2018年6月30日土曜日

判例裁決紹介(平成29年6月15日裁決、信用出資による消費税納税義務の特例の判断)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月15日裁決で、信用出資により設立された法人の消費税の納税義務における納税義務の特例の該当性が問題となった事例です。

具体的には、行政書士法人を設立した請求人において、当該法人の新設にあたり、通常の財産出資ではなく、信用の出資によって設立した場合において、当該評価が1000万円を超過していたと評価されている状況において、下記に定める消費税法上の新設法人に対する納税義務の免除の特例の適用対象となりうるものであるのか否かという点が争点とされたものである。 より具体的には資本金の額又は出資の金額 と消費税法に定められているものであるが、かかる信用出資が上記に該当するものであるのか、すなわち、かかる法規文言の解釈が問題になっているものと考えられる。上記資本金・出資等に関しては、法規においてその具体的な定義は定められておらず、かかる意義を如何に解すべきであるのかという点が中心的な争点になっているものと考えられる。事実関係は至ってシンプルであり、その出資に関する評価額等につき、争いはないものであって、上記解釈が問題となっているものと捉えられる。法人税法等では資本等取引等の判定において、かかる意義がいかなるものと考えられるのかという点が課題となることが多いが、消費税法においてはかかる意義をいかに捉えるべきであるのかという点は、上記のように法規定の定めがなく、その意義を取り扱っている点で興味深い事例であろう。現行実務でも新設法人においては、その具体的な出資等の額を定めるのかという点は、消費税法の納税義務にかかる問題であり、その金額は重要な考慮事項であろう(おそらく)し、当然のように検討されるものと考えられるが、本件のように、行政書士法人における信用出資と言う特殊なケースであるものの(かかる点においては実務上の直接的な適用性は少ないと判断されるものであるが)、新設段階における消費税法上の留意点を表しているという点において、参考となるべき事案であるように考えられる。


第九条 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第一二条の二 その事業年度の基準期間がない法人(社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人その他の専ら別表第一に掲げる資産の譲渡等を行うことを目的として設立された法人で政令で定めるものを除く。)のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が千万円以上である法人(以下この項及び次項において「新設法人」という。)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一項、第十一条第三項若しくは第四項若しくは前条第一項若しくは第二項の規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産の譲渡等については、第九条第一項本文の規定は、適用しない。
以上のように、本件の中心的な争点は一般的な財産出資ではなく、金銭的な評価が劣位にある信用出資を対象として(労務出資とも異なり、典型的な人的会社であると言えよう)、かかるような出資においてもなお、上記、消費税法上の新設法人に対する納税義務の免除特例の対象となりうるものであるのか否かという点が課題となっているものである。この 資本金の額又は出資の金額が千万円以上 であるという要件において、その意義がいかなるものであるのかという点が課題となっているものであり、判断としては、消費税法基本通達にある以下のように、非常に幅広い解釈を採用して、請求人の主張を退けているものである。


1-5-16 法第12条の2第1項《新設法人の納税義務の免除の特例》に規定する「出資の金額」には、営利法人である合名会社、合資会社又は合同会社に係る出資の金額に限らず、農業協同組合及び漁業協同組合等の協同組合に係る出資の金額、特別の法律により設立された法人で出資を受け入れることとしている当該法人に係る出資の金額、地方公営企業法第18条《出資》に規定する地方公共団体が経営する企業に係る出資の金額及びその他の法人で出資を受け入れることとしている場合の当該法人に係る出資の金額が該当するのであるから留意する。(平10課消2-9により追加、平18課消1-16、平21課消1-10、平22課消1-9、平25課消1-34により改正)

請求人は、会社法施行規則をもって、本件の資本金等の意義を「社員が履行した出資により持分会社に対し払込み又は給付がされた財産の価額」としており、かかる解釈を借用した概念であるとして、かかる点から信用出資における新設法人としての免除特例の例外には該当しないものとして主張しているものである。租税法規の基本的な要請として、法的な安定性や予測可能性を重視するならば、かかるような借用概念として理解することは一定の合理性を有しているものと考えられる。しかしながら、判断では、上記通達の処理を肯定しており(裁決である以上当然でもあるが)、いわば、資本金等の意義として、財産出資等の範囲を拡張的に解釈して、非常に幅広い判断を前提としているものと捉えられ、いわば、資本金等の意義を固有概念として解しているように考えられる。租税法規の基本的な解釈指針としては、原則的に明示的な意義をもって法文において明示されていない以上、統一的に借用概念として捉えることが妥当であるものと考えられる。本件はこの例外をしましたものとも評価されうるものである。しかるにいかなる所以をもって、その原則的な判断からの逸脱を図ることになったものであるのかということが課題であり、上記通達の合理性を検討すべき点でもあろう。

