2018年6月12日火曜日

判例裁決紹介(平成29年5月15日裁決、複合的な投機的行為による所得区分)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年5月15日裁決で、オートレースやモーターボート、競馬等の複数の投機的な行為により得た所得の区分がいかなるものであるのかという点が争われた事例です。

具体的に本件は、請求人がソフトウェアを使用せず、独自のノウハウにもとづき、複数の名義人の口座等を活用して、度々大量に購入を行っていたオートレース、モーターボート、競馬等の起因する収入につき、かかる収入が所得税法上如何なる所得であると評価されうべきものであるのかという点が課題となった事例である。より具体的には請求人が行っていた当該購入行為は、継続的に行われていたものの、そしてインターネット回線を使用していたものの、ソフトウェアは使用されておらず、かかる収入が所得税法上いかなるものとして評価されるのか、すなわち、一時所得あるいは雑所得に該当するのかという点が課題となっているものである。最終的には、近年問題となっているような雑所得としての認定を行うことはせず、一時所得として評価している。平成29年12月(最判平成29年12月15日)において、ソフトウェア以外のノウハウ等を利用した事例における最高裁判決が出ているが、本件は、それ以前の段階であり、経過的なものとして評価されるものでもあり従前の最判の枠組みを深化させる、射程を議論する上で参考となるべきものと位置づけられよう(最新の最判に基づくものであったとした場合、どのような結論になるのかという点も興味深い)。但し本件では、従前の事例とは異なり、ソフトウェア利用の有無やノウハウの評価というような点も特徴的であるが、単一種別の投機行為を前提としたものではなく、種々の投機行為を複数名義の口座等で管理しており、複合的な取引が実施されている点は留意されるべきであろう。すなわち、従前の単一酒類の登記のける一体的な行為としての評価とは異なるものであり、かかる点を起点として行われた行為が所得税法上、如何に評価されるべきものであるのかという点を
課題としているものと評価される。

そもそも近年は競馬における所得区分、必要経費の存在等を巡って、一般受けする点でもあり、裁判例が数多く存在し、注目が集まっている。IR等の振興等の状況はありうるものであるが、その前提とするべきものは賭博、投機的な行為に対する課税であり、一般性を有するものであるのかという点は疑問があり、社会痛うねんとの対比も避けようがない。さらに、一時所得を生み出す稼得行為の一類型(しかも投機的な)に過ぎないとも捉えられ、以上のような事例の存在は租税法規としての重要性は如何なる部分に求められるのかという疑問は発生し得るところであり、所得税法の解釈において重要であるとの認識をもつことは困難であるとも評価されよう。

しかしながら、本件はその具体的な対象として、投機的な行為を対象としていることに着目されがちであるが(ここに一般に関心があるように思料される。そもそもこのような投機的な行為が所得を生み出す源泉であるのかという点も興味があるが、)、その本質としては、インターネットを活用したあるいはソフトウェア等を活用した所得の稼得形態を所得税法において如何に評価されるべきであるのか、すなわち、現行の所得税法の枠組みのおいて評価適用を行うものであるのかという点が課題となっているものとも考えられる。昨年、仮想通貨に対する租税法規としての評価が話題となったが、近年の技術発展の影響は、単に企業が大規模な投資、研究開発等に基づき、知的資産の開発等をもって所得を稼得している段階から、個人ベースにおいて、従来は想定し難い大量の取引などが比較的容易に行うことが可能となってきている(ノウハウに基づく取引を趣味の枠を超えて大量取引などの所得源泉として落とし込むことが可能となっている)。このように個人ベースにおいて起こりうる技術発展の影響は、近年の働き方改革と同様に、個人所得課税において今後如何なる対応を行うべきであるのかという点を浮き彫りにしていると考えるべきであり、本件に代表される近年の事例は、その先駆けとして捉えるべきではないだろうか。ギャンブル等の投機的行為をその端緒とした以上、一時所得としている現行の取扱い(そもそもこれが如何なる解釈に基づくものであるのかという点は疑問)との対比が着目されたものであるが、かかる点はいわば不幸な点であり、ソフトウェアやノウハウ、インターネットを活用した所得稼得形態の特徴を見出し、現行所得税法との対応関係(おそらくは、事業的規模や、網羅性などが議論対象となろう)を検討すべき段階に至っていると考えるべきではないだろうか。
所得税法基本通達
34-1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。
(1) 懸賞の賞金品、福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く。)
(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)
(注)
  1. 1 馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。
  2. 2 上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。
以上のように、本件は基本的に当該収入が如何なる所得として評価されるものであるのかという点が課題となっているものである。判断枠組みとしては、上記近年の最判が出る前の段階であり、上記基本通達の枠組みが活用(私見としては、改めて、最判の追加により、通達解釈の変更、例示の追加などが行われるべきものと考えられるが)した上で、一時所得として判断されている。具体的には、上記通達にあるように、インターネットを介した長期間、かつ多数回頻繁、網羅的な購入等を条件として一時所得からの除外を行うべきであるのかという点を判断しており、下記のように提示している。

「所得税法第34条第1項にいう「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」は、一時所得ではなく雑所得に区分される。そして、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間の他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。これを各種投票券の払戻金に係る所得についてみると、例えば、各種投票券を自動的に購入するソフトウェアを使用するなどして独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の各種投票券の的中に着目しない網羅的な購入をして的中した各種投票券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の各種投票券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの事実関係の下における各種投票券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に当たると解せられる。」

