2018年9月28日金曜日

判例裁決紹介(札幌地判平成29年6月22日、雇用者給与支給額増加に伴う特別控除の適用要件と当初申告における明細の未添付)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は札幌地判平成29年6月22日で、雇用者給与増加に伴う特別控除の適用において当初申告要件としての明細書への記載が争われたものです。

本件は事業を営む原告が確定申告したところ、後日、雇用者給与支給額の増加関する特別控除の適用がなかったとしてその適用をも求める更正の請求を行い課税庁が、当初申告の段階において雇用者給与等に関する明細の記入がなかったとしてその適用を否定した事例である。以前、下記のように、裁決段階で法人税法における当初申告の不備を問題視した事例があったが、今回は所得税法における当初申告要件が課題となっている。租税法規としては異なるものの基本的に構造は共通しており、その判断も同様である。下記とともに、実務において比較的最近のその重要性が問題になったものであり、実務上も留意されるべきであろう。

基本的に法令判断として、また事実認定(特に当初申告における明細の未添付など)は、共通的であり、より横断的に租税特別措置における当初進行要件に対する手続規定の重要性を示唆するものと言えよう。

なお、判示においては、具体的に触れられていないが、納税者が主張するように、実質的な給与支給額の増加が、過年度の確定申告書と現年の確定申告書において、判断ができるところであり、制度適用の要件として事足りるとの主張もあり得ようが、かかるような点は立法によって解決されるべきものであり、当初申告要件における実質的な充足を、明細以外の補足的な資料において根拠づけられるところまで、その手続要件の守備範囲として捉えることは、租税特別措置において如何なる所以をもって当初申告を付与しているのかという点を損なうものであり、拡張的な解釈として受けいることは困難なものでとして考える。単なる手続要件であり、形式的なものを指すものであって、実質的には、給与支給の要件はクリアしているような場合において、一般的な納税者の感覚において適用が認められないことは不公平、納得がいかないという印象を持つことは、理解されるところであるが、租税特別措置において適用要件として、一定の規定をおいていることの重要性は左右しかねることは、実務家としてより強く認識されるべきものと言えよう。

以上です。毎度の如く論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。





2018年3月3日(土) 17:08 濱田洋 <hihamada@gmail.com>:
各位

濱田です。業界的に非常に忙しい時期だと思いますが、皆さんいかがでしょうか・・・。私は引越しにより大量の荷物と格闘しておりますが・・・元町をぶらついていいお店を探しているところです(今のところ酒屋さん経営のお店で日本酒が安くてたくさんあるお店は1件見つけました)。研究室も大量の本が溜まって来たので整理せねば・・・(誰か手伝って)。来年度の合格者も決定し、3月に入ったので来年度の準備にも追われています。

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年2月6日裁決で、 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 の適用にあたり、当初申告において、ミスにより当該支給額を誤って記載していたことに対して、事後的に更正の請求により救済されうる対象になるのか否かという点が争われたものです。

具体的には本件は、請求人が支給した給与等が前年度よりも増加しているにも関わらず、 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 の適用を申請する際に、誤って確定申告により記載する明細に対して増加額を記載せず(支給額を誤って記載)、かかる状況に対して更正の請求により当該特別控除の適用が行われうるものであるのかという点が課題となっている。更正の請求は下記のように法定の要件に合致していることを要件としており、より具体的には、申告段階において過大であるのかという点が中心的な争点となっているものと考えられる。一見すると、制度適用において、実質的な当該特別控除の適用要件は充足しており、もって申告段階では過大であることは明らかであるようにも捉え(一般的にはこちらの感覚が多いのかもしれない)、すなわち、実態として支給給与額の増加という実質的な要件を満たしているにも限らず、入力ミスという形式的な部分の誤りにより適用が否定されることは、バランスを欠いているのではないかという、思考が背景にあるようにも捉えられよう。一般的な感覚としてこのような理解を行うことは特段理解ができないところではないものの、結果としては、本件はこのような判断を否定しており(後述するように判断過程には疑問を持つものの、結論には賛成)、かかる判断枠組みは専門家として留意すべきものであるように考えられよう。確かに納税者にとって自らの責めに帰すべきものとはいえ(正確には税理士などの専門家が関与している場合が多かろうがこのような場合は、ミスに対する民事上の過失責任の問題である)、単なる形式的な誤りによる不備があることにより、租税制度上の不利益(得られし特別控除の適用)が適用できないことは甘受し難いとの思いを持つことは容易に想像ができることであり、かかる点からも留意点を示しているものといえよう。近年の租税制度においては、本件で課題となった雇用者給与等支給額増加に伴う特別控除は、その適用を増加させており(試験研究費関係や雇用増等と並び)、非常に重要な租税特別措置となっており、適用局面が多いことからも、当初申告におけるミスがそのまま救済の対象とはならず、すなわち事後においてもリカバリ対象とならないことは、当初申告要件が付与されている点においては当然のことにも考えられるが、租税専門家として、留意すべき点でありかかる点を明らかにしている点で本件は、参考となるものといえよう。また、本件制度以外にも、当初要件を付与された制度は増加傾向にあり(租税特別措置に対する見方の変化にもよるのかもしれないが)、かかる点からも当初要件の性格を理解する点でも本件は有益な事例であろう(他にも個人的には当初申告が不備であることによる制度適用の未充足が不当利得返還請求の対象となりうるものであるのかという点も気になるところであるが)。

