2019年2月25日月曜日

判例裁決紹介(静岡地判平成29年3月9日、保険の解約払戻金による一時所得と負担者が異なる保険料の控除可否)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、静岡地判平成29年3月9日で、保険の解約払戻金に対する控除対象の保険料を負担者が異なる部分まで含むのか否かという点が争いになった事例です。

具体的には本件は、法人の代表取締役であり、法人が契約した逓増保険(年間900万ほどの保険料、総額1億4000万の保険契約)を法人から原告たる代表取締役に対して譲渡(譲渡時においては、その時点での解約した場合に受領できる解約払戻金相当額約400万を支払っている)し、一定の時期経過後、もって原告が当該保険料を解約し、解約払戻金(約2600万)を受領した事例において、当該解約払戻金が一時所得を構成するものであるのか否かという点が争点とされているものである。より具体的には、一時所得の計算上、当該所得を得るために支出した金額に対して、原告以外の法人が負担した損金(福利厚生費として処理済み)として処理した保険料金額が該当するのか否かという点が問題となっているものである。本件で問題となった事例は平成22年度所得に関するものであり、下記のように平成24年の税制改正において、所得税法施行令183条4項が追加され、基本的に対象となる控除可能額は、個人が負担したものに限定される旨が明確化されたものであるが、その以前においては、一部資料において、個人が負担したもの以外の総額を対象とする旨の記載があったものもあり、その適用が問題となっていたものである。判時としては、本件でも引用されているが、先行する最判(平成24年最判)において、当該改正による以前においてもその対象となる経費は、個人が負担したものに限定する旨が示されているものであるが、本件は、かかる判示を否定するものであり、一時所得の文言や、総額としていたことから、あるいは、本件改正によって遡及的に適用され、あるいは事後法において課税対象とされたことを問題視しているものである。判示としては、原告の主張を排斥しているものであるが、最判を引用し、経費控除を個人負担に限定するもののみならず、信義則の成立も否定しているものである。法人の節税策として、保険を活用した措置は、広く行われているものであり、本件もその中の事例の一つであるように捉えられるが、解約払戻金を途中解約においては、低く抑え、保険料と調整し、原告へ負担保険料総額よりも低額で移転させ、もって総額負担として、一時所得の発生も減少させるような本件のスキームは、珍しいものではなかったものと考えられるが、最判によって否定され、法文においても明確に否定されているものであるが、最判を踏襲して一時所得の控除対象を否定し、更に、信義則等の成立を否定した本件は実務上も参考とされるべきものであろう。保険を活用したスキームは、非常にアグレッシブなものから、多様な存在が確認されるものであるが(多くの事例において、非常に否定的な、租税負担の回避を否認する処理が形成される予定であろうが)、経費控除において大幅な制約が付与されており、保険に関する法規の解釈は常にアップデートする必要性を示唆してくれる事例であるように考えられる。対比として、租税法の基本的な要請として租税法律主義により、明示的に主体が同一であることを要求していない(原告の主張でも)点を鑑みるに、また明文をもっって平成24年改正によって対応している点からも現行法の解釈における負担の主体の一致を要求することに対してその論理的な根拠としては、適格なものであるのかという点は議論の余地があるものと考える。いずれにしても、平成24年改正による法文の追加が明確化を図る、確認規定であるのか否か、という点も考慮対象として行くことも必要であろう。現行法の解釈においてはかかる点は確認として、一般的に、一時所得の趣旨からあるいは所得類型に分類している趣旨からその判断は、導かれるものと理解している事になっているものと捉えれよう。

(一時所得)
第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。

以上のように、本件の中心的な争点は、上記一時所得の算定において控除対象となる金額の範囲を以下に解するのかという点が問題となっている。収入を得るために支出した金額がどのように解されるのか、という点は、勝馬投票券の事例でも問題となっているが本件のような保険においても重要な要因となっている。

本件のように保険契約の譲渡を伴うような事例は本来は一時所得に想定の対象であるのかという点も疑問を覚える点であるが(給与所得として課税対象とすべき場合もあるように評価されよう)、基礎的な条文の解釈、一般論としての一時所得の対象をどのように捉えるのか、という点が、本件のような特殊な事例ではあるが、問題とされている。保険契約の譲渡や、経費負担を本人以外が行うような事例は他に想定されるのかという点は実務家に聞いてみたい点である。

