さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は札幌地判平成29年6月22日で、雇用者給与増加に伴う特別控除の適用において当初申告要件としての明細書への記載が争われたものです。
本件は事業を営む原告が確定申告したところ、後日、雇用者給与支給額の増加関する特別控除の適用がなかったとしてその適用をも求める更正の請求を行い課税庁が、当初申告の段階において雇用者給与等に関する明細の記入がなかったとしてその適用を否定した事例である。以前、下記のように、裁決段階で法人税法における当初申告の不備を問題視した事例があったが、今回は所得税法における当初申告要件が課題となっている。租税法規としては異なるものの基本的に構造は共通しており、その判断も同様である。下記とともに、実務において比較的最近のその重要性が問題になったものであり、実務上も留意されるべきであろう。
基本的に法令判断として、また事実認定(特に当初申告における明細の未添付など)は、共通的であり、より横断的に租税特別措置における当初進行要件に対する手続規定の重要性を示唆するものと言えよう。
なお、判示においては、具体的に触れられていないが、納税者が主張するように、実質的な給与支給額の増加が、過年度の確定申告書と現年の確定申告書において、判断ができるところであり、制度適用の要件として事足りるとの主張もあり得ようが、かかるような点は立法によって解決されるべきものであり、当初申告要件における実質的な充足を、明細以外の補足的な資料において根拠づけられるところまで、その手続要件の守備範囲として捉えることは、租税特別措置において如何なる所以をもって当初申告を付与しているのかという点を損なうものであり、拡張的な解釈として受けいることは困難なものでとして考える。単なる手続要件であり、形式的なものを指すものであって、実質的には、給与支給の要件はクリアしているような場合において、一般的な納税者の感覚において適用が認められないことは不公平、納得がいかないという印象を持つことは、理解されるところであるが、租税特別措置において適用要件として、一定の規定をおいていることの重要性は左右しかねることは、実務家としてより強く認識されるべきものと言えよう。
以上です。毎度の如く論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
2018年3月3日(土) 17:08 濱田洋 <hihamada@gmail.com>:
各位濱田です。業界的に非常に忙しい時期だと思いますが、皆さんいかがでしょうか・・・。私は引越しにより大量の荷物と格闘しておりますが・・・元町をぶらついていいお店を探しているところです(今のところ酒屋さん経営のお店で日本酒が安くてたくさんあるお店は1件見つけました)。研究室も大量の本が溜まって来たので整理せねば・・・(誰か手伝って)。来年度の合格者も決定し、3月に入ったので来年度の準備にも追われています。
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年2月6日裁決で、 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 の適用にあたり、当初申告において、ミスにより当該支給額を誤って記載していたことに対して、事後的に更正の請求により救済されうる対象になるのか否かという点が争われたものです。
具体的には本件は、請求人が支給した給与等が前年度よりも増加しているにも関わらず、 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 の適用を申請する際に、誤って確定申告により記載する明細に対して増加額を記載せず(支給額を誤って記載)、かかる状況に対して更正の請求により当該特別控除の適用が行われうるものであるのかという点が課題となっている。更正の請求は下記のように法定の要件に合致していることを要件としており、より具体的には、申告段階において過大であるのかという点が中心的な争点となっているものと考えられる。一見すると、制度適用において、実質的な当該特別控除の適用要件は充足しており、もって申告段階では過大であることは明らかであるようにも捉え(一般的にはこちらの感覚が多いのかもしれない)、すなわち、実態として支給給与額の増加という実質的な要件を満たしているにも限らず、入力ミスという形式的な部分の誤りにより適用が否定されることは、バランスを欠いているのではないかという、思考が背景にあるようにも捉えられよう。一般的な感覚としてこのような理解を行うことは特段理解ができないところではないものの、結果としては、本件はこのような判断を否定しており(後述するように判断過程には疑問を持つものの、結論には賛成)、かかる判断枠組みは専門家として留意すべきものであるように考えられよう。確かに納税者にとって自らの責めに帰すべきものとはいえ(正確には税理士などの専門家が関与している場合が多かろうがこのような場合は、ミスに対する民事上の過失責任の問題である)、単なる形式的な誤りによる不備があることにより、租税制度上の不利益(得られし特別控除の適用)が適用できないことは甘受し難いとの思いを持つことは容易に想像ができることであり、かかる点からも留意点を示しているものといえよう。近年の租税制度においては、本件で課題となった雇用者給与等支給額増加に伴う特別控除は、その適用を増加させており(試験研究費関係や雇用増等と並び)、非常に重要な租税特別措置となっており、適用局面が多いことからも、当初申告におけるミスがそのまま救済の対象とはならず、すなわち事後においてもリカバリ対象とならないことは、当初申告要件が付与されている点においては当然のことにも考えられるが、租税専門家として、留意すべき点でありかかる点を明らかにしている点で本件は、参考となるものといえよう。また、本件制度以外にも、当初要件を付与された制度は増加傾向にあり(租税特別措置に対する見方の変化にもよるのかもしれないが)、かかる点からも当初要件の性格を理解する点でも本件は有益な事例であろう(他にも個人的には当初申告が不備であることによる制度適用の未充足が不当利得返還請求の対象となりうるものであるのかという点も気になるところであるが)。
(更正の請求)
第二十三条 納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、九年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第二十六条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
二 前号に規定する理由により、当該申告書に記載した純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に純損失等の金額の記載がなかつたとき。
三 第一号に規定する理由により、当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に還付金の額に相当する税額の記載がなかつたとき。