裁決である以上当然であるともいえるが、従前の最判を基礎とした通達であり、ソフトウェアの利用などを判断の基準としているものである。

しかしながら、ソフトウェアの利用はわかりやすいものの、必ずしも必須なものではなく、継続性や頻度、網羅性を担保する手段であり、かかる利用のみを前提とした判断は疑問が残る。そもそも前提とされているソフトウェア自身が一律に捉えられるものであるのであろうか。自動的な取引を図るものであるが、網羅性や、応答スピード、正確性、基礎となるデータベース等において多様な存在が想定されるものがソフトウェアであり、明示的に一様なものとして評価することは困難であろう。しかるにこの利用を前提とした判断では必ずしも基礎として活用しうるものとは評価しがたいものと考えられる。逆にソフトウェア以外のノウハウを活用されていても、ソフトウェアの利用がないことをもって上記判断が一時所得からの離脱を否定するものではないと解するべきであろう。ソフトウェアはいわば、従前の最判においては例示にとどまるものであって、一連の投機的な取引行為が如何なる性格を持つものであるのかという点が従前の枠組みの理解として適格であろう。これは前記近年の最判においてソフトウェア以外の利用が必ずしも否定されていないこととも整合的である。つまり、ソフトウェア等の利用が問題となるものではなく、上記通達(最判も)の後半である一連の投機的取引が一体の経済活動として評価されうるものであり、そこに営利性や継続性の有無が根本的な問題になるものと理解されよう。私見としては網羅性が如何なる点をサポートしており、取引の一体性を担保するものとして評価されるのか、という点(私見としては統計的に偶発的な要因を排除することによって一体としての取引における営利性が確保を企図しているのではと捉えている)が重要であり、網羅性が確保されていることが重要な要件であるものではないのであるが、これが事実上の条件として考えられていることが問題であろう。いわば従前の最判が解しているように、下記の要素から総合的に判断するべき枠組みが重要なものであり、ソフトウェア等の利用等は必ずしも要件としているものではないことは理解されるべきである。

「営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,文理に照らし,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である(最高裁平成26年(あ)第948号同27年3月10日第三小法廷判決・刑集69巻2号434頁参照)」

また、本件では請求人が有するノウハウに基づき、取引が行われている。そもそも所得税法において、個人の所得課税においていかなるものとして評価するのかという点は課題となっているものである。従前は意匠や著作等の法的に保護されているものを対象として個人が有する知的資産としてのノウハウを租税法規、所得税法において捉えていた。現在のインターネット、技術の発達は、その他のノウハウ等の知的資産を大量反復的に取引を行うなどして、所得稼得ツールとして機能しうる、客観的に評価されうことが可能な状況になりつつあると考えられる。例えばタイムバンクなどの個人の余暇時間の活用や、 VALU (以前友人の税理士が登録していてびっくりした覚えがあります)等の個人の資金調達が可能な状況がその証左であるのではないだろうか。

このように考えるならば、馬券の購入などのような所得を稼得する取引に着目して所得区分を判断することは妥当性を欠くことになろう。すなわち、所得分類の決定において(あるいは新しい所得分類として)所得の稼得形態に着目した判断をこの種の取引においても行う必要があるように考えられる。現行の所得税法は、所得をその発生原因等によって分類し、労働や請負等の人的役務の提供という稼得形態による所得(事業や給与)と利子配当、不動産等の稼得の源泉(資産保有、偶発的な所得等)によって分類している(もちろん、源泉の意義を広く解すれば人的役務の提供も源泉として捉えられる)。しかるに本件のようなノウハウ等の知的資産に基づく所得も新たな所得稼得形態として捉え(立法論ではあるが)たり、現行の所得分類において如何に捉えるべきであるのかという点は、所得税法において改めて課題となってきていると考えるべきであろう。

加えて、本件はその特徴として、複数種のギャンブル・投機的な行為が混在、複合されている。従前の例は、基本的に単一種の投機的な行為による所得を対象としており、かかる点において相違している。本件判断では、かかる点に対して、各投機的な行為ごと(オートレース等)に、分類し、かかる購入行為が網羅的であるか否か等の評価を行っている。所得が細分化され、その具体的な内容に応じて所得の性格を判断されることは一般論として理解できるが、本件のようなギャンブル、投機的な行為を原因別に分類する根拠は必ずしも明らかではない。口座の管理などは基本的に混在しており、投機対象は異なるものの、基本的に投機による所得であることに変わりがなく、所得分類の趣旨である担税力に応じた課税を実施することを鑑みれば、実質的な所得の租税負担能力に各投機対象によって差異があることは考え難い。しかしながら、判断では、各投機対象に応じて網羅性の判定を行っており、当然のごとく網羅性が確保されているものと評価することは困難である(分解されている以上、個々に網羅性が確保される可能性は。一体としての経済取引として該当するか否かが上記の通り問題なのであり、かかる判断を行う上で、分解してその判断を行うことは必ずしも合理的ではないのではないだろうか。そもそも網羅性が如何なる点を担保するものであるのかという点が必ずしも定かではなく、かかる点を明らかとせず、実質的な基準として網羅性を適用・判定していくことは必ずしも従前の最判の枠組みにおいても肯定されるものではないのではないだろうかとも考えられる。つまり網羅性を必然的な条件として位置づけることは判例の枠組みにおいても、本件のような複合的な投機対象取引においては適格なものではないのではないかと捉えられよう。

以上です。毎回のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。



濱田 洋

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