2018年6月19日火曜日

判例裁決紹介(平成29年4月4日裁決、不法行為に伴う損害賠償・確定判決と更正の請求の対象)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年4月4日裁決で、不法行為に伴う損害賠償請求を命じた確定判決が更正の請求の特例対象理由として該当するのか否かという点が争われたものです。

具体的には、コンサルティング業を営む請求人が業務委託先として受領した金員が、不法行為に伴う損害賠償請求の対象となったことにより生じた確定判決によって、当該業務委託収入を益金とした確定申告につき、下記、国税通則法23条2項に定める更正の請求の原因として該当するのか否かという点が争われた事例である。
より具体的には、計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決として、当該損害賠償請求が該当するのか否かという点が課題となっており、かかる部分の解釈が起点となっているものと考えられる。最終的には、あくまでも本件判決は、業務委託費の金額の修正を伴うものではなく(返還義務が発生しておらず)、不法行為に基づく、損害賠償義務の発生がもたらされたものであり、公正処理基準により、前期の損益修正を行うべきものでなく、もって過大であるとは判断されていないものである。手続法に関する部分であり、また、かつてのように更正の請求の期間制限が一年と短いものではなく、下記のように5年に延長された事により実質的な問題としては影響力が小さいものであるのではないかとも考えられるが、権利救済における対象範囲を律するものであり、適正な手続をその具体的な内容とすると考えられる租税法律主義の要請として、より具体的に考えら得るべきものであるように捉えられる。基本的に事実関係が問題となっているとも評価されるべきものであるが、納税者の一般的な意識としては、損害賠償として支払うことで受領した金員が過大であることを証左するものとして捉えて、過年度の租税負担を修正すべきものとして考えることは、想定されうるところであり、かかる意識とのズレが生じうることは、専門家として留意されるべきものといえよう。また、本件はかかる点以外にも、損害賠償請求のタイミングも課題とされており、かかる点も(あるいはこの点のほうが)実務家としては参考となるべきものと考えられる。

(更正の請求)
第二十三条 納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、十年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第二十六条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。

2 納税申告書を提出した者又は第二十五条(決定)の規定による決定(以下この項において「決定」という。)を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合(納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求(以下「更正の請求」という。)をすることができる。
一 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき その確定した日の翌日から起算して二月以内

以上のように本件の中心的な争点は請求人が訴訟により得た確定判決によって生じた負担である、損害賠償請求に対する負担が、過年度の申告事実を修正することを求めた更正の請求の対象として該当するものであるのか否かという点が課題となっている。その適用にあたっては、

「通則法第23条第2項による更正の請求が認められるためには、同項に規定するいわゆる後発的事由の発生及び同項所定の期限内の更正の請求という手続的要件を満たすだけでは足りず、同条第1項各号に掲げる税額が過大であるなどの各租税実体法に定める実体的要件が満たされていることが必要である。」

上記のように本件では判断を行い、更正の請求においては、その適用要件として期限内等の手続要件のみならず、事実関係の過大であることなどが問題とされている。この点は、従前と整合的であるものと考えられるが、かかる点が如何なる点に依拠しているものであるのか、より具体的には、更正の請求の排他性等を考慮しており、その制限を基礎づけているのかという点は問題となろう。この点は本件においては特段議論されておらず、基本的な性格の検討が必要とも考えられる(立法的な救済の議論であるとも言えようが)。

この実体的な適用の要件充足に関しては、以下のように判断を行っている。

「法人税法上、法人の当該事業年度において生じた損失の額は当該事業年度の損金の額とすべきものであり、当該事業年度前の各事業年度に遡及して所得の金額を修正すべきものではないから、請求人は、本件確定判決によって支払うこととなった不法行為による損害賠償請求権基づく損害賠償金について、本件事業年度に遡及して、本件業務委託費に係る所得の金額を修正することはできないというべきである。そうすると、本件確定判決により、請求人の本件事業年度における法人税について、所得金額又は納付すべき税額が過大となることはなく、通則法第23条第1項各号に掲げる課税標準等又は税額等が過大であるなどの実体的要件を欠くことになる。 」

以上のように、本件で対象とされた確定判決(そもそも確定しているかどうかも争点になりうるが、また確定が何を意味しており、それゆえに、何を果たそうとしているのかという点も課題となろう)では、不法行為に基づく、判決であり、損害賠償義務が認められている。原因となった支払いの返還(原状回復)や契約の無効等が発生しているものではなく、不当利得に基づく返還等が問題になっていないことは、まずは留意されるべきであろう。損害賠償義務は、計算の基礎となった業務委託が過大であったことを証左するものであり、かかる点を起点としているものである。すなわち実質的な過大の是正として損害賠償を行っているものとして認識されている(特に請求人において)。しかしながら判断では、かかる判決は、基礎となる事実である業務委託費の支払いに対する損害賠償義務の発生を示すにとどまるとして認識されている。かかる点において、過年度の申告における租税負担の救済の対象範囲を限定しているものと言えよう。

そもそも、この計算の基礎となる事実が如何なるものであるのかという点は必ずしも明らかであるとはいえず、もってその過大であるのか否かを判断するのかという点は検討の余地がある。過大であるとはその起点が重要であり、不当利得のような法的な根拠を持たないものを基礎としているものと考えられるのであろうか。損害賠償のような実質的な過大であるような経済的な評価を反映させることまでも含むものであるのかという点は限定的に捉えられているものと考えられる。基礎となる事実に対する過大と言う文言は、経済的な負担を評価するものであり、かかる点から上記実体的な要件の充足の判断につき、判断するという枠組みも一定の合理性を有している。租税法規が財産権を対象としており、更正の請求により権利救済を基礎としているものと捉えるならば、その具体的範囲を実質的な経済的・租税負担を基礎としても良いのでないかという点も合理的であろう。しかしながら、課税処分の基本的な性格や、実質的な権利救済を更正の請求に制限していることからも現行法の解釈として、判決による事実関係の変更、過大であることを超え、実質的な判断を行うことを含むと解することは、安定性を欠くものとも考えられる。法が確定した判決を要件としているものであり、客観性は確保されているともいえ、経済的な負担を反映した過大であるとの評価も行うことも可能であろうが、この点は立法によるべき議論であるのかもしれない。今後の課題となるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものであり、完成度は低いですが参考までに。


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