「消費税は、消費一般に広く負担を求めるものであり、その趣旨からすると、多くの事業者が納税義務者となるが、零細事業者の事務処理能力(事務負担)、徴税コスト、転嫁の実現可能性等の面を考慮し、全ての事業者を納税義務者とするのは適当ではないとして、一定の事業規模以下の小規模事業者については、納税義務を免除することとされている。」

上記のように判断では、消費税法の納税義務の判定における小規模事業者への配慮を定めているものとして理解されている。私見としては、資本金等の意義につき、借用概念として捉えることも、予見可能性や安定性の観点からも一定の合理性を有しているものと評価されるべきものと考えられるが、幅広い納税義務を基礎とする消費税法における例外的な対象を規制する、趣旨であり、従前の新設法人における一律の納税義務の免除に対する判断を是正すべきものとした立法措置である経緯を鑑みるに、すなわち、従前の新設法人における基準期間の有無を問題とする法構造から転換を図った上で、納税義務の免除(そもそも、消費税法の導入時とは異なり、ソフトウェアの発展や消費税法への理解も進んできたことから【もちろん消費税法に対する理解が未だ低いとの判断もあり得ようが】、この免除自身が必要であるのかという点はより本格的に検討されるべきものであるように考えられるのではないだろうか。事務負担の増加と言う側面は存在するものの、人的な役務提供が個人事業主によって提供されるような働き方の改革が進んでいるような状況やインボイスの普及も捉えるならば、小規模事業者への免除特例の本格的な役割は役目を終えたのではないだろうか、かかる存在がかえって、租税回避を生み出し、本件のような免除特例の対象となるような例外規定の制定が必要とされるようになっていることはシンプルな租税制度である消費税法の行動にとって合理的な存在であろうか)の基本的な趣旨に立ち返った判断、すなわち、事務負担への配慮(ただし、この事務負担の配慮という点も必ずしもその具体的な意義が定かであるとは言えず、具体的にいかなる負担への配慮であるのかという点が定かとはならない。上記のように消費税法を取り巻く環境や、制度が変更となっている状況下において、対象となるような具体的な負担を以下に捉えるべきであるのか、もって従前と同様に納税義務の免除を持って対応すべきものであるのかという点は検討の余地があるだろう)を合理的に判断することを目的とした制度であり、かかる点から、目的の異なる計算規則による資本金等の意義を借用すべきものであるとは考えられず、例外的な、消費税法における固有概念として捉えるべきものと言える。借用概念とすると出資の形態により規模の判断が異なることになり、同種の法人形態であっても消費税法における納税義務が異なる結果となり、かえって課税負担の公平性・中立性に反するものとなりかねず、根拠法令となる行政書士法においても出資による差異が具体的に存在していない以上、広範囲に捉える判断は妥当であろう。

ただし金額と文言において表現されている以上、客観的な金額の確定が可能な財産出資を原則とする考え方も一定の合理性がある。より発展的には、そもそも基準期間に基づく納税義務の判定そのものが妥当であるのかという点も課題となろう。また出資金額においても、近年の金融取引の多様的な状況を鑑みれば、優先株、劣後債などの資本との類似的な機能をもたせた形式の組成が可能である。かかるような点からは資本金等に基づく判断にも潜脱の可能性があり、本件のような解釈論において対応できるのかという点も今後は課題となるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(東京地判平成28年12月20日、地方税における二次納税義務の適用と処分理由の提示)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成28年12月20日で、地方税における二次納税義務の適用にあたって処分理由開示の不備が争点となった事例です。

具体的には、地方自治体が、滞納法人の取締役である原告に対して二次納税義務の履行を求めたものであり、その手続段階において、通知における理由提示の不備が問題となった事例である。より具体的には通知に記載の二次納税義務の根拠が地方税法の規定を根拠としているものと記載されており、しかるに、行政手続法14条における不利益処分に対する理由提示が行われるべきであり、この提示を欠いた二次納税義務の履行の求めは無効であるのではないかという点を争点とした事例である。基本的に地方税に関する事案であり、また、二次納税義務の履行に関する問題であって、民間の実務家としては、参考となるような状況は少ないかもしれないが、近年改正された課税処分に対する、理由提示に関わる、特に地方税法に関わる事例であり、かかる点では貴重な事例であるように捉えられる。地方税法の位置づけや地方税の課税根拠等の基本的な理解に基づく判断が行われている事案であり、地方税法における事例として参考となるものと考えられる。

