2019年5月7日火曜日

判例裁決紹介(平成30年6月19日裁決、減価償却資産のタイミング、グルーピング)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年6月19日裁決で、太陽光発電に関する設備(発電設備及びフェンス等)に関する減価償却費の計上が認められるのか否かが争われた事例です。

具体的には、本件は、太陽光発電を営む法人が請求人となり、当該者がなした確定申告において、発電設備及びフェンス等の資産に対して減価償却資産にかかる償却費(特定生産性向上設備等に関する特別償却)の計上が、当該資産は未だ事業の用に供されていないとしてその計上を否認された事例である。より具体的には減価償却資産として法人税法が定める要件に合致しているのかという点に対して、事業の用に供するという判断基準において請求人の主張したタイミング(資産の引渡時期、売電契約の申込時)においてはそのタイミングでの減価償却資産としての該当性が否認されていることを不服としている。更に付随的な論点として(事実認定の問題でもあろうが)、請求人の主たる事業の太陽光発電において実際に売電等を行う発電設備ではない、フェンス等の外部との遮断を行う設備が発電設備と一体として捉えられ、同一時期に事業の用に供されていたのか否かという減価償却資産としての範囲(グルーピング)が争点となっている。

このように設備の状況において、意見の対立が存するものであるが、最終的には、前者について課税庁の主張を認め、実際に設備は完成し、引渡しを受けていようとも売電を行うための系統連系の工事は未完成であり、現物資産として存在していても事業の用に供されていないとしての判断を是認しており、対して後者において、課税庁が主張するフェンス等の附帯的設備との一体性を否定して、個々の資産として如何なるタイミングで事業の用に供されたものであるのかという点を判断している。減価償却資産として如何なるタイミングで該当することになるのかという点は、すなわち事業への供用を度のタイミングをもって判断すべきかという点は、古くて新しい論点であり、また、減価償却資産の対象は多岐に渡ることからも(従来でもきぐるみや映画フィルムなどが問題になってきているが、足場など近年は新しい商品が出てきているようでもあるが、この点は、租税回避との関連において事業への供用の視点が検討されるように捉えられる)、本件のように最終的に事業としての活用は否定され難いものの、一律の判断基準の策定は困難であることは否めないものの、本件は比較的新しい太陽光発電という分野においてその判断を示したものとしても参考となるように考えられる。なお、系統連係の工事が未了である段階で事業への供用を認めない判断は、他の判断でも同様であり、その中でも主張されていたが、雑誌記事での、契約申し込み段階での減価償却計上を認めるとの記載が起点ともなっている。

しかしながら、太陽光発電という存在は、本件のように租税負担を争う最近事例が増加しているような印象。ただ単に読む機会が多いのかもしれないが、従来法において想定されていた発電事業とは異なり、本件でも請求人が主張しているが、賃貸用不動産との対比、同類としての性格を帯びてきているのかもしれない。本件判断では最終的に発電目的であるということが一つの判断要因として機能しており、請求人と課税庁との間で事業への認識に相違があることが問題の起点になっているのではないだろうか。このように捉えるならば本件の対象は太陽光発電事業にかかる資産であり、些か特殊な事例とも評価されうるものであるが、このように社会における事業の意義、構造や担い手等の変化による判断枠組みへの影響や法の整備という点を検討する上でも本件は参考となる事例とも捉えられるのではないか。

法人税法2条
二十三 減価償却資産 建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。
法人税法施行令
(減価償却資産の範囲)
第十三条 法第二条第二十三号(減価償却資産の意義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。

以上のように、本件の中心的な争点は、事業に用いたとした資産が如何なるタイミングをもって減価償却資産として認定されるのか、何をもって事業のように供したと判断するのかという点が争点となっている。法人税法は、減価償却資産に対して、法において要件を整備している。この取扱は、減価償却費の計上においては、一般に外部者との資金のやり取りが行われるものではない内部取引であり(また相対的に高額な支出なる点も鑑みて)、かかる損金の計上においては一般の経費支出とは異なる制約をおいているものと考えられる。その代表的な要件が事業の用に供しているとの文言であり、単に引渡しをもってその計上を行うものではなく、減価償却の基本的な性格として、収益との対応を図るべく、厳格に事業への利用や供用、設備の稼働をもって損金計上を認めるものであると考えられる。監査が行われるような法人においてこのような問題は想定しがたいものであるのかもしれないが、損金の計上においては恣意的な計上を回避する意図が込められているものと考えられる。本件ではこの事業のように供しているとはいかなるものとして解されるのかという点が問題の起点となる。

