2018年11月24日土曜日

判例裁決紹介(平成29年12月7日裁決、役員たる者がなした法人収入の簿外処理と重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年12月7日裁決で、役員たる者がなした法人収入の簿外処理によって法人に対して重加算税が賦課された事例です。

具体的には、本件は、請求人(法人)の取締役等(監査役にも)の地位にあった者(前代表者の配偶者)が給与支給関係の事務処理を担っていた際に、請求人が契約する団体保険契約に伴う事務経費収入が発生しており、かかる収入は本来、法人に帰すべきところ、当該者が自宅にて管理し、帳簿等において計上されることがなかった場合において、その法人に対して重加算税が賦課されるのか否かという点が争われた事例である。すなわち、この役員の行為が法人の行為として評価されうるものであり、かつ、仮装隠蔽に該当するのか否かという点が対象となっているものと考えられる。実質的には同族企業として個人事業主と実態において相違のないものであるが、そのような意識で管理をしていたものとも評価されようが、法人の行為として別人格としてその重加算税の処理が問題になるものと捉えられる。

このように、法人の役員や従業員が行った行為(横領や損失の発生など)が法人の行為として責めに帰すべきものであるのか、租税法規上も重加算税という重大なペナルティを課されるべき行為であるのかという点は、従来、課題とされてきた。特に横領等による損失の発生とその求償権の租税上の計上のタイミング等が主な課題として問題になってきている。本件は重加算税の賦課という点が争点になっており、いわば法人は管理者として、雇用や委任の契約を締約している対象でもあり、また、被害者の立場でもある。かかる点からその負担を法人の行為によるものとして、対象として重加算税を賦課することは酷ではないかという指摘があることが当然とも言えよう。本件はかかるような従業員や役員の行為が結果として重加算税に該当するものとして評価している。この点については、下記のように従前と整合的でもあろう。立法論としてはそのような行為までもが法人の負担としてカウントされるべきであるのかという点は問題になるだろうが、現行の法解釈としては、重加算税の趣旨目的とのバランスから法人の行為として従業員等を含みうるという解釈が主流であり、本件も整合している。従って、本件は特段法令解釈としては特徴的なものではないが、判断においては、悪意の従業員の存在に対して法人の管理運営も問題になっており、法人の業務運営上はこのような状況を整理する、整備することもまた求められているものと捉えるべきであろう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

以上のように本件の中心的な争点は、法人の役員等であった者が上記のように、重加算税の要件に合致した事実関係として、すなわち簿外処理された金員の存在が認定されうるものであるのかという点が問題となっている。
法令解釈としては、問題となる行為の主体は法規によって納税者として規定され、法人の場合は、法人の代表者の行為に限定されるものではなく、また行為における認識についても故意等を要求していないものと考えられる。また納税者としての法人は法人における役員等もその対象として成立しうるものとして理解されている。いわば比較的広範囲に及ぶものとして評価されよう。しかるにこの解釈を前提とするならば、如何なる点をもって法人の行為として同旨しうるものとして評価されうるものとして判断されるのかその基準が問題となろう。

本件は、上記につき基本的に、最判を踏襲しており、特段、法令解釈としては特徴的なものではない。いわば法人の行為として本件における事実関係が同旨しうるのか否かという事実関係の問題になっているものといえよう。判断としては、行為者の地位及び権限の存在から基礎的な枠組みとされており、本件の判断枠組みは、典型的な判断枠組みとなっている。この当てはめは参考とするべきものであり、良いティーチングケースと言えよう。

各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法第68条第1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必 要とするものではないと解するのが相当である(最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決・訴訟月報34巻1号149頁参照)。

 通則法第68条第1項は、「納税者が‥隠ぺいし、又は仮装し」と規定し、隠ぺいし、又は仮装する行為の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠ぺいし、又は仮装する行為の防止を企図したものと解される。しかし、納税者以外の者が隠ぺいし、又は仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。

