
を消極的に解している。納税者が自らの行動によって、かかる処理を最終的に申
告納税として行っているものであるが、納税者の租税に関する知見を鑑みれば、
課税庁において複数回同様の見解を受けたことをたとえ相談とはいえど、納税者
の保護、権利救済の観点からはいささか酷な判断ではないかとの意見もありえよ
う。
「租税法規に適合する処分について、法の一般原理である信義則の法理の 適用
により、当該処分を違法なものとして取り消すことができる場合があ るとして
も、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫か れるべき租税
法律関係においては、同法理の適用については慎重でなけれ ばならず、租税法
規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠 牲にしてもなお当該処
分を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義 に反するといえるような特
別の事情が存在する場合に、初めて同法理の適 用の是非を考えるべきものであ
る。そして、上記特別の事情が存するかど うかの判断に当たっては、少なくと
も、①税務官庁が納税者に対し信頼の 対象となる公的見解を表示したことにより、
②納税者がその表示を信頼し その信頼に基づいて行動したところ、③後に当該表
示に反する処分が行わ れ、④そのために納税者が経済的不利益を受けることにな
ったものである かどうか、また、⑤納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信
頼に基づ いて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどう
かと いう点の考慮は不可欠なものであるというべきである(最高裁昭和62年
10月30日第三小法廷判決・集民152号93頁参照)。」
一般に租税法規においては租税法律主義の基本的な要請、さらには納税者間の公
平を鑑み、きわめて上記のように要件を満たすことを要請しきわめて厳格に解釈
してきた。上記にお行ける判決から判断はさらに下記のように、公の見解を下記
のように、税務署長その他の責任ある立場にあることを要求しているものとして
理解して、形式的に本件のような相談はかかる対象が出したものではないからと
して、信義則の適用を否認している。
「また、納税者はもともと自己の責任と判断の下で行動すべきものである こと
からすれば、信頼の対象となる公的見解の表示(上記①)といえるた めには、少
なくとも税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解 であることが必
要であると解すべきである。」
事実関係の問題とも評価しうるものであるのかもしれないが、上記のように形式
的に公の見解を捉えることは、信義則における納税者の信頼を保護すること言う
基本的な目的との間で果たして適格なものであると評価しうるものであるのだろ
うか。上記のように税務署長等の立場にあることを理由とするならば、課税処分
において信義則の適用が行われることは極めて困難であるように考えられる。上
記最判は信頼にたるということ、そしてその見解において納税者の行動につなが
っていることに帰責性がないことを要求しているものであり、信頼に対して機械
的に責任ある立場にあることを要求しているものと理解することが最判の理解と
して妥当であるのであろうか、かかる点はさらに検討が必要なものともいえよう。
もちろん相談は課税庁において法定された制度ではなく、単なるサービスであり、
限られた情報等からその相談への回答は制約があるものと理解されるべきもので
あると認識されるが、一律に相談をもって公の見解として信義則の適用対象とし
てとらえることは法的な安定にかけるものともいえ、納税者間の公平性を損なう
ものとも評価されようが、たとえ申告納税制度を前提とするものといえど、複数
回にわたって相談への回答が行われたことは脳泳者の行動において信頼あるもの
として指針として機能しているものと評価することは一定の賛意を得らえるもの
ではないだろうか。
以上です。毎度のごとく、備忘録として作成しているものであり完成度は低いで
すが参考までに。
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