(更正の請求)
第二十三条 納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、九年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第二十六条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
二 前号に規定する理由により、当該申告書に記載した純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に純損失等の金額の記載がなかつたとき。
三 第一号に規定する理由により、当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に還付金の額に相当する税額の記載がなかつたとき。

以上のように本件は、請求人が当初申告において誤記を行ったことにより明細の金額に不備が発生したことに対して、更正の請求によるリカバリーが行われうるものであるのかという点が中心的な課題となっているものである。当初申告要件は、下記のように本件の特別控除においては、規定されていることは明らかであり、この充足がないという事実関係に関しては、特段争点となっているものではない。誤記があることにより当初申告における納税額の計算において過大が発生しているのか否かという点において上記更正の請求の対象となりうるものであるのかという点が具体的に問題となっているものと捉えられる。すなわちこの当初申告段階における明細の誤記による制度適用ができないことが、過大であることに該当するのか否かという点で議論となっているものであり、最終的に判断では、かかる点を否定し、当初申告要件が付与されていることから当初の申告段階で不備があろうとも、過大ではないとの判断が導かれ更正の請求の対象とはならないとして結論付けられている事案である。

第四二条の一二の四 青色申告書を提出する法人が、平成二十五年四月一日から平成三十年三月三十一日までの間に開始する各事業年度(第四十二条の十二の規定の適用を受ける事業年度、解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、当該法人の雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額(以下この項及び第四項において「雇用者給与等支給増加額」という。)の当該基準雇用者給与等支給額に対する割合が増加促進割合以上であるとき(次に掲げる要件を満たす場合に限る。)は、当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額(第四十二条の四第六項第二号に規定する調整前法人税額をいう。以下この項において同じ。)から、当該雇用者給与等支給増加額の百分の十に相当する金額(以下この項において「税額控除限度額」という。)を控除する。 この場合において、当該税額控除限度額が、当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額の百分の十(当該法人が中小企業者等(同条第二項に規定する中小企業者又は農業協同組合等をいう。次項第五号ハ及びニにおいて同じ。)である場合には、百分の二十)に相当する金額を超えるときは、その控除を受ける金額は、当該百分の十に相当する金額を限度とする。
一 当該雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上であること。
二 平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を超えること。

 第一項の規定は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に、同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする。

このように本件では、当初申告要件に対して、単なる手続的な規程であり実質的なものではないと理解する納税者と制度適用において重要な要件であると解している課税庁との見解の対立が本件の起点になっているものであろう。私見としては当初申告要件が付与されていることは明らかであり、この記載の不備が原則として適用要件として機能するものであり、実質的な要件と区別すべきであるとは評価しがたい。誤記による修正が反映されうるものであるのかという点は当該特別控除の制度趣旨において当初申告要件が如何に位置付けられているものであるのかという点から検討すべきものであると考えられる。本件では以下のように、措置法一般の性格から判断を導いているが、一般的な検討によるものであり、必ずしも本件特別控除における誤記の存在や要件の性格を検討するものとしては捉えがたく、本件特別控除における制度趣旨から如何にしてこの当初申告要件が理解されるべきものであるのかという点の検討は行われていない。この点は留意が必要であるものと考えられる。

