さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月15日裁決で、信用出資により設立された法人の消費税の納税義務における納税義務の特例の該当性が問題となった事例です。
具体的には、行政書士法人を設立した請求人において、当該法人の新設にあたり、通常の財産出資ではなく、信用の出資によって設立した場合において、当該評価が1000万円を超過していたと評価されている状況において、下記に定める消費税法上の新設法人に対する納税義務の免除の特例の適用対象となりうるものであるのか否かという点が争点とされたものである。
より具体的には資本金の額又は出資の金額
と消費税法に定められているものであるが、かかる信用出資が上記に該当するものであるのか、すなわち、かかる法規文言の解釈が問題になっているものと考えられる。上記資本金・出資等に関しては、法規においてその具体的な定義は定められておらず、かかる意義を如何に解すべきであるのかという点が中心的な争点になっているものと考えられる。事実関係は至ってシンプルであり、その出資に関する評価額等につき、争いはないものであって、上記解釈が問題となっているものと捉えられる。法人税法等では資本等取引等の判定において、かかる意義がいかなるものと考えられるのかという点が課題となることが多いが、消費税法においてはかかる意義をいかに捉えるべきであるのかという点は、上記のように法規定の定めがなく、その意義を取り扱っている点で興味深い事例であろう。現行実務でも新設法人においては、その具体的な出資等の額を定めるのかという点は、消費税法の納税義務にかかる問題であり、その金額は重要な考慮事項であろう(おそらく)し、当然のように検討されるものと考えられるが、本件のように、行政書士法人における信用出資と言う特殊なケースであるものの(かかる点においては実務上の直接的な適用性は少ないと判断されるものであるが)、新設段階における消費税法上の留意点を表しているという点において、参考となるべき事案であるように考えられる。
第九条 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第一二条の二 その事業年度の基準期間がない法人(社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人その他の専ら別表第一に掲げる資産の譲渡等を行うことを目的として設立された法人で政令で定めるものを除く。)のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が千万円以上である法人(以下この項及び次項において「新設法人」という。)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一項、第十一条第三項若しくは第四項若しくは前条第一項若しくは第二項の規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産の譲渡等については、第九条第一項本文の規定は、適用しない。
以上のように、本件の中心的な争点は一般的な財産出資ではなく、金銭的な評価が劣位にある信用出資を対象として(労務出資とも異なり、典型的な人的会社であると言えよう)、かかるような出資においてもなお、上記、消費税法上の新設法人に対する納税義務の免除特例の対象となりうるものであるのか否かという点が課題となっているものである。この
資本金の額又は出資の金額が千万円以上
であるという要件において、その意義がいかなるものであるのかという点が課題となっているものであり、判断としては、消費税法基本通達にある以下のように、非常に幅広い解釈を採用して、請求人の主張を退けているものである。
1-5-16 法第12条の2第1項《新設法人の納税義務の免除の特例》に規定する「出資の金額」には、営利法人である合名会社、合資会社又は合同会社に係る出資の金額に限らず、農業協同組合及び漁業協同組合等の協同組合に係る出資の金額、特別の法律により設立された法人で出資を受け入れることとしている当該法人に係る出資の金額、地方公営企業法第18条《出資》に規定する地方公共団体が経営する企業に係る出資の金額及びその他の法人で出資を受け入れることとしている場合の当該法人に係る出資の金額が該当するのであるから留意する。(平10課消2-9により追加、平18課消1-16、平21課消1-10、平22課消1-9、平25課消1-34により改正)