地方税法18条の4(行政手続法の適用除外)
  (1) 1項
      行政手続法3条又は4条1項に定めるもののほか、地方税に関する法令の規
     定による処分その他公権力の行使に当たる行為については、同法第2章(8条
     を除く。)及び第3章(14条を除く。)の規定は、適用しない。

以上のように、本件の主たる争点は、地方税法の徴収手続における理由提示上の不備が発生しているのか否かという点であり、地方税法における不利益処分に対する行政手続法の理由提示を如何に捉えるのかという点が起点となっているように考えられる。

上記のように、地方税法における理由附記に関しては、行政手続法の適用除外として長く対応されてきたものであるが、平成23年の国税通則法の改正により、地方税法の適用除外規定は、削除され、行政手続法の14条における不利益処分に関する理由提示は法律上求められているものと捉えられる。以下の税制改正のすべてにおいても、国税通則法における改正と歩調を合わせる形で、改正が行われていることが確認される。

「不利益処分等に係る理由附記
 総務大臣が地方税に関する法律に基づき行う不
利益処分又は申請により求められた許認可等を拒
否する処分(以下「不利益処分等」といいます。)
について、行政手続法の規定に基づき理由を附記
することとされました(地法18の4 ①)。」

しかしながら、この改正における理由附記の対象は法律に基づく処分が対象となっているものであり、自治体がおこなう地方税の実際の不利益処分に関しては、適用対象としていない。地方税法の改正が行われているがあくまでも地方税関する処分は、地方自治の本旨に則り自治体が条例に基づくものとして考えられ、各自治体の条例により定めに委ねられている。すなわち各自治体の判断により、理由吹きを行うべきであるのかという点が決定されていることになろう。本件で問題となった東京都の条例においても、地方税の課税根拠を、条例に求めており、更にその手続に関しては、理由提示の規定の適用対象とはしていない。

 1 都税条例1条(課税の根拠)
   東京都都税(以下「都税」という。)及びその賦課徴収については、法令その他に
  別に定があるものの外、この条例の定めるところによる。
 2 都税条例12条の2(東京都行政手続条例の適用除外)
  (1) 1項
      東京都行政手続条例3条又は4条に定めるもののほか、この条例に基づく処
     分その他公権力の行使に当たる行為については、同条例第2章及び第3章の規
     定は、適用しない。
  (2) 2項 〔略〕
 3 都税条例施行規則40条の3(第二次納税義務者に対する納付の通知等)
   法11条1項の規定による第二次納税義務者に対する納付または納入の告知は、納
  付(納入)通知書により、同法同条2項の規定による第二次納税義務者に対する納付
  または納入の督促は、納付(納入)催告書による。

ここに本件における二次納税義務の通知書において記載された、地方税法における規定を根拠としたという点が課題となる余地が発生することになる。すなわち、二次納税義務の根拠を地方税法あるいは条例に基づくか否かにより、理由提示の義務が課せられるものであるのか否かという点が左右されることになる。

かかる点につき、判示では以下のように、

「地方税法は、地方団体が同法の定めるところによって、地方税を賦課徴収することができる旨を定める(同法2条)とともに、地方団体が「その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない」(同法3条1項)と定めており、地方公共団体が自主財政権に基づく自治課税権を有していると解されること(憲法94条)に鑑みても、地方税の賦課徴収の直接の根拠は、地方団体の条例にあると解すべきであり、地方税法は地方団体がその課税権を行使し得る範囲を定める標準法ないし枠法であると解される。なお、地方税法2条は、地方団体が地方税を賦課徴収する権能を付与したものであるが、このことをもって地方税の賦課徴収の根拠が地方税法であるということはできず都税条例1条は、都税及びその賦課徴収については、飽くまでも同条を介することにより、都税条例に定めるもののほか、地方税法の定めるところによるものとするという趣旨に解され、原告が主張するように、都税条例に要件や効果の定めがない事項については、都税条例1条を介することなく地方税法の規定が直接に適用されるという趣 旨に解することはできない。」

