さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月9日裁決で、消費税法における仕入税額控除の適用を巡って帳簿等の保存の有無及び、調査段階での第三者立会、説明の拒否があった場合における課税処分の効力が争われた事例です。
具体的に本件は、営業外交業務を担う事業者たる請求人が、確定申告等を行っていなかったところ、調査により消費税法の仕入税額控除の適用がなく(推計により売上は存在し、消費税の納税義務者であることは確定している)、消費税額の納税を決定した処分の適否に対して、調査上の違法(第三者の立会、請求人に対する説明の未了)を主張してその適用の是非に関して争点とされている事例である。
本件の起点は、第三者の立会における調査が認められるうるものであるのか否かという点が起点となっているものであり、専門職であれば、これだけでその具体的な意義については想定されるものであろうが(ご苦労さまです、かかるような調査対応の存在は聞いていますが。)、かかる点において特殊な状況に基づくものと評価されるべきものと評価することもできようが、当該対応に起因して、自発的な納税者による説明の拒否が行われている(事実上)状況を如何に評価すべきであるのかという点が、問題になるものである。
もう一つの争点は、消費税法の仕入税額控除の適用として、その適用たる帳簿等の保存に関する手続的な問題である。この点は、従前と基本的に変わるものではなく、保存の具体的な解釈が問題になっているものである。周知のように最判において、かかる文言の解釈としては、単に文字通りの保存のみではなく、調査等において提示を求められた場合において具体的な提示ができるような状況にあることをその具体的な意義としていることは本件でも踏襲されている。しかるに法令解釈として特段特徴的なものではないものと考えられるが、手続法の改正後、その調査手続の意義が具体的に問われているものとして、本件は参考となるものと言えよう(私見としては、国税通則法の改正から一定期間経過し、学会でのメインテーマになったような状況であろうが、租税負担の公平性あるいは、近年のICT等の発展に伴った手続のあり方を立法論として検討すべき段階にあるように考えている)。
この保存の意義においては、下記のように、消費税法30条において、保存の意義を拡張的に解釈している。ほぼ目立つ条文ではないが、かかる点において、その具体的な記載事項等も明記されており、その不備も含め消費税法の非常に重要な条文であるが、その解釈として保存の意義は、上記のように最判を踏襲しており(当たり前であるが)、重要な判断であろう。しかしながら如何なるものを充足すれば、提示したことになるのか、本件でも問題にあったが、一部資料(この資料自体が帳簿等には該当しないとして最終的には、その提示を否定しているが)のみをみせ、コピー等を拒否し、複写を求めるなど事実上資料の確認ができない、十分に確保できないような状況等を如何に捉えるべきであるのかという点は今後の課題となるべきではないだろうか。帳簿等の意義も含め(今後は適格請求書の保存も問題になるが、おそらく、帳簿等にのみ依拠する段階からよりその記載事項の適格性が問題になるものと想定される)、かかる点を保存においてどのように位置づけ、適格な仕入税額控除の適用要件として評価するのかという点は、すなわち、何をもってその適格な提示として理解されるべきであるのかという点は今後の検討課題となるべきものと評価されよう。
第三十条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百八分の六・三を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の六・三を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。
一 国内において課税仕入れを行つた場合 当該課税仕入れを行つた日
二 国内において特定課税仕入れを行つた場合 当該特定課税仕入れを行つた日
三 保税地域から引き取る課税貨物につき第四十七条第一項の規定による申告書(同条第三項の場合を除く。)又は同条第二項の規定による申告書を提出した場合 当該申告に係る課税貨物(第六項において「一般申告課税貨物」という。)を引き取つた日
四 保税地域から引き取る課税貨物につき特例申告書を提出した場合(当該特例申告書に記載すべき第四十七条第一項第一号又は第二号に掲げる金額につき決定(国税通則法第二十五条(決定)の規定による決定をいう。以下この号において同じ。)があつた場合を含む。以下同じ。) 当該特例申告書を提出した日又は当該申告に係る決定(以下「特例申告に関する決定」という。)の通知を受けた日
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
二 課税仕入れ等の税額が特定課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
ニ 第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額
三 課税仕入れ等の税額が第一項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物に係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税貨物を保税地域から引き取つた年月日(課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、保税地域から引き取つた年月日及び特例申告書を提出した日又は特例申告に関する決定の通知を受けた日)
ハ 課税貨物の引取りに係る消費税額及び地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。次項第三号において同じ。)又はその合計額
9 第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
一 事業者に対し課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この号において同じ。)を行う他の事業者(当該課税資産の譲渡等が卸売市場においてせり売又は入札の方法により行われるものその他の媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われるものである場合には、当該媒介又は取次ぎに係る業務を行う者)が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項(当該課税資産の譲渡等が小売業その他の政令で定める事業に係るものである場合には、イからニまでに掲げる事項)が記載されているもの
ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
ニ 課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
