さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成28年12月20日で、地方税における二次納税義務の適用にあたって処分理由開示の不備が争点となった事例です。
具体的には、地方自治体が、滞納法人の取締役である原告に対して二次納税義務の履行を求めたものであり、その手続段階において、通知における理由提示の不備が問題となった事例である。より具体的には通知に記載の二次納税義務の根拠が地方税法の規定を根拠としているものと記載されており、しかるに、行政手続法14条における不利益処分に対する理由提示が行われるべきであり、この提示を欠いた二次納税義務の履行の求めは無効であるのではないかという点を争点とした事例である。基本的に地方税に関する事案であり、また、二次納税義務の履行に関する問題であって、民間の実務家としては、参考となるような状況は少ないかもしれないが、近年改正された課税処分に対する、理由提示に関わる、特に地方税法に関わる事例であり、かかる点では貴重な事例であるように捉えられる。地方税法の位置づけや地方税の課税根拠等の基本的な理解に基づく判断が行われている事案であり、地方税法における事例として参考となるものと考えられる。
地方税法18条の4(行政手続法の適用除外)
(1) 1項
行政手続法3条又は4条1項に定めるもののほか、地方税に関する法令の規
定による処分その他公権力の行使に当たる行為については、同法第2章(8条
を除く。)及び第3章(14条を除く。)の規定は、適用しない。
(1) 1項
行政手続法3条又は4条1項に定めるもののほか、地方税に関する法令の規
定による処分その他公権力の行使に当たる行為については、同法第2章(8条
を除く。)及び第3章(14条を除く。)の規定は、適用しない。
以上のように、本件の主たる争点は、地方税法の徴収手続における理由提示上の不備が発生しているのか否かという点であり、地方税法における不利益処分に対する行政手続法の理由提示を如何に捉えるのかという点が起点となっているように考えられる。
上記のように、地方税法における理由附記に関しては、行政手続法の適用除外として長く対応されてきたものであるが、平成23年の国税通則法の改正により、地方税法の適用除外規定は、削除され、行政手続法の14条における不利益処分に関する理由提示は法律上求められているものと捉えられる。以下の税制改正のすべてにおいても、国税通則法における改正と歩調を合わせる形で、改正が行われていることが確認される。
総務大臣が地方税に関する法律に基づき行う不
利益処分又は申請により求められた許認可等を拒
否する処分(以下「不利益処分等」といいます。)
について、行政手続法の規定に基づき理由を附記
することとされました(地法18の4 ①)。」
しかしながら、この改正における理由附記の対象は法律に基づく処分が対象となっているものであり、自治体がおこなう地方税の実際の不利益処分に関しては、適用対象としていない。地方税法の改正が行われているがあくまでも地方税関する処分は、地方自治の本旨に則り自治体が条例に基づくものとして考えられ、各自治体の条例により定めに委ねられている。すなわち各自治体の判断により、理由吹きを行うべきであるのかという点が決定されていることになろう。本件で問題となった東京都の条例においても、地方税の課税根拠を、条例に求めており、更にその手続に関しては、理由提示の規定の適用対象とはしていない。
1 都税条例1条(課税の根拠)
東京都都税(以下「都税」という。)及びその賦課徴収については、法令その他に
別に定があるものの外、この条例の定めるところによる。
2 都税条例12条の2(東京都行政手続条例の適用除外)
(1) 1項
東京都行政手続条例3条又は4条に定めるもののほか、この条例に基づく処
分その他公権力の行使に当たる行為については、同条例第2章及び第3章の規
定は、適用しない。
(2) 2項 〔略〕
3 都税条例施行規則40条の3(第二次納税義務者に対する納付の通知等)
法11条1項の規定による第二次納税義務者に対する納付または納入の告知は、納
付(納入)通知書により、同法同条2項の規定による第二次納税義務者に対する納付
または納入の督促は、納付(納入)催告書による。
東京都都税(以下「都税」という。)及びその賦課徴収については、法令その他に
別に定があるものの外、この条例の定めるところによる。
2 都税条例12条の2(東京都行政手続条例の適用除外)
(1) 1項
東京都行政手続条例3条又は4条に定めるもののほか、この条例に基づく処
分その他公権力の行使に当たる行為については、同条例第2章及び第3章の規
定は、適用しない。
(2) 2項 〔略〕
3 都税条例施行規則40条の3(第二次納税義務者に対する納付の通知等)
法11条1項の規定による第二次納税義務者に対する納付または納入の告知は、納
付(納入)通知書により、同法同条2項の規定による第二次納税義務者に対する納付
または納入の督促は、納付(納入)催告書による。
ここに本件における二次納税義務の通知書において記載された、地方税法における規定を根拠としたという点が課題となる余地が発生することになる。すなわち、二次納税義務の根拠を地方税法あるいは条例に基づくか否かにより、理由提示の義務が課せられるものであるのか否かという点が左右されることになる。
かかる点につき、判示では以下のように、
「地方税法は、地方団体が同法の定めるところによって、地方税を賦課徴収することができる旨を定める(同法2条)とともに、地方団体が「その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない」(同法3条1項)と定めており、地方公共団体が自主財政権に基づく自治課税権を有していると解されること(憲法94条)に鑑みても、地方税の賦課徴収の直接の根拠は、地方団体の条例にあると解すべきであり、地方税法は地方団体がその課税権を行使し得る範囲を定める標準法ないし枠法であると解される。なお、地方税法2条は、地方団体が地方税を賦課徴収する権能を付与したものであるが、このことをもって地方税の賦課徴収の根拠が地方税法であるということはできず都税条例1条は、都税及びその賦課徴収については、飽くまでも同条を介することにより、都税条例に定めるもののほか、地方税法の定めるところによるものとするという趣旨に解され、原告が主張するように、都税条例に要件や効果の定めがない事項については、都税条例1条を介することなく地方税法の規定が直接に適用されるという趣 旨に解することはできない。」
地方自治体に憲法上認められた課税権の存在を基礎として、あくまでも、条例に基づくものとして課税の根拠を理解している。基本的にこの原則的な考え方は従前と整合的であり、課税の根拠が地方税法ではなく、各自治体の条例にあることは、妨げられないものと考えられる。しかるに、地方自治体が行う課税処分においては、条例が基礎となっているものであり、もって行政手続法の適用が直接的に行われる、不利益処分の理由提示の規定は適用されないものと考えるべきであろう。このように地方税法はあくまでも課税の根拠を定めたものではなく、枠法としての位置づけであると理解するならば、各条例において、地方税法の規定を一般的に通則的に取り込む規定を置くことが妥当かという点は懸念される。枠法として課税の平準化を企図したものであり、住民の意思に基づく条例をその基礎として捉えることになるならば、地方税法の規定を一般的、通則的に取り込むことは、地方自治の原則に反するのではないだろうか。あくまでも地方税法の規定が個々に吟味され、取り込むべきであるのかが決定されるべきであり(もちろん立法技術の制約はあろうが)、枠法というだけでは具体的に取り込むべき内容を必ずしも明らかとしたものとは言えず、条例を根拠としながらも明示的にその規定内容を理解することは困難であろう。