法人が納税義務者である場合、その「納税者」とは、いうまでもなく代表者個人ではなく、代表者を頂点とする有機的な組織体としての法人そのものであるから、法人の意思決定機関である代表者自身が隠ぺい行為を行った場合に限らず、法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき、法人の業務として行った隠ぺい行為であって、全体として、納税者たる法人の行為と評価できるものについては、納税者自身が行った行為と同視され、同項の重加算税の対象となるものと解するのが相当である。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2018年11月17日土曜日

判例裁決紹介(平成28年10月3日裁決、債務返済の担保設定された共済金収入の一時所得該当性)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年10月3日裁決で、債務返済の質権設定の対象となっていた共済金収入の受領が個人所得課税として一時所得として該当するのかという点が課題となった事例です。

具体的には、本件は夫婦にて、酪農等の事業を営む請求人が、妻(配偶者)たる専従者に対して共済契約を締結し、もって当該被保険者である配偶者が死亡したことによる共済金を受け取った事実関係において、当該収入金が一時所得として課税対象を構成するものであるのか否かという点が問題となった事例である。以前、同様に婚姻関係にある驚異金収入の負担関係において、実質的に契約者が負担したものであり、ゆえにみなし相続財産を構成せず、雑所得の課税対象となるとした事案を取り上げた事があるが、本件も基本的には類似しており、その共済契約の原資を如何なる者が負担しているものであるのかという点が基本的な問題の起点となっているものである。より具体的には、本件の共済金は共済契約を締結している保険者である農業協同組合が請求人の事業において事業資金を融資しており、当該融資金の返済の原資として質権設定が行われている点が特徴的(かかるような事業資金の返済に関しては生命保険において担保することが保険業法、倫理的に担保されるのか否かという点は別途検討すべきであろうが)である。このような事業資金の返済に回されるべき(実際、請求人の口座に入ってきたものはそのまま返済に充当されている)資金の受領が実質的に所得税の課税対象として所得として該当しているのか否かという点が争点となっているものと考えられる。最終的には上記のように、請求人が当該契約の資金を負担しており、発生した資金の原資が請求人に依拠していることから、当該収入による所得は一時所得として課税されていることが判断として是認されている事例である。本件は以上のように中心的な争点は契約の資金原資が如何なる者によるものであるのかという点を基礎としており、法令解釈というよりは事実関係を如何に認定するのかという点が中心的な争点となっているものと捉えられるが、より理論的には、所得をいかにして区分しているのかという点がその背景にあるものと言えよう。かかる点は理論上も重要な点であるが、一時所得の起点となる資金の負担者を如何にして認定するのかという点も中心的な問題で(租税法規の当てはめ、保険契約による資金の受領においては典型的なケースでもあろうが)、家族間で事業を営む関係性において、家族間の所得分散、費用負担等を明確に区分することが可能であるのか(財産の帰属関係も含め)という点が問題となるものであり、本件における原資の負担関係の判断は、往々にして典型的な事例であり、かかるような判断の枠組みは、租税負担を具体的な判断において実務家としても重要な点であるのではないだろうか。専門家としては、家族間での金銭、財産関係の負担に関しては留意が必要であることを改めて認識されるべきであろう。

一時所得)
第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。



相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)
第三条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

以上のように、本件の中心的な課題は、請求人が受け取る共済金の収入が一時所得として課税対象となりうるのか否かという点である。本件対象となった共済金は事業資金の返済に使用され(債務担保として質権設定が行われている)、当該収入がそもそも所得を構成しないのではないのかという点を納税者か問題視していることによるものであろう。判断では契約の実行者や受取口座の状況(名義等)等の判断要素から、一時所得として課税対象から除外されるみなし相続財産であるのか否かという点が問題視され、最終的には負担者が請求人あるとして一時所得として課税することとしているものである。

特段議論されていないものであるが、このような資金の返済に充当されるような金銭の受領がそもそも所得であるとして租税負担を行うべきものとして該当するのであろうか。一般的な納税者の感覚において、最終的に手元に残るものが利益・所得であり、残らないものはその対象ではないという感覚は、必ずしも否定されるべきものではないだろう。このような納税者の素朴な問に対して、如何なる所以をもってその対象としての所得を構成するものとして答えられるであろうか。単に包括的に所得を把握するという点を強調してもその対象を合理的に説明することは実際的には困難なような状況も到来しよう。

