2019年5月25日土曜日

判例裁決紹介(平成30年1月16日裁決、納税者への事前通知の未了と過少申告加算税の賦課における調査)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年1月16日裁決で、質問検査権の行使にあたって、行うべき事前通知が税務代理人にのみ行われておらず、納税者本人には行われていなかったことにより、過少申告加算税の賦課において前提となるべき調査が行われていないとして、当該処分の取消を求めた事例です。

具体的に本件は、請求人がなした消費税の確定申告に対して調査(実地の調査)があり、その指摘により修正申告を行った請求人に対して課税庁が過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことにつき、係る調査において、前提となるべき事前通知が、税務代理人にのみ行われており、請求人自身に対しては全く行われていないことから、処分の前提となるべき、調査が行われていないとして、処分の取消を求めた事例である。事前通知は平成23年の国税通則法の改正によって従来の慣例的な処理から法定化された手続きであり、その通知の実際において、不備が存在する(現実には、事前通知の拒否や日程調整に応じないなど多様な不備が発生しているものであろうが、本件ではこの不備、違法性に関しては、課税庁も認めており、この点に関しては珍しく争いは存在していない。)ことは特に、課税処分の効果につき、取消事由となるべきものであるのかという点において課題とされているものである。従前、調査手続の不備に関しては、重大な違法性を要求し、もって刑事罰に該当するような状況に限定した判断が中心となってきたが、上記通則法の大改正以後もその適用において同様の状況にあるのかという点が課題となっているものであろう。現時点では裁決レベルではその不備に関しては軽微なもの、本件のように実際に調査が実施(日程調整等が行われ)されているように治癒されているような状況下においては、同様の判断、すなわち取消事由になりえないものとして判断されている傾向にあるように捉えられる。本件は、直接的には、上記とは異なり、過少申告加算税の賦課決定において、更正処分等の前提となるべき調査の実施において、現行法の解釈があらそれたものであるが、調査段階において、このような事前通知の不備のような手続の違法性があった場合に、附帯税の賦課における前提となるべき調査の実施が充足しているのか否かという点で、調査の意義及び調査に軽微な不備は附帯税の賦課を排除しないのかという点が課題となった事例である。

(過少申告加算税)
第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の五の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

上記のように、本件は下記のように通則法74条の9において定められている事前通知において、その不備、特に請求人自身に対する通知の未実施(法文としては通知するものとするとしており、かかる不備が違法であることは否定し難いものと考えられるが)が、問題視されているものである。上記改正においては、手続法の大幅見直しがあり、定められた手続は多様であり、一律にその不備等の影響を捉えることは、かえって調査制度の実効性を損なう可能性もあり得ようし、丹念に趣旨目的と不備違法の程度の対比が必要とされるべきものと考えられるが、説明責任を果たすような趣旨目的であれば(そもそもこの説明責任という概念自身が多様であり、代理人等への通知で充分であるようにも評価しうる場合もあるのではないだろうか)、本件のような請求人自身に対する通知が未実施であったとしても軽微なものとして評価し、調査の意義を損なう、あるいは附帯税の要件の充足を妨げるものとしては評価しないという判断を課税庁が行っている点は、事前通知の意義を考える上で今後の参考となるべき事例であるように考えられる。

このような判断は、現実的には税務代理人への通知が実施され日程調整や実際の質問検査権の行使が行われたことを背景として、軽微なものと評価しているものと認識されるが、下記のように法文において、現行法は、一定の納税者の同意等の条件を必要とするものの通知が税務代理人に対してのみ行えば足りるものとしている点も考慮されているのであろう。実際の修正申告を実施する際にも、調査における指摘を基礎として行っており、納税者の主張のように前提となるべき調査が実施されていないものと評価することは困難であろう。特に、下記のように通則法における調査の意義を非常に包括的に捉え(この点は従前、改正前と変わらず)、質問検査権の行使、実地の調査と区分しているような現況において、実地の調査における軽微な不備のみをもって課税処分の変更を行うことは困難であるとの考えられたものといえよう。かかるように、納税者と課税庁における調査の意義の相違(ギャップ)、納税者が調査を通知に始まる実地の調査に限定した認識をもつことは避けようがないものであろうが、多くの場合においてこの相違が問題の背景にあることは認識されるべきであろう。