地方自治体に憲法上認められた課税権の存在を基礎として、あくまでも、条例に基づくものとして課税の根拠を理解している。基本的にこの原則的な考え方は従前と整合的であり、課税の根拠が地方税法ではなく、各自治体の条例にあることは、妨げられないものと考えられる。しかるに、地方自治体が行う課税処分においては、条例が基礎となっているものであり、もって行政手続法の適用が直接的に行われる、不利益処分の理由提示の規定は適用されないものと考えるべきであろう。このように地方税法はあくまでも課税の根拠を定めたものではなく、枠法としての位置づけであると理解するならば、各条例において、地方税法の規定を一般的に通則的に取り込む規定を置くことが妥当かという点は懸念される。枠法として課税の平準化を企図したものであり、住民の意思に基づく条例をその基礎として捉えることになるならば、地方税法の規定を一般的、通則的に取り込むことは、地方自治の原則に反するのではないだろうか。あくまでも地方税法の規定が個々に吟味され、取り込むべきであるのかが決定されるべきであり(もちろん立法技術の制約はあろうが)、枠法というだけでは具体的に取り込むべき内容を必ずしも明らかとしたものとは言えず、条例を根拠としながらも明示的にその規定内容を理解することは困難であろう。

また、そもそも、地方自治体の行う課税処分において、理由提示を定めていないことは、憲法が保証する適正手続保障の原則に反するのではないかという点も課題となる。国税に関する処分に関しては、基本的に理由提示、附記を求めており、その対比において自治体の課税処分において係る保障が図られていないことは、説得力に欠けるという指摘もあり得よう。判示においてもはかかる点につき、

「行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、その全てが当然に憲法31条による保障の枠外にあると判断することは相当ではないが、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解すべきである〔最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁参照)。都税条例に基づく処分その他公権力の行使に当たる行為は、極めて大量かつ回帰的に行われるものであり、理由提示に係る事務負担は少なくなく、これにより制限を受ける納税者の財産上の利益は、事後的な回復が可能であることにも照らすと、都税条例に基づく処分その他公権力の行使に当たる行為について理由を提示することが憲法上要請されているということはできず、都税条例12条の2第1項が憲法31条に反するということはできない。」

以上のように述べ、課税処分の基本的性格から必ずしも求められているものと理解することは困難であるとしてその適用除外を肯定しているが、国税とのバランスの観点は、取り入れられていない。自治の尊重を基礎としてかかる判断は各自治体に委ねられている現状であるが、これは隠れ蓑であり、権利保護の観点からは、課題であるとの指摘もあり得ようし、一般の納税者において国税とのバランスが取られていない現状は違和感が指摘されても当然であろう。しかしながら現実的に地方税に関する理由提示が困難であるのか否かという点は考慮されるべきであり、拙稿において指摘したように、手続整備がかえって、大量の処分を行うことが前提となっている課税においてはその負荷を嫌い、実務的にかかる提示が行われないように調査が長期化するような状況も想定されるところでもあり、また、各自治体の実務的な処理を行うマンパワーなどの状況も相違があるものと考えられ、一律でも対応も困難であろうし、また、やはり自治体の判断は尊重されるべきものであろう市慎重な検討が行われるべきものと考える。立法論であろうが、このように地方税法に関する理由提示に関しては、このような課題を抱えており、本件はかかる課題を提示する好例として考えられよう。

地方税法11条の8(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)
   滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足す
  ると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該地方団体の徴
  収金の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った、政令で定める
  無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の
  免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分
  により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現
  に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者で
  あるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、当該滞納に係る地方
  団体の徴収金の第二次納税義務を負う。

また本件で課題となった二次納税義務に関しては、基本的に課税要件を充足した納税義務者とは別途に、当該主たる納税義務者との特別な関係性を基礎として、二次的な納税義務を課す特別な規定であり、公平負担や徴収の確保をその基礎とするものであって、その性格に関しては解釈が争われてきた。かかる点につき処分行政庁は、本件の主張において以下のように主張し、理由提示との関係において、根拠を示せば足りるものとして、いわば理由提示の範囲を限定的に捉えている。

「第二次納税義務に係る納付告知等の処分は、主たる納税義務が具体的に確定しており、かつ、当該処分の名宛人と主たる納税者との間に特別な関係があることを前提としてされるものである以上、主たる納税義務の成立につき課税庁の恣意が介在する余地が存在しないばかりか、当該処分に係る書面において適用される条文の記載さえあれば、当該処分の名宛人が第二次納税義務者として主たる納税義務の履行責任を負う原因となった具体的な事実関係たる課税理由についても、当該処分の名宛人自ら理解できるはずであり、同人による不服の申立てにつき支障が生じることもなく、行政手続法14条1項の趣旨を損なうものではない。」