本件の事例としては下記のように現行法において、保険の控除対象を限定する形で明文をもって限定が付与されており、現在において直接的には問題となるような状況ではないのかもしれないが、本件も最判も一般的な所得税法における条文の解釈を通じて、個人負担を行ったものに限定される旨は一時所得においては重要な判定材料になっているものと理解されるべきであろう。すなわち、一時所得から控除されるものとして、所得に対して個人が負担したものに限定されると解しており、一般的な理解であろう。判示では、その判断は、担税力を起点としてその判断を行っており、担税力を減少させるものをその対象としている。個人の所得負担において担税力を減少させるものは、個人が負担したものに限定されるとの判断であろう。原告のように所得者と負担者が一致しないようなケースは従前は想定されていなかったものであるが、保険契約に限らず、金融取引の操作性から鑑みるに、このような負担者の相違に関しては、法はどのように捉えているのかという点を理解する必要性があろう。本件のような主体の統一を要求する解釈は法文というよりは、租税負担の類型、所得類型の性格に、一時所得の性格に着目した判断であり、法文上の根拠という点では劣位とも評価されうる。特に担税力という概念を基礎としているが、かかる概念は法文上は存在しない概念であり、もって必ずしもその具体的な意義内容が確定しているものではない。かかる点を基礎としている判断は検討の余地があるのではないか。私見としては結論は賛成を示すものであるが、控除対象において直接との文言を付与されている点から、個人負担に限定する解釈が導けるのではないかと考えている。

所得税法施行令183条
2 生命保険契約等に基づく一時金(法第三十一条各号(退職 
二 当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金(第八十二条の三第一項第二号イからリまでに掲げる資産及び確定拠出年金法第五十四条第一項(他の制度の資産の移換)、第五十四条の二第一項(脱退一時金相当額等の移換)又は第七十四条の二第一項(脱退一時金相当額等の移換)の規定により移換された同法第二条第十二項(定義)に規定する個人別管理資産に充てる資産を含む。第四項において同じ。)の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する。ただし、次に掲げる掛金、金額、企業型年金加入者掛金又は個人型年金加入者掛金の総額については、当該支出した金額に算入しない。
イ 旧厚生年金保険法第九章(厚生年金基金及び企業年金連合会)の規定に基づく一時金(第七十二条第二項(退職手当等とみなす一時金)に規定するものを除く。)に係る同項に規定する加入員の負担した掛金
ロ 確定給付企業年金法第三条第一項(確定給付企業年金の実施)に規定する確定給付企業年金に係る規約に基づいて支給を受ける一時金(法第三十一条第三号に掲げるものを除く。)の額に第八十二条の三第一項第二号イからリまでに掲げる資産に係る部分に相当する金額が含まれている場合における当該金額に係る法第三十一条第三号に規定する加入者が負担した金額
ハ 第七十二条第三項第五号イからハまでに掲げる規定に基づいて支給を受ける一時金(同号に掲げるものを除く。)の額に第八十二条の三第一項第二号イからリまでに掲げる資産に係る部分に相当する金額が含まれている場合における当該金額に係る第七十二条第三項第五号に規定する加入者が負担した金額
ニ 小規模企業共済法第十二条第一項(解約手当金)に規定する解約手当金(第七十二条第三項第三号ロ及びハに掲げるものを除く。)に係る同号イに規定する小規模企業共済契約に基づく掛金
ホ 確定拠出年金法附則第二条の二第二項及び第三条第二項(脱退一時金)に規定する脱退一時金に係る同法第三条第三項第七号の二(規約の承認)に規定する企業型年金加入者掛金及び同法第五十五条第二項第四号(規約の承認)に規定する個人型年金加入者掛金


4 第一項及び第二項に規定する保険料又は掛金の総額は、当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額から次に掲げる金額を控除して計算するものとする。

三 事業を営む個人又は法人が当該個人のその事業に係る使用人又は当該法人の使用人(役員を含む。次条第三項第一号において同じ。)のために支出した当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金で当該個人のその事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額又は当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上必要経費又は損金の額に算入されるもののうち、これらの使用人の給与所得に係る収入金額に含まれないものの額(前二号に掲げるものを除く。)