但し、本件のように附帯税の賦課決定における要件の充足と、更正処分の取消事由になるのかという点は同一に、調査手続きの不備に関して同様の判断を行うべきものであるのかという点は、特に検討がなされていない。附帯税の賦課が排除される正当な理由として該当するのか否か、あるいは立法的な明確化、救済が図られるべきであるのかもしれないが、附帯税が課税処分の公平性を基礎としており、実質的にはいわばサンクションを付与する形式になるものであり、本税の更正処分の取消事由としての該当性と同様に手続上の不備を評価することが妥当であるのかという点は検討がなされても良いのではないだろうか。

「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む包括的な概念であると解すべきである。」


(納税義務者に対する調査の事前通知等)
第七十四条の九 税務署長等(国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長をいう。以下第七十四条の十一(調査の終了の際の手続)までにおいて同じ。)は、国税庁等又は税関の当該職員(以下同条までにおいて「当該職員」という。)に納税義務者に対し実地の調査(税関の当該職員が行う調査にあつては、消費税等の課税物件の保税地域からの引取り後に行うもの又は国際観光旅客税について行うものに限る。以下同条までにおいて同じ。)において第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求(以下「質問検査等」という。)を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者(当該納税義務者について税務代理人がある場合には、当該税務代理人を含む。)に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする
5 納税義務者について税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合として財務省令で定める場合に該当するときは、当該納税義務者への第一項の規定による通知は、当該税務代理人に対してすれば足りる

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年5月20日月曜日

判例裁決紹介(平成30年9月12日裁決、裁判上の和解による解決金の性格)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年9月12日裁決で、裁判上の和解により得た解決金が課税対象を構成するのか否かという点が争点となったものです。

具体的には、本件は請求人が受領した裁判上の和解に伴う解決金が、法人税法上、益金に該当し、もって課税対象となるのか否かという点が中心的な争点となっている事例である。本件では、請求人がTOBを行い、取得した株式に関して、当該株式の発行会社、TOB対象会社の代表取締役が関与した不適切な会計処理を行っていたこと(情報開示の不備)がTOB実施後判明し、かかるような状況に起因して発生した株式の過大額の賠償を行うことを求めた訴訟に関して成立した和解による解決金の益金を構成するものであるのか、あるいは、過大取得した株式の取得価額の調整(返金)であるのか否かという点において対立が存在する。最終的に判断では、課税庁の主張を認め、損害に対する賠償であり益金として(そもそも損害賠償金の受領が課税対象であるとの処理も違和感を覚える見解もあろうが)、課税対象としている。本件の起点となる訴訟上の和解においては、裁判官の関与の下、和解内容を決定されており、かかる内容の文言の解釈が、特に、 「株式の取得価額が過大であったことを理由とするものである」と課税上への配慮を行い、和解による解決金が課税対象ではないものとして処理を意図した内容を盛り込んでいるものであり、かかる内容を如何に判断して、内容を検討すべきであるのかという点が本件の起点となっている。

本件ではかかる判断においては、事実関係に左右されるものであり、事実関係に依拠するものであるのかもしれないが、上記のように第三者である裁判所が関与した契約の文言に縛られることなく、当該金員の性格を如何なる方法において判断するのかという点につき、課税庁の考え方が反映されており、かかる点は、和解という特殊な事実関係、あるいはTOB伴う不実記載、情報開示の不備等の事実関係が本件では問題となっているが、受領した金員の性格を判断する上で参考となるべきものと捉えられる。

「本件解決金は本件和解の成立により請求人に支払われたことから、本件解決金の性質の検討に当たっては、まず本件和解調書に記載された条項の文言解釈が中心となることはもちろんであるが、一般法律の解釈と同様、文言とともにその解釈に資するべき他の事情、特に裁判上の和解であるからこそ、本件訴訟の経過等をも十分に参酌して、当事者の真意を探求してなされるべきである。」

以上のように、本件の中心的な争点は、本件事実関係に基づく、解決金が如何なる性格が付与されるべきであり、益金を構成するものであるのかという点が課題となっている。判断では上記のように、課税庁の主張を認め、和解調書に記載された内容を基礎としつつも、訴訟の経緯等の他の要素も考慮すべきとして上記結論を導いている。対して、請求人は、下記のように、

「裁判上の和解の解釈に当たって、一般的な和解契約と同様に、和解条項の文言だけではなくて、訴訟の経過その他の解釈に資する事情を勘案する余地はある。ただし、裁判上の和解は、裁判官の関与の下に成立するものであることから、その内容は、原則として、和解条項の文言に即して判断すべきであり、特に裁判上の和解の成立に訴訟代理人である弁護士が関与している場合には、和解条項の文言から離れて、裁判上の和解の成立に至った経過や一方当事者及びその代理人の認識を考慮すべきではない。」