また、そもそも、地方自治体の行う課税処分において、理由提示を定めていないことは、憲法が保証する適正手続保障の原則に反するのではないかという点も課題となる。国税に関する処分に関しては、基本的に理由提示、附記を求めており、その対比において自治体の課税処分において係る保障が図られていないことは、説得力に欠けるという指摘もあり得よう。判示においてもはかかる点につき、
「行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、その全てが当然に憲法31条による保障の枠外にあると判断することは相当ではないが、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解すべきである〔最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁参照)。都税条例に基づく処分その他公権力の行使に当たる行為は、極めて大量かつ回帰的に行われるものであり、理由提示に係る事務負担は少なくなく、これにより制限を受ける納税者の財産上の利益は、事後的な回復が可能であることにも照らすと、都税条例に基づく処分その他公権力の行使に当たる行為について理由を提示することが憲法上要請されているということはできず、都税条例12条の2第1項が憲法31条に反するということはできない。」
以上のように述べ、課税処分の基本的性格から必ずしも求められているものと理解することは困難であるとしてその適用除外を肯定しているが、国税とのバランスの観点は、取り入れられていない。自治の尊重を基礎としてかかる判断は各自治体に委ねられている現状であるが、これは隠れ蓑であり、権利保護の観点からは、課題であるとの指摘もあり得ようし、一般の納税者において国税とのバランスが取られていない現状は違和感が指摘されても当然であろう。しかしながら現実的に地方税に関する理由提示が困難であるのか否かという点は考慮されるべきであり、拙稿において指摘したように、手続整備がかえって、大量の処分を行うことが前提となっている課税においてはその負荷を嫌い、実務的にかかる提示が行われないように調査が長期化するような状況も想定されるところでもあり、また、各自治体の実務的な処理を行うマンパワーなどの状況も相違があるものと考えられ、一律でも対応も困難であろうし、また、やはり自治体の判断は尊重されるべきものであろう市慎重な検討が行われるべきものと考える。立法論であろうが、このように地方税法に関する理由提示に関しては、このような課題を抱えており、本件はかかる課題を提示する好例として考えられよう。
地方税法11条の8(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)
滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足す
ると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該地方団体の徴
収金の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った、政令で定める
無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の
免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分
により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現
に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者で
あるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、当該滞納に係る地方
団体の徴収金の第二次納税義務を負う。
滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足す
ると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該地方団体の徴
収金の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った、政令で定める
無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の
免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分
により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現
に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者で
あるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、当該滞納に係る地方
団体の徴収金の第二次納税義務を負う。
また本件で課題となった二次納税義務に関しては、基本的に課税要件を充足した納税義務者とは別途に、当該主たる納税義務者との特別な関係性を基礎として、二次的な納税義務を課す特別な規定であり、公平負担や徴収の確保をその基礎とするものであって、その性格に関しては解釈が争われてきた。かかる点につき処分行政庁は、本件の主張において以下のように主張し、理由提示との関係において、根拠を示せば足りるものとして、いわば理由提示の範囲を限定的に捉えている。
「第二次納税義務に係る納付告知等の処分は、主たる納税義務が具体的に確定しており、かつ、当該処分の名宛人と主たる納税者との間に特別な関係があることを前提としてされるものである以上、主たる納税義務の成立につき課税庁の恣意が介在する余地が存在しないばかりか、当該処分に係る書面において適用される条文の記載さえあれば、当該処分の名宛人が第二次納税義務者として主たる納税義務の履行責任を負う原因となった具体的な事実関係たる課税理由についても、当該処分の名宛人自ら理解できるはずであり、同人による不服の申立てにつき支障が生じることもなく、行政手続法14条1項の趣旨を損なうものではない。」
かかる点に関しては最終的には判示においては検討が行われていないが、このような理由附記との関係において、行政手続法の趣旨を損なうものではないとの考えから、開示対象を限定的に理解することは妥当なのであろうか。この二次納税義務は本来の納税義務者とは異なる者に対して、納税義務を課す規定であり、財産権の侵害を伴う規定であると考えるならば、また、主たる納税義務者の、課税処分につき、二次納税義務者が争うことが可能であるのかという点が議論になるように、事後的な救済を図ることが確保されることがこの理由提示の基本的な趣旨であると捉えるならば、単に根拠を示せば足りるものと捉えて、限定的に考えることは疑問であるとも考えられる。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。
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