措置法は、種々の特例規定を設け、納税者に特例の適用を受けて申告するか否かを委ねているところ、特例の適用を受ける場合には、申告に際してその適用を受けるべき金額を記載することや所定の書類を添付することなど、一定の手続の履行を要求し、もって課税手続の明確及び安定を図っている。

租税特別措置が基本的に一定の政策目的のもとで、租税負担の公平を犠牲としつつ当該目的の達成を企図するものである以上、申告段階において要件の充足を、明確に判断できるように、一定の手続を要請していること(事実上立証責任を転換している)は公平性と政策目的達成を整合的に図るべき趣旨として重要なものであると判断すべきであるが、本件においてもかかる点は相違はないものと考えられるが、原則的な当初申告要件の性格はかかる背景を持つものとして理解されるべきであるが、基礎となる制度趣旨との対比において、ミス等を本件制度において如何に位置づけるべきであるのかという点はさらに検討の余地があるのでないだろうか。もし、本件のような判断枠組みが適用されるものであるならば、租税特別措置一般において誤記のようなミスによる不備は救済対象としてはならないものと捉えられようが、このような一般的な結論はより詳細な検討が必要であるものとも考えられる。

納税者の主張にあるように、税額控除においてミスによる修正を、更正の請求として認めた最判(最判平成21年7月10日)もあるものであるが、かかる判決は、 法人税の確定申告において,法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)68条1項に基づき配当等に係る所得税額を控除するに当たり,計算を誤ったために控除を受けるべき金額を過少に記載したとしてされた更正の請求が,法人税法68条3項の趣旨に反するということはできず,国税通則法23条1項1号所定の要件を満たすとされた事例 であり、租税特別措置の適用要件における誤記とは些か条件を異にするものと評価されるが、特に制度適用において背景とする趣旨が異なるものであり(配当の二重課税の調整と給与支給額の増加へのインセンティブ)、かかる点から本件特別控除における誤記の対応を限定的に解することは必ずしも直接的には導かれない(あくまでも判示の枠組みが直接的に適用可能ではないと導くものであろう)。しかるにより明示的に本件制度において個別の制度趣旨の観点からより詳細に雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除において当初申告要件が如何なるものを担保しようとしているのかという観点からより個別具体的な検討が必要であるといえよう。

更正の請求の対象としてこのようなミスを含みうるものであるのかという点は、拡張的な解釈として、より明示的には拡大する方向を検討することもありえようが、かかる点は立法論として理解されるべきであり、租税特別措置においてこのような措置を取りうるべきであるのかという点は見解が別れることになるように捉えられる。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年9月22日土曜日

判例裁決紹介(東京地判平成29年9月1日、過去における買換特例の適用有無と取得価額)


さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成29年9月1日で、相続により取得した財産の譲渡所得につき、取得費未満とした申告を否定して譲渡所得に対する買換特例の適用が行われていたとする処分の有効性が争われた事例です。

具体的には、原告が相続により取得した不動産を譲渡した際に、当該財産の取得費の計算し、当該譲渡金額がその金額を超過しなかったとして譲渡所得を0であるとして申告したところ、当該不動産に対しては被相続人が昭和60年台において譲渡所得に関する買換特例の適用を行っており、取得費が当該不動産以前の取得費が引き継がれているとして譲渡所得の計算(取得費の再計算)をした処分に対して、当該制度の適用を受けた事実、証拠はないとしてその取消を求めているものである。基本的に、譲渡所得や買換特例などの法令上の意義、解釈が争われた事例ではなく、過去の事実関係として当該特例の制度が適用されていたのか否かという点が中心的な争点になっているものである。従って法令解釈として特段特徴的な事例ではないものと評価されるが、特例の適用関係が、特に非常に時間が経過している状況下においていかにしてその適用関係を立証するのか、あるいは、課税庁の主張する立証につき、反証を行うのかという点が本件の意義と言えるのではないだろうか。

より具体的には、課税庁が示す整理票が証拠資料として適当であるのか否か、この資料における適用関係を否定できるのか否か、という点が納税者における本件における争い方であり、真実性や課税庁内部での資料状況を基礎とした判断であり、判示では最終的に納税者の当該不動産に関する価格内訳の差異に基づく当該資料の適否を疑問視する主張を退けているものであるが、内部での管理関係等の状況も反映させた形での反証が必要であり、些か納税者にとっては、その争い方として厳しいものと捉えざるを得ない。

