さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年11月14日裁決で、医師である請求人がその事業用資産に関する損害賠償金につき、非課税所得としての該当性が問題となった事例です。
具体的には、本件は医師である請求人がその業務に使用する、診療所の建設を請負契約により結んだ事例において、かかる建築、建物に瑕疵があった事による損害賠償金の受領(訴訟上の和解により)した金員が、所得税法に定める非課税所得に該当するのか否かという点が争われた事例である。事業上の損失、逸失利益等多様な損失が本件では損害賠償の対象となっており(合計で数億円に及ぶ)、一部は、請求人・課税庁双方において非課税所得となるものとして依存のない部分もあるが、見解の相違もある部分も多くかかる点において、その非課税としていかなるものを対象とすることになるのか、その判断枠組みが問題となっているものである。損害賠償そのものが問題となるケースはレアなものであるが、本件は必要経費の判定も含む論点であり、参考となるべきものと言えよう。そもそも如何なるものが所得税法において、非課税とされるべきものであるのか、その性質として如何なるものが要請されるものと解されるのかという点が起点となるべき事例である。所得税法はその基礎として包括的所得概念を基礎としており、あらゆるものがその課税対象して理解される中で、非課税としてカウントされるものが、いわば例外としてどのように明らかにするべきであるのかという点は、所得税法の枠組みにおいては重要視されるべきものであろう。特に本件では事業用資産にかかる損害とその補填に関して多様な損害賠償を基礎とした事例であり、具体的な対象を検討する上で実務家においても参考となるべきものと考えられる。
十七 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの
第三十条 法第九条第一項第十七号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。
以上のように本件は、非課税所得たる損害賠償金が如何なるものとして解されるのか、特に事業用資産につき、発生した損害(通常の損害賠償と異なり、かかる損害は、必要経費として所得から控除可能である可能性が高い)をどのような基準にて分類することになるのかという点が問題となっているものである。法条文は上記のように、損害賠償金としては、必要経費に算入される補填する部分に関してはその対象として除外することとしている。一見、法文上は明らかであり、損害賠償金として必要経費としての該当性の判断が必要となりうることになる。本件では請求人の主張するように、本来の損害賠償金という文言においては、損害の補填を行うものが対象であり、必要経費に算入したか否かという点は無関係という主張も一般的な損害賠償の対象を判断する上では、一般的な問題意識を反映しているものと言えよう。通常の損害賠償であれば足りるという考えも宜なるかなと評価されよう。
所得税法第9条第1項第17号及び所得税法施行令第30条は、損害賠償金、見舞金及びこれに類する金員は損害を受けた者の心身、財産に受けた損害を補填する性格のものであって、損害を受けた者である納税者に利益をもたらさないことから、原則としてこれらの金員を非課税所 得とするが、損害賠償金等の額のうちに損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額を非課税所得となる金額から控除しなければ、当該金額につき非課税所得と必要経費の控除という二重の控除を認めることとなってしまうため、当該金額を控除した金額に相当する部分のみを非課税所得とすることを定めた規定と解される。
しかしながら、本件は上記施行令の規定を二重の控除を排除すべきものとして、必要経費として該当するのか否かという点を基礎とした判断を行っている。本件は事業用の資産であり、その点において殆どの損失が必要経費として認定されており、かかる点が非課税所得の枠を縮小している。すなわち、一般的な用語における損害賠償金と異なり、所得税法においては、必要経費としての判断の枠組みにより対象を限定していることは、文言通りではあるが、留意されるべきものと言えよう。ただし本件では事業用資産であることから、特段その内容を検討することがなく、必要経費としての該当性を認定しており、損害賠償としての非課税との対比において、過度にその対象を成約しているとの評価もなりたつとも捉えられる。
また、上記の文言からは、損害賠償金として受領した金員が必要経費としての実際の補填を要するものであるのか、どのようなタイミングで支出されているものであるのか、例えば、分割している、損害が発生してから、後日の段階で支出している、必要経費として該当しうるが、損害の補填を諦め(事業の継続等を諦め)、損害賠償金の受け取る場合のみなど、実際の損害賠償金の受領はより、多様なものが想定される。かかる場合は如何なるように非課税所得として損害賠償金の対象を限定することになるのかなどはより検討すべき点ではないだろうか。
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