2019年7月24日水曜日

判例裁決紹介(平成30年1月23日裁決、従業員が行った架空取引と重加算税)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年1月23日裁決で、従業員が行った架空取引に関する重加算税の賦課決定処分に対して、理由の提示、法人の行為であるとして重加算税の対象となるべきものであるのか否かという点が課題となっている事例です。

具体的には、本件は法人たる請求の従業員が架空の取引を行い外注費を計上して横領等を行っていた事を調査により指摘され、修正申告を行った事実関係において、かかる架空取引(仮装取引)が仮装または隠蔽を伴うものであるとして重加算税の賦課決定処分を受けたことを不服としているものであり、理由の提示が不備であったこと及び、法人の行為として同視できるものであるのかという点が争点となっている事例である。青色申告の理由附記をはじめ、処分理由の提示、開示は、近年の行政手続における充実強化として制度化されたものであり、その対象は拡張され、事実上、課税処分においては理由は網羅的に開示されることになりつつある。このような状況下において、従業員が行った架空の取引(外注費)であり、いわば被害者でもある法人が課税処分において、罰則的な重加算税のペナルティを付与されることが一般的な納税者の感覚において、納得の行くものではないのであろうが(この点が本件の起点となっているなのであろう)、本件において納税者によって主張された手続法部分としての不備として、理由の提示に関しては、そもそもこの理由の提示がどのような程度の提示を行うべきであるのか、他の制度(青色申告等)の理由附記と対比してどのような状態であるべきであるのかという点は必ずしも明確ではないものと考えられるところではあるが、実際の主張としてはかかる架空取引の当事者、実施者であった従業員の肩書に対するミスがあったことにとどまるものであり、現行法の解釈として課税処分の実施における手続面の瑕疵、不備に対して重要視しない現況下においては(すなわち、刑法に抵触する等の重大な瑕疵の存在がなければ)処分の取消事由にはならないとする点からも非常に軽微なものであり、かかる点からの処分の取消は困難であったものであろう。また、本件では、従業員の行為と法人の行為を同旨することが可能であるのかという点が争われているものであるが、架空取引という特殊な事実関係ではあるものの重加算税の対象となる行為の範囲をいかなる者が行っているのかという点において、基本的に従前と同様に対象範囲を従業員においても法人の行為と同視できるか否かという点で拡張的に判断しており(重加算税における納税者の意義をを拡張的に解している)、いかなる点をもって同視すべきであるのかという点を認定する上で参考となる事例ではないだろうか。


(重加算税)国税通則法
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

「通則法第68条第1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課すこととしている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。このような趣旨からすると、納税者が法人である場合には、隠ぺい又は仮装が法人の使用人によってなされたものであっても、その者の行為を納税者の行為と同視することができれば、その者が代表者ではなく、また代表者がその者の行為を知らなくとも、重加算税の対象となると解される。」

以上のように、本件では、重加算税の対象となる架空取引を行った者が従業員であり、法人の代表者等ではないのにもかかわらず、法人の行為と同視されることになるのか、いかなるいかなる点に着目して、判断されることになるのかという点が課題ではないだろうか。通常役員とは異なり、法人を代表して、取引をするものではなく、従業員(使用人)が行った行為が法人に帰属することになることが被害者でもある法人の行為となる点は、留意点であるように考えられる。私見としては納税者の意義を実質的に拡張することは重加算税の意図からは合理的なものであろう。

本件では権限の有無等、多角的な観点から認定が行われているが、その中でも、架空取引による金銭が如何に費消されているのか、あるいはどのような費消の意図を有しているのかという点を問題視(会社のために費消されているのか個人のために費消されているのかという点)せず、課税事実関係の隠蔽等が行われているのかという点が注意される。費消等の意図は主観的なものであり、あくまでも仮装等の行為が納税者の行為として認識されるべきものであるのかという点が問題視されているものと考えられる。但し、法人が従業員等の行為に対して必要な注意を払っていたのかという点も考慮要因とされているものであるが、なぜ、このような注意の欠缺が法人の行為としての同視される要因となるべきであるのかという点は必ずしも定かではないのではないかと言う疑問も覚える。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

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