2019年2月18日月曜日

判例裁決紹介(平成30年3月1日裁決、有利発行による株資金も引受と所得課税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月1日裁決で、同族会社の役員が有利発行により引き受けた株式の時価との差額が経済的利益として課税対象になった事例です。

具体的には、非上場で、同族会社の取締役である請求人が、父であり、当該法人の代表取締役から法人株式の移転を受けるべく、税理士等の助言を受けた評価額をもって通常の譲渡(贈与)を行うのはなく、当該発行法人である法人を経由して、譲渡を行い(法人にとっては自己株式の取得)、かかる株式を請求人が引き受けた取引を行ったものであり、法人の資金需要に答えるべく増資されたものではなく、株式の移転を行うべき意図をもって、このような株式の引き受けた行為を前提として、当該引受けに伴う金額と当該法人の株式の価額の差額が、役員たる地位に基づく、賞与であるとして(現行法において賞与という概念はないように捉えられるが、受領者側の評価だろう。)、所得課税対象となるべきであるのかという点が問題になっている事例である。

他の争点としては、かかるような租税負担に対する誤解(税理士がついているような状況でこれが認められる可能性があるのか疑問ではあるが)あるものであり、錯誤であるとして当該移転が無効であり、その所得負担は発生していないものとして主張している点も争点に含まれている(なお、この主張の前提として、当該移転に伴う利益の解消は測れられていない)。この点に関しては単なる誤解を主張するものであり、経済関係の解消は図られておらず、租税負担の錯誤による取引の無効は認められていない。

本件は、息子たる請求人への株式の移転を企図した事例でありながらも通常の株式の譲渡や贈与という取引を行うことなく、法人を経由して、その移転と同様の結果となる取引を行っていることが特徴的であり、自己株式の取得と株式の引受け(法人の側面からは自己株式の処分)が行われているものであり、通常の株式の引受けにおいては、経済的成果の発生する余地はないものであり、引受時の株式価額との差額が有利な発行に該当するとして所得課税が付与されるべき経済的利益にとして評価されるか否かという点が起点になっている事例である。法人の株式の移転は、通常の取引においては、特段問題となるべきものではないが、近年の事業承継や相続税の負担の増加等を鑑みるに、日常的に行われうる取引であろうし、当該金額の算定がそもそもの問題として、実務家においても移転スキームの留意点として記憶されるべき事例ではないだろうか。

収入金額)
第三十六条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。

以上のように本件の中心的な争点は上記所得税法に定める経済的利益が、本件の事実関係、株式の移転において発生しているのか否かである。ちなみに、株式の移転にかかわらず、新株予約権等の株式の取得金額を付与されているケースにおいても、所得税法及び所得税法施行令において下記において、その経済的利益の発生を明文を持って規定している。

(発行法人から与えられた株式を取得する権利の譲渡による収入金額)
第四十一条の二 居住者が株式を無償又は有利な価額により取得することができる権利として政令で定める権利を発行法人から与えられた場合において、当該居住者又は当該居住者の相続人その他の政令で定める者が当該権利をその発行法人に譲渡したときは、当該譲渡の対価の額から当該権利の取得価額を控除した金額を、その発行法人が支払をする事業所得に係る収入金額、第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等の収入金額、第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等の収入金額、一時所得に係る収入金額又は雑所得(第三十五条第三項(雑所得)に規定する公的年金等に係るものを除く。)に係る収入金額とみなして、この法律(第二百二十四条の三(株式等の譲渡の対価の受領者等の告知)、第二百二十五条(支払調書及び支払通知書)及び第二百二十八条(名義人受領の株式等の譲渡の対価の調書)並びにこれらの規定に係る罰則を除く。)の規定を適用する。

発行法人から与えられた株式を取得する権利の譲渡による収入金額)
第八十八条の二 法第四十一条の二(発行法人から与えられた株式を取得する権利の譲渡による収入金額)に規定する政令で定める権利は、第八十四条第二項各号(譲渡制限付株式の価額等)に掲げる権利で当該権利の行使をしたならば同項の規定の適用のあるもの(次項において「新株予約権等」という。)とする。
2 法第四十一条の二に規定する政令で定める者は、贈与、相続、遺贈又は譲渡により新株予約権等を取得した者で当該新株予約権等を行使できることとなるものとする。

本件では請求人の主張にもあるが、基本的にその経済的成果の存在がそもそも観念し得るのかという点も問題であり(通常の株式の引受けとして)、また具体的に如何なる方法をもって算定されるべきであるのかという方法論も問題となっている。特に後者に関しては、下記のように所得税基本通達において、財産評価基本通達による評価を当てることが、明記されており、基本的に相続税における財産評価を基本目的とする評価通達によるものが合理的であるのかという点が問題となる。本件は裁決であり、当然のように、通達による処理を基本的な前提としてその判断を行っているが、正確には、下記のように通達も評価通達に準じて処理を行うものとしており、所得税法の目的において一定の調整は行われるものと考えられるが(そもそも所得税法の目的をどのように解するのかという点は定かではないだろう)、いずれも通達をその根拠とするものであり、租税法規の基本的な要請として妥当であるのかという点は検討すべきものであろう。