以上のように本件は、請求人が当初申告において誤記を行ったことにより明細の金額に不備が発生したことに対して、更正の請求によるリカバリーが行われうるものであるのかという点が中心的な課題となっているものである。当初申告要件は、下記のように本件の特別控除においては、規定されていることは明らかであり、この充足がないという事実関係に関しては、特段争点となっているものではない。誤記があることにより当初申告における納税額の計算において過大が発生しているのか否かという点において上記更正の請求の対象となりうるものであるのかという点が具体的に問題となっているものと捉えられる。すなわちこの当初申告段階における明細の誤記による制度適用ができないことが、過大であることに該当するのか否かという点で議論となっているものであり、最終的に判断では、かかる点を否定し、当初申告要件が付与されていることから当初の申告段階で不備があろうとも、過大ではないとの判断が導かれ更正の請求の対象とはならないとして結論付けられている事案である。
第四二条の一二の四 青色申告書を提出する法人が、平成二十五年四月一日から平成三十年三月三十一日までの間に開始する各事業年度(第四十二条の十二の規定の適用を受ける事業年度、解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、当該法人の雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額(以下この項及び第四項において「雇用者給与等支給増加額」という。)の当該基準雇用者給与等支給額に対する割合が増加促進割合以上であるとき(次に掲げる要件を満たす場合に限る。)は、当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額(第四十二条の四第六項第二号に規定する調整前法人税額をいう。以下この項において同じ。)から、当該雇用者給与等支給増加額の百分の十に相当する金額(以下この項において「税額控除限度額」という。)を控除する。
この場合において、当該税額控除限度額が、当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額の百分の十(当該法人が中小企業者等(同条第二項に規定する中小企業者又は農業協同組合等をいう。次項第五号ハ及びニにおいて同じ。)である場合には、百分の二十)に相当する金額を超えるときは、その控除を受ける金額は、当該百分の十に相当する金額を限度とする。
一 当該雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上であること。
二 平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を超えること。
4 第一項の規定は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に、同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする。
このように本件では、当初申告要件に対して、単なる手続的な規程であり実質的なものではないと理解する納税者と制度適用において重要な要件であると解している課税庁との見解の対立が本件の起点になっているものであろう。私見としては当初申告要件が付与されていることは明らかであり、この記載の不備が原則として適用要件として機能するものであり、実質的な要件と区別すべきであるとは評価しがたい。誤記による修正が反映されうるものであるのかという点は当該特別控除の制度趣旨において当初申告要件が如何に位置付けられているものであるのかという点から検討すべきものであると考えられる。本件では以下のように、措置法一般の性格から判断を導いているが、一般的な検討によるものであり、必ずしも本件特別控除における誤記の存在や要件の性格を検討するものとしては捉えがたく、本件特別控除における制度趣旨から如何にしてこの当初申告要件が理解されるべきものであるのかという点の検討は行われていない。この点は留意が必要であるものと考えられる。
措置法は、種々の特例規定を設け、納税者に特例の適用を受けて申告するか否かを委ねているところ、特例の適用を受ける場合には、申告に際してその適用を受けるべき金額を記載することや所定の書類を添付することなど、一定の手続の履行を要求し、もって課税手続の明確及び安定を図っている。
租税特別措置が基本的に一定の政策目的のもとで、租税負担の公平を犠牲としつつ当該目的の達成を企図するものである以上、申告段階において要件の充足を、明確に判断できるように、一定の手続を要請していること(事実上立証責任を転換している)は公平性と政策目的達成を整合的に図るべき趣旨として重要なものであると判断すべきであるが、本件においてもかかる点は相違はないものと考えられるが、原則的な当初申告要件の性格はかかる背景を持つものとして理解されるべきであるが、基礎となる制度趣旨との対比において、ミス等を本件制度において如何に位置づけるべきであるのかという点はさらに検討の余地があるのでないだろうか。もし、本件のような判断枠組みが適用されるものであるならば、租税特別措置一般において誤記のようなミスによる不備は救済対象としてはならないものと捉えられようが、このような一般的な結論はより詳細な検討が必要であるものとも考えられる。
納税者の主張にあるように、税額控除においてミスによる修正を、更正の請求として認めた最判(最判平成21年7月10日)もあるものであるが、かかる判決は、 法人税の確定申告において,法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)68条1項に基づき配当等に係る所得税額を控除するに当たり,計算を誤ったために控除を受けるべき金額を過少に記載したとしてされた更正の請求が,法人税法68条3項の趣旨に反するということはできず,国税通則法23条1項1号所定の要件を満たすとされた事例 であり、租税特別措置の適用要件における誤記とは些か条件を異にするものと評価されるが、特に制度適用において背景とする趣旨が異なるものであり(配当の二重課税の調整と給与支給額の増加へのインセンティブ)、かかる点から本件特別控除における誤記の対応を限定的に解することは必ずしも直接的には導かれない(あくまでも判示の枠組みが直接的に適用可能ではないと導くものであろう)。しかるにより明示的に本件制度において個別の制度趣旨の観点からより詳細に雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除において当初申告要件が如何なるものを担保しようとしているのかという観点からより個別具体的な検討が必要であるといえよう。
更正の請求の対象としてこのようなミスを含みうるものであるのかという点は、拡張的な解釈として、より明示的には拡大する方向を検討することもありえようが、かかる点は立法論として理解されるべきであり、租税特別措置においてこのような措置を取りうるべきであるのかという点は見解が別れることになるように捉えられる。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。