以上毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年2月18日月曜日

判例裁決紹介(平成30年3月1日裁決、有利発行による株資金も引受と所得課税)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月1日裁決で、同族会社の役員が有利発行により引き受けた株式の時価との差額が経済的利益として課税対象になった事例です。

具体的には、非上場で、同族会社の取締役である請求人が、父であり、当該法人の代表取締役から法人株式の移転を受けるべく、税理士等の助言を受けた評価額をもって通常の譲渡(贈与)を行うのはなく、当該発行法人である法人を経由して、譲渡を行い(法人にとっては自己株式の取得)、かかる株式を請求人が引き受けた取引を行ったものであり、法人の資金需要に答えるべく増資されたものではなく、株式の移転を行うべき意図をもって、このような株式の引き受けた行為を前提として、当該引受けに伴う金額と当該法人の株式の価額の差額が、役員たる地位に基づく、賞与であるとして(現行法において賞与という概念はないように捉えられるが、受領者側の評価だろう。)、所得課税対象となるべきであるのかという点が問題になっている事例である。

他の争点としては、かかるような租税負担に対する誤解(税理士がついているような状況でこれが認められる可能性があるのか疑問ではあるが)あるものであり、錯誤であるとして当該移転が無効であり、その所得負担は発生していないものとして主張している点も争点に含まれている(なお、この主張の前提として、当該移転に伴う利益の解消は測れられていない)。この点に関しては単なる誤解を主張するものであり、経済関係の解消は図られておらず、租税負担の錯誤による取引の無効は認められていない。

本件は、息子たる請求人への株式の移転を企図した事例でありながらも通常の株式の譲渡や贈与という取引を行うことなく、法人を経由して、その移転と同様の結果となる取引を行っていることが特徴的であり、自己株式の取得と株式の引受け(法人の側面からは自己株式の処分)が行われているものであり、通常の株式の引受けにおいては、経済的成果の発生する余地はないものであり、引受時の株式価額との差額が有利な発行に該当するとして所得課税が付与されるべき経済的利益にとして評価されるか否かという点が起点になっている事例である。法人の株式の移転は、通常の取引においては、特段問題となるべきものではないが、近年の事業承継や相続税の負担の増加等を鑑みるに、日常的に行われうる取引であろうし、当該金額の算定がそもそもの問題として、実務家においても移転スキームの留意点として記憶されるべき事例ではないだろうか。

収入金額)
第三十六条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。

以上のように本件の中心的な争点は上記所得税法に定める経済的利益が、本件の事実関係、株式の移転において発生しているのか否かである。ちなみに、株式の移転にかかわらず、新株予約権等の株式の取得金額を付与されているケースにおいても、所得税法及び所得税法施行令において下記において、その経済的利益の発生を明文を持って規定している。

(発行法人から与えられた株式を取得する権利の譲渡による収入金額)
第四十一条の二 居住者が株式を無償又は有利な価額により取得することができる権利として政令で定める権利を発行法人から与えられた場合において、当該居住者又は当該居住者の相続人その他の政令で定める者が当該権利をその発行法人に譲渡したときは、当該譲渡の対価の額から当該権利の取得価額を控除した金額を、その発行法人が支払をする事業所得に係る収入金額、第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等の収入金額、第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等の収入金額、一時所得に係る収入金額又は雑所得(第三十五条第三項(雑所得)に規定する公的年金等に係るものを除く。)に係る収入金額とみなして、この法律(第二百二十四条の三(株式等の譲渡の対価の受領者等の告知)、第二百二十五条(支払調書及び支払通知書)及び第二百二十八条(名義人受領の株式等の譲渡の対価の調書)並びにこれらの規定に係る罰則を除く。)の規定を適用する。

発行法人から与えられた株式を取得する権利の譲渡による収入金額)
第八十八条の二 法第四十一条の二(発行法人から与えられた株式を取得する権利の譲渡による収入金額)に規定する政令で定める権利は、第八十四条第二項各号(譲渡制限付株式の価額等)に掲げる権利で当該権利の行使をしたならば同項の規定の適用のあるもの(次項において「新株予約権等」という。)とする。
2 法第四十一条の二に規定する政令で定める者は、贈与、相続、遺贈又は譲渡により新株予約権等を取得した者で当該新株予約権等を行使できることとなるものとする。