租税法規を基礎とする者としては、請求人の主張するように法規と同様に厳格な解釈を行うことは親和的なものであるが、裁判官の関与があるものといえど(第三者として)、その事実関係においては、表面的な文言のみならず、経緯等の考慮もまた必要性を公平性を担保すべき課税においては否定するものではないものと捉えていることと理解される。但し、当事者の真意とはなにか、あるいは、裁判上の和解であるからでこそという判断の解釈は、必ずしも一義的ではなく、その判断において、安定性が欠けることは否めない。第三者が関与がある内容において、納税者の主張が排斥され、課税庁の主張が認められる事例としては比較的珍しい事例と評価されるものではないだろうか。

また、本件では、下記のように、表明保証違反による損害賠償負担をその内容としている。かかる点では、

[M氏は、請求人に対して、本件契約の締結日及び公開買付けに係る決済がされる日現在において、M氏が請求人に開示したJ社及びその子会社の直近事業年度の計算書類及び連結計算書類は、それぞれ作成された時点において、一般に公正妥当と認められる会計原則に従って作成されており、記載された基準日現在又は対象となる期間におけるJ社及びその子会社の財務状況を正確に表示していることについて、真実かつ正確であることを表明し、保証する]

という形でTOB前に契約に定められており、請求人の主張においては、下記のように、
「表明保証違反による補償請求は、表明保証違反という契約不適合が生じた場合に、対価の均衡を維持するために、売主の故意又は過失を問わずに金銭の支払を行うものであり、代金の減額調整を図るものであるところ、もともと日本法にない概念であるために、原処分庁が単純な損害賠償請求権であると誤解する可能性もあった。」

補償請求においては、対価の計算上、故意または過失を問わず支払いが行われるものとして金額の調整を企図しているとしている。かかる点に関しては、判断では特に触れられていないが、かかるような賠償請求による受領は、通常の損害賠償と同様のものとして取り扱うべきものであるのか、益金の意義との関係で差異が生じないものであるのか、より検討すべきものであるように考えられる。

以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

2019年5月11日土曜日

判例裁決紹介(平成30年3月15日裁決、架空外注費の計上と重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月15日裁決で、外注費の計上が架空であり、重加算税の賦課決定処分が行われた事例です。

具体的には、除染等の事業を営む請求人(法人)が支払ったとした外注費につき、雇用者への支払い、給与を外注費に振替、また架空の計上を行っていたとして、かかる外注費の計上を否認し、法人税及び消費税の更正処分を行い、かかる仮想隠蔽の事実の存在から重加算税の賦課決定が行われたことにつき、一部外注費の実在性等を巡って不服を申し出た事例である。

外注費は、その契約形態、背景にある民事法の契約等の関係を下に、消費税の計算上等の理由から、よく租税法務における計算上、問題となるケースが多いものであり、特に給与支払いとの区分が問題になる事例が多いものである。この点は実務上は、よく検討される項目ではないだろうか。本件は外注費という支払いと直接的な給与等での支払いによる租税負担への影響を鑑みた、典型的なケースであり、雇用者への支払いを一部外注費に振替、外注契約書を作成し、外形的な状況を装うことで、その外注費の計上を図った事例であある。事例としては特段法令解釈として珍しいものではなく、事実関係としても外注費の計上を外形的に装った事例として、ティーチングケースとなるべき事例あるように捉えられる。特に仮想隠蔽の事実関係を立証すべく、詳細な契約等の事実関係の評価を行っており、如何なる点をもって外注費と給与の区分、契約の評価を行っているのか、架空計上を認定しているのかという点を検討する上では参考になる事例であるように評価される。

特に本件では、外注契約を作成しつつも雇用者として勤務する者への支払いを、分割する意図があり、このような比較的に稚拙な二重契約の存在は、近年は減少傾向にあるものと考えられるが(このようなわかりやすい行為は流石にお目にかかることは少ないだろう、この点は実務家に現状を聞いてみたいところ)、外注費の租税負担への影響を鑑みるに特に消費税の税率アップを控えている現況下においては、外注費に関してはより留意されるべきものがあるという点は改めて認識される必要があるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年5月7日火曜日

判例裁決紹介(平成30年6月19日裁決、減価償却資産のタイミング、グルーピング)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年6月19日裁決で、太陽光発電に関する設備(発電設備及びフェンス等)に関する減価償却費の計上が認められるのか否かが争われた事例です。