二 事業者がその行つた課税仕入れにつき作成する仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類で次に掲げる事項が記載されているもの(当該書類に記載されている事項につき、当該課税仕入れの相手方の確認を受けたものに限る。)
ハ 課税仕入れを行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税仕入れにつきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
三 課税貨物を保税地域から引き取る事業者が税関長から交付を受ける当該課税貨物の輸入の許可(関税法第六十七条(輸出又は輸入の許可)に規定する輸入の許可をいう。)があつたことを証する書類その他の政令で定める書類で次に掲げる事項が記載されているもの
ロ 課税貨物を保税地域から引き取ることができることとなつた年月日(課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、保税地域から引き取ることができることとなつた年月日及び特例申告書を提出した日又は特例申告に関する決定の通知を受けた日)
ニ 課税貨物に係る消費税の課税標準である金額並びに引取りに係る消費税額及び地方消費税額
10 第七項に規定する帳簿の記載事項の特例、当該帳簿及び同項に規定する請求書等の保存に関する事項その他前各項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
また、以上のように、本件ではその中心的な争点は、上記のように仕入税額控除の適用要件としての保存等が問題になっているのみならず、かかる点の状況を調査する段階で、質問検査の実施、あるいは実地調査の段階において、税理士等の有資格者ではない、第三者の立会を認めるか否か、そして、調査の終了の際の手続として説明を行うこととされているが、この説明が適格に実施されていないような状況が課税処分の効力に影響を及ぼすレベルにあるのか否かという点が中心的な争点となっている。
調査段階における手続上の不備は、一般論として下記のように本件判断においても示されているように、刑罰法規への抵触などを除き、必ずしも処分の違法性、取消事由として該当するものではないものとして理解されている。但し、かかる判断の基礎は、平成23年の国税通則法の改正以前の判示によるものであり、必ずしも現行法においては特に判断が示されているものではない。私見としては、調査自身の基礎となるべき趣旨の共通性は維持されており、しかるにその効果の否定においても特段、従前と異なるものではないものと考えてられる(一般論としては打倒しているもの)が、より事例の集積を必要とするべきものであろう。刑罰法規に限定するような違法性の評価と適正な課税負担との衡平において妥当と評価されうるのか、個々の調査手続は一様ではなく、より個別具体的にその手続の趣旨も含め、検討されるべきものと考える。旧法における身分証の提示等一部しか認められていなかった手続法の状況とは現状は全く異なるものであり、かかる手続の目的等も異なる可能性がある。
「通則法第25条は、同条の規定による決定は、その調査により行う旨規定しているところ、税務調査の手続は、租税の公平かつ確実な賦課徴収のために課税庁が課税要件の内容を構成する具体的事実の存否を調査する手段として認められた手続であって、その調査により課税標準の存在が認められる限り、課税庁としては課税処分をしなければならないのであり、また、決定処分の取消しを求める審査請求や訴訟においては客観的な課税標準の有無が争われ、これについて実体的な審査がされるのであるから、税務調査の手続の瑕疵は、原則として決定処分の効力に影響を及ぼすものではなく、例外的に、税務調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに決定処分をしたに等しいものとの評価を受ける場合に限り、決定処分の取消事由となるものと解するのが相当である。」
第三者の立会に関しては、守秘義務の観点から、有資格者ではない第三者の立会を認めるべきではないことは、判例においても、従前と整合しており、ほぼ確定しているものといえよう。しかしながら実務的には会計事務所の職員など実務担当者を如何なる論理において正当性を填補することになるのかという点は興味深い。
また、下記のように本件における調査終了の手続としての説明の拒否は如何に評価されるものであろうか。法は下記のように、その手調査終了の手続として明確に説明を行うことを義務付けている。しかしながら、説明という概念は、法的には特段の定義がなされているものではなく、如何なる意義を有するものであるのか、拙稿において指摘したが、その具体的な意義は、応答を含むものであるのか、どの程度の説明を要するものであるのか等、その具体的な意義は必ずしも明らかとなっているものではない。実務的には、メモ、書類のの交付等の実施をもって処理しているようであるが、非常に煩雑な状況にあるものとも捉えられる。もちろんかかる状況は納税者の権利保護の観点からは理由附記と相まって、抑制的な効果をもたらすものとして肯定的に評価する見解もあり得よう。しかし本件もかかる処分の前提としての説明を充足していないものの、その経緯として納税者の拒否(事実上の)に起因しているような場合において、適格な手続を充足しているものと評価されるものであるのかという点は、明文の根拠がなく、如何なる位置づけにあるものとして処理されるべきか課題となるべきものであろう。判断では、この制度の趣旨を特段検討することなく(単に重大な違法がないと判断しているだけであり、裁決とはいえ、詳細な検討に欠けているとの評価も受けうるだろう)、下記のように、納税者の事実上の拒否による、すなわち納税者の帰責によるべきものとして、その充足の不備による処分の取消事由としての該当を否定している。私見としてもかかる判断は、納税者の事実上の拒否は、自身の権利の放棄であり、処分の前提として法的な効果が説明されているならば、妥当性を有するものであるとの評価されるものと考えるが、かかる説明の趣旨目的からより検討される必要があると考える。一般にいわゆる税務調査(質問検査の実施、実地の調査)は任意調査とされていることから、かかるような本件における理解が正当性を有しているのかという基礎的な疑問は、検討の余地があるものである。任意調査という位置づけと実効的な調査手続のあり方は、より、検討されるべき課題ではないだろうか。
調査の終了の際の手続)
第七十四条の十一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
「本件調査担当職員は、調査結果の内容の説明を行う日を調整するために請求人の携帯電話に架電したり、調査結果の内容の説明を行う日時場所、都合が悪い場合 には連絡してもらいたい旨、連絡も来署もない場合には調査結果を更正決定等通知書により知らせることになる旨などを記載した書面を請求人あてに郵送したりしたが、それにもかかわらず、請求人は何ら応答しなかったというのであり、これらの事実によれば、本件各決定処分等に当たり、請求人に対して調査結果の内容が説明されなかったのは、請求人が説明を受けようとしなかったためであると認められる」
以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。