本件では請求人の主張にもあるが、基本的にその経済的成果の存在がそもそも観念し得るのかという点も問題であり(通常の株式の引受けとして)、また具体的に如何なる方法をもって算定されるべきであるのかという方法論も問題となっている。特に後者に関しては、下記のように所得税基本通達において、財産評価基本通達による評価を当てることが、明記されており、基本的に相続税における財産評価を基本目的とする評価通達によるものが合理的であるのかという点が問題となる。本件は裁決であり、当然のように、通達による処理を基本的な前提としてその判断を行っているが、正確には、下記のように通達も評価通達に準じて処理を行うものとしており、所得税法の目的において一定の調整は行われるものと考えられるが(そもそも所得税法の目的をどのように解するのかという点は定かではないだろう)、いずれも通達をその根拠とするものであり、租税法規の基本的な要請として妥当であるのかという点は検討すべきものであろう。

相続税法においては、財産評価基本通達はその合理性を最判によっても肯定されており、原則としてその評価を用いることは合理性を有しているものと評価されるが、所得税法において、特に一定の調整を付与したものが、同一の位置づけを有しているもの評価すべきは検討すべき課題である。地方税法にその根拠(委任)を有する固定資産税評価基準とは異なり、財産評価基本通達はあくまでも通達であり、その位置づけは異なるものの、実際においては両者は同様に位置づけをもって評価されている。私見としては、固定資産税評価基準と同様に、位置づけ、法令に一定の基礎を置くべきであると考えるが、すべてを法令に落とし込むことは時価、価額の概念からも非合理的であろう。

(有価証券の評価)

36-36 使用者が役員又は使用人に対して支給する有価証券(令第84条第2項各号に掲げる権利で同項の規定の適用を受けるもの及び株主等として発行法人から与えられた株式(これに準ずるものを含む。)を取得する権利を除く。)については、その支給時の価額により評価する。この場合における支給時の価額については、23~35共-9及び昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同「財産評価基本通達」の第8章第2節《公社債》の取扱いに準じて評価する。
「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」には、物品その他の資産の譲渡を低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額とその対価の額との差額に相当する利益が含まれるものと解される。
そうすると、株式を有利な払込金額で取得した場合における課税関係は、株式の取得の時に、株式の時価と払込金額との差額に相当する経済的利益を所得として捉え、当該経済的利益の価額を収入金額として課税することになるというべきである。」
以上のように、判断では、本件のような株式の移転、株式の引受においてもその経済的利益の発生を肯定している。私見としても包括的所得概念を基礎とする我が国の所得税法においては、かかるように、時価と異なる金額で資産を取得している場合には、何らかの経済的利益を得ていることは所得税法上は肯定されるものであり、課税対象となるべきものと考えられる。この点については異論がないのであるが、続いて、判断では、具体的な経済的利益を算定する方法に話が飛躍している。本来ならば、かかる取引が如何なるものであり、請求人が受けた利益が如何なる所得区分に属するものであるのかという点の検討が必要であるだろう。本件では役員、取締役として賞与として最終的には給与所得としているがその判断の根拠は示されていない。
その支給時の価額は同通達23~35共-9及び評価通達の取扱いに準じて評価する旨を定め、所得税基本通達23~35共-9の(4)のニは、株式の価額について、当該株式が非上場株式で気配相場や売買実例がなく、その公開の途上にもなく、かつ、類似法人比準方式により評価することができない場合には、評価時点又はこれに最も近い日におけるその株式の発行法人の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とする旨を定めている。これらの通達の定めは、株式を有利な払込金額で取得したことによる株式の時価と払込金額との差額に相当する経済的利益の有無を判断し、また、その価額を算定する前提として株式の価額を評価する場合において、当該株式が非上場株式で気配相場や売買実例がなく、その公開の途上にもなく、かつ、類似法人比準方式により評価することができない場合にも妥当するものと解されるが、このような一般的、抽象的な評価方法の定めのみに基づいて株式の価額を算定することは困難である。
下記のように、請求人の主張として、資産の譲渡とは異なるとの主張に関しては、会社法等をもって株式の譲渡と位置づけられることを示して、基本的に法人税法においては自己株式の処分において損益の発生(そもそも本件においては代表取締役からの株式の取得金額と請求人への引受金額は同額)は原則として観念されうるのであろうか、資本等取引の対象として理解されているように考えられる。特に出資の受入れとしての性質を肯定しながら、株式の譲渡と矛盾するものではないとの評価は如何なる根拠に基づくものであるのか、この判断は論理的な飛躍を持っているのではないだろうか。
請求人は、自己株式の処分は出資の受入れであって、資産の譲渡とは異なるから、株式を取得した者に原則として経済的利益は生じない旨主張する。しかしながら、自己株式の処分が、出資の受入れとしての性質を有することはいうまでもないが、そうであるとしても、自己株式の処分が、株式の譲渡であることと矛盾するものではなく(なお、自己株式の処分が法令上も株式の譲渡として位置付けられていることにつき、会社法第128条《株券発行会社の株式の譲渡》第1項、法人税法施行令第8条《資本金等の額》第1項第1号等を参照。)、当該自己株式を有利な払込金額で取得した場合には、その取得した者に時価と払込金額との差額に相当する経済的利益が生じると解することに支障はない
本件は税理士のアドバイスもあってその金額が評価され、当該取引の意図において株主間の株式移転から、発行法人を経由した取引を行うスキームとすることで、自己株式の取得、処分、株式の引受というプロセスが行われる事となっている点が上記のように特徴である。上記のように、経済的利益を株式の譲渡として位置づけ、判断を行うことは、この取引の根底にあるべき意図が判断に影響しているのではないだろうか(実質的な判断?)。個々の取引は、自己株式の譲渡と株式の引受であり、通常は経済的利益を生み出すものではない。この組み合わせによる成果が問題になっているものであるが、個々の取引を事実上、納税者の目的、意図によって組み換えるような効果を付与することは租税法律主義との関連において肯定されうべきであるのかという点は、本件においても検討課題となろう。
本件におけるかかるような経済的利益が所得税法において課税対象となることは上記のように肯定されるべきものであるが、上記その判断プロセスによっては、所得の類型が異なることも考えうる。移転を強調するのであれば、既存株式からの利益の移転であり、贈与等の評価にもなりうる。経済的な成果を課税対象とすることと、所得の類型は合わせて検討されるべき課題であり、法人における資本等取引、出資者側から株式の引受においても、所得を給与所得として課税対象とすべきか否かは、より詳細に検討されるべき問題ではないだろうか。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2019年2月12日火曜日

