さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年9月12日裁決で、裁判上の和解により得た解決金が課税対象を構成するのか否かという点が争点となったものです。
具体的には、本件は請求人が受領した裁判上の和解に伴う解決金が、法人税法上、益金に該当し、もって課税対象となるのか否かという点が中心的な争点となっている事例である。本件では、請求人がTOBを行い、取得した株式に関して、当該株式の発行会社、TOB対象会社の代表取締役が関与した不適切な会計処理を行っていたこと(情報開示の不備)がTOB実施後判明し、かかるような状況に起因して発生した株式の過大額の賠償を行うことを求めた訴訟に関して成立した和解による解決金の益金を構成するものであるのか、あるいは、過大取得した株式の取得価額の調整(返金)であるのか否かという点において対立が存在する。最終的に判断では、課税庁の主張を認め、損害に対する賠償であり益金として(そもそも損害賠償金の受領が課税対象であるとの処理も違和感を覚える見解もあろうが)、課税対象としている。本件の起点となる訴訟上の和解においては、裁判官の関与の下、和解内容を決定されており、かかる内容の文言の解釈が、特に、
「株式の取得価額が過大であったことを理由とするものである」と課税上への配慮を行い、和解による解決金が課税対象ではないものとして処理を意図した内容を盛り込んでいるものであり、かかる内容を如何に判断して、内容を検討すべきであるのかという点が本件の起点となっている。
本件ではかかる判断においては、事実関係に左右されるものであり、事実関係に依拠するものであるのかもしれないが、上記のように第三者である裁判所が関与した契約の文言に縛られることなく、当該金員の性格を如何なる方法において判断するのかという点につき、課税庁の考え方が反映されており、かかる点は、和解という特殊な事実関係、あるいはTOB伴う不実記載、情報開示の不備等の事実関係が本件では問題となっているが、受領した金員の性格を判断する上で参考となるべきものと捉えられる。
「本件解決金は本件和解の成立により請求人に支払われたことから、本件解決金の性質の検討に当たっては、まず本件和解調書に記載された条項の文言解釈が中心となることはもちろんであるが、一般法律の解釈と同様、文言とともにその解釈に資するべき他の事情、特に裁判上の和解であるからこそ、本件訴訟の経過等をも十分に参酌して、当事者の真意を探求してなされるべきである。」
以上のように、本件の中心的な争点は、本件事実関係に基づく、解決金が如何なる性格が付与されるべきであり、益金を構成するものであるのかという点が課題となっている。判断では上記のように、課税庁の主張を認め、和解調書に記載された内容を基礎としつつも、訴訟の経緯等の他の要素も考慮すべきとして上記結論を導いている。対して、請求人は、下記のように、
「裁判上の和解の解釈に当たって、一般的な和解契約と同様に、和解条項の文言だけではなくて、訴訟の経過その他の解釈に資する事情を勘案する余地はある。ただし、裁判上の和解は、裁判官の関与の下に成立するものであることから、その内容は、原則として、和解条項の文言に即して判断すべきであり、特に裁判上の和解の成立に訴訟代理人である弁護士が関与している場合には、和解条項の文言から離れて、裁判上の和解の成立に至った経過や一方当事者及びその代理人の認識を考慮すべきではない。」
租税法規を基礎とする者としては、請求人の主張するように法規と同様に厳格な解釈を行うことは親和的なものであるが、裁判官の関与があるものといえど(第三者として)、その事実関係においては、表面的な文言のみならず、経緯等の考慮もまた必要性を公平性を担保すべき課税においては否定するものではないものと捉えていることと理解される。但し、当事者の真意とはなにか、あるいは、裁判上の和解であるからでこそという判断の解釈は、必ずしも一義的ではなく、その判断において、安定性が欠けることは否めない。第三者が関与がある内容において、納税者の主張が排斥され、課税庁の主張が認められる事例としては比較的珍しい事例と評価されるものではないだろうか。
また、本件では、下記のように、表明保証違反による損害賠償負担をその内容としている。かかる点では、
[M氏は、請求人に対して、本件契約の締結日及び公開買付けに係る決済がされる日現在において、M氏が請求人に開示したJ社及びその子会社の直近事業年度の計算書類及び連結計算書類は、それぞれ作成された時点において、一般に公正妥当と認められる会計原則に従って作成されており、記載された基準日現在又は対象となる期間におけるJ社及びその子会社の財務状況を正確に表示していることについて、真実かつ正確であることを表明し、保証する]
という形でTOB前に契約に定められており、請求人の主張においては、下記のように、
「表明保証違反による補償請求は、表明保証違反という契約不適合が生じた場合に、対価の均衡を維持するために、売主の故意又は過失を問わずに金銭の支払を行うものであり、代金の減額調整を図るものであるところ、もともと日本法にない概念であるために、原処分庁が単純な損害賠償請求権であると誤解する可能性もあった。」
補償請求においては、対価の計算上、故意または過失を問わず支払いが行われるものとして金額の調整を企図しているとしている。かかる点に関しては、判断では特に触れられていないが、かかるような賠償請求による受領は、通常の損害賠償と同様のものとして取り扱うべきものであるのか、益金の意義との関係で差異が生じないものであるのか、より検討すべきものであるように考えられる。
以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。
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