本件判断は、契約の負担者が如何なる者であるのかという点に実質的に依存した判断であり、かかる点において、なぜ一時所得を構成しているのかという点、一時所得であるのか、みなし相続財産となるのかという点を具体的には検討していない。かかる点は判断過程において疑問が残るものであろう。みなし相続財産としての負担関係をなぜ口座名義等から判断することが合理的であるのかという点はより検討が必要ではないだろう。そもそも所得税法は包括的所得概念を採用していると解され、本法においては所得の定義をおいていない。ただし上記のように法令解釈として非常に広範囲を所得とすることが判例においても確立しているもの考えられるが、かかる点もとくにふれられていないが(所与のものとして理解しているのであろうか)、消費型の所得概念も近年は強く支持される場合もありうるところであり、租税法規においていかなるものを所得としていくのかという点は必ずしも明示的ではなく、もって二重課税が必ずしも容易に判断されるものではないことも留意されるべきであろう。

また本件のもう一つの争点であるが、配偶者に対する資金の負担関係を如何に評価するのかという点である。口座からの資金の負担、出金等の事実関係に依存した判断が行われているが、すなわち重要なメルクマールとなっているが、上記のように被相続人の負担という法令の解釈においてその点を如何に捉えるのかという点が重要であろう。本件のように共同で、夫婦協力して事業を行うような場合は事例としては多いが、所得税法は所得の分散という租税負担の回避を防止するため基本的に代表者(一般的には夫)に所得があったものとしていわば共同事業体としての夫婦関係を、単一の所得帰属関係に擬制して課税されることが常となっている。この点は一部青色専従者給与等、例外的にその所得の帰属を変更することを認めているが、限定的である。実際における事業収入は夫婦共同で形成されたものであり、民事法においても配偶者の共有性を否定することは困難であろう(財産分与等の対象となりうる)。このように共同で営む事業が基礎となっているような状況下において、資金を負担した口座の名義等による判断が法令が求める負担という点を顕現しているものと捉えることが必ずしも合理性を有するものとは言えないのではないだろうか。確かに課税処分の大量性等の性格を鑑みれば、口座名義等の形式的な情報に判断の基軸を置くことは必ずしも否定できない。しかしながら、負担関係を判断するにおいて、事業資金の形成において配偶者の貢献を考慮せず、名義等の形式的な判断を基礎として、負担がないものとして認定することが近年の配偶者の貢献を強く認定しようとする民事法の改正や、働き方の多様化の現状に鑑みて、租税法規においてこのように形式的な限定的な判断を行う、すなわち資金の負担関係、財産の帰属関係につき判断を行うことが妥当であるのかという点は、拡張的な解釈は一定の合理性を有しているのかではないだろうか(立法論であるのかもしれないが)。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものであり、完成度は低いですが、参考までに。

2018年11月5日月曜日

判例裁決紹介(平成29年6月22日裁決、推計課税適用の必要性と合理性)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月22日裁決で、推計課税の適用における合理性が問題となった事例です。

具体的には、内装業を営む請求人(未申告)が課税庁による実地の調査に対して、日程調整への非協力、帳簿等の不提示を行ったため、所得税法156条に基づく推計課税の適用を行った課税処分を行ったところ、その取消を求めた事例である。すなわち推計課税の適用の是非が問題になった事例であり、未申告等があった場合、さらには、納税者として実地調査(質問検査の行使)において日程調整に非協力(6回ほど)あったような事案においって、課税を結成処分において行い、さらに、消費税における仕入税額控除の適用の否定を行っているものである。実地の調査が納税者の非協力によって実施できない状況は租税専門家が関与する中ではどの程度実際に発生するような状況にあるのかという点は、聞いてみたいところであるが、単に納税額が推計されるのみならず、総合的に仕入税額控除の否認など、更には反面調査の実施など(本件でも問題となっているが)、納税者にとってリスクとも考えられるような状況が発生することは改めて認識されるべきであろう。推計課税の適用においては、実額による反証は極めて困難であり、必要経費の存在など部分的な立証のみではその適用を覆すことは困難であり、悪魔の証明のような実質的な所得の情報の把握が必要とされることは、説明されるべきものと言えよう。