長期間の経過かつ相続が関与することにより当事者の不在、申告書に関する保存期間の終了等の状況が本件の事実関係においては付与されているものであり、かかる点が事実関係を複雑化しているものとして本件の起点を構成している。このような状況は相続に伴う事実関係としてはおそらく特段珍しいものではなく、相続関係や譲渡を行うにあたり、特例の適用関係などは留意されるべきものとして実務上も本件は一定の参考となるのではないだろうか。

本件はこの処分の基礎となる書類(確定申告書類)が保存期限を超過しており、当時における帳票、管理のための整理表が基本的な対象となっており、納税者としてはこの適否を争うほかないのであるが、課税行政に属するものとしては、最終的に資料における記載事項から、その適否を判断しているプロセスは、当該行政に携わるものとして、参考となるものと評価されるし、実務家としても資料の吟味において留意されるべき点を示しているとして理解されるべきであろう。

納税者としては、不動産価格の内訳が異なることをもって争点の基礎としているが、このような僅かな相違(この点は300万円以上の相違であり、見方によってはその適否を十分に吟味すべきものとして捉えられるかもしれないが)では、課税庁の基礎資料として適否を否定することは実際上は困難という認定が本件である。いかにしてその適格性を認定しているのかという点は上記のように判断プロセスを学ぶ上で、あるいはティーチングケースとして参考となろう。

また、本件では、課税庁がその適否を主張する上で、KSKシステムにおいてかかるような整理表の存在、特例の適用関係があることを示唆する情報の登録が行われていることが主張されており、国税庁における長期間に渡る資料管理の現況の一端を垣間見ることが可能な点でも興味深い事例であるものと考えられる。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。




2018年9月18日火曜日

判例裁決紹介(神戸地判平成28年3月16日、農業相続人に対する納税猶予と転用)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は神戸地判平成28年3月16日で、農業相続人に対する納税の猶予に関して、転用が行われており、当該要件を充足しないとして猶予が取り消された事例です。

具体的には本件は相続人たる原告(農業相続人)相続財産たる農地につき、納税の猶予の届け出を行っていたところ、東亜gのうちは庭園として転用されており、その猶予の条件を充足していないとして、その転用の事実関係が争われた事例である。農地に関する納税猶予の特例は、期限を最終的に超過すれば、猶予税額が免除されるものであり、当該制度の適用、継続に関する条件の充足の有無の判断は長期間に渡り非常に重要な、条件として位置づけられるものであり、かかるような性格を有する租税特別措置の適用要件を如何に解すべきであるのかという点が、特に適用が中止される条件である、特例農地の譲渡等(転用等も含む)がどのような状況にあるのかという点が起点となっているものと考えられる。判断の枠組としては、農地法における農地の解釈を準用し、最高裁判決を基礎として判断を行っている。しかるに法令解釈としては農地法の準用を基礎としたものと考えられ、特段特徴的なものではないかもしれないが、農地として利用されているのかどうか、特に転用後の現況である桜を植え、一部観賞用の設備の設置などを行っている状況が当該解釈として農地に当てはまるものであるのかという点が問題となっているものである。最終的に、本件では利用状況等総合的に判断して、農地としての該当性を判断しており、本件の特徴となっているものであり、納税の猶予における状況の判断枠組として先例的な価値を有するものとして捉えられよう。

下記は、現行法における条文であるが、基本的に本件と同様に当該制度の適用が中止される条件において譲渡等が含まれるものである。特に本件においては転用が行われていることが基礎的な事実関係として問題となっている。