具体的には、本件は、太陽光発電を営む法人が請求人となり、当該者がなした確定申告において、発電設備及びフェンス等の資産に対して減価償却資産にかかる償却費(特定生産性向上設備等に関する特別償却)の計上が、当該資産は未だ事業の用に供されていないとしてその計上を否認された事例である。より具体的には減価償却資産として法人税法が定める要件に合致しているのかという点に対して、事業の用に供するという判断基準において請求人の主張したタイミング(資産の引渡時期、売電契約の申込時)においてはそのタイミングでの減価償却資産としての該当性が否認されていることを不服としている。更に付随的な論点として(事実認定の問題でもあろうが)、請求人の主たる事業の太陽光発電において実際に売電等を行う発電設備ではない、フェンス等の外部との遮断を行う設備が発電設備と一体として捉えられ、同一時期に事業の用に供されていたのか否かという減価償却資産としての範囲(グルーピング)が争点となっている。

このように設備の状況において、意見の対立が存するものであるが、最終的には、前者について課税庁の主張を認め、実際に設備は完成し、引渡しを受けていようとも売電を行うための系統連系の工事は未完成であり、現物資産として存在していても事業の用に供されていないとしての判断を是認しており、対して後者において、課税庁が主張するフェンス等の附帯的設備との一体性を否定して、個々の資産として如何なるタイミングで事業の用に供されたものであるのかという点を判断している。減価償却資産として如何なるタイミングで該当することになるのかという点は、すなわち事業への供用を度のタイミングをもって判断すべきかという点は、古くて新しい論点であり、また、減価償却資産の対象は多岐に渡ることからも(従来でもきぐるみや映画フィルムなどが問題になってきているが、足場など近年は新しい商品が出てきているようでもあるが、この点は、租税回避との関連において事業への供用の視点が検討されるように捉えられる)、本件のように最終的に事業としての活用は否定され難いものの、一律の判断基準の策定は困難であることは否めないものの、本件は比較的新しい太陽光発電という分野においてその判断を示したものとしても参考となるように考えられる。なお、系統連係の工事が未了である段階で事業への供用を認めない判断は、他の判断でも同様であり、その中でも主張されていたが、雑誌記事での、契約申し込み段階での減価償却計上を認めるとの記載が起点ともなっている。

しかしながら、太陽光発電という存在は、本件のように租税負担を争う最近事例が増加しているような印象。ただ単に読む機会が多いのかもしれないが、従来法において想定されていた発電事業とは異なり、本件でも請求人が主張しているが、賃貸用不動産との対比、同類としての性格を帯びてきているのかもしれない。本件判断では最終的に発電目的であるということが一つの判断要因として機能しており、請求人と課税庁との間で事業への認識に相違があることが問題の起点になっているのではないだろうか。このように捉えるならば本件の対象は太陽光発電事業にかかる資産であり、些か特殊な事例とも評価されうるものであるが、このように社会における事業の意義、構造や担い手等の変化による判断枠組みへの影響や法の整備という点を検討する上でも本件は参考となる事例とも捉えられるのではないか。

法人税法2条
二十三 減価償却資産 建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。
法人税法施行令
(減価償却資産の範囲)
第十三条 法第二条第二十三号(減価償却資産の意義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。

以上のように、本件の中心的な争点は、事業に用いたとした資産が如何なるタイミングをもって減価償却資産として認定されるのか、何をもって事業のように供したと判断するのかという点が争点となっている。法人税法は、減価償却資産に対して、法において要件を整備している。この取扱は、減価償却費の計上においては、一般に外部者との資金のやり取りが行われるものではない内部取引であり(また相対的に高額な支出なる点も鑑みて)、かかる損金の計上においては一般の経費支出とは異なる制約をおいているものと考えられる。その代表的な要件が事業の用に供しているとの文言であり、単に引渡しをもってその計上を行うものではなく、減価償却の基本的な性格として、収益との対応を図るべく、厳格に事業への利用や供用、設備の稼働をもって損金計上を認めるものであると考えられる。監査が行われるような法人においてこのような問題は想定しがたいものであるのかもしれないが、損金の計上においては恣意的な計上を回避する意図が込められているものと考えられる。本件ではこの事業のように供しているとはいかなるものとして解されるのかという点が問題の起点となる。

この点に対して本件判断は、
「減価償却資産(法人税法第2条第23号、法人税法施行令第13条)とは、事業の経営に継続的に利用する目的をもって取得される固定資産で、その用途に従って利用され、時の経過によって価値が減少するものをいい、その取得に要した価額(取得価額)は、将来の収益に対する費用の前払の性格を有し、資産の価値の減少に応じて減価償却費として徐々に費用として計上されるものである。・・・当該資産を事業の用に供したと認められるか否かは、業種、業態、その資産の構成及び使用の状況を総合的に勘案し、その資産をその属性に従って本来の目的のために使用を開始したといえるか否かによって判定するのが
相当である。」