本件では推計課税の適用の合理性・必要性が争われているが、どの程度の必要性が必要とされているのか、法文上は明確ではなく、法的にどの程度の趣旨が要請されているのかという点も問題となっている。かかる点は従前租税法規の適用においては、問題となってきたものであり、近年はその適用事例は減少しているものと認識されるが、改めてその適用条件、範囲を検討する上で、本件は従前と同様にその範囲を検討する上で参考となるものと考えられる。

また手続法上や、反面調査の実施における瑕疵も主張されているが、基本的に請求人の主観的な要因(仕事が忙しいなど)が日程調整、調査の実施に関して非協力であったことにより、推計や反面調査などが行われる事になっている。調査への非協力や時間稼ぎ、引き伸ばしなどは、結局の所、現行法規においては、フェアな納税者との対比において、適切な納税環境を構築するにあたっては、劣位な行為として評価されることもまた、認識されるべきであろう。当たり前のようであるが、これも申告納税制度基軸においており、かかる点において、事前通知等の手続整備が行われているが、平成23年改正前と基本的に変わらず、その調査における瑕疵は課税処分の適法性において極めて限定的に解されるものと理解されるべきものと考えられる。

(推計による更正又は決定)
第百五十六条 税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができる

「所得税法第156条は、所得税につき更正をする場合において、所得金額を推計して課税することができる旨規定しているが、飽くまで課税処分における課税標準の認定は直接資料に基づく実額計算の方法によるのが原則であり、推計による課税が認められるのは、やむを得ず推計によらざるを得ない場合、すなわち、①納税義務者が収入及び支出を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていないこと、②帳簿書類の備付けがあってもその記載内容が不正確であること、又は③納税義務者が資料の提供を拒否するなど税務調査に非協力であることなどにより、実額計算の方法による課税を行うことが不可能又は著しく困難な場合に限られると解される。」
以上のように本件の中心的な争点は推計課税適用における必要性・合理性である。申告納税方式を採用する所得税法において(我が国の租税制度全般において)原則として自らの所得を開示し、適切な納税負担に関して、ここの事情を反映させ、申告を行って租税法規の適用を図ることを原則としていることから、解釈として、推計課税の適用に関しては、止む得ない場合に限定している。実額課税によることを不可能もしくは著しく困難な場合に限定することとしている。この適用要件の是非、具体的な必要性等に関しては従来、多様な事例が存在しており、多数の議論が行われてきている。本件もその類型に属するものであり、上記のように、推計課税はあくまでも例外的な方法として理解している。もちろん法文上はできる規定としてあるのみであり、その必要性など具体的な適用に関する制限は必ずしも規定されておらず、抑制的な運用が行われているものとも考えられるが、実際推計課税が適用される場合はとはいかなる場合であるのかという点が課題となる。実質的には推計課税の適用が争われるような状況では、対象が問題がある納税者が多いものと考えられ、本質的に必要性が問題となることはないものとも考えられるが(質問検査における必要性以上にその点が実際のところ瑕疵を伴うものであることは考えがたい)、本件判断は上記のように明示的に例示を行っており、156条の適用範囲を検討する上で有益なものと考えられる。