かかる点に関しては最終的には判示においては検討が行われていないが、このような理由附記との関係において、行政手続法の趣旨を損なうものではないとの考えから、開示対象を限定的に理解することは妥当なのであろうか。この二次納税義務は本来の納税義務者とは異なる者に対して、納税義務を課す規定であり、財産権の侵害を伴う規定であると考えるならば、また、主たる納税義務者の、課税処分につき、二次納税義務者が争うことが可能であるのかという点が議論になるように、事後的な救済を図ることが確保されることがこの理由提示の基本的な趣旨であると捉えるならば、単に根拠を示せば足りるものと捉えて、限定的に考えることは疑問であるとも考えられる。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年6月19日火曜日

判例裁決紹介(平成29年4月4日裁決、不法行為に伴う損害賠償・確定判決と更正の請求の対象)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年4月4日裁決で、不法行為に伴う損害賠償請求を命じた確定判決が更正の請求の特例対象理由として該当するのか否かという点が争われたものです。

具体的には、コンサルティング業を営む請求人が業務委託先として受領した金員が、不法行為に伴う損害賠償請求の対象となったことにより生じた確定判決によって、当該業務委託収入を益金とした確定申告につき、下記、国税通則法23条2項に定める更正の請求の原因として該当するのか否かという点が争われた事例である。
より具体的には、計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決として、当該損害賠償請求が該当するのか否かという点が課題となっており、かかる部分の解釈が起点となっているものと考えられる。最終的には、あくまでも本件判決は、業務委託費の金額の修正を伴うものではなく(返還義務が発生しておらず)、不法行為に基づく、損害賠償義務の発生がもたらされたものであり、公正処理基準により、前期の損益修正を行うべきものでなく、もって過大であるとは判断されていないものである。手続法に関する部分であり、また、かつてのように更正の請求の期間制限が一年と短いものではなく、下記のように5年に延長された事により実質的な問題としては影響力が小さいものであるのではないかとも考えられるが、権利救済における対象範囲を律するものであり、適正な手続をその具体的な内容とすると考えられる租税法律主義の要請として、より具体的に考えら得るべきものであるように捉えられる。基本的に事実関係が問題となっているとも評価されるべきものであるが、納税者の一般的な意識としては、損害賠償として支払うことで受領した金員が過大であることを証左するものとして捉えて、過年度の租税負担を修正すべきものとして考えることは、想定されうるところであり、かかる意識とのズレが生じうることは、専門家として留意されるべきものといえよう。また、本件はかかる点以外にも、損害賠償請求のタイミングも課題とされており、かかる点も(あるいはこの点のほうが)実務家としては参考となるべきものと考えられる。

(更正の請求)
第二十三条 納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、十年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第二十六条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。

2 納税申告書を提出した者又は第二十五条(決定)の規定による決定(以下この項において「決定」という。)を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合(納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求(以下「更正の請求」という。)をすることができる。
一 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき その確定した日の翌日から起算して二月以内

以上のように本件の中心的な争点は請求人が訴訟により得た確定判決によって生じた負担である、損害賠償請求に対する負担が、過年度の申告事実を修正することを求めた更正の請求の対象として該当するものであるのか否かという点が課題となっている。その適用にあたっては、

「通則法第23条第2項による更正の請求が認められるためには、同項に規定するいわゆる後発的事由の発生及び同項所定の期限内の更正の請求という手続的要件を満たすだけでは足りず、同条第1項各号に掲げる税額が過大であるなどの各租税実体法に定める実体的要件が満たされていることが必要である。」

上記のように本件では判断を行い、更正の請求においては、その適用要件として期限内等の手続要件のみならず、事実関係の過大であることなどが問題とされている。この点は、従前と整合的であるものと考えられるが、かかる点が如何なる点に依拠しているものであるのか、より具体的には、更正の請求の排他性等を考慮しており、その制限を基礎づけているのかという点は問題となろう。この点は本件においては特段議論されておらず、基本的な性格の検討が必要とも考えられる(立法的な救済の議論であるとも言えようが)。

この実体的な適用の要件充足に関しては、以下のように判断を行っている。

「法人税法上、法人の当該事業年度において生じた損失の額は当該事業年度の損金の額とすべきものであり、当該事業年度前の各事業年度に遡及して所得の金額を修正すべきものではないから、請求人は、本件確定判決によって支払うこととなった不法行為による損害賠償請求権基づく損害賠償金について、本件事業年度に遡及して、本件業務委託費に係る所得の金額を修正することはできないというべきである。そうすると、本件確定判決により、請求人の本件事業年度における法人税について、所得金額又は納付すべき税額が過大となることはなく、通則法第23条第1項各号に掲げる課税標準等又は税額等が過大であるなどの実体的要件を欠くことになる。 」