請求人は、会社法施行規則をもって、本件の資本金等の意義を「社員が履行した出資により持分会社に対し払込み又は給付がされた財産の価額」としており、かかる解釈を借用した概念であるとして、かかる点から信用出資における新設法人としての免除特例の例外には該当しないものとして主張しているものである。租税法規の基本的な要請として、法的な安定性や予測可能性を重視するならば、かかるような借用概念として理解することは一定の合理性を有しているものと考えられる。しかしながら、判断では、上記通達の処理を肯定しており(裁決である以上当然でもあるが)、いわば、資本金等の意義として、財産出資等の範囲を拡張的に解釈して、非常に幅広い判断を前提としているものと捉えられ、いわば、資本金等の意義を固有概念として解しているように考えられる。租税法規の基本的な解釈指針としては、原則的に明示的な意義をもって法文において明示されていない以上、統一的に借用概念として捉えることが妥当であるものと考えられる。本件はこの例外をしましたものとも評価されうるものである。しかるにいかなる所以をもって、その原則的な判断からの逸脱を図ることになったものであるのかということが課題であり、上記通達の合理性を検討すべき点でもあろう。
「消費税は、消費一般に広く負担を求めるものであり、その趣旨からすると、多くの事業者が納税義務者となるが、零細事業者の事務処理能力(事務負担)、徴税コスト、転嫁の実現可能性等の面を考慮し、全ての事業者を納税義務者とするのは適当ではないとして、一定の事業規模以下の小規模事業者については、納税義務を免除することとされている。」
上記のように判断では、消費税法の納税義務の判定における小規模事業者への配慮を定めているものとして理解されている。私見としては、資本金等の意義につき、借用概念として捉えることも、予見可能性や安定性の観点からも一定の合理性を有しているものと評価されるべきものと考えられるが、幅広い納税義務を基礎とする消費税法における例外的な対象を規制する、趣旨であり、従前の新設法人における一律の納税義務の免除に対する判断を是正すべきものとした立法措置である経緯を鑑みるに、すなわち、従前の新設法人における基準期間の有無を問題とする法構造から転換を図った上で、納税義務の免除(そもそも、消費税法の導入時とは異なり、ソフトウェアの発展や消費税法への理解も進んできたことから【もちろん消費税法に対する理解が未だ低いとの判断もあり得ようが】、この免除自身が必要であるのかという点はより本格的に検討されるべきものであるように考えられるのではないだろうか。事務負担の増加と言う側面は存在するものの、人的な役務提供が個人事業主によって提供されるような働き方の改革が進んでいるような状況やインボイスの普及も捉えるならば、小規模事業者への免除特例の本格的な役割は役目を終えたのではないだろうか、かかる存在がかえって、租税回避を生み出し、本件のような免除特例の対象となるような例外規定の制定が必要とされるようになっていることはシンプルな租税制度である消費税法の行動にとって合理的な存在であろうか)の基本的な趣旨に立ち返った判断、すなわち、事務負担への配慮(ただし、この事務負担の配慮という点も必ずしもその具体的な意義が定かであるとは言えず、具体的にいかなる負担への配慮であるのかという点が定かとはならない。上記のように消費税法を取り巻く環境や、制度が変更となっている状況下において、対象となるような具体的な負担を以下に捉えるべきであるのか、もって従前と同様に納税義務の免除を持って対応すべきものであるのかという点は検討の余地があるだろう)を合理的に判断することを目的とした制度であり、かかる点から、目的の異なる計算規則による資本金等の意義を借用すべきものであるとは考えられず、例外的な、消費税法における固有概念として捉えるべきものと言える。借用概念とすると出資の形態により規模の判断が異なることになり、同種の法人形態であっても消費税法における納税義務が異なる結果となり、かえって課税負担の公平性・中立性に反するものとなりかねず、根拠法令となる行政書士法においても出資による差異が具体的に存在していない以上、広範囲に捉える判断は妥当であろう。
ただし金額と文言において表現されている以上、客観的な金額の確定が可能な財産出資を原則とする考え方も一定の合理性がある。より発展的には、そもそも基準期間に基づく納税義務の判定そのものが妥当であるのかという点も課題となろう。また出資金額においても、近年の金融取引の多様的な状況を鑑みれば、優先株、劣後債などの資本との類似的な機能をもたせた形式の組成が可能である。かかるような点からは資本金等に基づく判断にも潜脱の可能性があり、本件のような解釈論において対応できるのかという点も今後は課題となるのではないだろうか。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。