実際の例示は、従前の例と特段差異がないものと捉えられるが、本件のように納税者の非協力を如何に理解するべきであるのかという点が問題ではないだろうか。本件では最終的に納税者の非協力によって実地の調査が困難であったことが認定されているが非協力と実額認定が不可能等であるとはどのように関連付け議論されるべきものであろうか。非協力に対する反証としては、納税者が協力する意思があったことを主張することが想定されるが、納税者の主観的な要因をどのように捉え、対応していくべきであるのかという点は非常に困難ではないだろうか。換価の猶予等において納税者の意思を反映させる規定は一定程度租税法規においては存在しているが、曖昧模糊としたものであり、実質的な基準として機能しているのかという点は検討の余地があるものと考えられる。換価等の納税義務の確定ごとは異なり、調査段階における意思の反映は、より課題も多いものと考えられ、適正な納税義務の履行と権利保護とのバランスにおいて、検討の余地が大きいものと捉えられる。実地調査が認知調査の枠組みで構成されていることとの整合性が取れないとの意見もあろうが、現行法の枠組みにおいて、推計課税は、フェアを確保する手段として機能しており、非協力のような幅広い状況であっても現行法の解釈として正当性を持つものとして理解されていることは留意されるべきであろう。

また、本件判断では、推計の合理性も問題となっている。この点も推計課税において如何なる程度の推計の合理性があるべきであるのかという点は従前問題となっているものであるが、解釈としては歩いていど幅のある概念として、また、実額課税との間で高度な合理性が求められているものとは異なるという理解が主流となっているものと想定sれる。本件では収入面は反面調査から、そして経費面は同業からの類推により判断されている。判断では下記のように、経験則上という文言が使用されているが、厳密な合理性を要求されているものではない事もまた、前提となっているものと言えよう。推計課税が納税義務の確定を図るものであり、かかる点では強固な規定であることを考慮すれば、より厳密な推計を要求するような議論もあり得ようが立法の問題とも言えよう。

「一般に、業種・業態が類似する同業者にあっては、特段の事情がない限り、経験則上、同程度の総収入金額に対し同程度の所得が得られると考えられ、このことは請求人の営む事業の場合であっても例外でなく、かつ、請求人に特段の事情があるとは認められない。」
さらに本件では特段の事情の有無については、ほぼ議論がないものであるが、如何なるものが特段に事情に該当するのかという点も含め、より明らかにすべきことは多いものと言えよう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(平成29年3月14日裁決、遺留分減殺請求による和解金の一時所得該当生)

さて、また興が乗ったので判例裁決を作成しました。今回は平成29年3月14日裁決で、遺留分減殺請求による財産の受け取りが一時所得として課税された事例です。

具体的には、相続人たる請求人が財産を遺言(生前の貸付け等の存在)により一切の財産を受け取ることができなかったため、他の相続人に対して、遺留分減殺請求の訴訟を行い、かつ期間の経過に伴い、果実に関する弁償金の受領を求めたところ、主張が対立し、一年以上の長期間に渡って紛争が長引き、結果裁判所の提示に基づく、和解金の受領として一時金を受領した事例であり、かかる金員が一時所得に該当するとして更正処分を行ったことに対してその不服を申し出たものである。

最終的な判断は、課税庁の主張するように、当該金員は、相続に伴い価額弁償金等(あわせて、納税者は財産が取得できなかったことに対する損害賠償という主張もしているが)ではなく、相続人間の紛争解決のための一時金であると認定し、一時所得として課税することを認めている。しかしながら通常、遺留分減殺請求による財産の取得は相続関係の変更であり、相続税をもって調整されるべきものとして考えられており、更正の請求や修正申告をもって対応することが通常となるものであるが、かかる関係において、その金員の性質が変化し、紛争解決の和解金として一時所得になるものとして取り扱われるような状況になっていることは本件における特徴的な点であろう。

和解に関する明細においては遺留分や相続関係によるものとの記載があるのにもかかわらず、しかも裁判所による提示であり、第三者が関与している状況下にあって、かかるような相続関係による財産の取得から一時金に状況が変更になっている点は、特徴的であり、判断においてもかかるような記載は名目的なものとして取り扱っている点は興味深い。このように本件は基本的には法令解釈というよりも、事実関係における認定を基礎としたものであり、その評価が課題になっているものと捉えられる。私見としては裁判所という第三者が関与している段階においてかかる和解を相続によるものから名目的なものとして取り扱う事実認定は些か疑問を覚えるところでもあるが、本件のような長期間に渡り、かつ主張が対立しているような事例においては、所得の性質も変化することがありうるという点においては、本件は実務上も参考になるものと言えよう。具体的にどのような事由の存在が変化をもたらすものであるのかという点は、租税法規の解釈に影響を受けるものであり、かかる点を深化させることが重要であろう。