以上のように、本件で対象とされた確定判決(そもそも確定しているかどうかも争点になりうるが、また確定が何を意味しており、それゆえに、何を果たそうとしているのかという点も課題となろう)では、不法行為に基づく、判決であり、損害賠償義務が認められている。原因となった支払いの返還(原状回復)や契約の無効等が発生しているものではなく、不当利得に基づく返還等が問題になっていないことは、まずは留意されるべきであろう。損害賠償義務は、計算の基礎となった業務委託が過大であったことを証左するものであり、かかる点を起点としているものである。すなわち実質的な過大の是正として損害賠償を行っているものとして認識されている(特に請求人において)。しかしながら判断では、かかる判決は、基礎となる事実である業務委託費の支払いに対する損害賠償義務の発生を示すにとどまるとして認識されている。かかる点において、過年度の申告における租税負担の救済の対象範囲を限定しているものと言えよう。

そもそも、この計算の基礎となる事実が如何なるものであるのかという点は必ずしも明らかであるとはいえず、もってその過大であるのか否かを判断するのかという点は検討の余地がある。過大であるとはその起点が重要であり、不当利得のような法的な根拠を持たないものを基礎としているものと考えられるのであろうか。損害賠償のような実質的な過大であるような経済的な評価を反映させることまでも含むものであるのかという点は限定的に捉えられているものと考えられる。基礎となる事実に対する過大と言う文言は、経済的な負担を評価するものであり、かかる点から上記実体的な要件の充足の判断につき、判断するという枠組みも一定の合理性を有している。租税法規が財産権を対象としており、更正の請求により権利救済を基礎としているものと捉えるならば、その具体的範囲を実質的な経済的・租税負担を基礎としても良いのでないかという点も合理的であろう。しかしながら、課税処分の基本的な性格や、実質的な権利救済を更正の請求に制限していることからも現行法の解釈として、判決による事実関係の変更、過大であることを超え、実質的な判断を行うことを含むと解することは、安定性を欠くものとも考えられる。法が確定した判決を要件としているものであり、客観性は確保されているともいえ、経済的な負担を反映した過大であるとの評価も行うことも可能であろうが、この点は立法によるべき議論であるのかもしれない。今後の課題となるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものであり、完成度は低いですが参考までに。


2018年6月12日火曜日

判例裁決紹介(平成29年5月15日裁決、複合的な投機的行為による所得区分)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年5月15日裁決で、オートレースやモーターボート、競馬等の複数の投機的な行為により得た所得の区分がいかなるものであるのかという点が争われた事例です。

具体的に本件は、請求人がソフトウェアを使用せず、独自のノウハウにもとづき、複数の名義人の口座等を活用して、度々大量に購入を行っていたオートレース、モーターボート、競馬等の起因する収入につき、かかる収入が所得税法上如何なる所得であると評価されうべきものであるのかという点が課題となった事例である。より具体的には請求人が行っていた当該購入行為は、継続的に行われていたものの、そしてインターネット回線を使用していたものの、ソフトウェアは使用されておらず、かかる収入が所得税法上いかなるものとして評価されるのか、すなわち、一時所得あるいは雑所得に該当するのかという点が課題となっているものである。最終的には、近年問題となっているような雑所得としての認定を行うことはせず、一時所得として評価している。平成29年12月(最判平成29年12月15日)において、ソフトウェア以外のノウハウ等を利用した事例における最高裁判決が出ているが、本件は、それ以前の段階であり、経過的なものとして評価されるものでもあり従前の最判の枠組みを深化させる、射程を議論する上で参考となるべきものと位置づけられよう(最新の最判に基づくものであったとした場合、どのような結論になるのかという点も興味深い)。但し本件では、従前の事例とは異なり、ソフトウェア利用の有無やノウハウの評価というような点も特徴的であるが、単一種別の投機行為を前提としたものではなく、種々の投機行為を複数名義の口座等で管理しており、複合的な取引が実施されている点は留意されるべきであろう。すなわち、従前の単一酒類の登記のける一体的な行為としての評価とは異なるものであり、かかる点を起点として行われた行為が所得税法上、如何に評価されるべきものであるのかという点を
課題としているものと評価される。