判例裁決紹介(平成29年12月6日裁決、収用換地等に関する特別控除の適用対象資産、棚卸資産の判定)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は収用換地に関する特別控除の適用対象に該当するのか否かが争われた事例です。

具体的には、建設業を営む請求人が、その所有する土地に付き、収用等によって処分する事になった場合において、その適用対象となるべき収用換地等に伴う特別控除の適用を当初申告においては、申請せず(書類添付なし)、後日その適用を求めて更正の請求を行った事例であり、基本的には特別控除の適用に関する書類添付がないことを基礎として更正すべき理由はないとされた処分の取消を求めているものである。本件では当該制度の複数の適用要件の充足を巡って争いがあるものであるが、主たるものとして書類の添付における宥恕規定の適用(やむを得ない理由の存在)及び、当該制度の適用対象となるべき固定資産に該当するのか(すなわち対象となった土地等が、棚卸資産ではないのか)という点が主たる争点となっているものである。直接的な争点としては、収用換地等に関わる特別控除の適用要件の充足が主たる争点となっているものであり、かかる点においてレアな事例であるとも捉えられようが(特に事実関係として)、その基本的な争点として法人税法における棚卸資産として如何なるものを捉え、もって固定資産を以下に把握するのかという点が問題の起点となっているものであり(特に資産の保有者の意図を基礎とした判断においていかにしてその意図を判断するのか、会計記録の処理方法を基礎としている点なども)、かかる点において、租税実務家においても参考となるべきものと考えられる。