相続における紛争の発生は、相続税負担等にかかわらず、実際には起こりうるものであり、問題となる遺留分は法的に保護された相続人の権利(もちろん、この性質は複雑であり、議論の余地はあろうし、今度の相続税改正において一定の制限が入るなど、より相続税法において検討すべきものと考えられるが)、であり、その実行により発生した金員がいかなる性質を持つものであるのかという点は、特に相続関係から離れ、課税関係が変更されるという点は重要であろう。

下記のように基本的に遺留分減殺請求は相続の延長にあるものとして捉えることは一般的であろうが、このように訴訟の経過によっては単にスタートになる事実が相続によるものであっても実質的にその金員の性格が認定されていることは、本来の遺留分減殺請求の段階においては、一定の紛争の存在が想定されるものであり、かかるような租税法規の適用による性格決定、事実認定は、納税者にとって実質的な二重課税ともいえるような状況が発生する(そもそも相続税と所得税の二重課税という状況が如何なるものであるのかという点は必ずしも定かではないが、下記所得税法9条における非課税規定の解釈として、その性質が如何なる形で変化するものであるのかという点は興味深い)ことも想定され、このようなリスクの存在は、事業承継等が強化されるような近年においては遺留分を侵害するような相続関係の構成等、リスクも生み出しうるものであり、実務家としては紛争の予防も含め、考慮しておくべきものであろう。本質的には、専門家責任としてこのような状況の発生を生じさせないことが重要なのではないだろうか。

十六 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)

以上のように本件の中心的な課題は、遺留分減殺請求に端を発する訴訟の和解金の受領が所得税法上の一時所得に該当するのか否か、すなわち課税対象となるのか否か、という点が課題となっている。遺留分減殺請求の弁償金が如何なる性格のものであるのかという点は基本的に、民事法の領域に委ねられるべきものであるが、このような相続紛争による金員が最終的に相続関係の軛を離れ、相続人間の紛争の処理に関わるものとの認定は、私見ながら和解による積算の内訳において遺留分等の精算等の記載があり、かつこれが第三者たる裁判所の提示によるものでありながら、これを名目的なものとして認定している点は、下記のように、些か乱暴であるような印象を受けるものであるが、、かかるような判断を行っている点は課税庁の判断基準を考える上で重要であろう。



「請求人と■■との間に存する本件相続に関する一切の紛争を解決するための和解金ないし解決金の性質を有するものと認められることからすれば、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得に当たるものではなく、臨時的・偶発的な所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであるから、所得税法第34条第1項に規定する一時所得と認めるのが相当」

如何なる所以をもって民事法上の価額弁償金から逸脱しているのか、あるいは所得税法に定める非課税所得への該当性を判断しているのかというような点が交錯する論点であり、基本的に事実認定をもって本件判断は行っているが、納税者にとっては租税負担が非常に変化する重要な判断であることは言うまでもない。しかしながら、このような転換、金員の性格の変更が判断された基準、メルクマールは必ずしも明らかとなっておらず、訴訟段階において対立や、長期間に及舞踊な状況が指摘されているのみであり、如何なる基準に当てはめ性質、非課税ではないとして判断しているのかという点は判断プロセスに示されていないものと評価される。事実認定をもって判断を行っているのみであり、一時所得に該当する点は、確かに、所得税法は包括的所得概念を基礎としており、広範囲に租税負担を求めていることから、その対象とすることに異論はないが、9条における非課税規定への当てはめがなぜ排除されているのかという点は、本来的に検討されるべきものではないだろうか。かかる点においてはより判断を追加すべきものと考えられる。その場合において、相続等の範囲が如何なるものであるのかという点は解釈上重要であるが、そもそも二重課税と言いながらも如何なる二重課税を排除する規定であるのか定かではなく、もって相続等の範囲を明示的に理解することは困難であり、かかる点はより検討の余地があろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。