そもそも近年は競馬における所得区分、必要経費の存在等を巡って、一般受けする点でもあり、裁判例が数多く存在し、注目が集まっている。IR等の振興等の状況はありうるものであるが、その前提とするべきものは賭博、投機的な行為に対する課税であり、一般性を有するものであるのかという点は疑問があり、社会痛うねんとの対比も避けようがない。さらに、一時所得を生み出す稼得行為の一類型(しかも投機的な)に過ぎないとも捉えられ、以上のような事例の存在は租税法規としての重要性は如何なる部分に求められるのかという疑問は発生し得るところであり、所得税法の解釈において重要であるとの認識をもつことは困難であるとも評価されよう。

しかしながら、本件はその具体的な対象として、投機的な行為を対象としていることに着目されがちであるが(ここに一般に関心があるように思料される。そもそもこのような投機的な行為が所得を生み出す源泉であるのかという点も興味があるが、)、その本質としては、インターネットを活用したあるいはソフトウェア等を活用した所得の稼得形態を所得税法において如何に評価されるべきであるのか、すなわち、現行の所得税法の枠組みのおいて評価適用を行うものであるのかという点が課題となっているものとも考えられる。昨年、仮想通貨に対する租税法規としての評価が話題となったが、近年の技術発展の影響は、単に企業が大規模な投資、研究開発等に基づき、知的資産の開発等をもって所得を稼得している段階から、個人ベースにおいて、従来は想定し難い大量の取引などが比較的容易に行うことが可能となってきている(ノウハウに基づく取引を趣味の枠を超えて大量取引などの所得源泉として落とし込むことが可能となっている)。このように個人ベースにおいて起こりうる技術発展の影響は、近年の働き方改革と同様に、個人所得課税において今後如何なる対応を行うべきであるのかという点を浮き彫りにしていると考えるべきであり、本件に代表される近年の事例は、その先駆けとして捉えるべきではないだろうか。ギャンブル等の投機的行為をその端緒とした以上、一時所得としている現行の取扱い(そもそもこれが如何なる解釈に基づくものであるのかという点は疑問)との対比が着目されたものであるが、かかる点はいわば不幸な点であり、ソフトウェアやノウハウ、インターネットを活用した所得稼得形態の特徴を見出し、現行所得税法との対応関係(おそらくは、事業的規模や、網羅性などが議論対象となろう)を検討すべき段階に至っていると考えるべきではないだろうか。
所得税法基本通達
34-1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。
(1) 懸賞の賞金品、福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く。)
(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)
(注)
  1. 1 馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。
  2. 2 上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。
以上のように、本件は基本的に当該収入が如何なる所得として評価されるものであるのかという点が課題となっているものである。判断枠組みとしては、上記近年の最判が出る前の段階であり、上記基本通達の枠組みが活用(私見としては、改めて、最判の追加により、通達解釈の変更、例示の追加などが行われるべきものと考えられるが)した上で、一時所得として判断されている。具体的には、上記通達にあるように、インターネットを介した長期間、かつ多数回頻繁、網羅的な購入等を条件として一時所得からの除外を行うべきであるのかという点を判断しており、下記のように提示している。

「所得税法第34条第1項にいう「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」は、一時所得ではなく雑所得に区分される。そして、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間の他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。これを各種投票券の払戻金に係る所得についてみると、例えば、各種投票券を自動的に購入するソフトウェアを使用するなどして独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の各種投票券の的中に着目しない網羅的な購入をして的中した各種投票券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の各種投票券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの事実関係の下における各種投票券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に当たると解せられる。」

