さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年1月16日裁決で、質問検査権の行使にあたって、行うべき事前通知が税務代理人にのみ行われておらず、納税者本人には行われていなかったことにより、過少申告加算税の賦課において前提となるべき調査が行われていないとして、当該処分の取消を求めた事例です。
具体的に本件は、請求人がなした消費税の確定申告に対して調査(実地の調査)があり、その指摘により修正申告を行った請求人に対して課税庁が過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことにつき、係る調査において、前提となるべき事前通知が、税務代理人にのみ行われており、請求人自身に対しては全く行われていないことから、処分の前提となるべき、調査が行われていないとして、処分の取消を求めた事例である。事前通知は平成23年の国税通則法の改正によって従来の慣例的な処理から法定化された手続きであり、その通知の実際において、不備が存在する(現実には、事前通知の拒否や日程調整に応じないなど多様な不備が発生しているものであろうが、本件ではこの不備、違法性に関しては、課税庁も認めており、この点に関しては珍しく争いは存在していない。)ことは特に、課税処分の効果につき、取消事由となるべきものであるのかという点において課題とされているものである。従前、調査手続の不備に関しては、重大な違法性を要求し、もって刑事罰に該当するような状況に限定した判断が中心となってきたが、上記通則法の大改正以後もその適用において同様の状況にあるのかという点が課題となっているものであろう。現時点では裁決レベルではその不備に関しては軽微なもの、本件のように実際に調査が実施(日程調整等が行われ)されているように治癒されているような状況下においては、同様の判断、すなわち取消事由になりえないものとして判断されている傾向にあるように捉えられる。本件は、直接的には、上記とは異なり、過少申告加算税の賦課決定において、更正処分等の前提となるべき調査の実施において、現行法の解釈があらそれたものであるが、調査段階において、このような事前通知の不備のような手続の違法性があった場合に、附帯税の賦課における前提となるべき調査の実施が充足しているのか否かという点で、調査の意義及び調査に軽微な不備は附帯税の賦課を排除しないのかという点が課題となった事例である。
(過少申告加算税)
第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の五の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。
上記のように、本件は下記のように通則法74条の9において定められている事前通知において、その不備、特に請求人自身に対する通知の未実施(法文としては通知するものとするとしており、かかる不備が違法であることは否定し難いものと考えられるが)が、問題視されているものである。上記改正においては、手続法の大幅見直しがあり、定められた手続は多様であり、一律にその不備等の影響を捉えることは、かえって調査制度の実効性を損なう可能性もあり得ようし、丹念に趣旨目的と不備違法の程度の対比が必要とされるべきものと考えられるが、説明責任を果たすような趣旨目的であれば(そもそもこの説明責任という概念自身が多様であり、代理人等への通知で充分であるようにも評価しうる場合もあるのではないだろうか)、本件のような請求人自身に対する通知が未実施であったとしても軽微なものとして評価し、調査の意義を損なう、あるいは附帯税の要件の充足を妨げるものとしては評価しないという判断を課税庁が行っている点は、事前通知の意義を考える上で今後の参考となるべき事例であるように考えられる。
このような判断は、現実的には税務代理人への通知が実施され日程調整や実際の質問検査権の行使が行われたことを背景として、軽微なものと評価しているものと認識されるが、下記のように法文において、現行法は、一定の納税者の同意等の条件を必要とするものの通知が税務代理人に対してのみ行えば足りるものとしている点も考慮されているのであろう。実際の修正申告を実施する際にも、調査における指摘を基礎として行っており、納税者の主張のように前提となるべき調査が実施されていないものと評価することは困難であろう。特に、下記のように通則法における調査の意義を非常に包括的に捉え(この点は従前、改正前と変わらず)、質問検査権の行使、実地の調査と区分しているような現況において、実地の調査における軽微な不備のみをもって課税処分の変更を行うことは困難であるとの考えられたものといえよう。かかるように、納税者と課税庁における調査の意義の相違(ギャップ)、納税者が調査を通知に始まる実地の調査に限定した認識をもつことは避けようがないものであろうが、多くの場合においてこの相違が問題の背景にあることは認識されるべきであろう。
但し、本件のように附帯税の賦課決定における要件の充足と、更正処分の取消事由になるのかという点は同一に、調査手続きの不備に関して同様の判断を行うべきものであるのかという点は、特に検討がなされていない。附帯税の賦課が排除される正当な理由として該当するのか否か、あるいは立法的な明確化、救済が図られるべきであるのかもしれないが、附帯税が課税処分の公平性を基礎としており、実質的にはいわばサンクションを付与する形式になるものであり、本税の更正処分の取消事由としての該当性と同様に手続上の不備を評価することが妥当であるのかという点は検討がなされても良いのではないだろうか。
「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む包括的な概念であると解すべきである。」
(納税義務者に対する調査の事前通知等)
第七十四条の九 税務署長等(国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長をいう。以下第七十四条の十一(調査の終了の際の手続)までにおいて同じ。)は、国税庁等又は税関の当該職員(以下同条までにおいて「当該職員」という。)に納税義務者に対し実地の調査(税関の当該職員が行う調査にあつては、消費税等の課税物件の保税地域からの引取り後に行うもの又は国際観光旅客税について行うものに限る。以下同条までにおいて同じ。)において第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求(以下「質問検査等」という。)を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者(当該納税義務者について税務代理人がある場合には、当該税務代理人を含む。)に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。
5 納税義務者について税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合として財務省令で定める場合に該当するときは、当該納税義務者への第一項の規定による通知は、当該税務代理人に対してすれば足りる。