(収用換地等の場合の所得の特別控除)
第六十五条の二 法人の有する資産で第六十四条第一項各号又は前条第一項第一号若しくは第二号に規定するものがこれらの規定に該当することとなつた場合(第六十四条第二項の規定により同項第一号に規定する土地等又は同項第二号に規定する土地の上にある資産につき収用等による譲渡があつたものとみなされた場合及び前条第七項に規定する譲受け希望の申出の撤回があつたときにおいて、同項の規定により同条第一項第四号に規定する建築施設の部分の給付を受ける権利につき収用等による譲渡があつたものとみなされる場合を含む。)において、当該法人が収用等又は換地処分等(以下この条において「収用換地等」という。)により取得したこれらの規定に規定する補償金、対価若しくは清算金(当該譲受け希望の申出の撤回があつたことにより支払を受ける対償を含む。以下この条において「補償金等」という。)の額又は資産(以下この条において「交換取得資産」という。)の価額(当該収用換地等により取得した交換取得資産の価額が当該収用換地等により譲渡した資産の価額を超える場合において、その差額に相当する金額を当該収用換地等に際して支出したときは、当該差額に相当する金額を控除した金額)が、当該譲渡した資産の譲渡直前の帳簿価額と当該譲渡した資産の譲渡に要した経費で当該補償金等又は交換取得資産に係るものとして政令で定めるところにより計算した金額との合計額を超え、かつ、当該法人が当該事業年度のうち同一の年に属する期間中に収用換地等により譲渡した資産(前条第一項第三号から第六号までに掲げる場合に該当する換地処分等により譲渡した資産のうち当該換地処分等により取得した資産の価額に対応する部分として政令で定める部分及び同条第七項から第九項までの規定により換地処分等による譲渡があつたものとみなされる資産を除く。次項及び第七項において同じ。)のいずれについても第六十四条から前条までの規定の適用を受けないときは、その超える部分の金額と五千万円(当該譲渡の日の属する年における収用換地等により取得した補償金等(変換清算金及び防災変換清算金を含む。)の額又は交換取得資産の価額につき、この項、次項又は第七項の規定により損金の額に算入した、又は損金の額に算入する金額(第六十八条の七十三第一項、第二項又は第七項の規定により損金の額に算入した金額を含む。)があるときは、当該金額を控除した金額)とのいずれか低い金額を当該譲渡の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

以上のように、本件は、収用換地等に関する特別控除の適用対象となるのかという点が問題になっているものである。上記制度の適用に関しては、下記のように、明細書の添付を必要としているものであり(正確にはその他書類の保存も含む)、本件では当初申告においてかかる添付がなされていない時点で本件の適用は困難であるが、租税特別措置法においてかかるような要件の付与は、ごく通常のものであり、多様な事例においてかかる書類要件の不備が問題になっているものである。一般的な認識においては単なる書類のミスが問題であり、形式的なものであり、その不備が適用において問題になることは想定しがたいものであるのかもしれないが、租税特別措置の性格からかかる点の不備は致命的なものであることは留意されるべきものであり、本件でも宥恕規定の適用の可能性が基本的な問題になっている。

4 第一項又は第二項の規定は、確定申告書等にこれらの規定により損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載及びその損金の額に算入される金額の計算に関する明細書の添付があり、かつ、これらの規定の適用を受けようとする資産につき公共事業施行者から交付を受けた前項の買取り等の申出があつたことを証する書類その他の財務省令で定める書類を保存している場合に限り、適用する。

また、本件で中心的な争点となっているものは、下記のように、租税特別措置法に定める収用等に関する適用対象資産において、棚卸資産を除くのかと言う文言が問題になっている。しかるに棚卸資産が如何なるものと解されるべきであるのか、という点が基礎となっている。

