さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年12月7日裁決で、役員たる者がなした法人収入の簿外処理によって法人に対して重加算税が賦課された事例です。
具体的には、本件は、請求人(法人)の取締役等(監査役にも)の地位にあった者(前代表者の配偶者)が給与支給関係の事務処理を担っていた際に、請求人が契約する団体保険契約に伴う事務経費収入が発生しており、かかる収入は本来、法人に帰すべきところ、当該者が自宅にて管理し、帳簿等において計上されることがなかった場合において、その法人に対して重加算税が賦課されるのか否かという点が争われた事例である。すなわち、この役員の行為が法人の行為として評価されうるものであり、かつ、仮装隠蔽に該当するのか否かという点が対象となっているものと考えられる。実質的には同族企業として個人事業主と実態において相違のないものであるが、そのような意識で管理をしていたものとも評価されようが、法人の行為として別人格としてその重加算税の処理が問題になるものと捉えられる。
このように、法人の役員や従業員が行った行為(横領や損失の発生など)が法人の行為として責めに帰すべきものであるのか、租税法規上も重加算税という重大なペナルティを課されるべき行為であるのかという点は、従来、課題とされてきた。特に横領等による損失の発生とその求償権の租税上の計上のタイミング等が主な課題として問題になってきている。本件は重加算税の賦課という点が争点になっており、いわば法人は管理者として、雇用や委任の契約を締約している対象でもあり、また、被害者の立場でもある。かかる点からその負担を法人の行為によるものとして、対象として重加算税を賦課することは酷ではないかという指摘があることが当然とも言えよう。本件はかかるような従業員や役員の行為が結果として重加算税に該当するものとして評価している。この点については、下記のように従前と整合的でもあろう。立法論としてはそのような行為までもが法人の負担としてカウントされるべきであるのかという点は問題になるだろうが、現行の法解釈としては、重加算税の趣旨目的とのバランスから法人の行為として従業員等を含みうるという解釈が主流であり、本件も整合している。従って、本件は特段法令解釈としては特徴的なものではないが、判断においては、悪意の従業員の存在に対して法人の管理運営も問題になっており、法人の業務運営上はこのような状況を整理する、整備することもまた求められているものと捉えるべきであろう。
(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
以上のように本件の中心的な争点は、法人の役員等であった者が上記のように、重加算税の要件に合致した事実関係として、すなわち簿外処理された金員の存在が認定されうるものであるのかという点が問題となっている。
法令解釈としては、問題となる行為の主体は法規によって納税者として規定され、法人の場合は、法人の代表者の行為に限定されるものではなく、また行為における認識についても故意等を要求していないものと考えられる。また納税者としての法人は法人における役員等もその対象として成立しうるものとして理解されている。いわば比較的広範囲に及ぶものとして評価されよう。しかるにこの解釈を前提とするならば、如何なる点をもって法人の行為として同旨しうるものとして評価されうるものとして判断されるのかその基準が問題となろう。
本件は、上記につき基本的に、最判を踏襲しており、特段、法令解釈としては特徴的なものではない。いわば法人の行為として本件における事実関係が同旨しうるのか否かという事実関係の問題になっているものといえよう。判断としては、行為者の地位及び権限の存在から基礎的な枠組みとされており、本件の判断枠組みは、典型的な判断枠組みとなっている。この当てはめは参考とするべきものであり、良いティーチングケースと言えよう。
各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法第68条第1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必 要とするものではないと解するのが相当である(最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決・訴訟月報34巻1号149頁参照)。
通則法第68条第1項は、「納税者が‥隠ぺいし、又は仮装し」と規定し、隠ぺいし、又は仮装する行為の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠ぺいし、又は仮装する行為の防止を企図したものと解される。しかし、納税者以外の者が隠ぺいし、又は仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
法人が納税義務者である場合、その「納税者」とは、いうまでもなく代表者個人ではなく、代表者を頂点とする有機的な組織体としての法人そのものであるから、法人の意思決定機関である代表者自身が隠ぺい行為を行った場合に限らず、法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき、法人の業務として行った隠ぺい行為であって、全体として、納税者たる法人の行為と評価できるものについては、納税者自身が行った行為と同視され、同項の重加算税の対象となるものと解するのが相当である。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。