この点に対して本件判断は、
「減価償却資産(法人税法第2条第23号、法人税法施行令第13条)とは、事業の経営に継続的に利用する目的をもって取得される固定資産で、その用途に従って利用され、時の経過によって価値が減少するものをいい、その取得に要した価額(取得価額)は、将来の収益に対する費用の前払の性格を有し、資産の価値の減少に応じて減価償却費として徐々に費用として計上されるものである。・・・当該資産を事業の用に供したと認められるか否かは、業種、業態、その資産の構成及び使用の状況を総合的に勘案し、その資産をその属性に従って本来の目的のために使用を開始したといえるか否かによって判定するのが
相当である。」

として従来と整合的であるが、この本来の目的とはなにか、そもそも事業とはどのようなものを指すのか課題となろう。上記のように請求人と課税庁はこの事業目的において、不動産への投資(賃貸用不動産)としての類似認識と発電・売電を目的としているという点において相違しており、スタートとして両者の相違は埋めがたいものであるのであろう。
かかる点は、下記のように本件判断でも、国税庁がHPに置いて例示する賃貸用不動産に対する緩和的な判断や、下記のような判示が主張され、更には、稼働休止資産に対する通達のいつでも稼働しうる状況にあるようなものとの文言との対比、類推から請求人が主張する契約の申込みや引渡し時点での実際の稼働から緩和的な段階での該当性の判断を肯定する主張を否定している。
「広島高裁昭和63年5月30日判決を引用し、本件発電システム本体は、本件引渡日において、事業の用に供する意図が近い将来において実現されることが客観的に明白であったといえるから、同日において事業の用に供していたと認められる旨を主張する。しかしながら、上記判決は、譲渡所得の金額の算定に当たり、対象譲渡資産が、租税特別措置法第38条の6第1項に規定する「事業の用に供しているもの」に該当するか、すなわち事業用資産であると認められるかについてその法令解釈を示したものであり、法人税法第2条第23号及び法人税法施行令第13条が規定する減価償却資産に該当するための事業供用要件に係る法令解釈を示したものではない。」

(稼働休止資産)

7-1-3 稼働を休止している資産であっても、その休止期間中必要な維持補修が行われており、いつでも稼働し得る状態にあるものについては、減価償却資産に該当するものとする。(昭55年直法2-8「十九」により改正)
私見としても、上記のように法人税法が特別の規定をおいて、減価償却資産による損金の計上に関して収益との対応を鑑みながらも一定の制約をおいている趣旨から考えるに、客観性や恣意性を排除が明確に担保されるものと判断して上記の用に肯定的に緩和的な措置を取ることは困難であるものと考えられる(ここの事例において、緩和的な措置が認められた状況はより検討されるべきであろうが)。

また、本件では特に資産のグルーピング、発電設備とフェンス等において一体として捉えるのか否かという点においても関わるものであろうが、事業の用に供するとした上で、この事業とはとのような意義を持つものであるのかという点は、法人税法、租税法規においても多様な意義を有するものであり、必ずしも明確なものではない。本件では、主たる目的として、そもそもの設備の意図、目的に関してどのように認定区分するのかという点は詳細に検討されているものではないように捉えられるが(発電目的、フェンスは、設備保護のように)、これは本件は太陽光発電事業という単一目的の事業内容を行うことを企図していることによるものであり(特に主たるという点に関しては、判断がなされていない)、不動産投資、賃貸借との類似を主張しつつも最終的に売電・発電であることに相違はないことになるが、一般論としては、主たる目的という点は、事業者の内心によることや多様な設備の存在等を前提とするならば、より具体的な基準が必要となるものと想定される。

「本件発電システム本体は、系統連系のための工事が完了しなければ、物理的に発電した電力を本件送配電事業者の電力系統に供給することができず、本件電気事業者への売電による収益を上げることができない状態であったと認められ」
「本件発電システム本体と本件フェンス等は、物理的にも機能的にも一体とはいえないから、別個の減価償却資産であると認められる。」

この点に関して、上記のように判断では、(PHS設備に関する最判によるものであろうが)物理的・機能的(この機能の判断も主観的な要因が介在するのではないかと考えるが、実務的には、減価償却資産の機能をどのように判断しているのだろう)という側面から判断を行っている。この判断は、資産をどのように一体として判断するのか(設備とフェンスと一体として捉える課税庁の判断を退けたものであるが、フェンス等に関してはその機能として法によって設置が求められ、設備の保護が目的であることが客観的に明らかであることも影響していよう)、という争点において、事業の用に供している点を、あるいは主たる目的をより詳細に2つの観点から認定判断することを求めているものと考えられる。また、前者の争点に対する判断では、目的として最終的には資産の稼働、収益獲得への貢献を強調されている(収益との対応を求める減価償却の基本的な性格からと考えられるが)。

以上のように、事業の意義においては、減価償却資産としての判定においても、複合的な意義を有するものと理解され、多角的な側面からの判断が必要とされる。本件は、事案としてはシンプルなものであるが、このように、減価償却資産としての意義を巡る複合的な争点を検討する上では参考となる事例であると考えられるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものであり、完成度は低いですが参考までに。

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