収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例)
第六十四条 法人(清算中の法人を除く。以下この条、次条、第六十五条第三項及び第五項並びに第六十五条の二において同じ。)の有する資産(棚卸資産を除く。以下この条、次条、第六十五条第三項及び第六十五条の二において同じ。)で次の各号に規定するものが当該各号に掲げる場合に該当することとなつた場合(第六十五条第一項の規定に該当する場合を除く。)において、当該法人が当該各号に規定する補償金、対価又は清算金の額(当該資産の譲渡(消滅及び価値の減少を含む。以下この款において同じ。)に要した経費がある場合には、当該補償金、対価又は清算金の額のうちから支出したものとして政令で定める金額を控除した金額。以下この条及び次条において同じ。)の全部又は一部に相当する金額をもつて当該各号に規定する収用、買取り、換地処分、権利変換、買収又は消滅(以下この款において「収用等」という。)のあつた日を含む事業年度において当該収用等により譲渡した資産と同種の資産その他のこれに代わるべき資産として政令で定めるもの(以下第六十五条までにおいて「代替資産」という。)の取得(所有権移転外リース取引による取得を除き、製作及び建設を含む。以下第六十五条までにおいて同じ。)をし、当該代替資産につき、その取得価額(その額が当該補償金、対価又は清算金の額(既に代替資産の取得に充てられた額があるときは、その額を控除した額)を超える場合には、その超える金額を控除した金額。次条第九項において同じ。)に、補償金、対価若しくは清算金の額から当該譲渡した資産の譲渡直前の帳簿価額を控除した残額の当該補償金、対価若しくは清算金の額に対する割合(次条において「差益割合」という。)を乗じて計算した金額(以下この項及び第八項において「圧縮限度額」という。)の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額し、又はその帳簿価額を減額することに代えてその圧縮限度額以下の金額を当該事業年度の確定した決算において積立金として積み立てる方法(当該事業年度の決算の確定の日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法を含む。)により経理したときは、その減額し、又は経理した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

措置法第65条の2第1項の本件特別控除は、法人税法第2条第20号に規定する棚卸資産には適用されないところ(措置法第64条)、法人税法第2条第20号は、棚卸資産について、「商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産(有価証券を除く。)で棚卸しをすべきものとして政令で定めるものをいう。」と規定し、それを受けた法人税法施行令第10条は、同条第1号で「商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)」と規定している。これを土地についていえば、不動産業者がその事業の過程において顧客に販売する目的を持って所有する土地は、当該不動産業者にとって、商品の性質を有するものであるから、棚卸資産に該当すると解するのが相当であり、当該不動産業者が自身の店舗の敷地又は賃貸用のマンションの敷地などに現に供しており、又は 供する目的で所有している土地は、固定資産と解するのが相当である。

上記のように判断でも、事業の過程において保有者の意思によって、その目的を判断して、商品として該当するのかという点が問題になっている。あまり明示的にされていないが、棚卸資産としての該当性というよりも、商品の解釈として販売目的の認定をその起点としているように捉えられる。通常、棚卸資産としては、販売の意図(意思)が重要と解されているが、より具体的には、商品という法規定においての解釈としてその所有者の意図が問題とされることになるもの言えよう。

二十 棚卸資産 商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産で棚卸しをすべきものとして政令で定めるもの(有価証券及び第六十一条第一項(短期売買商品の譲渡損益及び時価評価損益)に規定する短期売買商品を除く。)をいう。

(棚卸資産の範囲)
第十条 法第二条第二十号(棚卸資産の意義)に規定する政令で定める資産は、次に掲げる資産とする。
一 商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)
二 半製品
三 仕掛品(半成工事を含む。)
四 主要原材料
五 補助原材料
六 消耗品で貯蔵中のもの
七 前各号に掲げる資産に準ずるもの

この、所有者の意図を如何にして反映させることになるのか、証明することが可能となるのか、という点が本件の重要な点である。請求人は当該土地の保有、購入意図を賃貸用としてと主張しているが、裏付けとなる資料を提供できておらず、単に所有者の意思が単純に反映されるものではなく、販売目的が重要な判断要因であることは否定し難いが、単に所有者の目的を立証することは困難であることもまた、留意されるべきである。客観的にその立証が図られるべきであり、本件もその枠組が基礎して判断が行われている。具体的には、購入時の意図を会計帳簿に販売用資産としていたことが重要な判断要因としている。固定資産としていないことが課税庁の棚卸資産としての判断を支えているものであり、帳簿記帳にその信を置くものとなっている(青色申告であるのか不明であるが)。帳簿記録にどの程度の信頼を置くのかと言う判断は、専門家によっても異なるものであるが、このように、帳簿への記録が勘定科目にも重要な事実関係を認定することがあり得る(本件は裁決であり、訴訟においてここまで会計記録の勘定科目が重要視されるのかという点は考えにくいとの見解もありえよう)ことは、専門家として認識しておくべきではないだろうか。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2019年2月5日火曜日