相続税法においては、財産評価基本通達はその合理性を最判によっても肯定されており、原則としてその評価を用いることは合理性を有しているものと評価されるが、所得税法において、特に一定の調整を付与したものが、同一の位置づけを有しているもの評価すべきは検討すべき課題である。地方税法にその根拠(委任)を有する固定資産税評価基準とは異なり、財産評価基本通達はあくまでも通達であり、その位置づけは異なるものの、実際においては両者は同様に位置づけをもって評価されている。私見としては、固定資産税評価基準と同様に、位置づけ、法令に一定の基礎を置くべきであると考えるが、すべてを法令に落とし込むことは時価、価額の概念からも非合理的であろう。

(有価証券の評価)

36-36 使用者が役員又は使用人に対して支給する有価証券(令第84条第2項各号に掲げる権利で同項の規定の適用を受けるもの及び株主等として発行法人から与えられた株式(これに準ずるものを含む。)を取得する権利を除く。)については、その支給時の価額により評価する。この場合における支給時の価額については、23~35共-9及び昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同「財産評価基本通達」の第8章第2節《公社債》の取扱いに準じて評価する。
「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」には、物品その他の資産の譲渡を低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額とその対価の額との差額に相当する利益が含まれるものと解される。
そうすると、株式を有利な払込金額で取得した場合における課税関係は、株式の取得の時に、株式の時価と払込金額との差額に相当する経済的利益を所得として捉え、当該経済的利益の価額を収入金額として課税することになるというべきである。」
以上のように、判断では、本件のような株式の移転、株式の引受においてもその経済的利益の発生を肯定している。私見としても包括的所得概念を基礎とする我が国の所得税法においては、かかるように、時価と異なる金額で資産を取得している場合には、何らかの経済的利益を得ていることは所得税法上は肯定されるものであり、課税対象となるべきものと考えられる。この点については異論がないのであるが、続いて、判断では、具体的な経済的利益を算定する方法に話が飛躍している。本来ならば、かかる取引が如何なるものであり、請求人が受けた利益が如何なる所得区分に属するものであるのかという点の検討が必要であるだろう。本件では役員、取締役として賞与として最終的には給与所得としているがその判断の根拠は示されていない。
その支給時の価額は同通達23~35共-9及び評価通達の取扱いに準じて評価する旨を定め、所得税基本通達23~35共-9の(4)のニは、株式の価額について、当該株式が非上場株式で気配相場や売買実例がなく、その公開の途上にもなく、かつ、類似法人比準方式により評価することができない場合には、評価時点又はこれに最も近い日におけるその株式の発行法人の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とする旨を定めている。これらの通達の定めは、株式を有利な払込金額で取得したことによる株式の時価と払込金額との差額に相当する経済的利益の有無を判断し、また、その価額を算定する前提として株式の価額を評価する場合において、当該株式が非上場株式で気配相場や売買実例がなく、その公開の途上にもなく、かつ、類似法人比準方式により評価することができない場合にも妥当するものと解されるが、このような一般的、抽象的な評価方法の定めのみに基づいて株式の価額を算定することは困難である。
下記のように、請求人の主張として、資産の譲渡とは異なるとの主張に関しては、会社法等をもって株式の譲渡と位置づけられることを示して、基本的に法人税法においては自己株式の処分において損益の発生(そもそも本件においては代表取締役からの株式の取得金額と請求人への引受金額は同額)は原則として観念されうるのであろうか、資本等取引の対象として理解されているように考えられる。特に出資の受入れとしての性質を肯定しながら、株式の譲渡と矛盾するものではないとの評価は如何なる根拠に基づくものであるのか、この判断は論理的な飛躍を持っているのではないだろうか。
請求人は、自己株式の処分は出資の受入れであって、資産の譲渡とは異なるから、株式を取得した者に原則として経済的利益は生じない旨主張する。しかしながら、自己株式の処分が、出資の受入れとしての性質を有することはいうまでもないが、そうであるとしても、自己株式の処分が、株式の譲渡であることと矛盾するものではなく(なお、自己株式の処分が法令上も株式の譲渡として位置付けられていることにつき、会社法第128条《株券発行会社の株式の譲渡》第1項、法人税法施行令第8条《資本金等の額》第1項第1号等を参照。)、当該自己株式を有利な払込金額で取得した場合には、その取得した者に時価と払込金額との差額に相当する経済的利益が生じると解することに支障はない
本件は税理士のアドバイスもあってその金額が評価され、当該取引の意図において株主間の株式移転から、発行法人を経由した取引を行うスキームとすることで、自己株式の取得、処分、株式の引受というプロセスが行われる事となっている点が上記のように特徴である。上記のように、経済的利益を株式の譲渡として位置づけ、判断を行うことは、この取引の根底にあるべき意図が判断に影響しているのではないだろうか(実質的な判断?)。個々の取引は、自己株式の譲渡と株式の引受であり、通常は経済的利益を生み出すものではない。この組み合わせによる成果が問題になっているものであるが、個々の取引を事実上、納税者の目的、意図によって組み換えるような効果を付与することは租税法律主義との関連において肯定されうべきであるのかという点は、本件においても検討課題となろう。
本件におけるかかるような経済的利益が所得税法において課税対象となることは上記のように肯定されるべきものであるが、上記その判断プロセスによっては、所得の類型が異なることも考えうる。移転を強調するのであれば、既存株式からの利益の移転であり、贈与等の評価にもなりうる。経済的な成果を課税対象とすることと、所得の類型は合わせて検討されるべき課題であり、法人における資本等取引、出資者側から株式の引受においても、所得を給与所得として課税対象とすべきか否かは、より詳細に検討されるべき問題ではないだろうか。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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