(農地等についての相続税の納税猶予及び免除等)
第七十条の六 農業を営んでいた個人として政令で定める者(以下この条において「被相続人」という。)の相続人で政令で定めるもの(以下この条において「農業相続人」という。)が、当該被相続人からの相続又は遺贈によりその農業の用に供されていた農地(特定市街化区域農地等に該当するもの及び利用意向調査(農地法第三十二条第一項又は第三十三条第一項の規定による同法第三十二条第一項に規定する利用意向調査をいう。第一号において同じ。)に係るもののうち政令で定めるものを除く。第五項を除き、以下この条において同じ。)及び採草放牧地(特定市街化区域農地等に該当するものを除く。同項を除き、以下この条において同じ。)の取得(前条の規定により相続又は遺贈により取得したとみなされる場合の取得を含む。第十九項から第二十一項までを除き、以下この条において同じ。)をした場合(当該被相続人からの相続又は遺贈により当該農地及び採草放牧地とともに農業振興地域の整備に関する法律第八条第二項第一号に規定する農用地区域として定められている区域内にある土地で農地又は採草放牧地に準ずるものとして政令で定めるもの(以下この条において「準農地」という。)の取得をした場合を含む。)には、当該相続に係る相続税法第二十七条第一項の規定による期限内申告書(以下この条において「相続税の申告書」という。)の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該農地及び採草放牧地並びに準農地(政令で定めるものを除く。)で当該相続税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(当該農地及び採草放牧地については当該農業相続人がその農業の用に供するもの(第九項の規定に該当する農業相続人にあつては、その推定相続人の農業の用に供するものを含む。)に限るものとし、準農地については当該農地又は採草放牧地とともにこの項の規定の適用を受けようとするものに限る。以下この条において「特例農地等」という。)に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、当該相続税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、同法第三十三条の規定にかかわらず、納税猶予期限(当該納税猶予期限前に、その有する当該特例農地等の全部につき第七十条の四の規定の適用に係る贈与があつた場合には、当該贈与があつた日とし、当該特例農地等の一部につき当該贈与があつた場合には、当該特例農地等のうち当該贈与があつたものに係る第三十九項第三号に定める相続税については当該贈与があつた日とし、当該特例農地等のうち当該贈与がなかつたものに係る第四十項第五号に規定する政令で定めるところにより計算した金額に相当する相続税については当該贈与があつた日から二月を経過する日(同日以前に当該農業相続人が死亡した場合には、当該農業相続人の相続人(包括受遺者を含む。以下この条において同じ。)が当該農業相続人の死亡による相続の開始があつたことを知つた日の翌日から六月を経過する日。以下この項において同じ。)とする。)まで、その納税を猶予する。ただし、当該農業相続人が、その納税猶予期限又は当該贈与があつた日のいずれか早い日(以下この条において「死亡等の日」という。)前において次の各号のいずれかに掲げる場合に該当することとなつた場合には、当該各号に定める日から二月を経過する日まで、当該納税を猶予する。
一 当該相続又は遺贈により取得をしたこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等の譲渡、贈与(第七十条の四の規定の適用に係る贈与を除く。)若しくは転用(採草放牧地の農地への転用及び準農地の採草放牧地又は農地への転用その他政令で定める転用を除く。)をし、当該特例農地等につき地上権、永小作権、使用貸借による権利若しくは賃借権の設定(当該特例農地等につき民法第二百六十九条の二第一項の地上権の設定があつた場合において当該農業相続人が当該特例農地等を耕作又は養畜の用に供しているときにおける当該設定を除く。)をし、若しくは当該特例農地等につき耕作の放棄(農地について農地法第三十六条第一項の規定による勧告(当該農地が農地中間管理事業の推進に関する法律第二条第三項に規定する農地中間管理事業の事業実施地域外に所在する場合には、農業委員会その他の政令で定める者が、政令で定めるところにより、当該農地の所在地の所轄税務署長に対し、当該農地が利用意向調査に係るものであつて農地法第三十六条第一項各号に該当する旨の通知をするときにおける当該通知。第十二項第二号において同じ。)があつたことをいう。同号及び第十二項第三号において同じ。)をし、又は当該取得に係るこの項本文の規定の適用を受けるこれらの権利の消滅(これらの権利に係る農地又は採草放牧地の所有権の取得に伴う消滅を除く。)があつた場合(第三十三条の四第一項に規定する収用交換等による譲渡その他政令で定める譲渡又は設定があつた場合を除く。)において、当該譲渡、贈与、転用、設定若しくは耕作の放棄又は消滅(以下この条において「譲渡等」という。)があつた当該特例農地等に係る土地の面積(当該譲渡等の時前にこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等につき譲渡等(第三十三条の四第一項に規定する収用交換等による譲渡その他政令で定める譲渡又は設定を除く。)があつた場合には、当該譲渡等に係る土地の面積を加算した面積)が、当該農業相続人のその時の直前におけるこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等に係る耕作又は養畜の用に供する土地(当該農業相続人が当該相続又は遺贈により取得した特例農地等のうち準農地で農地又は採草放牧地への転用がされたもの以外のものに係る土地を含む。)の面積(その時前にこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等のうち農地又は採草放牧地につき譲渡等があつた場合には、当該譲渡等に係る土地の面積を加算した面積)の百分の二十を超えるとき その事実が生じた日