判例裁決紹介(平成29年11月14日裁決、事業用資産に対する損害賠償とと非課税所得該当性)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年11月14日裁決で、医師である請求人がその事業用資産に関する損害賠償金につき、非課税所得としての該当性が問題となった事例です。

具体的には、本件は医師である請求人がその業務に使用する、診療所の建設を請負契約により結んだ事例において、かかる建築、建物に瑕疵があった事による損害賠償金の受領(訴訟上の和解により)した金員が、所得税法に定める非課税所得に該当するのか否かという点が争われた事例である。事業上の損失、逸失利益等多様な損失が本件では損害賠償の対象となっており(合計で数億円に及ぶ)、一部は、請求人・課税庁双方において非課税所得となるものとして依存のない部分もあるが、見解の相違もある部分も多くかかる点において、その非課税としていかなるものを対象とすることになるのか、その判断枠組みが問題となっているものである。損害賠償そのものが問題となるケースはレアなものであるが、本件は必要経費の判定も含む論点であり、参考となるべきものと言えよう。そもそも如何なるものが所得税法において、非課税とされるべきものであるのか、その性質として如何なるものが要請されるものと解されるのかという点が起点となるべき事例である。所得税法はその基礎として包括的所得概念を基礎としており、あらゆるものがその課税対象して理解される中で、非課税としてカウントされるものが、いわば例外としてどのように明らかにするべきであるのかという点は、所得税法の枠組みにおいては重要視されるべきものであろう。特に本件では事業用資産にかかる損害とその補填に関して多様な損害賠償を基礎とした事例であり、具体的な対象を検討する上で実務家においても参考となるべきものと考えられる。

十七 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの

第三十条 法第九条第一項第十七号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。

以上のように本件は、非課税所得たる損害賠償金が如何なるものとして解されるのか、特に事業用資産につき、発生した損害(通常の損害賠償と異なり、かかる損害は、必要経費として所得から控除可能である可能性が高い)をどのような基準にて分類することになるのかという点が問題となっているものである。法条文は上記のように、損害賠償金としては、必要経費に算入される補填する部分に関してはその対象として除外することとしている。一見、法文上は明らかであり、損害賠償金として必要経費としての該当性の判断が必要となりうることになる。本件では請求人の主張するように、本来の損害賠償金という文言においては、損害の補填を行うものが対象であり、必要経費に算入したか否かという点は無関係という主張も一般的な損害賠償の対象を判断する上では、一般的な問題意識を反映しているものと言えよう。通常の損害賠償であれば足りるという考えも宜なるかなと評価されよう。

所得税法第9条第1項第17号及び所得税法施行令第30条は、損害賠償金、見舞金及びこれに類する金員は損害を受けた者の心身、財産に受けた損害を補填する性格のものであって、損害を受けた者である納税者に利益をもたらさないことから、原則としてこれらの金員を非課税所 得とするが、損害賠償金等の額のうちに損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額を非課税所得となる金額から控除しなければ、当該金額につき非課税所得と必要経費の控除という二重の控除を認めることとなってしまうため、当該金額を控除した金額に相当する部分のみを非課税所得とすることを定めた規定と解される。

しかしながら、本件は上記施行令の規定を二重の控除を排除すべきものとして、必要経費として該当するのか否かという点を基礎とした判断を行っている。本件は事業用の資産であり、その点において殆どの損失が必要経費として認定されており、かかる点が非課税所得の枠を縮小している。すなわち、一般的な用語における損害賠償金と異なり、所得税法においては、必要経費としての判断の枠組みにより対象を限定していることは、文言通りではあるが、留意されるべきものと言えよう。ただし本件では事業用資産であることから、特段その内容を検討することがなく、必要経費としての該当性を認定しており、損害賠償としての非課税との対比において、過度にその対象を成約しているとの評価もなりたつとも捉えられる。

また、上記の文言からは、損害賠償金として受領した金員が必要経費としての実際の補填を要するものであるのか、どのようなタイミングで支出されているものであるのか、例えば、分割している、損害が発生してから、後日の段階で支出している、必要経費として該当しうるが、損害の補填を諦め(事業の継続等を諦め)、損害賠償金の受け取る場合のみなど、実際の損害賠償金の受領はより、多様なものが想定される。かかる場合は如何なるように非課税所得として損害賠償金の対象を限定することになるのかなどはより検討すべき点ではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。