さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年11月20日裁決で、法人が支払った工事受注に関する紹介料が交際費に該当するのか否かが問題になった事例です。
具体的には、本件は建設業をいとなむ法人である請求人が、工事請負契約の受注にあたり、支出した紹介料が交際費に該当するのか否か、あるいは情報提供料として、交際費等から除外されるべきものであるのかという点が争点になっている事案である。その他、諸手続、使途秘匿金への該当、反面調査による調査手続きの違法性等が関連論点として問題になっているものと捉えられる。
交際費として該当するのか否かという点は、法人税法において損金計上を認容するのかという点に直接的に関わるものであり、その該当性に関しては、非常に多くの事例が存在している。本件もその類型に属するものであり、解釈論としては交際費等の意義として下記のようにいわゆる万有製薬事件における3要件説を採用して判断しているものであり、近年の裁判例と整合的である。ただし、本件では情報提供料としての区分をもって交際費等から除外することが可能であるかどうかという点が起点となっているものであり、かかる点においては特徴的な判断であろう。情報提供料に関しては、通達において明記されているものであるが、詳細な事例は少なく、本件のように、工事請負契約における紹介料のようなケースは、ごく一般的なものであり、かかる点においても、詳細な事実認定を行っており、特に、その支出の意図が基本的な課題とされている点等は、参考となるものであるように捉えられる。情報提供に関しては、無形物のやり取りであり、客観性が確保される可能性が低く、租税法規においてどのように捉えるべきであるのかという点は課題であろうが、特にICTの発達により、定型的なものではなく、コンサル等の無形物のやり取りが活発化する中で、交際費との区分は今後増加傾向になるのではないだろうか(この点に関しては、実務家の意見も聞いてみたいところ)。
(交際費等の損金不算入)
第六十一条の四 法人が平成二十六年四月一日から平成三十二年三月三十一日までの間に開始する各事業年度において支出する交際費等の額のうち接待飲食費の額の百分の五十に相当する金額を超える部分の金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
4 第一項に規定する交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下この項において「接待等」という。)のために支出するもの(次に掲げる費用のいずれかに該当するものを除く。)をいい、第一項に規定する接待飲食費とは、同項の交際費等のうち飲食その他これに類する行為のために要する費用(専ら当該法人の法人税法第二条第十五号に規定する役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除く。第二号において「飲食費」という。)であつて、その旨につき財務省令で定めるところにより明らかにされているものをいう。
一 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
二 飲食費であつて、その支出する金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額が政令で定める金額以下の費用
三 前二号に掲げる費用のほか政令で定める費用
以上のように、本件の中心的な争点は、当該紹介料が交際費等から除外される情報提供料に該当するのか否かが課題となっているものである。本件判断では、下記のように、交際費の要件として3要件説を採用している。かかる点は従前と整合的なものであろう。中心としては当該支出の目的がいかなるものであるのかという点が本件における特に情報提供料との区分において重要視されている。いわば、情報等の入手と主たるものとして支出したものであるのか、交際等を図るものであるのかという区分が基礎となっている。しかしながらこのような情報提供は無形物の提供であり、必ずしも外部者にとって明示的なものではなく、確定的なものではない。実際的にもこの量目的を区分することは必ずしも容易ではないであろう。
「このような措置法第61条の4第3項の文言や、「交際費等」が一般に支出の相手方及び目的に照らして、取引関係の相手方との親睦を密にして取引関係の円滑な遂行を図るために支出するものと理解されていることからすれば、特定の費用が同項の交際費等に当たると判断するには、①「支出の相手方」が事業に関係ある者等であり、②「支出の目的」が事業に関係ある者等との間の親睦の度を密にして事業の円滑な遂行を図ることであるとともに、③「行為の形態」が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であることの三要件を満たすことが必要であると解される。」
本件判断の基礎なった通達においては、下記のようにその区分に関して、金銭等の支給に関して対価となるべきものが明確である、従って対価関係が想定されうる場合において、その区分、交際費からの除去を認めている。交際費は、その要件として、目的が饗応等であることが重視されており、その概念として、具体的な支出と成果、対価との因果関係が期待されていないものと考えられる(この点はその要件の整理として、より検討が必要であろう)。かかる点を前提として対価としての関係が認定されうるものであれば、交際費から除外しても箚しつけないとの判断があるものであろう。本件は裁決であり、基本的に通達の処理が前提とされているものであるが、内心の意図や目的にその起点をおく交際費等と対価関係という支出との因果関係に基礎を置くものを情報提供料として区分している趣旨であろう。法令解釈として、交際費が対価関係を要求するものではないという判断は従来の3要件説等の判断では、特に検討されていない点であり(この依拠すべき点はどの法令に基づくものであろうか)、ましてや情報等の無形物の提供において、明確に対価関係を把握することは困難であろう。
情報提供料等と交際費等との区分)
61の4(1)-8 法人が取引に関する情報の提供又は取引の媒介、代理、あっせん等の役務の提供(以下61の4(1)-8において「情報提供等」という。)を行うことを業としていない者(当該取引に係る相手方の従業員等を除く。)に対して情報提供等の対価として金品を交付した場合であっても、その金品の交付につき例えば次の要件の全てを満たしている等その金品の交付が正当な対価の支払であると認められるときは、その交付に要した費用は交際費等に該当しない。(昭54年直法2-31「十九」、平6年課法2-5「三十一」により追加、平19年課法2-3「三十七」、平23年課法2-17「三十」、平28年課法2-11「三十一」により改正)
- (1) その金品の交付があらかじめ締結された契約に基づくものであること。
- (2) 提供を受ける役務の内容が当該契約において具体的に明らかにされており、かつ、これに基づいて実際に役務の提供を受けていること。
- (3) その交付した金品の価額がその提供を受けた役務の内容に照らし相当と認められること。
(注) この取扱いは、その情報提供等を行う者が非居住者又は外国法人である場合にも適用があるが、その場合には、その受ける金品に係る所得が所得税法第161条第1項各号又は法第138条第1項各号に掲げる国内源泉所得のいずれかに該当するときは、これにつき相手方において所得税又は法人税の納税義務が生ずることがあることに留意する。
このような情報提供の性質を鑑みて、上記通達では、対価関係の認定においては、契約の存在を基礎としており、本件においても契約の不存在が実際的な判断の基準となっているようである。かかる点は実務上もいかなる所以をもってこのような契約の存在が要求されているのかという点はより認識されるべきであろう。
しかしながら、上記のような交際費の解釈、他費用との区分は、交際費の基本的な趣旨が冗費濫費の防止を強く要請された状況下と、現状において、実質的にその範囲を縮小させ、基本的な性格が変容しつつある交際費等の変遷において、どのような影響を受けるものであるのだろうか(影響の有無も含め)。