以上のように、本件はその中心的な争点として、猶予に関する要件の充足(農地として継続的に利用されているのか否か)という点が如何なる基準を持って判断されつべきであるのか、如何なる基準を適用して認定されるのかという点、事実関係が問題となっている(いささか長い条文であるが)。最終的には以下のように最高裁の農地法における判示を引用して、

「農地とは、農地法2条1項に規定される「耕作の目的に供される土地」をいうところ、「耕作」とは、土地に労資を加え、肥培管理を行って作物を栽培することをいい、その作物は穀類蔬菜類にとどまらず、花卉、桑、茶、たばこ、梨、桃、りんご等の植物を広く含み、これが林業の対象となるようなものでない限り、永年生の植物でも妨げられない(最高裁昭和40年8月2日第二小法廷判決・民集19巻6号1337頁参照)。また、肥培管理とは、作物の生育を助けるため、その土地に施される耕うん、整地、播種、灌がい、排水、施肥、薬剤散布、除草等の人為的作業を行うものであり、ある土地が農地であるかどうかは、その土地に作物の栽培のための肥培管理が施されているかどうかによって決定されるべきものである(最高裁昭和56年9月18日第二小法廷判決・裁判集民事133号463頁参照)。そして、登記簿上の地目や当事者の主観的意図に左右されるものではなく、当該土地体の客観的状況により判断すべきである(最高裁昭和39年5月26日第三小法廷判決・裁判集民事73号677頁参照)」

客観的な状況を基礎としてその判断を行っている(しかるに判示として、農地として継続的な利用になく、庭園としての利用であって適用されないとしている)。納税者の意思による(納税者の主張にあるように)、桜の育成等の状況にあって、農業を継続的におこなっているとは判断していない。基本的には設備や利用環境等から客観的な要因を基礎として庭園としての利用を判断しているため、事実関係を如何に評価するのかという点が本件の中心的な争点であろう。しかしながら農地として利用しているのか否かという点に焦点を当てており、現行法における転用等をどのように解すべきであるのかという点は欠けているようにも捉えうる。

このように客観的な状況を基礎としている点は租税法規における客観性の確保を基軸とする特徴を整合的であり、納税者の意思などの主観的な要因は副次的な要因として判断されることとなろう。特に本件制度は租税特別措置であり、厳格な法適用が要請されることから考えれば、衡平負担の観点からもその判断は客観的な事実関係を基礎とするものと判断されるべきだろう。しかるに納税者の意思などは間接的な材料にとどまるものと評価せざるを得ないことは留意されるべきである。

本件特別措置は非常に長期間に渡る状況の継続をその基礎としている制度であり、納税者、課税庁ともに、継続的か関与が必要となる制度であり、より留意が必要なものである。類似の制度として納税の猶予を定めた事業承継税制など、同種の事実関係の判断においても本件のような状況が基礎となるべきものであり、かかる点において本件の判示は有益であり参考となるものと言えよう。

なお、法令においては利用状況の変化等に関して、転用と定めるのみであり、主たる利用要因など、程度差を反映させる規定をおいていない。利用状況の判断につき、継続を判断する上で、程度差を設けていないものと考えられる。しかるに一部であっても利用状況が継続的であれば当該猶予を適用可能であるとの解釈も行うことも出来よう。かかる点は立法的な課題であるとも言えようし、より詳細な検討が必要であろう(一部のみの継続によって納税の猶予を認めることは公平に反する状況も想定される)。また、当該制度は長期的な利用等の状況の継続をもってその立法目的を達成しようとする制度であり、特定のタイミングのみを基礎として猶予の継続を判断することは、あるいは転用等の状況であることを判断することが妥当であるのかという点も検討されるべきではないだろうか(一定に期間における状況の変化や継続をその判断材料としておくべきではないだろうか、立法論であるのかもしれないが)