裁決である以上当然であるともいえるが、従前の最判を基礎とした通達であり、ソフトウェアの利用などを判断の基準としているものである。

しかしながら、ソフトウェアの利用はわかりやすいものの、必ずしも必須なものではなく、継続性や頻度、網羅性を担保する手段であり、かかる利用のみを前提とした判断は疑問が残る。そもそも前提とされているソフトウェア自身が一律に捉えられるものであるのであろうか。自動的な取引を図るものであるが、網羅性や、応答スピード、正確性、基礎となるデータベース等において多様な存在が想定されるものがソフトウェアであり、明示的に一様なものとして評価することは困難であろう。しかるにこの利用を前提とした判断では必ずしも基礎として活用しうるものとは評価しがたいものと考えられる。逆にソフトウェア以外のノウハウを活用されていても、ソフトウェアの利用がないことをもって上記判断が一時所得からの離脱を否定するものではないと解するべきであろう。ソフトウェアはいわば、従前の最判においては例示にとどまるものであって、一連の投機的な取引行為が如何なる性格を持つものであるのかという点が従前の枠組みの理解として適格であろう。これは前記近年の最判においてソフトウェア以外の利用が必ずしも否定されていないこととも整合的である。つまり、ソフトウェア等の利用が問題となるものではなく、上記通達(最判も)の後半である一連の投機的取引が一体の経済活動として評価されうるものであり、そこに営利性や継続性の有無が根本的な問題になるものと理解されよう。私見としては網羅性が如何なる点をサポートしており、取引の一体性を担保するものとして評価されるのか、という点(私見としては統計的に偶発的な要因を排除することによって一体としての取引における営利性が確保を企図しているのではと捉えている)が重要であり、網羅性が確保されていることが重要な要件であるものではないのであるが、これが事実上の条件として考えられていることが問題であろう。いわば従前の最判が解しているように、下記の要素から総合的に判断するべき枠組みが重要なものであり、ソフトウェア等の利用等は必ずしも要件としているものではないことは理解されるべきである。

「営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,文理に照らし,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である(最高裁平成26年(あ)第948号同27年3月10日第三小法廷判決・刑集69巻2号434頁参照)」

また、本件では請求人が有するノウハウに基づき、取引が行われている。そもそも所得税法において、個人の所得課税においていかなるものとして評価するのかという点は課題となっているものである。従前は意匠や著作等の法的に保護されているものを対象として個人が有する知的資産としてのノウハウを租税法規、所得税法において捉えていた。現在のインターネット、技術の発達は、その他のノウハウ等の知的資産を大量反復的に取引を行うなどして、所得稼得ツールとして機能しうる、客観的に評価されうことが可能な状況になりつつあると考えられる。例えばタイムバンクなどの個人の余暇時間の活用や、 VALU (以前友人の税理士が登録していてびっくりした覚えがあります)等の個人の資金調達が可能な状況がその証左であるのではないだろうか。

このように考えるならば、馬券の購入などのような所得を稼得する取引に着目して所得区分を判断することは妥当性を欠くことになろう。すなわち、所得分類の決定において(あるいは新しい所得分類として)所得の稼得形態に着目した判断をこの種の取引においても行う必要があるように考えられる。現行の所得税法は、所得をその発生原因等によって分類し、労働や請負等の人的役務の提供という稼得形態による所得(事業や給与)と利子配当、不動産等の稼得の源泉(資産保有、偶発的な所得等)によって分類している(もちろん、源泉の意義を広く解すれば人的役務の提供も源泉として捉えられる)。しかるに本件のようなノウハウ等の知的資産に基づく所得も新たな所得稼得形態として捉え(立法論ではあるが)たり、現行の所得分類において如何に捉えるべきであるのかという点は、所得税法において改めて課題となってきていると考えるべきであろう。

加えて、本件はその特徴として、複数種のギャンブル・投機的な行為が混在、複合されている。従前の例は、基本的に単一種の投機的な行為による所得を対象としており、かかる点において相違している。本件判断では、かかる点に対して、各投機的な行為ごと(オートレース等)に、分類し、かかる購入行為が網羅的であるか否か等の評価を行っている。所得が細分化され、その具体的な内容に応じて所得の性格を判断されることは一般論として理解できるが、本件のようなギャンブル、投機的な行為を原因別に分類する根拠は必ずしも明らかではない。口座の管理などは基本的に混在しており、投機対象は異なるものの、基本的に投機による所得であることに変わりがなく、所得分類の趣旨である担税力に応じた課税を実施することを鑑みれば、実質的な所得の租税負担能力に各投機対象によって差異があることは考え難い。しかしながら、判断では、各投機対象に応じて網羅性の判定を行っており、当然のごとく網羅性が確保されているものと評価することは困難である(分解されている以上、個々に網羅性が確保される可能性は。一体としての経済取引として該当するか否かが上記の通り問題なのであり、かかる判断を行う上で、分解してその判断を行うことは必ずしも合理的ではないのではないだろうか。そもそも網羅性が如何なる点を担保するものであるのかという点が必ずしも定かではなく、かかる点を明らかとせず、実質的な基準として網羅性を適用・判定していくことは必ずしも従前の最判の枠組みにおいても肯定されるものではないのではないだろうかとも考えられる。つまり網羅性を必然的な条件として位置づけることは判例の枠組みにおいても、本件のような複合的な投機対象取引においては適格なものではないのではないかと捉えられよう。

以上です。毎回のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。



濱田 洋