として従来と整合的であるが、この本来の目的とはなにか、そもそも事業とはどのようなものを指すのか課題となろう。上記のように請求人と課税庁はこの事業目的において、不動産への投資(賃貸用不動産)としての類似認識と発電・売電を目的としているという点において相違しており、スタートとして両者の相違は埋めがたいものであるのであろう。
かかる点は、下記のように本件判断でも、国税庁がHPに置いて例示する賃貸用不動産に対する緩和的な判断や、下記のような判示が主張され、更には、稼働休止資産に対する通達のいつでも稼働しうる状況にあるようなものとの文言との対比、類推から請求人が主張する契約の申込みや引渡し時点での実際の稼働から緩和的な段階での該当性の判断を肯定する主張を否定している。
「広島高裁昭和63年5月30日判決を引用し、本件発電システム本体は、本件引渡日において、事業の用に供する意図が近い将来において実現されることが客観的に明白であったといえるから、同日において事業の用に供していたと認められる旨を主張する。しかしながら、上記判決は、譲渡所得の金額の算定に当たり、対象譲渡資産が、租税特別措置法第38条の6第1項に規定する「事業の用に供しているもの」に該当するか、すなわち事業用資産であると認められるかについてその法令解釈を示したものであり、法人税法第2条第23号及び法人税法施行令第13条が規定する減価償却資産に該当するための事業供用要件に係る法令解釈を示したものではない。」

(稼働休止資産)

7-1-3 稼働を休止している資産であっても、その休止期間中必要な維持補修が行われており、いつでも稼働し得る状態にあるものについては、減価償却資産に該当するものとする。(昭55年直法2-8「十九」により改正)
私見としても、上記のように法人税法が特別の規定をおいて、減価償却資産による損金の計上に関して収益との対応を鑑みながらも一定の制約をおいている趣旨から考えるに、客観性や恣意性を排除が明確に担保されるものと判断して上記の用に肯定的に緩和的な措置を取ることは困難であるものと考えられる(ここの事例において、緩和的な措置が認められた状況はより検討されるべきであろうが)。

また、本件では特に資産のグルーピング、発電設備とフェンス等において一体として捉えるのか否かという点においても関わるものであろうが、事業の用に供するとした上で、この事業とはとのような意義を持つものであるのかという点は、法人税法、租税法規においても多様な意義を有するものであり、必ずしも明確なものではない。本件では、主たる目的として、そもそもの設備の意図、目的に関してどのように認定区分するのかという点は詳細に検討されているものではないように捉えられるが(発電目的、フェンスは、設備保護のように)、これは本件は太陽光発電事業という単一目的の事業内容を行うことを企図していることによるものであり(特に主たるという点に関しては、判断がなされていない)、不動産投資、賃貸借との類似を主張しつつも最終的に売電・発電であることに相違はないことになるが、一般論としては、主たる目的という点は、事業者の内心によることや多様な設備の存在等を前提とするならば、より具体的な基準が必要となるものと想定される。

「本件発電システム本体は、系統連系のための工事が完了しなければ、物理的に発電した電力を本件送配電事業者の電力系統に供給することができず、本件電気事業者への売電による収益を上げることができない状態であったと認められ」
「本件発電システム本体と本件フェンス等は、物理的にも機能的にも一体とはいえないから、別個の減価償却資産であると認められる。」

この点に関して、上記のように判断では、(PHS設備に関する最判によるものであろうが)物理的・機能的(この機能の判断も主観的な要因が介在するのではないかと考えるが、実務的には、減価償却資産の機能をどのように判断しているのだろう)という側面から判断を行っている。この判断は、資産をどのように一体として判断するのか(設備とフェンスと一体として捉える課税庁の判断を退けたものであるが、フェンス等に関してはその機能として法によって設置が求められ、設備の保護が目的であることが客観的に明らかであることも影響していよう)、という争点において、事業の用に供している点を、あるいは主たる目的をより詳細に2つの観点から認定判断することを求めているものと考えられる。また、前者の争点に対する判断では、目的として最終的には資産の稼働、収益獲得への貢献を強調されている(収益との対応を求める減価償却の基本的な性格からと考えられるが)。

以上のように、事業の意義においては、減価償却資産としての判定においても、複合的な意義を有するものと理解され、多角的な側面からの判断が必要とされる。本件は、事案としてはシンプルなものであるが、このように、減価償却資産としての意義を巡る複合的な争点を検討する上では参考となる事例であると考えられるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものであり、完成度は低いですが参考までに。