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

2018年9月8日土曜日

判例裁決紹介(平成29年7月7日裁決、調査終了時の説明、地域対策費の必要経費性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年7月7日裁決で、未申告の事業者に対する調査手続きの違法性、瑕疵と課税処分の取消しという手続法部分と、所得税法における必要経費として請求人が計上した地域対策費の該当性が認められるかという実定法の部分が課題となった事例です。

具体的には、本件は請求人が営む風営法対象事業に対して、所得としていた事業所得につき、未申告であったことから査察調査等をへて、决定処分を行った事例である。かかるような処分の段階において、当該処分の前提となるような調査手続きの瑕疵があったことによる(請求人、処分行政庁双方が内容・程度は異なるものの瑕疵の存在はそれぞれの主張において認めている)課税処分の違法性、取消対象となりうるべきものであるのかについて争われたものである。さらに、特殊な事業形式であることから、その必要経費においてもいわゆるみかじめ料などの存在が一括で地域対策費として計上されており、かかる点における必要経費としての該当性もまた争点となっているものである。未申告かつ特殊な事業に関わるものであり、また、このような調査手続の不備を主張するような事例は特に調査手続の改正が行われた平成23年改正以前からも、大量に行われた事例でもあるが、本件は、特に重要な手続法の改正であり、その中でも重大なトピックとされた項目である調査終了の手続、特に説明に関して課税庁の主張が含まれている事例であり、検討対象として重要なものであるように評価される。判断では、最終的に課税庁が主張する非常に限定的な解釈を採用しているが、その根拠も含め更に検討が必要であるだろう。
また、本件ではあわせて反社会的な団体への費用拠出、特殊な費用の必要経費性が否認されており、必要経費性の否定は、その具体的な定義も含め、多様な論点を含むものであるが、その否認のアプローチは形式的なアプローチではあるが、参考となるものと考える。


(調査の終了の際の手続)
第七十四条の十一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。
4 前三項に規定する納税義務者が連結子法人である場合において、当該連結子法人及び連結親法人の同意がある場合には、当該連結子法人へのこれらの項に規定する通知、説明又は交付(以下この項及び次項において「通知等」という。)に代えて、当該連結親法人への通知等を行うことができる。

以上のように、本件はその中心的な争点として、調査手続の瑕疵と課税処分の取消対象(すなわち調査の違法性)が関連付けられるべきであるのかという点が問題となっているものと考えられる。双方が主張する瑕疵、不備(法的にその治癒が図られる場合もあるので個人的には瑕疵と一律に表現するよりは、この用語が適性であるように考える)は異なるものの、処分行政庁においてもその存在は認めており(軽微なものとしているが)、かかる点がその後の処分において如何なる影響を及ぼすものと考えられるのかという点が解釈上も課題となろう。手続法に関する重要な節目となった平成23年の国税通則法改正前より、この手続上の不備と課税処分の関係は議論されてきたが、必ずしも法定の取消事由としてかかる不備が対象となるものではなく、一部の手続を除き、かかる不備は、重大な違法性がある場合においてのみその取消事由として機能するものと解されてきた。このような状況が上記改正によっても変化なく、継続しているものであるのか、あるいは、変化が生じているのかという点が具体的な解釈上の問題と考えられる。私見としては一般的に調査手続のその目的等において従前と現況において相違がないことから、調査手続の瑕疵があった場合、一般的にその課税処分の取消に至ることは否定的に捉えら得るべきものと考えられる。また調査手続もその保護しようとしている目的等において、相違があり、一律に捉え、議論することはバランスを欠くものと評価せざるを得ない。また従前においても重大な違法性を対象としているが、如何なるものをその重大と判断する起点とすべきであるのかという点は定かではなく、現行制度においてもより検討が必要ではないか。
かかる点に付き、以下のように判断では述べている。
「通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。」

判断では上記のように、現況においても従前の状況を踏襲しており、瑕疵は必ずしも取消事由として機能すると一般的な機能するものとしては理解しておらず、さらに、

「もっとも、通則法は、同法第24条《更正》の規定による更正処分、同法第25条《決定》の規定による決定処分及び同法第26条《再更正》の規定による再更正処分について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるから、仮に、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の重大な違法があったとしても、課税処分の取消事由となるものではないと解される。

として調査によりという文言の解釈から重大な違法性を帯びている場合に限定しており、さらに証拠資料の収集手続における瑕疵の存在に限定している。このような判断を行う根拠は如何なるものであろうか。判断では具体的には明示していないが、重大な場合に限定するとの点は従前の見解と整合的であるものの、上記解釈によっては、以下のようにあくまでも証拠収集手続に限定している。これにより、以下のように平成23年改正によって導入された調査終了の際の手続である説明に関しては、あくまでも終了の手続であり、証拠収集に影響を及ぼさないとして、瑕疵による課税処分への影響を遮断している。

「しかしながら、上記イのとおり、調査手続の違法が課税処分の取消事由となるのは、課税処分の基礎となる調査を全く欠く場合のほか、証拠収集手続に重大な違法があって調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合に限られ、他方、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続の 違法は課税処分の取消事由とはならないものと解されるところ、調査結果の内容の説明は、調査終了の際の手続であって、既に行われた証拠収集手続の適法性に影響を及ぼさない手続であるから、原処分の取消事由とはなり得ないものというべきである」

このような証拠収集段階における適法性を重要視する見解は刑事法を中心に、理解を得やすいものであろうが、課税処分においてかかる手続への評価を行って違法性、取消の可能性を判断することはだろうであろうか。租税法規では犯則調査における資料と質問検査に代表される任意調査は明確に区分しており、その目的は異なるものとして明文をもってその分離を規定しており、任意調査において証拠収集手続とその他の手続において区分して課税処分の前提となる処分を理解することは予定されているのであろうか。調査概念自身、多様な調査を含むものであり、実地の調査に限定されているものではなく、実地の調査や調査の単位をいかに捉えるべきであるのかという課題を発生させることであろう(判断では、査察調査時において入手された資料を活用した再度の調査は実地の調査ではなく、事前通知の必要がないものとしている)。調査終了時の説明はその趣旨として説明責任の強化という、いささか不確かな点を根拠としているものであるが、処分理由を開示することでは、後の更正処分等の前提となる理由の提示、理由附記と大きな相違はなく、このような理由附記がかけた場合はその処分の取消は免れないものであり、かかる点との整合性との点でも疑問があろう(理由附記等により、瑕疵が治癒されたものとして、重大なものではないとして評価することもあり得よう)。

このように本件では、調査上の不備(瑕疵)と課税処分の取消事項としては解釈として、対象を証拠収集手続(そもそも租税法規における調査においてどの部分を証拠収集として評価するのかという点も定かとは言えず、枠組が不確かではないか。)に限定的に解している。納税者である請求人はこの説明段階において全く理解できないものであり、かかる点からの瑕疵も主張しているがそもそもどの程度の説明義務を追っているのかという点は解釈上は明らかではなく(私見としては理由附記と同等のものと捉えることは果汁であるものと評価されるが)、かかる点も更に検討すべきであろうが、上記のように限定的な課税処分に対する影響であるように捉えるならば、一般的に証拠収集段階にはない、手続として説明は、課税処分への影響を遮断されることになると解することが如何なる根拠によるものであろうか。説明は法定の手続であり、勧奨や更正処分の前提となるものとして、かかる点における不備が一律に課税処分への影響を排除されるべきものと捉える解釈はより検討が必要であるものと考えられる。実質的に上記改正の意義を喪失するものであるとも捉えることも可能であるかもしれない。このように捉えるならば、手続を定めた趣旨に反するものであり、処分行政庁の恣意を抑え、納税者の権利保護を基軸とする制度として、特に納税者の保護との間で衡平を欠くものではないだろうか。

また、本件では反社会的な団体へのみかじめ料などの必要経費性も問題となっている。かかる点につき、判断では、相手先や金額の明細が不明であり、更には、資料との距離の関係から実質的に納税者である請求人に立証責任を転換しており、このような形式的なアプローチからその必要経費性を否定している。すなわち、必要経費における必要性や、関連性などの要件を実質的に議論せず、その経費としての認定を排除している。このような反社会的な団体への費用拠出に関しては、その経費としての否定を行う際には法人税法における公正処理基準が活用される事が多いがこのような根拠規定を持たない所得税法においては、上記のような形式的なアプローチが主たるものとしてならざるを得ないものとも認識されるべきであろう(反対に、必要性の立証は非常に幅広い解釈が可能となっていることの証左とも言えるかもしれない)。

以上です。毎度のごとく、論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。